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ローカル  作者: 不機猫
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女神降臨

 電車に乗って、いつものように海岸を見ていると、誰かが、砂浜でごみ拾いをしていた。

ぼくが、波乗りをしてる女神と勘違いした明日香のおねえさんと、初めて言葉を交わしたのも、砂浜のごみ拾いがきっかけだった。

 その日は日曜日で、いつものようにシルエットの女神が、波乗りをしているのを朝から見ていた。

そのシルエットは、いつも7時前には砂浜からいなくなるのに、この日は、8時ごろまで砂浜にいて、何かをしているようだった。

波乗りの女神さまが、何をしているのか気になった僕は、勇気を出して砂浜まで見に行くことにした。

「おじいちゃん、ちょっと砂浜いってくる。」

「気を付けてな。」そんな祖父の言葉を背中に聞きながら、砂浜に向かった。

そこには、ピンクのウエットスーツを着た女神、いやお姉さんがいた。

恐る恐る僕は、長い髪の後ろ姿に声を掛けた。

「すみません。何をしてるんですか?」

振り返った彼女の顔に、ぼくは、見入ってしまった。

日に焼けた均整のとれた顔立ち、想像以上にきれいなひとだった。

ほんとに女神様かも!と思った。

僕が、病弱だったのでその健康そうな雰囲気に、オーラを感じてしまったのかもしれない。

「いつもたのしくサーフィンができるように、砂浜のごみ拾い。そして海に感謝。」そう言って彼女は、笑った。

 「僕も、手伝っていいですか?」

「いいよ。ありがとう。でも、怪我しないでね。」

そういって、僕に、彼女が使っていた軍手を脱いで渡してくれた。

「ごみは、このビニール袋に入れてね。」

一緒にごみを拾いながら、

「君、そこのおうちの2階から、いつも海を見ている子だよね。」

「えっ?」いつも朝日の中、相手がシルエットだったから、自分が見られているなんて想像もしていなかった。

ぼく、見られていたんだ。

そう思うと恥ずかしくて、下を向いてしまった。

砂の上を、風が通り過ぎるのが見えた。

「海、好きなの? 今度よかったら一緒に、サーフィンしてみない?」

「えっ? 僕なんか、体弱いから無理ですよ。学校にも行けてないし。」

「そう。」

 その時、帰りの遅い僕を心配して、祖父が砂浜まで来てくれた。

「おじいちゃん。」

「こんにちは。」彼女は、祖父に挨拶した。

「ご苦労さん。いつも、砂浜をきれいにしてくれてありがとう。」

「お孫さんですか?」それから、彼女は、僕の方を見て

「砂浜、きれいになったから、今日はこれぐらいでね。ありがとう。」

そう言って彼女は、僕のごみを受け取って、みんなの所に帰っていった。

たぶん、僕のことを気にして、ずっとそばにいてくれたんだ。

その時から、彼女は、2階の僕を見つけると、サーフボードの上から手を振ってくれた。

 今日は、家に帰ったらごみ拾いに行こうかな?

女神には、会えないけど。

そんなことを思っていたら、いつもの駅に着いた。

よし、家までダッシュだ。僕も元気になったものだ。

「おじいちゃん、砂浜のごみ拾い行ってくる。」そう言って、ごみ袋をもって、家を出た。

「こんにちは。」

砂浜でごみ拾いをしていたのは、ひろしさんだった。

彼に挨拶をして、僕もごみ拾いに加わった。

ビールの空き缶に、たばこの吸い殻。

朝の暗いときは、わからなかったけど、こうしてみるとごみがいっぱい溢れている。

なかには、瓶のかけらもあって危ない。

「ありがとう。」一通り終わったところで、ひろしさんが話しかけてきた。

「いえいえ、うちの庭の様なところですから、きれいにしておかないと。」

「日曜日に来たビジターが、ゴミを捨てていくんだ。持って帰っていく人もいるけど、中にはマナーの悪い人もいる。ほんとは、来てほしくないけど、そんなことも言えなくて。」 

そう言って、ひろしさんは寂しそうに笑った。

「昔は、この海岸にもレジェンドって呼ばれる人がいて、その人の言うことがビジターも含め絶対だったんだけど。今は、ダメだね。じゃ。」って言ってひろしさんは、他の仲間と一緒に帰っていった。

ひろしさんは、僕より三つ年上の大学生。

地元の大学で確か、サーフィン部に入っていると聞いたことがある。

「さあてと、自分も家に帰って、夕食の支度でもするかな。」

背中に波の音を聞きながら、防波堤の階段をのぼっていった。

道を挟んで建っている大きな家が、僕が今住んでいるところ。

母方の祖父は、その昔網元をしていたらしく、やけに大きな家に暮らしていた。


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