1話
前作のサイドストーリー。前作(https://ncode.syosetu.com/n1965fc/)
*病気の描写は筆者の作ったフィクションです。気分を悪くされた方がいたらもうしわけありません。
母親の金切り声
父親の怒鳴り声
何かが叩きつけられる音
まだ子どもな橋津恭介の世界は雑音に満ちていた。
とにかく家にいるのが苦痛だった。
何でこの世界は雑音だらけなんだろう。
子どもの頃は感情表現が乏しいとは言われたが、至って普通な子どもだったと思う。
親もそこまで仲良いとは思わないが、今のように喧嘩する事も無かった。
それが、中学に上がった頃からだろうか。
頻繁に喧嘩するのを聞くようになった。初めは自分の前では貼り付けたような顔をしていたのに、そのうち取り付くのも止め目の前でも言い争うし自分の事を引き合いに出して巻き込むようになって来た。
一度、2人を止めようとしたことがある。
あれは中学3年の夏。
食事中の皿を母が父に投げつけようとして、流石に危ないと思って咄嗟に間に入ったら見事に俺の顔に命中した。
左の額から出血し、衝撃からか左の耳の鼓膜も破れて結構な大惨事だった。
流石に思うところがあったのか、世間体を気にしたのか両親も真っ青になり喧嘩をやめて病院に連れて行ってくれた。
親は俺が食器棚にぶつかった時に、上からバランスを失った食器が落ちて来たと説明していた。
つまり、これは事故らしい。
自宅療養が開けて登校すると周りが少し変わっていた。
俺に対する色んな噂が広がってるらしい。
喧嘩して大怪我したとか、親から虐待を受けているとか。
だからか周りも腫れ物に触るみたいに態度が変化した。
ああ、ここも不協和音だ。
中学生にとっては、世界のほぼ全てと言っても過言でない家族と学校。
その2つとも不協和音に満ちた世界になってしまった。
そして俺に怪我をさせてから母親が、機嫌を取るように猫なで声を出すようになった。
だから必要な時以外は部屋にこもるようになった。
気づけば人の声が不協和音にしか聞こえなくなっていた。
そんな中、気づいたら左耳が聞こえにくくなっていた事に気づく。
雑音のスピーカーでしかない親に相談する事もなく、当時中学の保健室で相談したところ病院を紹介された。
診察に行ったところ、精神性の難聴ではないかという事だった。事故で鼓膜が破れている事も関係してるのかもしれないとの事だ。
でも良かった。
その夜、右耳を枕で塞いでしまえば階下から聞こえる不協和音が和らぎ眠れたから。
病院に通うように言われたがお金が無いと適当に理由をつけて行かなかった。
耳が片方聞こえ無いだけで、不便ではない。
騒音の世界から逃げるために、今日も音楽を聴く。
音楽の世界は好きだ。
音が重なって、その中にただ身を委ねたていたくなる。