悪魔のパスワードクラッキング
突然で驚くかもしれないけれど、俺は今悪魔に憑りつかれている。
それが実は幽霊とか鬼とか別のものかどうか何ていうのはどうでもいい。とにかく、俺を害そうとする存在が、内側から俺の正気を食い破ろうとしているというのが事実だ。
――よしこの事実をSNSに書き込んで誰かに助けを……
いや、駄目だ! これが奴の手口だ。俺は気を抜くとスマホを手に取ってしまう。そして酷く攻撃的な言葉を打ち込みたい衝動に駆られるんだ。
そんなことすれば俺のアカウントは炎上する。それでも攻撃的な書き込みを止めなければ非難や中傷という炎はさらに大きくなって……、最後には自ら命を絶ってしまうかもしれない。この悪魔はそうして魂を手に入れようとしているに違いない。
だけど俺だって馬鹿じゃない。対策は既に取っている。
無意識にスマホを手に取る時は俺が俺じゃないようで、悪魔が表に出てきている感じだ。つまり俺の体を操っていても俺じゃない。だからスマホにパスワードを掛けた。俺が俺じゃないときにはパスワードがわからないから、スマホを使えないってことだ。
――パスワードが大丈夫か確認するために、一回解除してみるか。最初は手前……
駄目だ駄目だ、やめろ!
悪魔はこうして、“俺の時”に頭中で囁いてパスワードを確認しようとしてくる。解除させておいて入れ替わるつもりなんだろう。パスワードを設定した時にはまだ俺の主導権が強かったから幸い知られずに済んだけど、今はもう奴の好きな時に入れ替わられてしまうくらいに浸食されてしまった。
――悪魔祓いをしてくれる人を探して、電話してみよう。その為にまずは……
違う! スマホを触るな!
……いや、違う。パスワードなんかじゃなくて、壊してしまえば良かったんじゃないか?
そう、そうだよ。俺の思考は自分で思っているよりも遥かにおかしくなってしまっていたようだ。こんなもの壊してしまえば、少なくとも当面の間は悪魔に好き勝手されずに済むはずだ。
――じゃあ壊す前にバックアップだ。えぇと、パスワードは、と。まずはロック解除が必要だしね