秋葉原
二日後、夏休みがはじまった。
明日の午後明日香が、東京駅にご両親と一緒にやってくる。
僕は、東京駅に迎えに行って、そのまま明日香と二人でご両親に東京を案内する予定だった。
夜には、ホテルに送ってそして、そこでおねえさんの京香さんと合流して、僕はそのまま祖父の家に帰ってくる。
翌日は、僕の祖父の家で昼食会をして、京香さんの一軒家に向かうことになっていた。
丁度、土日なので運転手は、ボスが買ってでた。
さっきまで、明日香と明日のことで色々打合せをしていた。
結局、2日目は、もし明日香のご両親さえよければ、祖父の屋敷で泊まってほしい旨を伝えた。
祖父からも、昼食会のお願いをした時から、部屋はいっぱいあるから、ぜひ泊まって頂くようにと言われていた。
「祖父も祖母も明日香のことを気に入ってるみたい。また、会いたいって。」
「そう言ってもらえると、うれしい。」
「明日会えるの楽しみにしてる。じゃあね、お休み。」
「お休みなさい。」そう言って電話を切った。
翌日、11時30分に先回と同じ八重洲口で待ち合わせた。
明日香のご両親が、まず最初に皇居が見たいとの事だったので、丸の内駅前広場で待ち合わせして、そのそばで食事をして、そのまま皇居まで散歩することにした。
「皇居ってやっぱり広いわね。昔、修学旅行できたことあるけど」
「そうだね、お父さんも時々出張で東京には来るけど、皇居は初めてかな。」
「昔は、江戸城が有ったところでしょ。信じられない。」そんなことを話しながら散歩した。
「次は、どこへ行きます?」
「お勧めは、雷門、浅草寺、伝法院通り、新仲見世商店街そして最後にスカイツリーでホテルのコースは如何でしょうか?」
突然明日香が、
「秋葉原に行きたい。」と言い出した。
なんでも、『今女子高生の間で流行っているアニメのヒロインのコスプレがしたい』
『それで、写真を撮ってみんなに自慢したい。』とのことだった。
「ちょっと待って。それって、もしかして僕も何かしなきゃいけないってこと?」
「それは、ちょっと無理かも。ねえ、お父さんお母さん?」
と、明日香のご両親に助けを求めた。
「いや、気にしなくてもいいよ。わたしたちは、2人で東京見物してるから若いひとたちは、好きなところに行ってきていいよ。」
たぶん明日香のご両親は、コスプレが何かしらないんだ。
再び、明日香の方を見ると
「クラスのみんなにも、『海人の元気なところ見せたい。』と言われてしまった。」
「わかった。」
なんとなく嫌な予感がしたが、仕方なくぼくは、明日香の提案に従った。
「じゃ、お父さんお母さん東京見物楽しんでください。」
「なんかデートみたいで、楽しみだよ。」
「そうね、2人で歩くなんて久しぶりね。楽しみ。」
「じゃ、すみませんが、5時に東京駅で待ち合わせと言うことで、よろしくお願いします。」
「はい。じゃ、お互い楽しみましょう。」
そう言って、僕と明日香は、再び電車に乗って、秋葉原に向かった。
「ねえ、明日香は。誰のコスプレしたいの?」
「この間までテレビ放映していた、異世界の冒険もの。」
「それってめちゃくちゃ強い美人姉妹が、魔物を退治するやつじゃなかった?」
「そうよ。わたしたちって、めちゃくちゃ強い美人姉妹でしょ。」
「それは、そうだけど。それって僕じゃなくって京香さんだよね?僕は、何のコスプレをするのかな?明日香さん?」
「そんなの気にしない。秋葉原行ったら何とかなるって。」
あきらめて、ぼくは、明日香に引きずられるように秋葉原につれて行かれた。
東京から、二駅の秋葉原に着いた。
電気街の方の改札を出てそのままにぎやかな方に進んでいくと、いきなりビルの壁面いっぱいにアニメの主人公が描かれた看板が有った。
「凄い。別世界みたい。」
高齢のおじさんが、物珍しそうに写真を撮っていた。
思わず、僕もスマホを構えようとしたが、その前に明日香がパシャパシャ写真を撮っていた。
一通り、写真を撮り終えると僕と明日香は、車道側にコスプレをした女性がいっぱい並んでいる歩道を歩きだした。
2人で歩いていると突然僕は、そのコスプレの序章の一人に腕を摑まれた。
「海人じゃん。こんなとこで何してるの。」
びっくりして、その声の方を見るとそこには、アニメのメイド服を着たクラスメイトがいた。
「えっ、恵なの?何してるのこんなところで?」いくつもの?マークが僕の頭を行き来する。こんなところで、同級生に会うなんて。
「そんなことより、隣にいる女性は、彼女?」
「彼女です。」と明日香が叫んだ。
「彼女です。」と少し遅れて小さく僕が答えた。
「恵、それよりさっきから、君の胸が、僕の左腕に当たってるんだけど。」
「気にしないで。減るもんでもないし、それにダミーだから。」
「何だ、ダミーか?じゃなくて、僕の彼女の前でそれはないでしょう?」
「せっかく捕まえたお客さんなのに、離さないよ。」
「お客さんて何?怖いお店?」
「ぼく、今メイドカフェのチラシ配ってるのよ。彼女さんと一緒に何か飲み物飲んでってよ。そこの2階だから。」
「わかったよ。その僕の左腕に絡んでる手を離してくれたら行くよ。」
「わかった。このチラシ持って彼女さんと一緒に2階に行ってて。ぼくもあとから行くから。」
そういわれて、僕は、膨れ面の明日香の手を引いて、目の前のビルの2階に上がっていった。
照明が、やけにまぶしい。レモンイエローとホワイトピンクの壁紙が何とも落ち着かない。
「お帰りなさい。ご主人様。こちらのお席にどうぞ。」
外の恵より、さらに着飾った少女が出迎えてくれた。
「すみません。恵に言われて、上がってきたました。」
「ドキドキ星のお姉さまのお知り合いの方ですね?お飲み物は、いかがいたしましょう?」
「明日香、なに頼む?」
「私、オレンジジュース。」
「すみません。オレンジジュースとアイスコーヒー。」
「かしこまりました。トロピカル星のキラキラオレンジのミラクルジュースと、グーリット星の魔法の黒い飲み物ですね。」
なんか、違うような気がするけど、良いか。
「それでお願いします。」
しばらくして、恵がオレンジジュースとアイスコーヒーを持ってきた。
「おいしくなる魔法は、お掛けしますか?」
「いらない。」と僕も明日香もそっけなく答えた。
「しょうがないな。」とそのまま、テーブルに腰掛ける恵に明日香は、何この人という感じで僕を睨んできた。
「ぼくと同じクラスの恵正也です。」
「えっ、えっ、えっ?男の子?」
「そうだよ。かわいいでしょ?」自分で言うなよと思ったけど、かなりかわいいのは認める。今は、声も普段通りなのでちょっとした違和感があるけどそれもいいかな。
「こちらは、僕の彼女の明日香です。」
「初めまして。海人の彼女って僕が嫉妬するくらいきれいだよね。さっきは、ごめんね。ちょっといたずらしたくなった。」
きれいと言われて、機嫌がよくなったのか、明日香が
「本当に男性なんですか?かわいい!」
「普段は、男装のコスプレしてるんだけど、今日は、女の子が少ないからって、無理やり店長に女装させられた。」
「海人、でもここでバイトしていることは、学校には内緒にしてね。」
「えっ、どうして。うちの学校バイト禁止じゃなかったと思うけど。」
「そうじゃなくて、国語の下北先生うちの常連なんだよね。まだ、気づかれてないんだけど、生徒がいるとなると来づらいでしょ!」
「で、海人もやっとこの世界に目覚めた?」
「いや、今日は明日香がコスプレしたいって。それで案内がてらついてきた。」
「そうなんだ、残念。海人なら、僕以上にきれいになれると、いつも思って見てるのに。」
そうなんだ。僕に学年順位を抜かれたのに、好意的に近づいてきたのは、僕を同類判定したってこと?
「ねえ、明日香さんそう思いません。明日香さんも男装似合いそうだし。色々試してみたら。」
「わかったから、正也、この辺にお勧めのコスプレショップ無い?」
「いいよ、そんなの。ここで、色々衣装貸してあげるし、化粧は僕がしてあげるよ。明日香さんも最高にきれいにしてあげる。」
「写真は、店長に頼むから大丈夫だよ。写真は、撮りなれてるから。」
そう言って、壁に展示してあるメイドさんの写真を指差した。
「背景もちゃんと選べるから。」
「そうなんだ。じゃ、お願いします。」
助かった。コスプレなんて、本当はどうしようかと思っていたところだった。
「明日香さん、ココナッツ星の姫に着替は手伝ってもらうからいいですか?心配しなくても女性だから」
「すみません。よろしくお願いします。」
「じゃちょっと待っててね。準備してくる。」
そう言って、恵は、スタッフルームに消えていった。
「なんか、すごいね。やっぱ、聖域ね。」
「僕も、恵が、こんなところに居るなって知らなかった。学校では、おとなしくて、成績もトップクラス、学年3位なんだよ。僕も学校では、2~3回ぐらいしかしゃべったことない。」
「なんか、素敵ね。自分のやりたいことをやってる!って感じで。」
「そうだね。」
しばらくして、恵がきれいなキラキラした衣装の女性を連れて戻ってきた。
「こちらが、ココナッツ星の姫です。」
「こんにちは。アイシャです。明日香さんこちらにどうぞ。リリスのコスプレですね。ウイッグも近いものを準備してあるわよ。」
「海人は、どうする?」
「ぼくは、いいよ。」
「はい、お任せいただきました。明日香さん、海人は、どうします。リリスの相方のヤリスでいいですか?」
「じゃ、それでお願いします。」
「ダメだよ、明日香、せめて男装にしてよ。」
「恵、僕を変な世界に連れて行かないでよ。」
「大丈夫、慣れると楽しいから。」
そのまま僕は、恵につれられて別の部屋に入っていった。
着替え室には、先客がいた。
「こんにちは。」「こんにちは。」そこには、きりっとした顔立ちで、スラッとした人が立っていた。
「店長の博美さん。男装すると女の子が群がるんだよね。店長目当てでうちのお店に入る子もいるぐらいなんだ。」
「恵、褒めてもバイト代は上がらないよ。」
「こちらが、海人君ね。どっちでもよさそうね。」
どっちもって何?
「今日は、男装だって言ってるんですよね。」
「最初は、みんなそうよね。最初から、女装はあなたぐらいよ。」
「後で、写真撮らせてね。」
「よろしくお願いします。」
「じゃ、海人、今日は、無難にタキシードできめますか。リリス付きの執事のヤマトでいくね。」
それから、ぼくは、衣装を合わせて化粧して、たっぷり1時間ぐらいかかったかもしれない。
「はい、完成。鏡見る?」
「うん。」そこには、今まで見たこともない自分が写っていた。自分が見ても好きになりそうな…、いやいかんそんなことを考えたら、この世界に入り込んでしまう。
恵と一緒に店内に戻ってしばらくして、アイシャ姫と明日香いや、リリスが、ピンクのふわふわのドレスで、立っていた。
思わず、僕は彼女の前にひざまずいて
「リリス姫、ご機嫌麗しく、お手をどうぞ。」と言っていた。
リリス姫と手をつないだところで店長が、
「じゃ、みんなで写真撮るから外に出て。」
僕たちは、店長に連れられてお店の入り口を背に、歩道に5人並んで立った。
一瞬にして、5人の周りには、人だかりが出来た。
みんな、スマホで写真を取り出した。気が付くとリリスがポウジングをしていた。
ぼうっとしている僕を、恵が、ホローしてくれた。
しばらくして、店長が目線でお店に戻るように指示したので、僕は、リリス姫の手を引っ張ってお店の中に戻っていった。
そのまま、僕たちを取り囲んでいた人たちも、一緒にお店の中についてきた。
あっと云う間にいっぱいになった店内で、僕も明日香も注文を取るのに大忙しだった。
お店の外まで、行列ができていて、僕たちの写真どころではなくなってしまった。
やっとお客さんがひと段落したところで僕は、明日香をつかまえてお店の時計を指差した。
もうお父さんとお母さんの待ち合わせの時間を10分以上過ぎていた。
「恵、ごめんもう行かなきゃ。」
「ありがとうございます。きょうは、ほんとに楽しかったです。」
「こちらこそ。こんなにお客さんが来たのは、リリス姫のおかげです。写真撮れなくてごめんね。また今度来た時に撮るね。衣装は、そのまま着替えたところに、置いといてくれればいいから。」
「わかった。」
そう言って、僕と明日香はスタッフルームに着替えに行った。
「ねぇ、海人、着替える前に写真撮らない?」
「良いよ、撮ろう。」
そう言って二人は、肩を組んで頬を寄せ、これ以上無いって位の笑顔で自撮りした。
どうか、この幸せな日々が続きますように。




