第4話 トーク機能
「そうだ、ここの製品の一覧カタログ見てみたいと思ってたんだけど、ある?」
「はい。――こちらになります」
「へえ」
手渡された3D写真集をめくりながら、ステファンは感心したような声を出す。
「美人揃いだな。まあ、リンツェロイドは普通、美人揃いだけど」
「有難うございます」
「……基本仕様、載ってるけどさ。何でトーク機能、ないのが多いんだ? あってもレベル2どまりか。ここの主人、トーキングロイド作らないのか? リズ作れるようなクリエイターなら、技術ないってこともないだろう?」
ほとんど一息でステファンは疑問をぶつけ、従業員は困った顔をした。
「店主の趣味、とでも申し上げるほかなりです」
「趣味で喋らすならまだしも、趣味で喋らせないって何だ?」
「ええと、ほら、その」
従業員は言葉を探した。
「口を開くと美人が台無しってこと、ありますでしょう。リンツェロイドも同じで」
その説明にステファンは吹き出した。
「それ、ここの店主が言ったのか?」
「いえ。僕が考えたことです」
正直な回答に、ステファンはますます笑う。
「何だか変わってるなあ。リンツェロイドを欲しがる層なら、トーク機能つけたがるだろ、たいていは。最低でも1くらいつけるのが普通じゃないか?」
「そうですね、3から5を望むお客様が多いですが、その、相談する内に」
言いづらそうに従業員は声を落とした。
「確かに4からは高いけど」
予算的に問題が生じた、と言いにくいのだろうとステファンは推測した。
「六年以上、やってんだろう? ってことは、LJタイプが出た頃は既にクリエイターだよな? LJから少しは安くなったじゃないか、トーク機能。なのに、4以上が一体もないってのは、珍しいんじゃないか?」
「さあ……僕には判りません」
従業員は困った顔をした。
「それもそうか。ロイド・マスターってのは変わってる人も多いもんな。ここのマスターなりのこだわりでも、あるんだろう」
ステファンは追及をやめた。従業員は苦笑いのようなものを浮かべていた。
「さ、それじゃ」
彼はカタログを置いた。
「必要事項を記すもんがあるなら、ディスプレイに出して」
「よろしいんですか?」
「何が」
「ですから、事前相談をなさらなくても……」
「メンテの内容って工房によってそんなに違う?」
片眉を上げて、ステファンは尋ねた。
「大幅には変わらないと思いますが、お客様の希望と異なる点がございますと」
「トラブルのもとになる?」
先取って、客は肩をすくめる。
「気にしなくていいよ、苦情なんか言わないから」
「はあ……」
「そんな不思議そうな顔、しなくていいよ」
ステファンは口の端を上げた。
「俺の希望を言うならさ、〈リズ〉を作ったロイド・マスターの手並みを見てみたいってとこ。普段、普通にやるように、やってくれよ」