恵
翌日、僕は、朝から大学に行くことにした。
どうか、明日香には、会いませんように。情けなく歪んだ、僕の心がそうつぶやいた。
多分、彼女を見ただけで卑屈な目が僕を語り、彼女にふさわしくない人間にまでなり下がったのを見られたくないと思った。
外見は、たぶん何も変わらないのに、なんでそんなことを思ったのか?彼女に見捨てられたことで、自分の境遇に甘えたことをそして、過剰評価していたことをイデアのレベルまで感じてしまった。
それでも、最低限の授業に出ることで、自分の存在意義を何とか保っていた。
この世の終わりを夢見ながら、長い授業を何とかやり過ごした。
そのまま、正門に向い、秋葉原の住民になりつつある恵に会いに行くことにした。
色とりどりに飾られた扉を開ける。
いらっしゃいませの声が、途中で途切れる。
「海人、大丈夫か?顔色悪いよ。」
メイド服とは、到底似合わない声が、目の前から聞こえてきた。
「大丈夫だよ。恵に会えて、ちょっと元気が出てきたように思う。」
「奥のテーブルまで、歩ける?」
「大丈夫だよ。学校から、ここまで来れたんだから、これぐらい大丈夫だよ。」
そう言ったまま、恵に会えた安心から近くのテーブルに座り込んでしまった。
「ごめん。ここまでが、限界みたい。」
「ちょっと待ってて、お水持ってくるね。」
そう言って、恵は、カウンターの奥に消えていった。
一人になった心細さから、両手をぎゅっと握りしめた。
「弱いな。」思わず、笑いが込み上げてきた。
暫くして、恵がオレンジジュースを持ってやってきた。
「海人が、好きなオレンジジュース。」
「ありがとう。恵の顔を見たら安心した。それと、書類ありがとう。今日は、それが言いたくて。」
「とんでもない。お店の外に落ちてたんだ。それを店長が拾ってくれて。僕に、持って行ってあげてって。」
「そしたら、寝込んでるって聞いて。しばらく、部屋に居たんだけど起きる気配が無かったから、そのまま机に置いていった。」
「ありがとう。大事な書類だから助かった。」
「ちょっと、色々無理しすぎてるんじゃない?」
「多分。それより、自分の弱さが辛くて。」
「まあ、そんなもんだよ。今頃、気付くなよ。」
「僕なんか、ずっと弱くて、だけど海人に会えてちょっとだけ強くなれた。」
「自分より、弱い人間を見つけて、安心した?」
「何言ってんだよ、海人。そんなこと思ったことないよ。」
「ごめん、明日香と別れて、平気でそんなことを思うようになった自分が嫌で嫌でしょうが無いのに、そんな言葉しか浮かんでこないんだよ。」
「・・・・・。」
「ごめん。今日は、帰るよ。オレンジジュースいくら?」
「いいよ。僕のおごり。」
「でも、一人で大丈夫?一緒に行こうか?」
「大丈夫だよ。何回も通った道だから、迷ったりしないよ。」
『いや、結構今、道に迷ってるのかも。』そう思うとまた、笑えてきた。
「じゃ、ね。」
そして、電車に乗って、家に帰っていた。
見覚えのある家なのに何か違うような。猫のアーシャが、心配そうにそばに寄ってきた。
親しそうに、寄ってきたということは、たぶんここが僕がいてもいいところなんだろう。
そして、僕は、ベッドにもぐりこんだ。




