サーフィンバトル 2
そうこうしているうちに、日曜日がやってきた。思った通り天気は、よかったが、波は高かった。
「おじいちゃん、やっぱり波高いよね。ひろしさん大丈夫かな。」
「何とも言えんが、危なかったらやめるように言うしかないの。」
「寄合いがなければ、見に行けたんだが。終わったら早く帰ってくるよ。」
そう言って、おじいさんは出掛けてしまった。
しばらくして、明日香がアキちゃんとやってきた。
「中でゆっくりしてて。今から、卓也を駅まで迎えに行ってくる。」
そう言って、僕は、卓也を迎えに駅に向かった。
駅に着くと、すでに卓也は待っていてくれた。
左手には、手袋をしていた。
どうやらあれから手を、洗ってないみたいだ。
「おはよう。卓也。今日は、ありがとう。ここから10分位の所だから。」
「今日も、明日香さん来てるかな。」
「来てるよ。うちの家でゆっくりしてるよ。」
「良いな、幼馴染は。」
そうこうしているうちに、家に着いた。
2人して、玄関の入ると
明日香とあきちゃんが、
「卓也さん、今日はありがとうございます。」と声を揃えって言った。
ホントに、幸せそうな卓也の顔がそこにあった。
「砂浜、結構人が集まってるね。」
「ひろしさんは?」
「もう、準備している。向こうも20人ぐらい来てるって。」
「そうなんだ。じゃ、行きますか。」
「昨日も、お姉ちゃんに電話したんだけど、それで、海人にも応援頼んだ。って言ったら、動画取っといて。ひろしさんの事気になるのかな?でビデオカメラ持ってきた。」
4人して、砂浜に降りて行った。そこには、相手チームが、20人ぐらい集まっていた。
ちょっと柄が悪そう。
卓也が、この時とばかりに明日香とアキちゃんの前に出たのはポイント高いかな。
ひろしさんの友達が、10人ほど、そして、たまたまサーフィンをやりに来た人が、異様な雰囲気にどうしようか迷ってる人が4~5人ぐらい。
ひろしさんを探すと、すでにウエットスーツに着替え、相手チームのボスと思わしき人と何か話をしていた。
その後ろに、助っ人らしき人が座っていた。
女性で、ウエットスーツは着てなかったけど何か周りの人に指示していた。
言われるまま、5人ぐらいが準備体操を始めてから海に入っていった。
もしかしたら、助っ人は、一人ではないのかもしれない。
結構動きが、スムーズなのとボードのワックスが丁寧に塗られていた。
打合せが終わった。
ひろしさんが、仲間の所に戻ってきた。
僕も、気になったのでその輪の中入った。
「ルールは、お互い3名ずつ選手を決めて、6名が一緒に沖に出る。そして、波を取り合って勝った方がそのまま、ライドして演技。その演技に得点を付ける。あの、後ろにいる女性が、プロサーファーで、得点を付けてくれるらしい。」
「それは、不公平だって言ったんだけど、内に得点付けれるやつもいないから了解した。」
「要は、3つとも波を取ればいい。但し、前のり有のぶつかっても文句なしのルールなので、みんな気を付けてほしい。それに、台風が来てるからちょっと波が、でかくなってるのが気になるけど。」
「で、今日のバトルの選手だけど自分以外に後2名、強制はしないけど出たいやつはいるか?」
ひろしさんが、言うとみんな下を向いてしまった。
「一人だと、絶対に勝てない。最低でも、もう一人誰かお願い出来ないかな。」
みんな、ウエットに着替えてはいたけど、さっき海に入った連中が、練習しているの見て臆病風に吹かれたみたいだった。
「ひろし、あいつら助っ人だと思うけど、レベル高いよ。やる前から、なんだけど、あれと互角にできるのはひろしぐらいだよ。」
それから、5分ぐらい話がまとまらずみんな顔を見合わせてしまった。
その様子を見かねて、向こうのボスがこっちにやってきた。
「どうした。早く始めようぜ。」
僕は、こらえきれずに、
「僕が、出てもいいですか?」と言ってしまった。
「何、この坊主。真っ白な顔をしてサーフィンできるの?その場の雰囲気ででしゃばると、怪我するよ。」
「ありがとう。海人君。でも、これは、僕が言ったことだから、僕一人でやるよ。妹から、波の情報も聞いてるからそれで十分だよ。だから、今日は、ちょっと強い波にも対応できるように調整してきた。」
「まあ、そんなに気にしないでください。僕にも、やらせてください。危なくなったら逃げますから。」
「まあ、そんなに言うならこっちは良いよ。ガキにまで手は出さないよ。」
「そうと決まれば、すみません。ちょっと着替えてくるので5分ください。」
こんないい波、乗らない手はないでしょう。
明日香には、僕がサーフィンできることばれるけどしょうがない。
一度、昼間にサーフィンしたかったんだよね。
僕は、明日香と卓也とアキちゃんの所を素通りして、家に走った。
明日香は、何か叫んでたけど無視させて頂きました。後が、怖いかな。
5分後、僕は、ウエットスーツに着替え、赤いサーフボードを持って再び砂浜に降りて行った。
向こうのボスが、
「なりだけは、一人前じゃん。せいぜい溺れない様に。」
それから僕は、波に一礼し柔軟体操を始めた。
期末試験の勉強でちょっとなまっているので、長めに柔軟をしていると明日香がよってきた。
「何、バカなことしてるのよ。応援は、砂浜からでいいのに。でも、なんか有ったら今度は私が助けに行くからね。」
「明日香様、ありがとうございます。これで、勇気100倍です。」
「卓也、応援よろしく。」
そう言って、僕は、ひろしさんと相手チームの3人と海に入った。
向こうの3人は、スムーズなパドリングで沖に向かった。
ひろしさんと僕も場所取りのため同じように沖に向かった。
こういうバトルでは、レベルが一緒なら波を待つ場所取りで勝負が決まる。
とりあえず、ポジション的には、良いところを取れた。
但し、相手もつかず離れずの所をキープしている。
3人顔を見合わせて、笑っているのが気になる。
「ひろしさん、先に波に乗ってもらえます。」
「彼らが、どう動くかわからないけど、波が割れる位置から考えて、たぶん僕たちが波に乗ったらそのまま前のりして、邪魔をして動けなくするつもりのような気がします。」
ほんとうならマナー違反だけど、たぶんそんなのお構いなしにしてくるだろう。
ひろしさんも頷いた。
「何とか、落ちずに行ければチャンスはありますよ。」
「海人君は、一人になるけど大丈夫か?」
「できれば、2人連れてってもらえると助かるんですけど。」
「フェイントかけてもらえます。できなければそのまま行ってもらってもいいです。」
「わかった。やってみるよ。」
砂浜から、相手チームのボスが叫んでる。
「アー ユー レディ」
5人とも手を上げた。
「ゴー」と叫んだ。
でも、波が来ないとサーフィンできないんだよね。
小さな、波を2つやり過ごして、ちょっとよさそうな波が来た。
ひろしさんがおしりをずらして、ボードを回転させパドリングを始めた。
相手のサーファーも慌てて、ボードを回転させてパドリングを始めた。
やっぱり前のりするつもりだったんだ。
ひろしさんは、その波には乗らずにスルーした。
うまい。タイミングもばっちりだった。
相手のサーファーは、力のないショルダーから乗るしかなく立ち上がってそのまま砂浜に流れていった。
これで、相手も警戒するから、うまくいくと一人で良い波に乗れるかもしれない。
ひろしさんは、戻りながらも相手にプレシャーを掛けながらいい位置に戻ってきた。
「ひろしさん、やりましたね。これで、2対2ですね。」
ひろしさんは、ニコッと笑って、すぐに真剣なまなざしになった。
今度は、小さな波を3つやりずごして、その後に来た大きな波にうまくテイクオフした。
やっぱり、この人うまいや。アップスアンドダウンスで加速してオンザリップできれいに波をトレースしていく。
相手のサーファーは、さっきのこともあって波を捕まえそこねた。
砂浜では、ボスが、ゴリラのように何か叫んでる。そんなこと言ったら、ゴリラさんに失礼かな。
残った相手チームの二人は、僕の方をちらっと見た。どうやら、僕をつぶす気のようだ。
ちょっと怖がってるふりをしてみた。
ダメだ、笑ってる。逆効果だった。
その時、僕はちらっと沖を見た。さっきから、感じていたのだ、今までよりも大きな波を。
2人は、まだ僕を見て、気づいていない。ぎりぎりまで、相手の注意を引き付けて二人が笑いかけた時にその波が来た。
体重を後ろにずらし素早くボードを回転させ、パドリングそして、うねりからテイクオフ。
気を抜くとつぶしにかかるその波に、アップスアンドダウンスで加速してボトムターンからリップスに駆け上がる。それからオンザリップスから再び、波のパワーをつかまえて加速し再びリップに駆け上がりそのままエアリアルを決めた。
再び波の上に乗りそのまま砂浜の近くまで来てプルアウト。そしてスープになった波に感謝した。
『ありがとう。』
そこで、はじめて海に残してきた二人が気になって沖に目をやった。
さっきの波には、乗れなかったようだけどその後の波で砂浜までやってくるところだった。
とりあえず、安心して僕は砂浜に上った。』