サーフィンバトル 1
あれから3年、ぼくは、日が昇る前に毎日サーフィンをして、少しは、女神に近づけたように思えてきた。
だって、最近波が話しかけてくるような気がしてきたから。
ほんとは、そんなことないけど。
たぶん、ちょっと見ただけでどんな波かわかるようになったんだと思う。
今思えば、明日香が溺れかけた波は、この海岸の特別な海底の地形で小さな波が、いくつも重ってできた波だということがわかった。
お父さんのノートにもその波のことが、書かれていた。
太平洋上に台風があるときは、要注意となっていた。
それで、おかあさんが溺れたふりをした時に、慌てて海に飛び込んだのかな。
縁結びの波?まさかね。
翌日、明日香と一緒の電車に乗っていた。
朝、サーフィンをしたときは、明日香とはあまり同じ電車には、乗らない様にしていた。
もしかしたら朝から海に入ってることが、僕から漂うの磯の香りでばれるかもと思ったからだ。
今日は、海にも入ってないし、朝からシャンプーもしたから大丈夫でしょう。
「明日香、昨日帰るの早かったね。一緒に帰れると思ったのに。」
「ごめんなさい。昨日ね、中学の後輩から相談したいことがあるからって、待ち合わせしてたの。」
「海人もひろしさん知ってるでしょ。その妹のアキちゃん。中学生だから放課後早くて。」
「あっ、偶然。ぼくは、ひろしさんと昨日、砂浜でごみ拾いしてた。」
「それで今日、海人から磯の香りがするんだ。」
「帰ってすぐだったから、制服着てたっけ。てへ!」って明日香怖い、気を付けないと。
明日から、香水かけてこようかな?
「相談事ってなんだったの。」話題変えなきゃ。
「それよ、それ。アキちゃんが言うには、ひろしさんが東京から来たサーファに、ごみを捨てて帰るなら来るな!って言ったみたい。」
「そしたら、相手が、お前の砂浜じゃないだろう。だったら、サーフィンの勝負で決めようってなって。もし、おれたちが勝ったら、文句は言わせないって。」
「それで、心配になって、東京の大学にいるお姉さんに助っ人を頼んでほしいって頼まれて、困ってるのよ。」
「おねえさんが、助っ人なら心配ないね。」
「それが、大ありなのよ。うちのおねえさん、湘南かどこかでおとなしくサーフィンしてればよかったのに、あんな芋を洗うような人がいっぱいの所、嫌だって。今、ハワイの大学に留学してるのよ。だから、助っ人頼めないのよ。」
「そうなんだ。でも、なんかわかるような気がする。だって、おねえさんサーフィン好きだから。それに自由人だよね。」
「受験勉強の時は、波乗りは止めた。って言ってたのに。東京行く2日ぐらい前に、やっぱりサーフィンが好きだ!なんて言いだして。ホント困ったものよね。」
「それで、勝手にサーフィンの大会出て、賞金稼いでハワイに留学だもの。」
「えっ、僕は、何も悪いことしてませんよ。」
「誰も、海人が悪いなんて言ってないよ。とりあえず、おねえさんに電話したらやっぱりダメだって、どうしよう。」
「そうですね。」あの日のこと言ったら、明日香に怒られそう。
僕が、今日サーフィンをしなかったのは先客がいたからだ。
暗いから、わからなかったけど明日香の話を聞いて、それがひろしさんだとわかった。
「勝負の日は、いつなの。」
「今度の日曜日。今日、またアキちゃんに会うんだけど、なんて言おうかな。」
「正直に言うしかないね。で、相手は、サーフィンうまいの?」
「そうでもないみたいなんだけど、向こうもやっぱり助っ人を連れてくるみたいだって、言ってた。」
「海人、今日一緒にアキちゃんに会ってくれない。作戦会議しなきゃ。」
「僕で良ければ、大丈夫だけど。日曜日の波の状態とかなら、予想できるかも。」
「お願い。それだけでも助かる。」
そのまま僕は、明日香と一緒に登校した。今日も、みんなの視線が痛い。
やっと授業が終わった。6時限目が、田中先生の古文だったので、そのままホームルームで解散。
田中先生が、他の生徒と雑談してたので、僕も加わりたいなって、もたもたしていると後ろから明日香が僕の耳を引っ張った。
「行くよ。」とあっけない。
仕方なく僕は、明日香に耳を引っ張られるまま、教室を出た。
廊下で、卓也が何か言いたそうにしたが、僕は、ごめんねして、そのまま教室を後にした。
気が付いたら、僕たちは電車に乗っていた。
「どこで、作戦会議する?」恐る恐る僕は、明日香に聞いてみた。
「健全な学生は、作戦会議は、図書館って決まってるでしょ。」
「おしゃる通りです。資料もいっぱいあるし。今日は、お父さんのノートも持ってきたからばっちりです。こそこそ話すには、もってこい。」
図書館の入り口には、ひろしさんの妹のアキちゃんが待っていた。左右のおさげが、かわいい。
「こんにちは、明日香先輩。.」
「こんにちは。」
そして、アキちゃんは僕の顔をみて、困ったような顔をした。
「こんにちは、山田海人です。明日香の彼氏です。」はっは、言ってやった。
次の瞬間、頭をはたかれた。明日香の方が、背が高いからもろに効いてしまった。一瞬くらっとした。
「馬鹿、本気にしたらどうするのよ。」
「じゃ、何て言えばいいの?あっ、わかった。明日香のファンの山田海人です。」
「馬鹿」また、叩かれた。
「友達でいいのよ。友達で。」命の恩人を2回も叩くかな。でも、この馴れ馴れしさが良い。
アキちゃんは、クスっと笑って
「こんにちは、木下明子です。」と答えた。
「今日は、すみません。馬鹿な、兄のために海人さんにまで心配かけて。」
「いえいえ、ひろしさんには、いつもお世話になってます。先日も一緒に砂浜の掃除をしたばっかりだし。」
そう言って、3人は、図書館の雑誌コーナの丸テーブルに座った。
相変わらず、誰もいなかった。一般企業だと、とっくにつぶれてるな!
最初に、明日香が話し始めた。
「アキちゃんごめん。うちのお姉ちゃんに電話したけどやっぱりダメだって。それで、海人に相談したらって言ってたから、今日連れてきたのよ。」
その言葉を聞いて、僕は、青ざめた。
なんてことを言うんですか、おねえさん。
明日香には、内緒って言ってあるのに、僕がサーフィンに目覚めたことを。
とりあえず、僕を指名したのは、別の理由ということにしないと。
慌てて僕は、当日の波の状況を説明した。
「サーフィンの勝負は、今度の日曜日だよね。ちょっと気になるのは、太平洋上の南に、台風が発生しているから、日曜日位だとこの辺の海岸の波に影響が出そうなんだ。そのまま、日本に来ると台風5号かな。」
「明日香のおねえさんなら喜びそうだけど、週一程度のサーファーだと、ちょっと危ない波の高さかな。頭を超えるくらい。」
「それと、あの海岸の特徴で時折波が重なって突然大きな波が発生することがあるから、なおさら日曜日はサーフィン勝負は止めた方がいいかな。命は、保証しない。」
「でも、お兄さんも引けないよね。無理をしなければいいけど。」
「何時ぐらいに勝負するの?」僕は、アキちゃんに聞いた。
「11時だって、言ってた。」
「そう、なんだ。天気は、崩れないけど波は、高くなると思うから、出来れば、地元の人をいっぱい呼んだほうがいいかも。何かあった時に助けてあげられる。」
「お兄ちゃんの友達が、いっぱい応援に来るって言ってたから、大丈夫だと思うけど。」
しょうがない、おじいちゃんにも説明して来てもらおうかな。
おかあさんに言うと、話がややこしくなるか。
さっきから、明日香は、何も言ってこないけどいいのかな?
「ごめんね、アキちゃん。わたしは、今回何の役にも立てなくて。」
「そんなことないです。色々教えて頂いて。波の状態がわかっただけでも助かります。兄に伝えます。」
「私も当日、海人を連れて応援に行くから。」
「わかった?海人も一緒に行くのよ。」
「大丈夫だよ。だって、うちの目の前の砂浜でしょう。行きますよ。」
『よろしくお願いします。』と言って、アキちゃんは帰っていった。
「で、明日香さん。来週から期末テストが有るんですけど大丈夫ですか?」
一瞬、顔が引きつったところを見ると、忘れてたかな。
もしかしたら今回は、僕が、学年トップかも。地学部でよかった。帰って勉強しようっと。
そのまま、僕は立尽くす明日香を置いて家路を急いだ。
次の日の朝も、ひろしさんは練習していた。
僕は、期末テストがあるので早起きはしたけど海には、行かずにそのまま机に向かって勉強した。
そして、朝ごはんを食べて学校に向かった。
駅に着くと、眠そうな明日香がいた。
「おはよう。」
「おはよう。」
「眠そうだね、今日は。」
「昨日は、ありがとう。来週から、期末テストだって思い出させてくれて。」
「いえいえ、どういたしまして。」やっぱり、今回も無理かな。学年1位は?
明日香が本気モードに入ると敵わない。
「今週の日曜日は、ひろしさんの応援に行かないといけないから、その分、今から勉強頑張らないと。」
「はいはい。お手柔らかに。」
電車の中で、日曜日の対策を話し合った。
「応援多い方がいいよね。卓也にも声かけるよ。体大きいから、喧嘩強そうにの見えるよね。」
「え、卓也ってだれ?私知らない。」
「僕と一緒に、お昼ご飯食べてる子だよ。バスケットボール部の。」
「そうなの?じゃ、お昼休みに私からも頼んでみる。」
卓也、喜べ。今日、明日香と話せるよ。
事前に伝えとこうかな?サプライズの方がいいかな?
午前中は、期末試験も近いので、みんな真剣に授業を聞いていた。
そして、あっと云う間にお昼休みになった。
卓也と僕が、向かい合ってお弁当を食べていると、明日香がやってきた。
「卓也君、海人からも聞いてると思うけど、今度の日曜日サーフィンの応援に来てもらえない?」
「明日香、ごめんまだ話してない。」
そう言って、卓也の方を見るとお箸を咥えながら、フリーズしてる卓也がそこにいた。
これじゃ、まだ明日香と話しできないな。
「卓也、ごめん。次の日曜日に僕の家の前の砂浜で、サーフィンの勝負が有って、応援に来てくれる人集めてるんだ。」
「テスト前だけど、来てくれると助かる。」
やっと、フリーズから溶けた卓也は、訳も分からず頷いていた。
明日香は、卓也の左手を選挙の候補者がするみたいに両手で握って『お願いします。』と、言って戻っていった。
次の瞬間、卓也の口からお箸が床に落ちた。
「卓也、お箸洗ってきなよ。」
「ああ」と言って卓也は立ちあがって教室から出て行った。
僕は、再びお弁当を食べ始めた。
ガシャン、さっきより大きな音が後ろから聞こえてきた。