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Aスクールが提案する地域密着型教育プログラムは、単なる学習塾ではありません。

前回までのあらすじ

Aはプロポーザルの不採用に納得できず、再考を求めて選考事務局に電話をかける。事務的な対応を受けるが、諦めずに熱意を伝え、結果的に再プレゼンの機会を得る。AはBとCと共に、この最後のチャンスに全力を尽くすことを決意し、地元企業との連携や独自教材の成果を強調したプレゼンを準備する。夜を徹して取り組んだ彼らは、疲れながらもやり遂げた達成感と共に、再挑戦に向けて希望を持つ。

プレゼンテーションの日。こういう日はやけに早起きができるような気がする。一応朝風呂に入って働き詰めの臭いを消しておく。


Aスクールの3人は緊張した面持ちで県庁に向かった。Aのスーツは少し古びていたが、きちんとアイロンがけされていた。BとCも精一杯のスマートな服装で、Cは資料を大切そうに抱えている。


「よし、行くぞ」 Aが声をかけると、BとCは頷いた。3人は深呼吸をして会議室のドアを開けた。


会議室には、厳しい表情の審査員たちが座っていた。


「よろしくお願いします」


中央には、前回電話で話した中年の男性がいる。彼は少し困ったような表情でAたちを見ていた。


「では、始めてください」 審査員長が言うと、Aは前に立った。


「本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます」 Aは感謝の言葉から始めた。そして、ゆっくりと、しかし熱意を込めて話し始めた。


「私たちAスクールが提案する地域密着型教育プログラムは、単なる学習塾ではありません。それは、地域全体で子どもたちを育てる、新しい教育の形なのです」


Aは、これまでの取り組みを一つ一つ丁寧に説明していった。地元企業との連携による職業体験プログラム、地域の歴史や文化を織り込んだオリジナル教材、経済的に恵まれない子どもたちのための無料学習支援など。


BとCも交代で説明を行い、具体的な成果や生徒たちの声を紹介した。


「このプログラムによって、子どもたちは単に勉強ができるようになるだけでなく、地域への愛着や誇りを持つようになります。そして、将来的にはこの地域の発展を担う人材となっていくのです」


Aの熱のこもった言葉に、審査員たちの表情が少しずつ和らいでいくのが分かった。


「私たちは、この事業を通じて、大福県の未来を築いていきたいと考えています。どうか、私たちに機会を与えてください」


Aが最後の言葉を述べると、会議室は静まり返った。


「ありがとうございました。結果については後日お知らせします」 審査員長がそう告げ、プレゼンテーションは終了した。


会議室を出た3人は、緊張から解放され、ほっとため息をついた。


「よくやったんじゃない、俺ら」 Aが二人の肩を叩いた。


「みんなで頑張りましたね」 Cが笑顔で答える。


「あとは結果を待つだけですね」 Bも安堵の表情を浮かべた。


それから1週間後、Aの携帯電話が鳴った。ディスプレイには県庁の番号が表示されている。Aは深呼吸をして電話に出た。


「はい、Aです」


「Aさん、教育委員会です。プロポーザルの結果をお知らせします」


Aは息を止めて聞いた。


「厳正な審査の結果、Aスクールの提案は不採用となりました」


Aは、思わず声を上げそうになるのを必死に抑えた。


「ありがとうございます、精一杯頑張ります……え、不採用……?」


準備していた答えが空振った。すぐにスピーカーフォンにしてBとCに聞かせる。


「はい。残念ながら不採用となりました。今後も機会がありましたら、ぜひよろしくお願いします」

電話は切れ、積まれかけていた5000万円は霧のように立ち消えた。眼の前にはただ荒れ果てたオフィスがあるだけだった。

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