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営業チームの売上を2倍にしろ。それだけだ

前回のあらすじ

Aは残業続きの疲れた日々を過ごし、会社の過去に思いを馳せる。高山の叱責や労働環境の厳しさに耐えながらも、ふとバニラが会社を良くしてほしいと頼む夢を見た。バニラの助言により、Aはタイムリープの力を使い、過去の失敗を修正し、会社の労働環境を改善する決意を固める。夢から目覚めたAは、現実と夢の境目が曖昧なまま、バニラの頼みを心に抱き、ブラック企業を変えるべく立ち上がる。

Aはブラック企業が増える理由について悩んでいた。なぜこのような状況が広がっているのか。Aの頭にはいくつかの要因が浮かんでくる。


まずは競争の激化だ。企業同士の競争が過熱し、利益を出すためにコスト削減が必要になる。人件費はその中でも最も大きなコストであり、結果として労働者に過剰な負担がかかるようになる。また、労働市場の不均衡も問題だ。仕事を求める人々が多ければ、企業は待遇を下げても労働者を確保できる。法的規制が不十分なことも、ブラック企業の増加に拍車をかけている。そして、非正規雇用の増加と、利益優先の企業文化がその根底にある。これらの要因が重なり、労働者に過酷な条件を押し付ける状況が広がっているのだ。


しかし、Aが働く占い業界はその中でも特異な存在だった。占いには資格や基準が存在しない。もしも占いが外れていたとしても、誰もその結果に責任を取らなくていい。占い師がどれほどの能力を持っているかは、外部から判断することが極めて難しい。だからこそ、カリスマ性のような不確かな要素が重要視される。人々の不安や希望を煽り、魅力的に見せることができる占い師が生き残る。Aは、かつて「地獄に落ちるわよ」というフレーズで一世を風靡した占い師のことを思い出した。


競争の激しい占い業界で生き残るために、自分が占いを学ぶべきなのだろうか?そう思ったが、すぐにその考えを打ち消す。自分は占い師ではないし、仮に占いを学んだところで、トップに立つのは簡単ではない。Aはどうすればいいか悩んだ。何か新しい売り方を考える必要がある。しかし、素人の自分にそれがわかるほど、この業界は単純ではないのだ。


悩みの末、Aはついに上司の高山に相談を持ちかけることにした。これまで自分からアドバイスを求めることはなかったが、売上を向上させるにはもう自分の力だけでは限界だった。高山に相談すれば、何かしらの指示や戦略を教えてもらえるはずだ。


しかし、返ってきたのは予想外の答えだった。


「営業チームの売上を2倍にしろ。それだけだ」


Aは言葉を失った。売上を2倍にしろという簡単な命令だけが下されたのだ。具体的なアドバイスも、戦略もない。ただ無理難題を押し付けられた形だった。高山にとって、売上を伸ばす方法は考えるまでもないことなのだろう。Aは高山の指示に困惑しながらも、与えられた課題に向き合うしかなかった。


Aは高山に紹介された営業チームの二人と顔を合わせた。まず、佐竹という男性が前に出てきた。彼は小柄で、タレ目が特徴的な、いかにも気弱そうな雰囲気を漂わせていた。


「初めまして、佐竹です。元々は不動産の営業をしてましたが、こっちに来てからは…えっと、まだあまり成果が出せていませんが、頑張ります」


佐竹は控えめな声で話し、目を合わせるのもどこかためらっているようだった。その姿に、Aは思わず不安を感じた。前職では家が一軒も売れなかったと聞いていたが、話を聞く限り、その理由も何となくわかる気がした。


「そうなんですね…大変でしたね。でも、ここではうまくいくように一緒に頑張りましょう」


Aがなるべく優しい口調で励ますと、佐竹は少しだけ笑顔を見せた。


「ありがとうございます。あの…できるだけ力になりますので、よろしくお願いします」


そのやり取りの後、新崎が前に出てきた。彼女は金髪で派手なメイクをしており、明らかにギャル風の見た目だった。新崎は堂々とした態度でAに近づくと、軽く頭を下げる。


「新崎です。よろしく〜」


その軽い調子にAは少し戸惑った。新崎は自信満々で、まったく謙虚さを感じさせない。だが、その自信には裏付けがあるらしく、彼女は成績をしっかり出していると聞いていた。しかし、Aはふと、彼女の素行の悪さに気づいた。新崎は話している間にも、飲み終わったペットボトルを床に投げ捨てていた。


「え、ちょっと、そこにゴミ箱ありますよ…」


Aが戸惑いながら指摘すると、新崎はあっさりと笑い飛ばした。


「あー、別にいいっしょ?後で誰か片付けてくれるっしょ。そんなの気にしてたらやってらんないし」


Aは内心、驚きと苛立ちを感じたが、新崎の強気な態度に押されて何も言い返せなかった。彼女は確かに営業成績を上げているが、その振る舞いは周囲にとっては迷惑なものだった。


「それにしても、売上2倍とか無理っしょ〜。高山さんもいつも適当なこと言ってさ、ほんと困るよね」


新崎は笑いながらそう言い、椅子にふんぞり返った。Aは、その軽薄な態度に少しだけイライラを覚えたが、新崎の実力を知っているだけに、強く言い返すことはできなかった。


「まあ、確かに簡単な目標じゃないですよね。でも、少しずつ改善していければ…」


Aが控えめに話し始めると、新崎はすぐに口を挟んできた。


「いやいや、そんな悠長なこと言ってたらやばいっしょ?営業ってのはガツンといかなきゃ。弱気でいると損するんだからさ」


新崎はそう言いながら、デスクの端に足を乗せてふんぞり返った。その態度に、Aは自分がリーダーとしてどう振る舞えばいいのか、ますます迷い始めた。


一方で、佐竹はそんな新崎のやり取りを見ながら、終始おどおどしていた。彼もまた、どう振る舞えばいいのか困っているようだった。


「…僕も、頑張らないといけないですよね。でも、数字を上げるのって、難しいです…」


佐竹がぽつりと呟くと、新崎は鼻で笑った。


「そりゃそうだよ!でも、数字出さないと生き残れないんだからさ、やるしかないじゃん?」


Aは二人の対照的な態度を見ながら、何とも言えない気持ちになった。このチームでどうやって売上を倍にするのか、果たして本当に達成できるのか。自分に与えられた課題がますます重くのしかかってくるのを感じた。

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