第三十話 魔女の朝食
「気疲れのう.......。
いまいち実感がないわい」
「今、キッチンで婆さんが料理を作ってくれている。
婆さんからは君を叩き起こしてリビングに連れてこいって言われててね。
多分、今頃婆さんが料理を運んでる頃だからぼちぼち移動したほうがいいと思うけど、モンズはどうする?」
「食事なら大歓迎じゃ。
早くキッチンに行くぞ、ルマ!!!」
「まだ寝惚けてる?
僕らが向かうのはリビングだよ」
「食器を運ぶ手伝いは要らんのか?」
「手伝いは不要だってさ。
むしろ足手纏いだって言われたよ」
ワシは客間を出るとルマによってリビングに誘導される。
道中見覚えのある玄関口を見かけたが、ワシは細かいことは今じゃなくてもいいやとそっぽを向いて夕食の舞台へと向かう。
リビングに入るとそこには見たこともない豪勢な朝食が並んでいた。
「起きたかい?
まったくお騒がせな坊やだね。
もうちょっと気を遣って倒れて欲しいものだ」
「無茶を言うなよ、婆さん。
ワシゃあわざとやったわけじゃないぞ......!」
「騒ぐな。
『朝食前』だよ、耳が痛くなるだろ?」
しっかり三人分用意されている。
どうやらこの辺は分け隔てのない人物らしい。
「ん?
朝食......?
夕方じゃないのか?」
「夕食ならとっくに終わったよ。
今は朝の時間だ。
食べ終わったら城に行くよ」
「ルマ、もしかして、本当に朝か?」
「朝だよ。
正真正銘の午前七時だ」
「な、な、なんじゃとぉおおお!!!
じゃ、じゃあ、ワシはこの美味そうな婆さんの飯を食べ損ねたということか!?」
「うるさいよ坊や。
あんまり騒ぐと没収だよ、朝食は......!」
「あ、ああ。
済まぬ婆さん、ワシが悪かった......」
ワシは初めて食べる豪勢な朝食を前に思わず舌鼓を打つ。
「マナーがなってないね。
一体どこの育ちだい、そこの坊や?」
「すまんのう、婆さん。
ワシの家はいかんせん貧乏じゃったから、外食に行くような余裕がほとんどなかったんじゃ。
それに人とほとんど関わらなかったから、テーブルマナーもこのザマじゃ。
ほんと、不快に見せたのなら謝るわい」
「潔いのはお前のいいところだね、若人。
ま、そういうのは日頃の躾が絡んでくる。
もしお前が望むならテーブルマナーの講師を今度紹介してやろうかえ?」
「ミヨ婆さん、その約束は戦争が終わった後だ。
僕ら一般の市民にはミヨ婆さんほどの経済的余裕がない。
それに僕ら市民は太陽軍から自分らの故郷、そして大地を取り返す義務がある。
悪いがそれどころじゃないんだ、僕らは」
「おい、勝手に断るなよルマ......!」
「一般の市民、ねえ......。
ま、アタシャの知ったことじゃないよ。
今のアタシャの地位はアタシャが自分の力で確保し、築き上げたものだ。
居場所が欲しいなら、自分の力で取り返すことさね」
「言われなくてもそうするつもりだよ、ミヨ婆さん」
ワシらは軽い談笑と世間話を交えつつ食事を終える。
「食器はそこに置いておいてくれ。
それと、そこの坊や。
昨日は風呂に入ってないだろ?
軽く浴びて着替えたら、すぐに外に出てきな。
アタシャらは準備が出来次第、ユメール城へ向かうよ」
ワシは婆さんの案内で浴室に足を運ぶ。
その間婆さんはテキパキと食器と部屋の掃除を行い、ルマは軽く外に出て散歩をしに行った。
敵地だというのに、ルマは呑気なものだ。
「ふぅ、心地良いのう。
何日振りのシャワーじゃろうか。
湯が体に沁みてくるわい」
ワシは用意されたタオルで体を拭き、いつの間にか洗濯と乾燥を済まされている自分の衣服に手を通す。
そして玄関口から外に出ると、そこにはすでに婆さんとルマの二人が待機していた。




