好きな人
昨日は、徹夜で始発の電車で、海のそばにある実家に戻ってきた。そして、倒れこむように眠っていた。
波の音、そして潮の香りが気持ちよかった。
昔のようなサーフィンはできないけど、波の静かな時には、時折りロングボードを持ち出して波と戯れるのが最近の僕の楽しみになっていた。
気持ちよく眠っていると夢を見た。
僕は、家の前の海岸から海に沈む夕日を見ていた。そうしていたら、髪の長い女性のシルエットが海の中から近づいてきた。
それが、女神さまだと夢の中の僕はすぐに気づいた。
「海人。」と彼女は、僕の名前を呼んでくれた。なんども何度も。
そして、抱きしめられた。なんて、幸せな夢なんだろうと思ったら目が覚めた。
眠いながらも僕の部屋の中に誰かが座っている気配がした。
おばあちゃんかな?起きてこないのを心配して見に来てくれたのかな?そんなことが、今まで数回あった。
ゆっくり目を開けると、そこには、明日香さんが座っていた。
「海人。やっと起きた。何度呼んでも起きてくれないから心配した。」
「えっ、何しに来たの?」
「あなたの手紙の通り、好きな人と幸せになりに来ました。」
「それとも、私のこと嫌い?」
「嫌いでもいいわ。絶対好きになるようにしてあげる。」
そう言って、彼女は僕を抱きしめた。
僕も、彼女を抱きしめた。
そうか、話し合わなくても彼女を抱きしめればよかったんだ。
そんな勇気がなかった。そして、嫌われてもいいから、自分の気持ちを素直に言えなかった。
「やっぱり、明日香の方が強いな。小学校の時から変わってない。」
「そうよ、私の方が強いんだから、海人は、私の言う通りにしてればいいのよ。」
「わかった。」
僕たちは、お互いを見つめ合って、それからキスをした。
それから、手をつないで二人で下に降りて行った。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ちょっと、明日香と散歩に行ってくる。」
そう言って、僕たちは、家の前の海岸を二人で歩いた。
今まで、自分で悩んでいたこと、研究で分かったことを明日香に話した。
そして、明日香は、恵と一緒にメイドカフェでバイトしてること、それと、京香さんと優香さんと楽しく暮らしていること、それと、大学での生活を話してくれた。そして、いつも僕のことで悩んでいたこと。
手紙をもらったら、いてもたってもいられなくと来てしまったことを話してくれた。
「僕は、これからは、なんでも隠さずに話すことにします。このことを信じてもらうために、今から、僕の研究室に来てもらってもいいですか?」
「いいわ。ここから近いんでしょ?」
「一回、実家のお父さんとお母さんの顔を見てから、行くわ。」
「じゃ、僕も着替えてから、明日香のお家に迎えに行くよ。」
そう言って、二人は別れた。
僕は、家に戻って、簡単に食事して、シャワーを浴びて、服を着替えて、明日香の家に向かった。
明日香の家に付いて、呼び鈴を鳴らした。
明日香が、すぐに出てきてくれた。
その後から、お父さんとお母さんも出てきてくれた。
「ご無沙汰してます。ちょっと明日香さんと僕の研究所を紹介したくて出かけてきます。夕方には、戻ってきます。」
そう伝えて、僕と明日香は駅に向かった。
研究所に着くと、守衛所に明日香学年証を見せて、パスをもらった。
「結構、大きいでしょう。僕の研究室は、ここの5階」
そう言って、エレベーターのボタンを押した。
上っていく透明なエレベータのガラスから、外を二人で眺めた。
「海が、綺麗ね。」
「みんな、最初これに感動するんだよね。僕も、ここからの景色が見たくて研究所に来たくなる。」
「わかる。」
「わたしも、玲子さんに言われた通りにすればよかったかな。」
「ううん、まだ早いよ。明日香には、今後のためにもっといろんなことを経験してほしい。」
「ここには、いつでも来てもらっていいようにしてあるから。」
「そのパスちゃんと見て。明日香の名前が入ってるでしょ。」
「あっ、ほんとだ。」
「君のパスだよ。ボスが、気を利かせて作ってた。」
「そうなんだ。」
5階に着いた。そのまま、僕の研究所に案内した。
今日は、日曜日だから、他の研究室は閉まっていた。
一番奥の部屋の前まで来た。
「君のパスを当ててごらん。」
明日香は、不安そうにパスをリーダーにあてた。
ドアのロックが、空く音がした。
「この部屋だけだよ。他の部屋は、セキュリティが掛かってるから入れない。」
「逆にこの部屋は、僕と明日香と他数名の人しか入れない。」
「中に入って。」
そこには、いつもの光景が有った。電子顕微鏡に試験官、ビーカーに生理食塩水、そして専門書。
「そこの椅子に座ってて。コーヒーいれるね。」
そう言って、僕は、お湯を沸かしてコーヒーを入れた。
「ここからも、海が見えるのね。」
「うん。ボスが、気を利かしてくれた。」
「今日僕が、見せたいのはこれ。」
それは、僕が自分で調べた僕の血液検査のデーターだった。
それを見た明日香の顔色がみるみる変わっていくのが分かった。
「僕の見立てだと、持って後1年かな?」
「それまでに、薬ができてもあと数年ってところかな?」
「このことは、誰も知らない。今なら、お互い離れているから、誰も君のことを悪く言わないよ。きっぱり別れようと思って、手紙を書いた。」
「でも、駄目みたい。明日香、死ぬまで一緒にいてください。」
「最初から、そのつもりよ。」
「でも、数値が悪すぎるわね。私も、専門的な知識は無いけど。」
「一緒に、頑張りましょう。」
「そういってくれると嬉しい。」
「後、とりあえず、玲子さんには、話をしましょう。」
「私も、海人と一緒に頑張りたいから、玲子さんの力を借りるわ。」
「そうしよう。来週、東京の祖父の家で会うことになってるけど、来れる?」
「大丈夫。絶対に行くわ。」
「ありがとう。なんか、何とかなりそうな気がしてきた。」
「話してくれてありがとう。私も、こっちに来たい。」
「それも、玲子さんに頼んでみるよ。」
僕は、今までの研究内容を一通り明日香に説明そた。
気付いたら、研究室に夕日が差し込んできた。
「そろそろ、帰らなきゃ。」
「勤務体制が、厳しくて。昨日徹夜したから、そろそろ帰らないと。」
「後、明日香とキスしたいけど、監視カメラが見てるからダメ。」
「残念。」
そう言って、二人で笑った。




