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最後とか言うなし~

Aはショコラから過去に戻る選択肢を提示されるが、今の生活を捨てる覚悟が必要だと言われる。Aにとって、今の職場での8ヶ月は数年分の重みがあり、会社の経営を改善するために努力を続けてきた。だが、過去に未練を感じ、BとCに対してやり残したことがあることも気にかかっていた。昇進が決まり、同僚たちが祝ってくれる中、Aはこの幸せな日常を捨てるべきか悩む。ショコラはAに対し、残って一緒に頑張ってほしいと伝えるが、Aは決断できずにいた。

「そ、それって、会社を辞めるってことですか」


佐竹が動揺を隠せずに問いかけた。部屋に一瞬の静寂が訪れる。ショコラとの約束の3日目、Aはついに決断を下した。過去に戻り、BとCのもとへ戻ることを選んだのだ。しかし、突然姿を消すのは無責任だと感じたAは、チームに集まってもらい、自らの決断を説明することにした。


「ごめん。どうしても遠くに行かなければならなくなったんだ」


「意味がわかんないよ~。どうして~」


新崎が駄々をこねるように声を上げる。当然、Aは「タイムリープで過去に戻るから」と素直に打ち明けることはしない。ショコラが特別に自分に能力を授けてくれたのだから、他の人々にはそれを知らせるわけにはいかない。


「本当にごめん。でも……どうしても行かなきゃならないんだ」


「私たちよりもそっちが大事なの? どこの女?」


「いや、女じゃなくて……いや、女性もいるけど、そういう意味じゃなくて……」


「最低! Aのバカ! 浮気男!」


新崎は目に涙を浮かべ、地団駄を踏む。その姿にAは困惑しつつも、説明を続けるべきだと感じた。だがその時、高山が口を開いた。


「いや、そういうことじゃないだろ。A、もし俺と一緒に仕事をするのが嫌だったなら、正直に言ってくれ。俺もお前には……いろいろと酷いことをしてきたからな」


高山は自分を責めるようにうつむいている。Aは首を横に振り、高山にも、新崎にも、チーム全員に向かって説明を始めた。


「そういうことじゃないんです。高山さんや新崎が悪いわけじゃなくて、実は……BとCのことが心に引っかかってて。以前、あの二人にひどい仕打ちをしてしまったまま別れたんです。そのことがずっと気になっていて。でも、ようやく彼らに会える最後のチャンスが巡ってきたんです」


タイムリープの事実は伏せながらも、Aは自分の決断の背景にある感情を伝えた。


「そうか……」


高山は納得した様子でうなずいた。


「だから、みんなのことを軽視していたり、嫌いになったわけじゃないんです」


「ふ~ん」


新崎はまだふくれている。しかし、Aの言葉に耳を傾けているのは確かだった。高山は静かに言った。


「なら、仕方ないな。俺は納得したよ。前にその話をちょっと聞いたことがあるし、Aの原動力がどこにあるかも知ってるからな」


その言葉に、佐竹もようやく口を開く。


「自分も……納得です」


彼の賛同を得たことで、場の空気が少し和らいだ。高山が続ける。


「ほら、新崎も。応援してやろうよ」


「や~だ~。Aなんか知らない~」


「ごめん、みんな。ひとまず最後の仕事をしたい。自分のタスクの引き継ぎだ。それぞれ時間をもらえるかな。自分しかできない仕事についてはマニュアルも用意してある」


「最後とか言うなし~」


新崎はまだまだふくれている。が、Aの提案に誰も反対しなかった。こうしてAの最後の一日が始まった。


その日は長かった。各メンバーを順番に会議室に呼び、1時間から2時間かけて業務の引き継ぎを行った。説明の合間に思い出話がつい長引き、仕事が思うように進まない瞬間もあったが、引き継ぎってそういうものだ。


気がつけば、時計の針は21時を指していた。きれいに片付けられたデスクを見つめ、Aは深い感慨に浸った。これで本当に終わりだ。


高山は、ミーティングの合間にコーヒーを差し入れてくれ、「また会えたらいいな」と、力強い握手を交わしてくれた。佐竹は少しどもりながらも「Aさんみたいになります」と決意を新たにしてくれた。新崎はあまり目を合わせようとしなかったが、Aのデスクをピカピカに磨いてくれていたのは彼女だった。自分のデスクは相変わらず散らかったままだったが、ギャルだってやればできるのだとAは微笑んだ。


すべての業務を終え、みんなにお別れを告げたAは、静かにショコラの部屋へと向かった。


ショコラの部屋は、いつもと変わらず静寂に包まれていた。彼女はAが入ってきたことに気づくと、振り返り、微笑んだ。


「決めましたか?」


「はい、戻ります。BとCにもう一度会いに行きます」


ショコラはうなずき、Aに向かってゆっくりと手を差し出した。その手には、小さな時計が握られている。


「この時計を使ってください。時間はもう少ないですから」


Aはショコラの手から時計を受け取り、深く息を吸い込んだ。もう迷いはない。過去に戻る。それが自分にとっての最善の選択なのだ。


「ありがとう、ショコラ社長。社長には本当に感謝しています」


ショコラはただ微笑みながら、Aを見つめていた。その視線の中には、どこか哀しげな光が宿っていたが、Aは気づかなかった。


そして、Aは過去へと戻る準備を整え、ショコラに別れを告げた。時計の針が静かに動き出し、Aの手の傷から白いもやが漂う。視界は次第にぼやけていった。最後に聞こえたのは、ショコラのかすかな声だった。


「また会いましょう、A」

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