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ローカル  作者: 不機猫
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転校

 翌年の4月から僕は、東京の祖父の家からK大の付属高校に編入した。

その高校に通いながら、大学の図書館で医学の勉強も始めた。

地元の図書館で医学系の本を探したけどほとんど専門書が置いてなくて、それに近くに本屋さんも無い。さらに、医学の専門書は、僕のお小遣いでは到底買えなかった。

それも、僕が編入を急いだ理由だった。

とにかく、ぼくには、時間がなかった。

予想通り、医学部がある大学なので、僕が調べたいと思う書物がいっぱいあった。

図書館では、医学生もいっぱいいたのでわからないことが有れば、彼らに色々聞くことができた。

それに、蔵書の中には、手書きで詳しく説明が書かれたものもあり、色々調べることができた。

 そんな中、僕は、いつも同じテーブル、同じ時間に、いろんな医学書を開いて勉強している僕と同じ高校の制服を着ている女子高校生に出会った。

見た目は、僕より年上に見えた。

「こんにちは。」

彼女は、僕の方をちらっと見ただけで、再び医学書を読み始めた。

仕方ないので、僕は、同じ机の反対側に細胞学の本を開いて勉強を始めた。

僕の病気は、細胞の中のミトコンドリアに関係していると思っている。

病院の先生も確かそんなことを行っていたと思った。

そのため他の人より、代謝機能が徐々に下がってくるので、臓器に異変が有れば、それぞれの異変に合わせた薬を現状は、出すしかないとのことだった。

 原因は、偶然が重なった遺伝子の異常かもしれないけど、それでも、今は成長ホルモンと規則正しい生活の関係で普通に過ごせていた、という見立て。

 だから、中学からピークの高校1年までの約4年間の倍の8年間が、普通に活動できる期間で、それから徐々に体力が落ちる。

完全に治せなくても現状維持を長く続けられるようにすれば、自然と寿命は延びる。

 だから、あと4年、最長でも後6年以内に何らかの薬を作る必要が有った。

 そのために、母は製薬会社を買収した。

今までも忙しかったが、さらに忙しくなった。

 製薬会社は、母が入ったことで業績がさらに上がり、今までにない売り上げをあげていた。

そして、今までの会社は、祖父が復活して頑張っている。ボスもいるので問題ないということだった。

 僕は、今は細胞学を勉強しているが、そろそろ薬学と細菌の勉強も始めようと思っている。

細菌の変異の法則に興味があり、代謝機能を上げるために乳酸菌の様な菌の変異種を作り、それを腸内に繁殖させることで人間の細胞の代謝機能を上げれないかと思っている。

その薬が完成すれば、たぶん60歳ぐらいまでは生きられる計算になる。

それに、僕と同じような体質の人も助けることができる。

そして、明日香ともすこしでも一緒に過ごせる。

そのために、この2年は我慢するしかない。

 ふと目を上げると、さっきの女子高生が、僕が書庫からもってきて、机の上に置いている専門書をじっと見ていた。

そして、目があった。

彼女は、突然両手を突き出していろいろな動きをぼくに見せた。

僕が首をかしげると、彼女は机の上のノートに何かを書き出した。

そして、そのノートのページをぼくに見せた。

『すみません。わたしは、耳が聞こえません。あなたが、持っている専門書を見たいのですがお借りできますか?』と書いてあった。

そうなんだ。だから、彼女はさっき、僕が声を掛けても、知らんぷりだったんだ。

そして、今のが手話なのか?

 今度は、僕がノートに『良いですよ。どうぞ。』と書いて、彼女の所にその本を持っていってあげた。『借りているわけではないので、帰りに受付に返却してね。』とノートに書いて見せた。

本は、ミトコンドリア病に関しての記述がある専門書だった。

彼女は、右手を手刀のようにして眉間の前に持っていった。たぶん、ありがとうの意味なんだと僕は思った。

 僕は、また、自分の席に戻って、今開いてる本を再び読みだした。

6時30分。

ぼくは、帰り支度を始めた。この時間になると、ボスが学校の前まで迎えに来てくれる。

『仕事大丈夫?』と聞くけどボスは、笑ってごまかすだけだった。

テーブルの向かいに座っていた彼女は、知らないうちに帰ったみたいだった。

 椅子の傾き、テーブルの消しゴムかす、そんなものになんとなく今までそこにいた彼女の存在を残しているような気がした。

 そして、ぼくも図書館を後にした。

大学の図書館だけあって、この時間でも学生がいっぱいだった。

この活気が僕を強くする。

彼らには、負けられない、負けたくないと思った。


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