先生と砂浜
翌日から、一週間は、何事もなく過ぎた。
特に明日香は、いつにもまして鬼気迫る気迫の様なオーラを出して、テストに向かっていた。
最終日の金曜日、すべての教科が終わった。
とりあえず、テストの結果が出るまで、好きなサーフィンでもするかな。
明日香と卓也は、テストが終わった途端に、部活が始まった。
すごいな。好きでないとできないよな。
そう思いながら、僕は寂しく帰宅した。
そう言えば、僕もクラブ入ってたよな?部長、何て名前だったっけ?まあ、いいか?
電車に乗っていると海が見えてきた。今日は、静かだな。
ごみ拾いにでも行くかな。
家に帰って、ごみ袋をもって砂浜に行った。
あのバトル以来、しばらく来てなかったからちょっと新鮮。
ごみと言うより、台風のおかげで流木とか貝殻とかがいっぱいあった。
とりあえず、人工物を拾い集めることにした。
そして、流木に座って、夕日を見ていた。
それから、海と風と砂浜に挨拶して帰ることにした。
「晩ご飯作るの手伝わなきゃ。」そう独り言を言って、僕は立ち上がった。
サーフィンは、明日の朝から再開するかな?
何事もなく一週間が過ぎた。今日は、学年ごとの順位が廊下の掲示板に貼られる日だ。
コンプライアンスも何も有ったものじゃない。
一番は、やっぱり明日香だった。本気の明日香には、やっぱり敵わない。
次は、卓也。すごい。
そして、僕は、大きく順位を落として5位だった。まあ、こんなもんでしょ。
「卓也、おめでとう。僕より明日香に近づいたね。次の目標は、打倒明日香、学年1位だね。」
「うん。ありがとう。でも、明日香さんは、僕の女神だよ。テスト前に、あんなに長くそばに居れて、それで、勉強に集中できたから。女神を抜こうなんて、とんでもないよ。海人にも感謝してる。」
明日香と結婚したら、たぶん尻に敷かれるな。
でも、それでも目いっぱい幸せなんだろな。わかる気がする。
翌日の土曜日、僕は、朝からずーっとサーフィンをしていた。
波は、膝/腰程度でそんなに高くなかったから、倉庫からおじいちゃんが使っていたという年代物のロングボードを持ちだして波乗りをしていた。
「やあ、久しぶり。今日は、ロングボードなんだ。」
「うん。これも結構おもしろいね。」
長いボードに腹這いになり、波に合わせてパドリングそして、ゆっくり立ち上がって、酔拳のように、前に中腰で進み、ボードの先端でバランスを取る。
そしてまた、戻る。サーカスの綱渡りのように。
今度、赤い傘を持って、乗ってみようかな?
すべての時間が、海の上をのんびりとながれていくみたい。
お昼に一旦、ご飯を食べに家に戻って一休みして再び沖に出たけど、波がなかったのでボードに座って、ぷかぷか浮いていた。
人の気配を感じて、砂浜を見ると、どこかで見たことがあるような姿の女性が、海を見て立っていた。
僕は、ゆっくりとパドリングをしてその女性のところへ行くことにした。
僕が、近づくと彼女は下を向いて目を合わせないようにした。
「こんにちは。田中先生。」
ぼくが、声を掛けると彼女は、一瞬驚いた顔をしたけど、僕だとわかるとすごい笑顔になった。
「今日は、家庭訪問ですか?僕、何か悪いことしました?」
「もしかして、僕に会いに来てくれたとか?」
「ばか。そんなんじゃないわよ。」
その時、防波堤の階段を眼鏡をかけて、スーツを着たいかにも海に不釣り合いな男性が、「こいつ、誰やねん?」と言いたそうに僕の方をじろじろ見ながらやってきた。
「ほんと、この海何もないですね。自動販売機すらないなんて。」
吐き捨てるように言った。
その言葉を聞いて、僕は、
「きれいな海、きれいな砂浜、そして、サーフィンをするイケメン高校生に、美人教師。
他に、何が必要なんですか?」
と言ってしまった。田中先生がいるとつい調子に乗ってしまう。
クスと笑う田中先生。
僕と田中先生が親しげなのを見て、その海に不釣り合いな男性が、
「こいつ、誰なんですか?」
「あつ、すみません。うちの生徒の山田くんです。」
「先生、嫌だな。海人って言ってください。」
それを聞いて、その紳士?は、
「こんなところで昼間から、サーフィンやってるなんて。どうせ落ちこぼれなんでしょ?」
「すみません。こう見えても、学年2位いや5位ですけど。」
「先生のところは、進学校とは聞いてたけど、たいしたことなさそうですね。」
そう言うと、急に田中先生が怒りだして、
「うちの生徒を、そしてうちの学校を悪く言わないでください。今日は、もうこれでお別れしましょう。」
その言葉を聞いて、その紳士?は、ぶつぶつ言いながら帰っていった。
「いいんですか?先生。」
「いいのよ。ただのお見合いだから。」
「えっ、ごめんなさい。でも、後5年ぐらい待っててくれれば、僕がもらってあげますよ。」
「ばか、私は犬じゃないのよ。もらってあげますとか?ほんとに、大人をからかうのはよくないよ。」
「すみません。話変わりますけど、のど乾いてません。ジュース飲みます?」
「のどは、乾いてるけど、何もないって、お見合い相手の人が言ってたけど。」
「あっ、先生さっきの人の名前もおぼえてないいんですか?もしかして、僕を使ってうまく断ったんですか?」
一瞬舌を出す彼女。
「ごめんね。なぜか合わなくて。車も下りたくなって、丁度海が見えてきたから、喉が渇いたって、それに海も見たいって言ったのよ。」
「そうなんですか。こんな僕で良ければ、いつでも使ってください。」
「じゃ、ジュース飲みに行きますよ。僕についてきてください。」
そう言って、僕は、ロングボードを頭の上に載せて、先生と並んで歩いた。
防波堤を上がって、
「ここが、僕の家です。」
玄関に入るとおばあちゃんが居たので、ロングボードを頭に乗せながら
「おばあちゃん、こちらは僕の担任の田中先生。きょうは、成績の悪い生徒の家庭訪問です。」
そう言って、ぼくは、頭の上のボードを下して、田中先生の相手をおばちゃんに任せて台所にジュースを取りにいった。
「先生、オレンジジュースでいい?」
そう言って、僕は、氷の入ったオレンジジュースを先生に、氷の入ってない方を祖母に渡した。僕は、1リットル入のペットボトルの麦茶をがぶがぶ飲んだ。
田中先生は、祖母に、『ぼくは、学校では、クラスのムードメーカーで勉強もできるけど、自分の学科だけは成績が良くないので、もう少し頑張ってほしい』ようなことを言っていた。
小1時間ほどいて、
「じゃ、これで失礼します。」と田中先生が言ったので、
「おばあちゃん、先生を駅まで送ってくる。」と言って、2人で駅に向かった。
「すみません。先生、色々引き留めて。」
「良いわよ。気にしてないから。」
「でも、いいところね。空気も美味しいし、海も綺麗だし。わたしも、何かマリーンスポーツしようかな?」
「先生もサーフィンしませんか?」
「教えますよ。」
「考えとくわ。で、今日のお見合いの話は、学校では内緒よ。」
「了解です。」
しばらくして駅に着いた。
そして、偶然、部活帰りの明日香と会った。
「明日香さん。今、部活の帰りなの?」と田中先生が驚いた顔の明日香に、声を掛けた。
「はい。」とだけ、そっけない。
「田中先生こそ、どうしてこんなところにいるんですか?」
「今日はね、成績の悪い生徒の家庭訪問。」
成績が、悪いって僕の事ですか?確かにさっきそう言ったけど。
「うそでしょ!だって、海人優秀だもん。期末前までは、学年2位でしょ。ほんとは、私より勉強できるのに、私を抜くとまた、負けじと頑張るのを知ってて、わざと手を抜いてるのよ。」
「知ってるわ。彼が、優秀なこと。そして、うちのクラスのみんなも。それをさっき、お見合い相手に馬鹿にされて、別れたところよ。」
「先生、そんなこと言っていいんですか?」
「ああ、すっきりした。」
「海でサーフィンしてたら、かわいい人が砂浜でさびしそうに海を見ていたから、ナンパしようとしたら、先生だった。そしたら、後ろからお見合い相手のおじさんが来て。」
「馬鹿。あなたが、先生のお見合い壊したの?」
「違うわよ。お見合い相手とは、その前からね。そして、ナンパじゃなくて、サーフィンしませんか?って誘われただけよ。」
「先生、それがナンパって言うんですよ。」
「海人には、注意してくださいよ。この間のサーフィンのバトルで勝ってから、調子に乗りすぎ。」
「はい。反省します。」
「先生。もうすぐ電車来ますよ。」
「明日香、待ってて。先生送ったら明日香も送っていくから。」
しばらくして、電車が入ってきたので、僕は、丁寧にお辞儀して、
「先生、さよなら。」って手を振った。
先生は、今日有った嫌なことを忘れるように笑ってくれた。
「明日香、お待たせ。送っていく。」
「姫、荷物持ちます。」
無言で、差し出すバッグ。
「ありがとう。」
しばらく、2人無言で歩いていた。
「私には、サーフィン誘ってくれないのね?」
「えっ、誘っていいの?怖くない?」
「大丈夫よ。だって、海人が、何があっても助けてくれるもの。」
「それに、私がサーフィンできると、海人に何かあった時に助けられるでしょ。」
「わかった。」
それから、僕は、明日香の手を握って一緒に歩いた。
運よく、誰にも会わずに明日香の家にたどり着けた。
「じゃあね。また、連絡する。」
そう言って、明日香と別れた。
家に帰ると、祖母が
「遅かったね。」と言った。
「駅で、明日香に会ったから、そのまま送っていった。」
「そうかい。それは、よかったね。」
僕は、玄関に置いたままのボードを、水で洗って、サーフボードラックに立てかけた。
2階の僕の部屋から見える夕日が、その日はとても綺麗だった。
後編で出てくる父親と田中先生と明日香の3角関係?のターンです。




