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ローカル  作者: 不機猫
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手話

 月曜日、いつものように電車に乗って学校に向かった。

夏休みだけど、学校の図書館で色々調べたいこともあったし、夏休みの勉強もはかどる。それに、毎日の運動も兼ねていた。

9時過ぎだったので、電車自体はかなり空いていた。それでも、僕が育った町の電車より車両も人も多かった。

学校に行くのに、電車を乗り換えるとそこに先日図書館で出会った彼女が、外を見ながら扉の所に立っていた。

 声を掛けようかなと思ったけど、耳が不自由なのは先日教えてもらったので、声を掛けるのは止めておいた。

そのまま、駅を降りて学校の正門をくぐったところで僕は、彼女の肩を叩いた。

驚いて、振り返る彼女に、僕は、覚えたての手話で、『こんにちは。ぼくは、山田海人です。この学校の2年4組です。』と伝えた。

『電車、一緒。でも、他の人に君が耳が不自由なこと知られたく無かったからここで声を掛けました。』とゆっくり、口も動かしながら。

僕の、しどろもどろの手話にも関わらず、彼女は微笑んでくれた。

『よかった。突然、声を掛けて不審者と思われたらどうしよう?と思った。』

『大丈夫。これでも、人を見る目はあるから。』

『私も、ここの2年生の星野玲です。』

「学年1位の?」僕は、驚いて、思わず声を出して聞いてしまった。

彼女は、驚く僕を見て、きょとんとしていたので

改めて、手話で、

『ごめんなさい。あなたが、学年1位の星野玲さんですか?』

『ぼくは、学年2位の山田海人です。』

『知ってる。掲示板見た。』

それから、僕たちは、図書館の方に並んで歩いて行った。

図書館では、いつもの机で、お互いの勉強を始めた。

暫くして、ぼくは、あることに気づいた。

それは、彼女の集中力のすごさだ。その集中力があるから、学年1位かもしれない。

それを彼女に伝えたくて彼女の肩を叩いた。

『すごい集中力。』

『僕には、まねできない。』

『違うのよ。周りの音が、聞こえないからそう見えるだけ。単に、音に反応できていないだけ。』

『そうなんだ。でも、きみとなら、誰にも迷惑を掛けずに、図書館で会話出来るね。』

『こんなに、お話してるのに、誰も気にしてない。』

『ほんとだ。』彼女も嬉しそうに、ぼくを見た。

 お昼は、夏休みもやっている学食で簡単に済ませた。

その後も、6時まで勉強を続けた。

そろそろ,図書館が閉まる時間かな。夏休みなのでいつもより早く図書館が閉館する。

それに、気付かずにいると、いきなり電灯が消える。

帰る支度をすると、彼女も帰るところだった。

『一緒に帰る?』『多分、途中まで電車一緒。』

『一緒に、帰りましょう。』

『手話って、誰にもわからない秘密の会話みたいでワクワクするね。』

『もっと、勉強するね。』

そう伝えると、彼女は笑ってくれた。

そのまま、二人は駅まで歩いて電車に乗った。

 1つ不便なことは、相手に気付いてもらえないと会話できないこと。そして、良いことは、どんなに距離が離れていても相手の動きが見えれば、二人だけの会話が成立すること。

 何で、こんなに便利な会話方法が、ピクトグラムみたいに世界共通言語にならなかったのか?

そうすれば、世界のどの国の人とも、手話で会話できるのに。

僕は、手話を勉強するたびにそう思えて仕方なかった。そんなことを考えていたら、

僕が、電車を乗り換える駅に着いた。

『さようなら。』『さようなら。』

向かい合ってお互いそう伝えた。

 彼女と別れて、人ごみの中をうまくすり抜けながら、いつもの電車にたどり着けた。

転校してきたときは、ぶつかって謝ってばかりだったけど最近は、スムーズによけられるようになった。要は、サーフィンと一緒で、人の波をどうやって乗りこなせるかだ。

明日香に、学校の図書館の彼女と今日、手話で話ができたこと、そして、彼女が、明日香と同じ学年1位だということを電話しようと思っていると、ご機嫌そうに笑っている自分が、電車の窓ガラスに映っているのに気付いて、ちょっとだけ恥ずかしくなった。


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