11話
いつもの水曜日だ。
母親の不協和音も今日なら軽やかにかわせる。
ただ何時もの時間に園田は来なかった。
何でだ?
廊下がざわざわし始めて、生徒たちが登校し始めている気配が感じる。
そんな時やっと誰かの気配を扉越しに感じた。
もしかして園田?
「園田?」
居ても立ってもいられず、扉を開けると待ち焦がれていた彼女だった。
ただ彼女と目が合わない。何故だ?
「園田?」
もう一度呼びかける。
「あ、このCDありがとう、もう人来るよ」
彼女はCDさっさとを渡して席に着いてしまった。
え、どうして?
いつもより硬い声に彼女から拒絶を感じる。
ねえ園田、俺、何かした?
彼女とはその日一度も目が合わなかった。
何故なのか、何なのかわからないまま1週間また経ってしまった。
次の水曜日が来た。
また彼女が来なかったら、今度はどうしていいのか分からない。
そう心配していたら今日は彼女はいつも通りにきた。
ホッとした。
嫌われてはないのかな?
嫌われたくない?
そんな思いに囚われてポツポツとしか話せ無し、大好きな彼女の声が硬いまま話も弾まなかった。
え、やっぱり嫌われた?
ねえ、園田、俺なんかしたのか?
そんな降下し続ける自分の気持ちのように、その日の天気も降り坂だった。
帰る頃には雨が降り出した。
置きっ放しにしていたビニール傘をひっつかみ、自転車置き場まで歩く。
雨の中、自転車を押して帰る道。
こんな日は雨が雑音を遮ってくれるからイヤフォンをつけなくて済む。
頭の中はあの子の事でいっぱいだった。
どうすればいいのだろう。
今度も彼女の声が硬いままだったら?
もういっそうの事そんな声は聞きたくない。
いつもなら聞こえるはずの右耳も感覚が鈍っていってしまうようだった。
このまま聞こえなくなってしまえば良いのに。
彼女の柔らかい包み込むような声が好きだ。
彼女自身を伝えてくるようだったから。
彼女を包む空気も同じように暖かく心地いい。
そして彼女の笑顔も好きだ。
それら全て好きだ。
それら全てが今は恋しい。
もう一度、聞きたい。感じたい。見たい。ただ側に居たい。
その日、久しぶりに家にまっすぐ帰って部屋に籠ってただただ泣いた。