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お前は郷田に改名すべきだな

前回のあらすじ

Aは早朝に会社へ向かい、中村の行動を監視していた。中村がゴミを漁り、社内情報を不正に収集していることを目撃し、その証拠をスマホで撮影する。中村は善良な人物を装いながら、姑息な手段を使うのだとAは確信するが、どう対処すべきか悩む。Aはショコラの透視能力を頼り、助言を求める。ショコラは言葉を使わず、静かな動作でAに次の行動を示し、Aは彼女のアドバイスに従う決意を固める。

「は??中村さん、マジ最っ低!!」


新崎は顔を真っ赤にして叫んだ。店内の他の客たちが一瞬、彼女の方に視線を送るも、すぐにまた各々の会話や食事に戻る。その声量に驚かされながらも、Aは苦笑しつつ彼女の言葉を聞き続ける。ここは博田駅の8階、レストランフロア「くうそら」にあるパフェ専門店。今まさに、新崎とのワン・オン・ワン・ミーティングが行われていた。


「ほんと、中村ってヤバい人だったんだな。まさかゴミ漁ってるなんて…しかも、そんな汚いことしてるって、私もう信じられない!」新崎は憤慨した様子でさらに言葉を続けた。


Aは、ショコラのアドバイスに従って、このミーティングをセッティングしていた。ゴミ漁りをする中村を目撃した事実を、同僚たち一人ひとりに伝えるためだ。ショコラは、複数人の前で告発するのではなく、個別に話すことで、相手それぞれの受け止め方に応じて対処するよう進めていた。


新崎は、その中でも特に感情的に反応するだろうと予測していた。彼女はどちらかといえば、自分自身のプライバシーや生活にかかわる部分に敏感で、正義感や会社の倫理よりも、自己防衛が先に立つタイプだった。


「私、たまに爪切ってるとき、いらない紙で切った爪をまとめて捨ててるんだよ。それを漁られるとか、考えるだけで気持ち悪い! マジ最低~」


いや、会社で爪を切るな。それも、顧客情報が載った紙で……。新崎の発言を聞きながら、Aは心の中でつぶやいた。だが、それを指摘しても議論が本筋から逸れるだけだ。ここは彼女にとって、プライバシーを侵害されたという感覚が中村への反感につながっていることが重要だと思う。


「確かに、気持ち悪いよな。自分が捨てたものを漁られるのは、誰だって嫌だと思う」


Aは新崎にカップ麺でも作れるようなインスタントな共感を示しつつ、話を続けた。


「中村のやってることは、ただのゴミ漁りじゃなくて、情報収集なんだよ。メモ用紙やゴミに書かれた内容を拾い集めて、何かに利用してるみたいなんだ」


「はぁ? そんなのスパイじゃん。何それ、マジで? ヤバすぎでしょ…」


新崎の反応は予想通りだった。彼女にとって、この出来事は中村に対する嫌悪感をさらに増幅させるきっかけになっていた。Aは内心、うまくいったことに安堵した。これで、新崎を中村から引き離すことができた。


次にAが会ったのは、佐竹だった。佐竹は几帳面さとは無縁の人間で、常に何かに気を取られているような性格だが、Aには過去に助けられたことがある。そのため、Aの言うことには耳を傾けてくれるだろうという期待があった。


「佐竹、ちょっと話があるんだけど…」Aが切り出すと、佐竹はAの話を最後まで真剣に聞いていた。そして、スマホに映し出された中村のゴミ漁りの映像を見た後、しばらく沈黙が続いた。


「なるほど…中村がそんなことしてたとは。うーん、正直言うと、驚きました。でも、Aさんがそう言うなら、僕はあなたを信じます。」


佐竹はそう言って微笑んだ。


次は桃山だ。彼女は寡黙で、感情をあまり表に出さないタイプだが、冷静に物事を見極める力がある。Aが同じように動画を見せ、事の経緯を説明すると、桃山は一瞬だけ眉をひそめた。


「わかりました」


その言葉は短く、毛虫やら芋虫やらを横目で見るようにして即答。桃山はこんなふうに怒るんだなとAは少し怖くなった。


そして、最後にAが会ったのは、高山だった。彼はパワハラ気質のマネージャーで、Aに対してもこれまで何度も暴力的な態度を取ってきた。高山が指定してきた焼肉屋でランチをしながら、Aは中村のゴミ漁りの動画を見せた。


高山は最初、驚きの表情を見せたものの、次第にその顔が険しくなった。そして、Aを鋭く睨みながら問いかけた。


「なぜこれを俺に見せに来たんだ?」


Aは慎重に言葉を選びながら答えた。間違っても逮捕なんて言わずに、


「高山さんが、この問題を処理すべき立場だからです。もしこれを放っておけば、高山さんと会社全体に大きな影響が出ると思います」


「俺を、マネージャーとして立てるってことか」


「は、はい……」


高山は一瞬、Aの言葉に反応しなかった。彼の表情は読みにくく、心の中で何を考えているのかはわからなかった。しかし次の瞬間、高山の目に涙が浮かんだ。


彼は泣き出したのだ。


「俺のために…俺はさんざんお前のことをボコボコにしてきたっていうのにか……?」


「まあ、そうです。」


「なぜなんだ」


「実はですね、俺は一度この先の展開を夢に見たんです。その時、高山さんはもちろん会社も崩壊の一歩手前になりました。それってシンプルに嫌なんですよ」


「あんなに嫌なことをしたのにか」


「そうですね。正直、殴られるのは痛かったです。でも…俺は以前……」


Aは口をつぐむ。一瞬、周囲から音が消えた気がした。


「……ほら、俺って以前会社をやっていたじゃないですか。その時周りの人をこき使いまくったせいで見捨てられちゃいまして。だから、拾ってくれた会社では少しでも違うやり方をしようと思っているんです。あるべき姿になりたくて」


高山はさらに大きな声で泣きじゃくった。「うおおお! お前…心の友よ!」


涙で顔をぐしゃぐしゃにした高山は、自分の涙で溺死しそうになりながら、焼けた肉をAの皿にざぶとんみたいに盛り付けていった。お前すげえよ。高山は言いながら山のような肉を勧めてきた。まるで感謝の気持ちを焼肉で表現しようとしているかのようだった。Aはただ黙ってそれを受け入れた。


その後、Aは会社に戻り、高山の変化を感じることになる。彼の暴力的な態度は一変し、まるで別人のように穏やかになっていた。そして、社内での彼の行動も、以前とはまるで違っていた。


「お前は郷田に改名すべきだな。本当に強くて優しい男になれるぞ」と、初めて見る高山の笑顔を見ながらAは思ったのだった。


さて、この翌日に某喫茶店で中山主催のミーティングが行われるのだが、これはなかなかに見ものだった。


中村の煽りに対して誰も乗らず、奴は皺を一層深くして狼狽。女性陣からは変態、と一蹴される始末で、会議はたった5分で終了という具合だ。A自身はおかしくて見ていられなかったのだが、一切のセールストークも読心術も効果を発揮しない中村の顔色はブラックコーヒーよりも苦々しかった。


さらに翌日には高山から理性的に不正行為を指摘され、中村は契約の解除を言い渡された。いつもの迫るような切れ味のトークスキルも冷静になった高山には一切役に立たず、哀れな老人は泡を吹きながら出ていくしかなかった。

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