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あいつはな、なんだかヤバい

中村は毎朝一番に出社し、オフィスの掃除や整頓を自主的に行い、職場全体に良い影響を与えていた。たまに私用電話をかけることもあったが、Aはその誠実な働きぶりを評価し、目をつぶっていた。ある日、中村は面談への同席を希望し、Aはその意欲を喜んで了承。面談では中村は控えめながらも的確な発言をし、顧客に好印象を与えた。Aは中村の存在が面談を円滑に進め、会社にとって重要な存在であると確信し、ますます信頼を深めた。

Aと中村、新崎、佐竹の4人は、オフィスで昼食をとっていた。ブラック企業にいる彼らには、外でおしゃれにランチを楽しむ余裕などない。デスクで横を向きながら、各々持参した弁当を広げる。新崎は早速、プラスチックのフォークでサラダをつつきながら、中村に軽い口調で尋ねた。


「中村さん、マジでなんでそんな謙虚なん?イケオジで、工場長までやってたんでしょ?普通、もっと威張るじゃん?」ギャルらしい甲高い声がフロアに響く。


佐竹もおずおずと口を開く。「そうですよね。僕も気になってました。前の職場では、きっと皆さんから尊敬されてたんじゃないですか?」


新崎はその言葉に乗っかる。「だよね~。普通、もっとドーンと構えてさ、『俺に任せろ』みたいな感じでしょ?」


中村は控えめに微笑みながら、静かに答えた。「いや、そんなことはないですよ。私は、ただ前の工場で学んだことを、ここでも活かしているだけです。工場長として、皆さんの力があってこそ仕事が回っていたんです。だから、私は皆さんを尊重する姿勢を大事にしています。」


その丁寧な言葉に、Aはふと感心した。中村が言っていることは当たり前のように聞こえるが、実践するのは決して簡単なことではない。工場長としての経験が、彼をより謙虚で献身的な人物に仕上げているのかもしれない。


「人はこうして完成されていくんだな……」Aは心の中でそう呟きながら、食事を続けた。


しかし、そんな平穏な昼下がりに、高山が近づいてきた。Aに声をかけるその表情は、いつも通りの険しいものだった。高山はこの会社のマネージャーで、パワハラ気質で知られている。部下を追い詰め、無理難題を押し付けるのが彼の日常業務だった。


「A、ちょっといいか?」高山は声を潜めながら言った。


Aは警戒しつつも、昼食の弁当を手にしたまま振り返った。「何ですか?」


「中村のことだがな……」高山はさらに声を落とす。「あいつ、ただの謙虚でおとなしい社員だと思うか?」


Aは面食らいながらも、まさか、と笑って返した。「いやいや、中村さんは誠実で、工場長もやってたくらいですから。何か問題でも?」


「問題なんてもんじゃない。あいつはな、なんだかヤバい。」高山の目は冷たく光っていた。


Aは一瞬、何を言っているのか理解できなかった。「ヤバい?中村さんが?冗談ですよね?」


高山は首を振り、真剣な表情を崩さない。「冗談じゃない。俺はあいつが裏で何をしているのか、ずっと目を光らせてたんだ。あいつ、本音で喋っていない。俺は長年マネージャーをやっているんだ。だからわかる。みんなを油断させてるんだ。」


Aはその言葉を聞いて、思わず声を上げた。「そんな、ありえないですよ。中村さんはそんなことするような人じゃない。彼は真面目で、いつもみんなのために動いてますよ。」


「お前も騙されてるんだよ。」高山は苛立ちを抑えたような声で言った。「あいつは一見誠実に見えるが、実は計算して動いてるんだ。俺はその証拠を掴もうとしてる。A、お前も気を付けた方がいいぞ。」


Aは返答に困った。


Aは中村の方に目をやった。彼は変わらず、落ち着いた様子で弁当を食べている。新崎が再び話しかけ、それに優しく答えているその姿は、どう見ても狂人には見えなかった。何より、高山の発言は抽象的過ぎる。


「まさかね」Aは自分に言い聞かせた。

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