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ローカル  作者: 不機猫
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サーフィン再び 2

 その日の午後、僕は明日香と一緒に図書館でいつも通り勉強というか、おしゃべりしていた。

「なんか今日、楽しそうね。何かいいことあったの。」

やはり、朝、明日香のおねえさんにサーフィンを教えてもらったのが、うれしくて思わず顔に出ていたみたい。

「今朝、夢の中で明日香と一緒に遊んでる夢を見たからかな。」

「うそでしょ。」

 ばれた。やっぱり、嘘はつけない。お父さんとお母さんの血を引いているのに演技が下手。

「でもいいわ。最近元気そうだし。」

「海人は、中学行ったら部活なにをするの。」

「あんまり、入りたい部活無いんだけど。」

「明日香は、何に入るの?」

「ダンス部かな?でも、出来れば海人と同じところに入りたいな。」

「そうだね。でも、たぶん運動部は無理かも。地学部ぐらいが合ってるかな。海の研究もしたいし。」

「そうね、お父さん海洋学の先生だし。」

「うん。」

 先日、明日香がうちに遊びに来て、そのまま晩ご飯を一緒に食べていた時、

「ねえ、海人のお父さんって何してる人なの。時々しか会えないみたいだけど。」

と、聞いてきた。

その時、ちょうどテレビで深海生物のバラエティ番組がやっていた。

『本日、お呼びしているのは、海洋生物に詳しい山田たかし先生です。』

エッ、ちょっと待って、なんかきいたことある名前だけど。

顔をあげると、祖父と祖母と目があった。

それから、3人で恐る恐るテレビの方を見た。

『山田先生、本日はよろしくお願いします。今日は、客席に奥様もいらっしゃるとか。』

テレビに奥様が映し出された途端、祖父と祖母が笑い出した。

僕も思わず吹き出してしまった。

そこには、派手な服装の玲子さんが座っていた。

確かに、お父さんは今日、出張で東京に行くとは聞いていたけど、テレビに出るなんて聞いてないよ。

『奥様は、会社を経営されているとか。それにお綺麗な方でうらやましい。』

三人が、急に笑い出したので、訳がわからずきょとんとしている明日香に、僕が笑いながら、テレビに手のひらを向けて、

「右に見えるのが僕の父です。そして、左に見えるのが僕の母です。」と言った。

『うそ!』と叫ぶ明日香。僕と祖父と祖母の顔を見て、冗談じゃないことを悟ったみたいだ。

明日香は、再びテレビを見た。

「そういえば、どことなく海人に顔が似てるような気がする。」と言った。

「だって、親子だから似てますよ。」と、いったら明日香も一緒になって大笑いした。

「クラスのみんなには、内緒にしてね。」

「ダメ、自信ない。この番組、たぶんみんな見てる。」

その日の翌日、僕は、一日中、明日香を見張っていた。

何度も昨日の話題をしゃべりかける、明日香を止めるのが大変だった。

最後には、『どうか、わたしを楽にしてください。』とまで言われた。

それでも、『ダメ!』と言ったけど、かわいそうだったので、『じゃ、おねえさんには言ってもいいよ。』って言ったら、『えっ、言っちゃダメだったの?昨日、言ったけど。うちの家族に喋った。』と言われた。

 明日が、怖い。

たぶん、明日、町中の噂になってる。

お父さん、たぶん明日から街中歩けないから。

できれば、みんな録画していないことを祈ります。

そんなことがあって、明日香は、僕のお父さんの職業を知ってしまった。

 結局、明日香はダンス部に入りぼくは、地学部に入った。

地学部のみんなは、あまり他人に興味がない人たちだったので助かった。

僕の名前が山田だったので、お父さんの書いた本を持ってきて、『同じ山田だね。』って言われたときは、ドキッとしたけど、『そうだね。』で終わってくれた。

 次の日の朝は、波が高かったので僕は、海岸からおねえさんがサーフィンをするのを目を皿のようにしてみていた。

そして、気づいたことをノートにメモした。

一番気になったのが、どの波にどのタイミングで乗ればいいのか?事細かにノートに書き込んだ。

実は昨日、祖父に『どの波に乗ればいいかって、どうやって判断してるの?』って聞いたところ、『経験じゃな。そして、波に好かれることじゃ。』と言われた。さすが、初代レジェンド、言ってることが雲の上すぎてわからない。

それで、今日は、お姉さんのサーフィンを見て、見極め方を学ぼうとした。

で、本日の授業が終わった後で、おねえさんに波の見極め方を聞いたら、レジェンドと同じ返事が返ってきた。波乗りの女神もやはり雲の上の人だった。

 あれこれしているうちに、とうとう三日目がやってきた。

「海人、今日は、ちょっと波が高いけど最終日だから海に入ってみるか?」

「ちょっと怖いけど、あたって砕けろ。やってみる。」

「砕けちゃいかんが、まあ、やってみろ。」

「京香さん、すみません。今日は、一緒に海人と海に入ってもらっていいかの。」

「乗れる乗れないは、別として、近くで波乗りしているのを見るのが一番じゃ。」

「わかりました。海人君、よろしくね。ほんと、後は自分で波を見極めて乗ってみるしかないのよ。多少、怖い思いをするかもしれないけど。」

「わかりました。やってみます。」

「サーフィンするのに、ルールはあるけど、今日は気にしないで。君のタイミングでじゃんじゃん乗ってください。」

「はい。」

いつものように準備体操をして、それから、ボードを海に浮かせ手で押さえいくつもの波を感じながら、腰が水に浸かるところまで歩いていった。

そして、ジャンプしてボードに乗り、先に海に入っていたおねえさんが、待っているところまでパドリングした。

 それから、ボードの上に座り、足を円を掻くように動かしてバランスを取った。二つぐらい小さな波をやり過ごし、ちょっと大きそうな三つ目の波にタイミングを合わせおしりを下げボードの先を浮かせ、ターン、そして、パドリング。

僕の右にいたおねえさんは、今は左になった。

おねえさんも同じように動いてる。

 前のりになるけど、気にせずにそのままパドリングを続けた。

波の速度と同じになった時に、自然と体が動いた。

布団での練習の成果かもしれない。

利き足を両手の間に立てて、しばらく低い姿勢のまま、ボードが安定したらバランスを取りながら立ち上がった。

そのまま、ふらつくこともなく砂浜までその状態で進んでいった。

夜のジョギングと第二次成長期で急に筋肉が付き始めた体に戸惑いながらも、最初からうまくいった。

波がスープになったので、それでボードから飛び降りた。

一連の動きに満足しながら、僕は、後ろを振りかえった。

おねえさんは、僕の邪魔にならないようにすでにプルアウトしていた。

「乗れたね。2回目でボードに立てるなんてすごい。」

「ありがとうございます。」

それから、砂浜の祖父に手を振りながら、大きな声で

「乗れたよ。」

と叫んだ。祖父も、嬉しそうに笑っていた。

まっすぐに進んだだけだったけど、とっても嬉しかった。

 それから、2回ぐらい波に乗って、同じようにできることを確認してからお姉さんに声を掛けた。

「すみません。ボード変えてもらってもいいですか?」

「僕も、女神の、いえ、おねえさんのボードに乗ってみたい。」

「じゃ、一旦、砂浜に上りましょうね。」

2人ならんで、砂浜に上るとリーシュコードを外して、ボードを取り換えた。

白いボードのトリプルフィン。パフォーマンスショートかな?ボードの厚さは、僕のより薄いかも?そんなことを想いながらおねえさんと並んで再び沖に出た。

先に、僕が、波にのった。

足の位置がちょっとでもずれると変な風に曲がってしまう。

何故か、ボード自体が、僕を載せるのを嫌がっているみたいに感じた。

結局、途中でボードから落ちてしまった。

おねえさんは、赤いボードも器用に乗りこなしていた。

僕のように乗せられていた感が、微塵も感じられない。

ボトムターンにカットバック、そしてリッピングと色々乗りこなしていた。

すごい。僕のボードでも、あんなことができるんだ。

 そのまま砂浜に上った僕は、おねさんのボードを持ったままずーっと見とれていた。

しばらくして、おねえさんが海から上がってきた。

「良いボードね。」

「僕のボードでもあんな風に乗れるんですね。僕も、あんなふうに乗りたい。」

「今日は、色々ありがとうございました。」

「こちらこそありがとう。明日香が溺れかけてから、サーフィンはちょっとできないなと思っていたから。」

「でも、わかったわ。わたしもサーフィンが好きなんだって。海人君が、サーフィンを始めるって聞いて背中を押された感じね。」

「おねえさん、明日香には、サーフィン始めたことは内緒にしてもらってもいいですか?心配させたくないから。」

「わかったわ。」

そうして、その日の授業が終わった。



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