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第6話 保護者つき

 そういう訳で、とトールは三者の間に立った。


「ミスタ・スタンリー。こちらはライオットです。ライオット、ミスタ・スタンリーと〈キャロル〉」


「よろしく」


「こちらこそ」


「お願いいたします」


 リンツェロイドまで丁寧に挨拶をした。ライオットは笑う。


「保護者つきなんて初めてだなあ。んじゃ、そこ座って、キャロル」


 彼が指示すれば、ロイドはステファンの禁止がないことを確認するように一瞬だけ遅れて、台の上に腰かけた。


「バックアップ取った?」


「はい」


「んじゃ、仕様、教えて」


「はい」


 〈キャロル〉は返事をすると、ライオットの尋ねるままに彼女自身のことを答えていった。


「オーケイ。判った。じゃ、順番に電力落としてって。主電源はこっちで切るから」


「はい、ミスタ・ライオット」


 言うと〈キャロル〉は、糸の切られていく操り人形よろしく、かくん、かくんと脱力していった。「呼吸」がとまり、瞳から光が失われ、まぶたが閉ざされる。


「『ご主人様(マスター)』の前で脱がすのはちょっと気が引けるなあ」


 と言いながらライオットは〈キャロル〉のブラウスのボタンを外していった。


「医者みたいなもんだろ? 気にしないさ」


 ステファンは笑った。


「それにしても、早速やってもらえるなんてな」


 彼は口の端を上げた。


「大丈夫なのか?」


 視線は〈キャロル〉とライオットから、トールに向けられた。


「はい?」


「飛び込み客の一見(いちげん)のメンテ依頼を即、実行なんてさ。そうは見えないけど、〈クレイフィザ〉ってそんなに雇用人が多いのか? それとも逆に、そんなに客いないの? 大丈夫?」


 矢継ぎ早の問いかけに、トールは乾いた笑いを浮かべた。


「確かに〈クレイフィザ〉はいつでも商売繁盛とは行きませんね。でも、一部の成功したクリエイターを除いて、個人工房はどこも五十歩百歩ですよ。作製の依頼はそうそうなく、依頼なしのリンツェロイドを売るのは難しく、メンテナンスや修理も日常的に発生するものではない」


「そんなもんか」


 じゃあ、と彼は首を傾げた。


「あんたら、どうやって食ってんだ?」


「ですから」


 従業員は苦笑せざるを得ない。


「いつもぎりぎりです」


「ふうん」


 トールの言葉はあまり答えになっていなかったが、ステファンは特に突き詰めなかった。


 何とも独特のペースを持つ客人だな、と思っていることを表に出さないようにしながら、トールは営業用スマイルでステファンを見ていた。


 それからしばらく、ライオットはいちいち何か茶化しながら、トールはそれをフォローしながら、ステファンは怒る様子もなくライオットに返事をしながら、時間は過ぎた。


「よし、終了。一部の配線が劣化しかかってたから、換えたよ。ほかは異常なし。エンジンはもとより、燃料電池も大丈夫」


 にっと笑ってライオットは告げた。


「〈ミルキーウェイ〉だっけ? いい仕事すんじゃん。何でうちにきたの?」


「担当の技術者がやめたから。で、ブロウの〈リズ〉を作る工房に興味があったから」


「リズかあ。この前、メンテにきたよ。一度、出戻ってきたときはどうなるかと思ったけど。ミスタ・ブロウが丁寧に使ってくれてるのがよく判った。可愛がってくれてるんだね、俺らのいもう」


「――い、妹みたいに思ってるんですよ、ライオットは、うちの製品のこと」


 笑みを引きつらせてトールは言った。



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