帰郷
翌日、僕は、いつもの時間に学校に向かった。
港は、その日の夜便でハワイに帰る。
あっという間だったけど、本人は、満足そうだった。
「海人、手話の本貰っていくよ。」
「どうぞ、どうぞ。」昨日、帰ってきてから、港と色々話した。
できれば、日本の大学に来たいとも言っていた。
それには、今まで勉強したことない、日本史を勉強しないといけないかも。
それに、日本語も勉強しないといけない。
後、1年しかないけど大丈夫だろうか?日本の大学は、入るときが一番難しい。
まあ、やってみないとわからないけどね。そんなことを、話した。
個人的には、星野さんが、ハワイの大学を受けた方が、数倍可能性が高いと思うけど。
夜も遅くなったので、僕は、頭を抱えた港を置いて、部屋に戻った。
僕は、今、人の相談に乗っていられるほど、余裕がない。
今日は、サーフィンをしたおかげで、いつもより疲れているのか眠くなっていた。
でも、毎日の課題は、こなすようにしていた。
やっと、学校に着いた。
今日は、星野さんに会わなかったな。
すいている電車に乗って、すでに学校にきてるか、もしくは、寝坊している?
まさかね。
でも、彼女は、言ってた。
目覚ましが、聞こえないから、いつも不安になるって。
でも、携帯の振動で気付くし、今は、お母さんと一緒だから大丈夫でしょう?
それにしても、今日は、眠いな。
テストまで、あと3日しかないのに。
でも、この学校のトップ3は、暢気だね。
期末テストだって言うのに、バイトしたり、デートしたり、サーフィンしたり。
大丈夫かね?
2年4組の教室に入った。
「海人、おはよう。」
「今日から、バイトがないから、勉強に集中できる。」
「打倒、星野さんってね。」
「港は、今日帰るの?」
「そうだね。」
「うん、送っていきたいけど今日は無理。よろしく言っといて。」
「わかった。」
「星野さんは、どうするのかな?」
「さあ?二人のことは、二人で決めるでしょ?」
「冷たいね。」
「そう、僕は、冷たい人間です。」と言うか、自分のことで今は、精いっぱい。
「港は、この学校の医学部受けるんだよね。」
「そうだよ。」
「僕は、どうしよう?」
「おいおい、今頃悩むなよ。」
「そうだよね、やっぱ、芸大にしようかな?」
「今からだと、難しいかも。デッサンとかもできないと。」
「そうなんだよね。」
「うーん、悩むよね。」
それから、すぐに1時限目が始まった。
その日は、とうとう6時限目が終わるまで、星野さんには、会えなかった。
「恵、ちょっと星野さんにあってから、帰るよ。」
「わかった。僕は、もう少し悩んでから、帰るよ。」
僕は、2年1組を、窓から覗いた。
ちょうど、彼女と目が有った。
「今日は、星野さん来てないよ。」
「ほんと、わかった。ありがとう。」
ちょっとだけ、胸騒ぎがしたけど、授業中は、携帯使えないから、連絡できてないだけかも。
僕は、そのまま、港を送るために図書館に行かずに駅に向かおうとした。
ふと、正門を見るとボスの車がとまっていた。
嫌な予感が、背筋を走った。
ボスの所まで、急いで行くと、
「恵くんは、一緒じゃないんだ?」
と、拍子抜けの問い合わせが帰ってきた。
「坊ちゃん、ちょっと車に乗ってもらってもいいですか?」
「いいけど、どこに行くの。」
「ここの大学の附属病院です。」
「えっ、何か有ったの。」
「それは、行ってからのお楽しみです。」
「って、ことは、病院だけどいいことなんだね。」
「そうです。」
10分も走らないうちに、附属病院の駐車場に着いた。
「205号室です。そこに、星野さんとお母様と港くんがいます。それと玲子さんとお医者さんが。」
病院の中を、速足で、205号室に向かった。
205号室のドアをノックした。
「どうぞ。」星野さんの声がした。
僕は、恐る恐る、扉を開けて中に入った。
みんな笑顔だった。
「どうしたの?」
「あれ、さっきドアをノックして返事したの星野さんだよね?」
「そう、私よ。」
「えっ、えっ、えっ、星野さん聞こえてるの?」
「少しだけど、聞こえるようになった。」
「おめでとう。」
「朝、目が覚めて、そしたら、目覚ましの音が聞こえて。あれ、目覚ましって、あんな音だっけと思ったら、聞こえてた。」
「不思議。」
「これも、みんな港さんのおかげ、それと海人さんのお母さんが作ってくれた薬のおかげ。」
「まだ、色々わからないけど、経過観察して、状況を見極めましょう。」と先生が言った。
「そうね。まだまだ、わから無いこともあるし、今のところ副作用は、無いはずだけど。」
「だから、今後は、花山先生と連携して進めます。」
「花山です。」そのメガネの、先生は、自己紹介した。再生医療と免疫学が、専門です。
「海人も、これからは、定期的に検査するから。」
「わかった。」
「僕も、早く医大に入って、先生と研究したいです。」
「待ってるよ。」そう言って、先生は席を外した。
「港が、帰る前に聞こえるようになって良かったね。」
「港の声、どう?」
「想像以上にいい声でした。」
「良かった。また、ハワイから電話するね。」
「じゃ、すみません。そろそろ空港に行くお時間です。」
「玲子さん、港を空港に見送りに行っていい?」
「いいわよ。」
「わたしも。」
「いいわよ。」星野さんのお母さが言った。
「じゃ、社長4人で行ってきます。」
「よろしくね。」
「はい、かしこまりました。」と言うと、ボスは、ポケットからサングラスを2つ出して、1つを僕に渡した。
「では、行ってきます。」
それから、僕たちは、港を空港に送った。そして、ハワイ行きの飛行機を見送った。




