二章『学園』1
家を出、三日間何事もなく私たちは目的地である王都ラーデンタールに辿り着いた。
番兵に身分証を提示しすんなりと凱旋門を通ると白壁の家が建ち並び、丁度私たちが王都に入った時は露店市が開かれていた人々が活気づき賑わいを見せている。
少し街に繰り出したい気もするが、同席者のラプスはそれを悟ってか妙な威圧の掛かった笑顔をこちらに微笑む。
「お嬢様、わかっておられると思いますが私たちに遊んでいる時間はありませんよ?私たちはこのまま王立学園に赴き、学園長にご挨拶に参ります」
「わかっている。流石の私でも時と場合は心得ているつもりだ」
私は心の奥で語尾に『今は、な!』と付け加える。
幼い頃にお父様と一緒にきた時以来の王都なのだ。探索したいと思うのは自然なことだろう。あとでこっそりと抜け出そう。
「お嬢様!私の話聞いていますか?」
ラプスは青筋を浮かべながら作り笑顔を私に向ける。
「大丈夫聞いている問題ないああ問題ない」
私は早口でラプスにそう返す。
少し呆れたような顔でラプスは続ける。
「わかりました。あとで時間を空けますのでその時にでも王都を探索しましょう」
「そうか!できれば一人で探索を……」
「い け ま せ ん!お嬢様の事ですから王都中を駆け巡っていつ帰ってくるかわかりません」
「いや……そんなこと----」
「大いにあり得ます!お忘れですか?以前隣町で買い物と称して一週間お姿を眩ませたことを……あの時旦那様がどれほどご心配をおかけしたか……」
涙を浮かべ切実に語るラプスを見て居た堪れなくなったので私は慰めながら同行することに同意した。
あの時は何もかもが新鮮で楽しくなってつい屋敷に帰ることを忘れてしまったのだ。その後はこっぴどく叱られた結果、私が出歩く時は常に誰かと一緒にいなければならなくなったが……まあ、それは過去の話。今の私はそんなヘマはしない……と思う。
そんなやり取りを経て私はふと窓を覗く。
何気ない街の光景。人々は活気に満ち溢れ笑顔で満たされている……ように見えるにはどうやら表向きではの話のようだ。
私の視線の先に少女が泣いていた。ただ、泣いているのではない。顔を青あざで腫らし、服装もボロボロの年端もいかぬ少女が大柄な男に腕を引っ張られながら裏路地の方へと連れていかれそうになっていた。
光があるのであれば影もあるのは道理。笑顔でみたされ満たされているように見えて裏では誰かが泣いている。そんなことは何処にでも普通のことだ。
だが、誰かが泣いているのであれば手を指し伸ばすのもまた道理だ。しかも年端もいかぬ少女が泣いているのだ。子は未来の宝だ。無下に扱うなど以ての外……万死に値する。
「すまぬな、ラプス。急用ができた。できるだけ素早く片を付ける」
「え?おじょ、お嬢……」
私はラプスの返事も聞かずに窓を開け、そのまま走っている馬車の窓から飛び降りた。
難なく受け身を取りながら着地には成功するが着ていたドレスは土を被り薄汚れた。あと、動きずらい!ので私はドレスのヒラヒラとしたスカート部を真ん中程で引き千切る様に破いた。あと、この歩きにくい踵が高い靴とチクチクする長い靴下も一掃のこと脱ぎ捨ててしまおう。
これで少し、動きやすくなっただろう。私は先ほど少女がいた場所に目を向ける。しかし、そこにはもう少女の姿はなかった。
ギャラリーたちが集まる中、遠くの方でラプスが何かを言ったようにも聞こえたが今は一刻を争う。私はそのまま少女がいたであろう裏路地の方へ駆け出していくのだった。




