ボディガード
僕たちは、そのまま2年1組に向かった。
彼女は、教室の扉の前で、ちょっと躊躇したように見えた。
教室の中でも、なにかあるのかな?そう思って、僕は、彼女の横を通って先に教室に入った。
そして、振り返って、『席は、どこですか?』と聞いた。
彼女は、前から2番目の窓際の席を指差した。
僕は、その席に先に行って、何もないことをさりげなく確認した。
『大丈夫だよ。』
『僕も、時々遊びに来るようにするね。』
『ありがとう。』
『じゃ、またね。』
そう言って、僕は、自分の教室に向かった。早く恵を見つけて、協力してもらわなきゃ。
2年4組の教室に入ろうとすると、恵を探すまでもなく寄ってきてくれた。
「海人、どうしたんだよ。」
「朝から、ピンク色の車が学校に入ってきたから、何が有ったのかな?と思ったら、海人が出てきてびっくりした。」
「しかもその後から、かわいい女子が出てきたからさらにびっくりしたよ。」
「恵、そのことで、ちょっとお願いが有るんだけど。」
そう言いながら、僕は、恵の手を引っ張って一緒に教室に入った。
「実は、恵、あの子が、学年1位の星野さんだよ。」
「昨日、僕が図書館から帰るときに、正門の所でさっきのピンクの車のおじさんと彼女が一緒に居たから、事情を聴いたら、うちの学校の生徒にいじめられたみたいなんだ。」
「それで、今日は、心配してくれて学校まで送ってくれたんだ。」
「しかも、あのおじさん、学校の理事長の知り合いらしくて、色々相談にのってくれたんだ。」
「で、恵にお願いなんだけど、僕と一緒に彼女を守ってほしいんだけど。」
「なんか、急展開だね。」
「ノープロブレム。大丈夫だよ。」
「でも、それなら、1組の知り合いの子にも頼んで見るよ。」
「ほんと?それは、助かるよ、さすが恵。」
その時に、始業のチャイムが鳴ったので、恵は、自分の席に戻っていった。
お昼休み、僕と恵は、先日の中庭のベンチに座って、お昼を食べながら、星野さんと恵の1組の知り合いを待っていた。
先に、来たのは、星野さん。
売店で、パンを買って僕たちの所にやってきた。
「恵、こちらが星野さん。」
『星野さん、こちらが恵。』
僕が、彼女に手話で紹介したので、恵は、すぐに状況を理解した。
恵も、簡単な手話で『こんにちわ。』と挨拶した。
恵に後から聞いた話によると、この学校では、中学で手話の授業があるみたいだった。
それが、星野さんが、この学校を選んだ理由かな?とも思った。
暫くして、恵の知り合いの子がやってきた。
彼女は、星野さんを見るなり、手話で
『あなただったの。ちょっと気になってたんだよね。』
「恵、隣の彼、紹介して。」
「今朝、ピンクの車で、学校に乗り込んできた子でしょ?」
「どこのお坊ちゃまなの?」
「海人って、お坊ちゃんなの?」
僕は、思いっきり顔の前で手を振った。
「恵とは、コスプレ仲間です。」
「あっち系の人なのね。」
「彼女、耳が聞こえないのに学年1位だから、1組では、本当は耳が聞こえてるんじゃないの、って話題になって、それで、試してみるって、修学旅行委員に無理やりされたのよ。」
「昨日、その寄り合いが有ったけど、彼女は気付かなくてそのまま帰ろうとしたから、一部の人から攻められたのよ。」
「そうなんだ。」
「ほんとに、彼女、耳が不自由なんだ。」
「わかってるわ。」
彼女は、星野さんの方を見て、
『大丈夫よ、何かあったらすぐに私に言って。』
『そしたら、すぐに恵に連絡するから。』
『そしたら、僕と恵ですぐに飛んでいくから。』
『多分、みんな悪気はないと思うよ。進学校だから、くだらないプライド持ってるのよ。』
『特に、途中から、入ってきた子は、目を付けられるのよ。弱いものいじめよね.。』
『僕は、恵に最初に声を掛けてもらったから、助かったよ。』
『そうよ。恵は、裏で仕切ってるから。みんな、一目置いてるのよ。』
『北山さん、そんな物騒なこと言わないでよ。みんな、信じるでしょ。』
『冗談よ。でも、私も恵に助けてもらった方だから。』
バイト先といい、趣味といい、それで、学年三位だから、まんざら嘘ではないかも。
『星野さん、これからは、私を頼っても大丈夫よ。』
『海人も、ノープレブレムよ。』
えっ、どういう意味なの?
そう言って、二人は、先に教室に戻っていった。
「恵、一つ聞いていい?彼女、女の子だよね?」
「この学校、制服なら、どれを着てもいいんだよ。男女の区別なくね。自由な学校だよね。」
そう言って、ニコッと笑った。
僕は、恵のメイドのコスプレを見ていたから、ちょっと心配になってきた。
その日は、何事もなく過ぎた。
放課後は、星野さんと恵と一緒に図書館で勉強した。
恵は、星野さんの彼氏がこないかワクワクしてたけど、誰も来なかった。
六時半になったので、3人が、帰ろうとしたときにたまらず、恵が星野さんに聞いた。
『今日は、彼氏来ないんですか?』親指を立てて聞いてみた。
『彼氏って、なんのことですか?』
『いつも図書館で一緒に勉強している男。』とまた、親指を立てた。
暫く考えるようにしていたら、急に僕を指さした。
『僕?』
『海人は、気付いてないけど、いつも同じテーブルで勉強していたのよ。』
『海人も、隅に置けないね。明日香さんに言っちゃおうかな?』
『明日香さんてだれですか?』
恵は、今度は、高々と小指を立てた。
『海人の彼女。すごい、美人なんだよ。コスプレしたらもう最高!』
『あの部屋に、いつも泊ってるって言った人?』
『そう。幼馴染で、命の恩人。そして、僕の女神なんだ。』
「言うね。海人。」
「そうだ。ハワイに女神のコスプレもっていこう。決定。」
思わず、恵が叫んだ。
周りから、冷たい視線が僕らを射抜いた。
やばい、図書館出入り禁止にされる。
僕は、星野さんの手を掴んで、その場を他人のふりをして逃げだした。
外に出てから、星野さんに恵が、図書館で大声を出したことを説明した。
星野さんは、それを聞いて笑い出した。
『私も、聞きたかった。』
そうなの?
二人で、図書館の外で待っていると、しばらくして恵が、肩を落としてやってきた。
『しばらく、出入り禁止だって。図書カード取り上げられた。』
『でも、いいじゃん。恵、めったに図書館こないじゃん。』
『そうか。』それで、急に恵が元気になったので、
再び、星野さんが笑い出した。
僕たちは、そのまま、ボスが待っている正門の所まで歩いて行った。
『ピンクの車。』
一番、喜んだのは、恵だった。
でも、中からボスが出てくると急に静かになった。
それとは、逆に星野さんは、ボスの腕にしがみついた。
『今日は、なにもなかったよ。それに、ちょっと楽しかった。この学校で、笑ったの初めて。』
「今日は、大丈夫だった。それに、この学校にきて始めて笑ったって。彼のおかげで。」そう言って、僕は、恵を指さした。
ボスは、静かに恵の方に近づき、そして、急に笑顔になって、
「Thank you boy!」と言って、恵の手を握った。




