第二十四話 完璧主義者の否定
「ワシの言う最強の定義、それは『より多くの最強に見合う要素を手にした者』。
そして、『手抜きの王様として君臨できる、圧倒的な実力を持つ者』だ。
ワシを倒したければ、せめて本気のワシを仕留められる術を見つけることじゃ......!」
「それって、無駄じゃないの?」
ワシが後ろを振り向くと深層の書神がどこかおかしそうに笑みを溢している。
どうやらワシの発言がツボにハマったようだ。
「無駄を極めることが、武の究極の真髄になるはずじゃ」
「それ、変わり者がやることでしょ?
変わってるわね、あなた。
そんなものを追求するのなんて、本当に一部の狂った人種だけなのに、あなたと来たら......」
「笑うな!!!
お前さん、ワシの言うことを真に受けておらんな?
ワシは極めて本気じゃぞ!!!」
「この上なく本気、ね......。
ま、そうよね。
私も、あなたの気持ちは分かるわ。
私も追求者で、変わっていたから」
「変わっていた?」
「神界にいた時の話よ。
今でもそうだけど、あなたは私に似ているわ。
きっと変わり者同士だから引き寄せられたのね」
「一体どういうことじゃ?
話が見えてこん」
「いいのよ、別に。
とりあえずほら、例の少年の石化は解いたわよ。
というか解けたわ。
例の石化剣士をあなたが倒したことで石化が解けたのよ」
「......え?」
「まったく無駄足ね。
ほんと、無駄な時間を過ごしたわ」
「え、あ、あの......すまんのう、なんか」
「とりあえず無事でよかった。
それじゃあ拾った本を返してくれる?」
「え、本......?」
「それ、元は私のなの。
とりあえず今すぐ渡してくれる?」
「あ、ああ。
済まんのう、すぐに返すわい......!」
ワシはすぐに懐に忍ばせていた本を深層の書神に差し出す。
深層の書神は表紙の上にそっと手のひらを乗せる。
そして拭き取るような動作で『書神』の刻印を表紙に刻むと、再度ワシに向けてその本の端を摘み、押し返してくる。
「それはミーロという子供の本。
元々私のではなく、前の契約者が保持していたお宝よ。
その本、私が保持する意味もなくて困っていたの。
だからあげる。
せめて、御守り代わりに、あなたが使って」
「......そうじゃったのか。
じゃが、安心せい!!!
ワシはこの本、決して粗末にはせん......!
大切な宝としてワシがずっと保持しておくわい!」
「.....いざって時は私を召喚なさい。
一度だけ、それに応えるように文字を刻んでるから」
深層の書神はそれだけ言い残し、気づくとその場から消えていた。
巨大な書斎と共に。
ワシは彼女がどこか遠くへ行ったのだと思い、近場にいたダイドロットのすぐそばに横たわる。
「......何のつもりだ?
舐めているのか、俺を?」
「いや、ワシらはもう共に戦った戦友じゃ。
こんなところで、無駄死にすることもなかろう」
「心配するな。
俺は死なん。
それより、何しにきたんだ、一体」
「少し質問をしたくてここにきた。
お前さん、完璧な存在って何なんじゃ?」
「知るか。
なんでそんなもん、俺が知ってると思ってるんだよ」
「じゃよな、やっぱり他を当たるわい」
「待て。
お前、本気で完璧なんてものを追い求めてるのか?
だとしたら愚策だ。
完璧なんてものはこの世には存在しない」
「なぜ、そう言い切れるんじゃ?」
「完璧完璧言うがよ、そもそも完璧に対する定義が曖昧な奴が完璧主義者に走ってるもんだろ?
完璧なんてのは欠陥の否定だよ。
欠陥なくして人間は人間足りえない」
「では、なぜその欠陥が必要なんじゃ?」
「そんなことも分からねえか?
影に向き合うためだよ。
人はな、本当の意味で完璧になることはない。
だが、影に向き合うということはそれだけ多くの痛みや失敗、そして挫折と向き合うということだ。
俺もそうさ。
痛みや挫折を何度だって繰り返した」
「なるほど。
それが、お前さんの出した答えか......!」
「ま、受け売りだがな。
だが覚えておけ。
次に勝つのはこの俺だ。
石の剣王の名にかけて、次はお前を必ず倒す......!
分かったか、盾狂い!!!
俺は、負けっぱなしの人生なんざ歩まねえ!!!」
「分かった。
ストーカー呼ばわりは、やっぱり訂正するわい」
「そうしてくれ。
ストーカー呼びは何気に傷つくからよ」
「悪かったのう。
じゃ、ここでお別れじゃ。
お前さんとは敵同士。
じゃが、きっとどこかで相見えることもあろう。
じゃあの。
ワシは地底領を脱出するわい......!」
こうしてワシとダイドロットの会話は途絶える。
ワシはダイドロットを地底に置き去りにすると、気を失った少年を背負い、そのまま地底領ルドガリアを散策。
道中青い坑道らしきものを発見したため、ワシはその坑道に足を踏み入れ、そして一時間後にようやく地上の森に到着した。




