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株式会社光と闇のはざまの少しのぬくもりと叫び

前回までのあらすじ

Aは、Bが退職しCを連れて行った日の記憶をぼんやりと思い出しながら、プロポーザルが失敗した後の3ヶ月間を過ごしていた。Bの退職はAにとって大きなショックで、会社を一人で支える状況に追い込まれたが、それでも強引な営業でなんとか現金を確保し、会社を回していた。ある日、AはBが立ち上げた新しい会社がプロポーザルを勝ち取ったことを知り、大きなショックを受ける。その結果、Aは廃業届を提出する決断をする。

会社を廃業してから1ヶ月が経った。


Bの裏切りに対する思いはAの思考に点々とシミを作っていた。仕事のことを考えるたびに、脳内で精巧に構築されたBが自分に説教をしてきた。そして、だからAさんは逃げられるんですよと律儀にトドメを刺してから消えていく。圧倒的な消化不良だった。ただ、何かをやり返すほどの力はAにはなかった。ただ、ひたすらに忘れたかった。


そんなこんなでAは転職活動に挑戦していた。予想を超える苦戦だ。40社を受験して、今のところ内定をもらえる会社は一切なかった。まず書類が通らない。30を超えた、スーツを着こなせていない汚い中年事業主。怪しい。そんな出で立ちなものだから、書類はことごとく落ちていた。


ある日、ハローワークで相談をしていた。結構な頻度で通い詰めていたので、キャリアアドバイザーの若い女性(少しかわいい)とは仲良くなっていた。


「なんかもう、疲れてきたんすよね。そもそも書類が全然通らなくて」


「そ、そうですよね。今はどこも不景気で」


Aの中では焦燥感とダウナーな気分が毒々しく混ざっていた。


「なんか、逆にもう、一番やばい会社ってないですかね。もうそういうところでいいんじゃないかと」


「えっ」


アドバイザーは、その提案に一瞬戸惑った。ブラック企業なんて、真っ先に避けたい存在のはずだ。しかし、Aは違った。このまま不採用続きの退屈な日々を送るよりも、刺激的な毎日を送りたいという気持ちが、彼の心を揺さぶっていた。それに、何となく自虐的な行動をとってみたいとも思っていた。


「そんな探しかた、したことないんですが……」


「でもあるでしょ。ハローワークなんだし」


「ええ……それってどういう意味なんですか」


「まあまあ、とりあえず探してみてくださいよ」


アドバイザーはうーんと言いながらファイルをめくりだす。


「どんな会社なんです?」


Aは、思わず尋ねてしまう。


「詳しいことは言えないんですが、社長がちょっと……いや、すごく変わってるらしいんですよ。占い師とかやってるみたいで」


「占いですか」


「ええ、基本的に面接で求職者側が辞退してしまうんですよね」


「圧迫面接かなにかなんですかね」


「それがわからないんです。後で感想を聞いても支離滅裂で、泣き出してしまう方もいて」

よほどのブラック企業じゃないか。キャリアアドバイザーの言葉に、Aは興味津々になった。そもそも占い師が経営するブラック企業なんて、聞いたことがない。


「面白そうだな。一度会ってみたいです」


「わかりました、書類を出してきます。会社名は……”株式会社光と闇のはざまの少しのぬくもりと叫び”だそうです」


「強烈ですね」


Aは、その会社の面接を受けることを決意した。もうどうでもいいや、行くところまで行っちゃおう。ハッピーハッピーハッピー。

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