表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/46

無人駅がないか見ておけよ

前回のあらすじ

Aは「株式会社光と闇のはざまの少しのぬくもりと叫び」という占いとWebマーケティングを行う会社に入社するも、厳しい研修と理不尽な待遇に苦しんでいた。高山から渡された営業トークのプリントを暗記するよう強要され、声が小さいと怒鳴られるなど、Aは精神的に追い詰められていく。給料が最低賃金を下回ると気づくが、個人事業主扱いされ不満を抱える。そんなAは、夢の中で道玄坂バニラに出会い、奇妙な根性焼きを受ける。夢か現実か分からない状況に、Aは現実逃避の術を見つけられず、パワハラに苦しみ続ける。

高山から指示された次の仕事は挨拶まわりであった。占いビジネスは基本的に直接消費者とやりとりするものだ。法人取引のように大口の顧客がいるわけではないから、基本的には挨拶まわりなどといったお付き合いはない、基本的には。ただし、占いの性質上、熱狂的な信者というものが存在していて、彼女ら――基本的に40代から50代のマダム――は一人で百人分ほどの売上になる。そういった信者には挨拶回りをして、有り難いバニラ先生の話を伝言して回ろうということだ。


「で、これが切符な」


高山から渡されたのは、青春18きっぷだった。夏休み・冬休み・春休みの限られた期間だけ使える乗り放題切符。それが青春18きっぷだ。もちろん新幹線は不可、特急もダメ。その切符で乗ることができるのは在来線だけなのだ。これは、鈍行だけで全国の挨拶回りをやってこいと言っているのに等しい。


「今季は少し少なくて、12人でいいや。関西に6人、東海に2人、それから関東に4人。楽で良かったな」


本当は俺が行くんだけどな。おそらくそんなことを言ってきそうな表情で高山は言う。そんなこんなで果てしない旅が始まった。


「切符は5日間だから、5日がタイムリミットだ。それまでに博田に戻ってこい!」


「それってほとんど電車に乗りっぱなしで過ごせってことですか」


「もちろん。あと、研修課題も出すから電車の中でやっておけよ」


「え、ええ……」


「口答えするの?死ねば?」


問答無用だった。そうやってAの電車で地獄にGO!は始まった。まずは博田から2時間、JR九州の鹿児島本線にゆられて山口県に突入する。この時点で乗り換えを3回しているのだから笑えない。チーズのように真っ黄色な山陽本線に乗り換えてAは進む。山口って広い。精神力を燃料にしながら広島県に突入する。その頃、ケツはすでに4つに割れていた。


5分の乗り換え時間でトイレを済ませて乗り換えアプリを見る。今日のところは一応岡山県には突入できるかな。そう思ったところで高山からの電話が鳴る。乗車中なので一旦出ないでいると、LINEで「シカトこいてんじゃねえぞ」とメッセージが飛んできた。慌てて電車の連結部分に移動して折り返す。


「すみません。乗車中でして」


「死ね。関係ねえから。今どこ」


「岡山県にもうすぐ入るところです。このあたりで一旦泊まろうかと」


「わかった。そうしたら無人駅がないか見ておけよ」


「無人駅……?」


「だって、泊まるところがねえじゃん。無人駅ならベンチとかあるし」


えっ、ほら、ホテルとか……そう言いかけたとき、「金がかかるからホテルとかはきついもんな」と高山は言う。


「すみません。経費って出ないんでしょうか…?」


「出るわけねえだろ。挨拶まわりで宿泊費が出るとでも思ってんのかよ。引くわ」


電話は切れた。その夜、Aは某駅にて、クモとコウモリとカミキリムシと一緒に眠った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ