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ローカル  作者: 不機猫
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サーフィン再び 1

 翌朝、6時にウエットスーツとサーフボードをもって祖父と一緒に砂浜に行った。

そしたら、すでにサーフィンをしている人がいた。

一目見て、それが明日香のおねえさんだとわかった。

「おはようございます。」うれしくて思わず、大きな声で挨拶してしまった。

砂浜に戻ってきたおねさんは、

「おはようございます。」と祖父に挨拶してそして、僕に「おはよう。」って言ってくれた。

「昨日、海人君のおばあさんに偶然会って、明日、海人君がおじいさんにサーフィンを教えてもらうと聞いてやってきたの。明日香には、内緒ね。」

「京香さん。申し訳ないが、海人に君が波乗りをしているところを見せてやってくれんか。」

「上手な人の波乗りを見るのが、一番勉強になる。」

「海人、波の状態、板に乗るタイミング、乗り方そして体の動きとボードの扱い方をよく見ておけよ。」

「わかった。」

おねえさんは、違うサイズの波を器用に選んでいろいろな乗り方を見せてくれた。

その都度、おじいさんは波の状態を含め色々説明してくれて、あっという間に30分が過ぎてしまった。    ぼくは、お父さんがくれたノートをもってきていたので、その余白に教えてもらったことをすべて書き込んだ。

 その日僕は、結局海には入らなかったけど、益々サーフィンに興味がわいてきた。

その後、おねえさんは、東京に行くまでの3日間、僕にサーフィンを教えてくれることになった。

家から、ボードを明日香に内緒で持ってくるのも大変なので、祖父の家で預かることになった。

祖父は、僕に京香さんのボードのメンテをさせるので、ボードのワックスの塗り方を教えてほしいと言っていた。

彼女は、最初は断っていたが、ワックスの塗り方も勉強になるから教えてほしいと言ったら、じゃ、おじいさんに説明するね。と言ってくれた。

女神のボードに触れるなんて夢のようだ。おねえさんの説明を僕も、聞いていたけど何を言っているのかわからないまま、ノートに書き込んだ。

その日の昼間は、明日香と一緒に図書館で勉強というか図鑑とかを見て楽しんだ。

そして夕方に、体を鍛えるためにジョギングをして、その後に手の空いたおじいさんにボードの手入れの仕方を教えてもらった。

10畳ほどある玄関横の作業場に丁度、ボードを載せるのによさそうなテーブルがあった。

そこに毛布を引いて,赤いボードが載せられていた。

おねえさんの白いボードは、畳の上のサーフボードケースに入れていた。

「ワックスは、足が滑らないために塗るから、人それぞれの塗り方がある。」

「海人のボードは、今なにもワックスがかかってないから、まずは、ベースワックスから塗るぞ。」そう言って、おじいさんは、いくつもある四角い箱から、灰色を選んだ。

「塗ってごらん。」そう言って、僕にワックスを持たせそれから、おじいさんはその上に手を重ねて、赤色のボードに斜めに10センチ間隔で交互にの線を引きそれから格子状になるようにワックスを塗った。結構力を入れて塗っていくのが分かった。

それから、円を描くとワックスの表面に粒ができて来た。微妙に力加減が変わった。

「次に、トップコートじゃ。」

おじいさんは、次に青色のケースのワックスを取り出し僕に持たせて、同じように上から手を握って今度は、表面をなぞるような感じで塗っていった。

「これは、柔らかいから本来はサーフィンを始める直前に塗るやつじゃ。季節によって、塗るタイプが違う。朝は、寒いからまだクールタイプじゃ。」

「お姉さんのは、明日の朝、砂浜に持っていく前に塗ればいい。」

それから、おじいさんは、赤いボードを畳の部屋に敷いた古い布団の上に載せた。

「海人、ちょっとそのボードの上に裸足で乗ってごらん。」

言われるまま、僕は、靴下を脱いでその上に乗ってみた。

「どうだ、感触は?足がボードにくっつく感じがするだろ。」

「もし、時間が有るならそのボードの上で立ち上がる練習をすればいい。ワックスが付くから、汚れてもいい服装でな。」

 そして、左右に動く板のバランスを取りながら腹這いから、立ち上がる練習をした。

「玲子もよくそうやって、練習していた。懐かしいのう。」

おじいさんは、しばらく僕が練習しているのを見ていたが、

「明日も、早いからそろそろ寝なさい。あすは、5時起きで砂浜じゃ。」

僕は、その赤いボードをお姉さんのボードの隣に置いて2階に上がった。

 翌朝、5時に目が覚めた。僕は、そのまま、洗面所で歯を磨いて顔を洗った。

そして、玄関の横の作業場に行くと、すでにおじいさんが待っていた。

そして、おねえさんの白いボードが机の上に載せられていた。

「海人、塗ってごらん。」

「いいの?僕が塗って。」

「大丈夫だよ。」

 僕は、恐る恐るお姉さんのボードにトップコートを塗っていった。昨日、おじいさんに教わった力加減と塗り方で。

もうすぐ塗り終わりそうになったときに、明日香のおねえさんが、開けてあった玄関から入ってきた。

「おはようございます。」

「おはよう。」

「おはようございます。」

「あっ、海人君。私のボードに、ワックス塗ってくれたんだ。ありがとう。」

そう言って、ボードのワックスを見てくれた。はじめてにしては上手ね。それと、こことここは、ちょっと厚めにね。これは、私の乗り方で一番足を載せるところ。だから、厚く塗るの。癖みたいなものね。」

「ワックスを塗るのも、難しいですね。」

「その日の波を見て、自分の好みでワックスが塗れるようになったら1人前よ。わたしのは、形だけだけだから、まだ半人前。」

とおねえさんは笑った。

「ちょっとウエットに着替えるから、向こう向いててね。」

「僕も、向こうでウエットに着替えてくるね。おねえさんは、畳の部屋使ってください。

おじいちゃん行くよ。」

「ああ。」そう言って、おじいさんは台所にそして僕は、奥の座敷でウエットに着替えた。

しばらくして、作業場に行くとピンクのウエットのおねえさんと祖母が話をしていた。

「海人も、おにぎり食べたら。お腹すいてるでしょ。」

「おにぎり、おいしいよ。」

「じゃ、僕も1つ頂きます。」う~ん、おいしい。おにぎりをほおばっていると、お姉さんが、

「今日は、波が静かだから、ちょっと海に入ってみようか?教えたいこともあるから。」

と言った。僕は、おにぎりでお腹が落ち着いたせいか

「はい。」と元気よく答えた。

ウエットを着て、ボードをもって初めて海に入れると思うとわくわくしてきた。

おじいさんは、すでに砂浜で待っていてくれた。

「今日は、波が静かだから、海の中で色々教えてもらうといい。」

ここでも、僕は、元気よく

「はい。」と答えた。

「まずは、準備体操。ストレッチで体を伸ばして、それから体温をあげるように体を動かす。」

 準備運動を、5分ぐらい続けた。

「大丈夫?」

「全然、平気。」

「じゃ、ボードをもって。わたしの横に1mぐらい距離を取ってついてきて。あまり、近いとボードがぶつかったりするから、注意してね。」

「はい。」そういって僕は、ボードを腰のあたりに持ってお姉さんと一緒に海に入った。

「まだ、ちょっと冷たいでしょう。来月ぐらいになると海の方が暖かくなってサーフィン向きの風が陸から吹いてくるのよ。」

腰のところぐらいまで海に入ると

「ボードの上に乗って、パドリングね。ついて来て。それと、波が来たら、ボードを押して、海に沈めるようにして。そうすると波を超えられるから。そしてまたパドリングね。」

そういっておねえさんは、さっとボードの上に腹ばいになって、パドリングを始めた。その滑らかな動きに僕は、しばらく見とれてしまった。

「海人、何やっとる。付いて行かんか。」砂浜から、おじいさんの声が聞こえた。

慌てて僕は、ボードの上に飛び乗ろうとしたけどちょうどその時に波が来て、そのままボードがはじけて、僕は海の中に沈んでしまった。そして、思いっきり海水を飲んだ。

不思議とプールの水を飲んだ時のように、むせたりしなかった。

 慌ててボードをつかまえて、今度は、波が来ないのを確かめてボードに乗った。

よし、うまく乗れた。

パドリングも思ったほど簡単ではなかった。

手がバタバタするだけで、全然前に進まなかった。

そして、波が来てるのに気付かず、再び海の中に。

足がつくと思って気を退くとそのまま海の中に沈んだ。

「えっ?」知らない間に結構沖まで来ていたみたいだ。

再び、海水を飲んだ。

ボードをやっとつかまえて、浮き輪のようにつかまってる僕のそばに、お姉さんがやってきた。

「ごめん、この辺、急に深くなるから注意してね。ボードの上に上がれる?両手で、ボードを押して、そうそう。そうやって体をボードの上に乗せて、そしてすぐに波が来てないか確認する。」

「で、ボードの先端を波の方向に向けて、ボードの上に座ってみようか。」

「はい。」

「周りを見てごらん。結構、沖にきてるでしょう。初心者なら、この辺が限界かな。」

「目印は、君がいつも見ていた窓と入江の灯台かな。」

「いつも位置は、気にしてね。何もしてなくても流されるから。そして、砂浜に帰れなくなる。」

「はい。」

「次は、波が来たときにボードの先端を砂浜に向ける練習ね。」

「今は、ボードの中心に乗ってるけどちょっとおしりを後ろにずらして、ボードの先端を浮かせて、後は、両足を使ってくるっと回る。」

そう言って、おねえさんは手で足の動きを見せてくれた。

それから、実際にボードを砂浜の方に向けてくれたけど、スムーズ過ぎて何が何だかわからなかった。

「やってみて。」仕方がない、というよりやるしかない。

「はい。」

そう言って、おしりを後ろにずらし足を動かした途端、バランスをくずして再び海の中へ。

今度は、心構えがあったから、海水は飲まなかった。

そして、再びボードに乗って、座って海に沈んでを3回繰り返して、やっとゆっくり砂浜にボードの先を向けれるようになった。

「お疲れ様。今日は、これぐらいにしましょう。」

気がついたら、あたりは、すっかり明るくなっていた。

「最後に、波に乗ってみる?」

「はい。」と言ったけどちょっと不安だった。

「ボードの上に立たなくていいから、私が合図したら、ボードを砂浜に向けてパドリングして波と同じ速さになったらそのままボードにつかまってて砂浜まで行って。」

「はい。」僕にできるかな?と悩む間もなく

「はい。」とおねえさんの合図。

慌てておしりをずらして、ボードを砂浜に向け、やみくもにパドリングした。

波が僕に追いついてきた。

僕は、波に追い越されないように一生懸命パドリングした。

波と速さが一緒になった。

「よく頑張ったね。後は、砂浜まで運んであげるよ。」一瞬、波の声が聞こえたような気がした。

何もしなくても波が僕を運んでくれる快感。

こんなの今まで感じたことない。

自然に笑顔になる。

明日香が何度もやりたがったのが、わかる気がする。

僕は、この波に感謝した。

そして、この快感を教えてくれた女神にも。

そのまま、砂浜に上って、祖父と一緒におねえさんを見た。

彼女は、気持ちよさそうに波に乗っていた。

そして、しばらくして、砂浜に帰ってきた。

「ありがとう。丁寧にワックスを塗ってくれたのがわかるわ。」

「僕の方こそ、色々教えて頂いてありがとうございます。明日もよろしくお願いします。」

それから、おねさんと僕と祖父は、並んで海にお辞儀した。

「じゃ、着替えて帰るわね。」

「うちのシャワー使ってください。よかったら、お風呂も。おばあさんが沸かしてあるはずだから。ウエットのまま、風呂場まで上がってください。」

「海人、案内して。」

「はい。」

「ウエットもそのまま置いといてくれれば、洗って干しておきます。」

ボードを玄関の隣の作業場において、僕は、おねえさんをお風呂場まで案内した。

僕は、また、玄関の作業場に戻って、ボードを水洗いした。そして、ウエットを脱いで

水道の水で体を洗った。冷たい。

でも、運動した後だから気持ちよかった。

それから、すぐに体をタオルで拭いてスエットに着替えた。

しばらくしたら、お姉さんが玄関までやってきた。

「きれいなお風呂ね。気持ちよかった。」

家は、古いけど僕が来るときに祖父は、お風呂とトイレと台所をリフォームしてくれた。

「ウエットは、お風呂の中で洗わせてもらったからどこか干せるとこある?」

「僕が、干しときますからいいですよ、預かります。」

「なんか、恥ずかしいから自分で干させて。」

「じゃ、こっちです。」そう言って、僕は、裏の庭の物干し場におねえさんを連れて行った。

「ここに干してもらってもいいですか?ここなら、ずっと日陰になるので。」

「ありがとう。気が利くわね。」

「祖父に、色々教えてもらいました。知らないことばっかりで。」

「サーフィンって楽しいですね。でもまだ、ちょっと怖いです。」

「そうね。ほんとは、自分も一緒に教えてあげたいけど。」

「来週から、東京ですよね。すみません。色々準備があるのに。サーフィンは、祖父が色々教えてくれるので大丈夫です。だぶん。」

「そうね、時々は帰ってくるつもりだから、その時は、一緒にサーフィンしましょう。」

僕の後ろに祖父と祖母がやってきた。

「今日は、どうもありがとう。」

「いえいえ、私が、サーフィン教えてもらったのが玲子さんだから気にしないでください。」

「赤いボード、あれ玲子さんのでしょう。すぐに分かったわ。」

「今度、貸してね。一度乗ってみたかったの。あこがれの玲子さんのボード。」

「はい。ぜひ、乗ってください。」

それから、おねえさんは何事もなかったように帰っていった。


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