第61話 イオ第2学園に入学・16
ふむ、名前と使える属性を書いて貰った紙を回収して見ると、候補者の人数は21人か。さてさて……先ずは候補者の使える属性チェックだな。
『限定解除』を効率的に使う為には魔素を体内で凝縮して、出来た隙間に周囲の魔素を吸収するだけじゃなく、体内の魔素を周囲の魔素に合わせて属性変換する事が大事なんだよね。
つまり使える属性が多い人ほど、吸収出来る魔素の量も多いわけだ。
3属性が15人、4属性が5人、5属性が1人か。リアンが俺に教わって現在5属性使える事を考えると……リアンってかなり優秀なんだな。
「さて、先ずは皆さんお互いに数メートルの距離を置いて並んでください」
言われた通りに候補者達は数メートル間隔で並んで行く。そして俺は右から順番に顔をチェックし、列の順番に合わせて回収した紙を並べ替える。
「では候補者の皆さんには魔法を使って貰います。最初は1番得意な属性で、次は1番苦手な属性の順番でお願いします。切り替えるタイミングは指示します。ファンタズマが展開されてますが、周りに被害が出ないように、そして魔法を丁寧に使ってください」
俺がそう言うと、候補者の皆が小規模な魔法をそれぞれ使い始めた。
「じゃあリアン、これ渡すからチェックしてって。その紙は右の人から順番になるよう整理してあるからね」
俺は名前と使える属性が書かれている紙束とペンをリアンに手渡す。
「うん。任せて!」
リアンのお仕事は魔眼を使って、魔素の使い方をチェックして貰う事だ。
『限定解除』はかなり危険を伴う魔法で、魔素の制御が甘い人がもしも使ったならば……自らが取り込んだ魔素が暴走して最悪死ぬ事になる。
今回の選別は、そんな事故が発生しないようにする為に開催されているのだ。
リアンが1人ずつチェックを始めたので、俺もなんとなくで候補者の魔法をチェックする。
「なあ、俺にも教えてくれるんだよな?」
そんな言葉が聞こえて振り向くと、ナグルドが横に居た。
「先生も使いたいんですか?」
俺がそう言うとナグルドは鼻を鳴らして口を開く。
「はっ、あれを覚えりゃお前とユーエに勝てるかもしれねぇだろ?」
確かに近接戦闘に限って言えば、『限定解除』を覚えたナグルドに俺は負けるかもしれないな。
あくまでも近接戦闘に限ってだけど。
「近接戦闘だけなら負けるかもしれませんね」
「近接戦闘だけって、お前……あれだけ戦える癖に、まさか遠距離も得意なのか?」
周りを気にしなくていいなら、むしろ遠距離の方が得意だったりする。周りを気にしなくていいなら……ね。
「ええまあ。それに俺の武器を使っていいなら近接戦闘も多分負けませんよ」
「かぁぁっ、やっぱ化け物だな。せめてあれを覚えなきゃ話にもならないんだろうな……それで教えてくれんのかよ?」
「まあ別に良いですけど、それならリアンのチェックを受けてからですね」
見るとナグルドは横で小さくガッツポーズをしていた。
さて、候補者のチェックに戻ろう。
「ハヤトく〜ん、とりあえずチェック終わったよ!」
ナグルドと話している間にリアンの1回目のチェックは終わったようだ。
「じゃあ皆さん、次は苦手な属性でお願いします!」
候補者達が今度は苦手な属性で魔法を使い始める。なんだよ、苦手って言っても結構普通に魔法が使えてるじゃん。
何故苦手な属性の魔法もチェックするのか、それは魔素運用の器用さを判断したいからだ。
1つの属性だけが突出して上手い人は、魔素運用の応用である『限定解除』に向いて無いんだよね。
「ほっほっ、どうじゃ? なかなか粒揃いだと思うんだがの?」
フォンダ校長が話し掛けて来た。
まあ……見た感じは数人ダメな人が居るだけだから、なかなか良いのかな?
特に1人は素晴らしいと言える。5属性使えると記入していた人で、アーナ・フィニアという女性だ。
「やはりあの子は別格かの?」
俺の視線を察したのか、フォンダ校長がアーナさんについて説明を始める。
「あの子はエルフじゃよ。ババァ……ユーエに憧れて昔から猛特訓してての。今ではSランク冒険者じゃよ」
は? Sランク?
「あの人Sランクの冒険者なんですか!? って事は……」
Sランクって事は……昇格試験の内容に、模擬戦でペンドラ騎士団の団長に勝利というのがある。つまりアーナさんは師匠に勝ったのか?
「そうじゃよ。あの子は憧れであるあのババァを見事に倒したんじゃよ。まあ、初見殺しの魔法を使ってやっとって感じではあったがの」
それでも凄いな。
「チェック終わったよ〜」
アーナさんの話をしていると、リアンがチェックを終わらせて戻ってきた。
あ、ナグルド……担任の教師だし先生って付けた方が良いか……ナグルド先生のチェックも頼まないとね。
「お疲れ様リアン。悪いんだけどナグルド先生のチェックもお願い出来る?」
名前を呼ばれてナグルド先生が反応する。
「お、俺の出番か」
「うん、わかった! じゃあ先生、魔法を使ってください」
「おう」
ナグルド先生が魔法を使い始める。
「あの……それだと魔素の流れがちゃんと見えないんですが……放出系の魔法でお願いします」
ナグルド先生が使った魔法は俺との戦いで使った、雷を纏ったような魔法だった。
「ん? これじゃダメなのか?」
「ダメです」
ナグルド先生の問いにリアンが即答する。すると、ナグルド先生は少し困った顔をし始めた。
「俺は放出系の魔法が苦手なんだわ……」
「「え?」」
俺とリアンが同時に疑問を発する。
「体内の魔素運用は得意なんだが……外に出す為の式構築がどうも上手く出来なくてな」
なるほど、その弱点をカバーする為の近接戦闘特化なのか。体内の魔素運用が得意なら『限定解除』は問題無いかもな。
それを判断する為には……
「なら苦手な属性で、今使ってるような魔法使えますか?」
苦手な属性でも問題無く使えるなら多分平気だろう。
「任せろ」
そう言ってナグルド先生は炎を纏う魔法を使った。ていうか無詠唱だし、術式も見えないけど……俺の知らない魔法だなこれ。
「リアン、外に漏れ出る魔素の密度はさっきと比べてどうだ?」
漏れ出るという事は、それだけ魔素を無駄にしてるという事で……つまりそれだけ制御が甘いという事だ。
「ほとんど変わらないよ?」
「なら大丈夫かな」
俺の言葉を聞いて、ナグルド先生がまた小さくガッツポーズをしていた。
とりあえずリアンがチェックしながら記入してた紙束を受け取って確認する。
それぞれに数字で1、2、3が記入され、その横に丸と三角とバツが記入されていた。いや、3の横には丸とバツしか無いな。
1と2が評価で、3の横が合否判定なのかな?
「リアン、3の横が合否判定で合ってる?」
念の為に確認すると、リアンは一言「そうだよ」と答える。
ふむ、14人合格か……思った以上に優秀な人達を集めたんだな。
俺が合格者を発表すると、不合格者はフォンダ校長に促されて帰っていった。
「フォンダ校長、『限定解除』の練習はいつやります?」
俺の問いにフォンダ校長は立派に伸びた顎ヒゲを触りながら悩む。
「……そうじゃの。来週から放課後、魔法演習場の1つを貸し切ってやれるが、習得するまでどのくらいの期間が必要じゃ?」
どうだろう? 感覚掴んで安全に自主練習出来るようになるまでなら2週間くらいかな?
「2週間あれば安全に自主練習出来るくらいには」
「わかった、なら来週の頭から頼むわい。何かあればナグルドに言っておくぞい」
「わかりました。じゃあ今日は解散ですかね」
「合格者達はこの後にまだ話す事があるから残って貰うがの。二人とも今日はありがとうのう」
そう言ってフォンダ校長は頭を下げる。
「いえ、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
俺に続いてリアンも頭を下げた。
「では俺達は帰りますね」
「うむ」
「明日遅刻すんなよ?」
魔法演習場に俺とリアン以外は残るらしく、軽く挨拶をして二人だけ先に家に帰る事になった。
魔法演習場から出て俺は口を開く。
「じゃあ帰ろっか?」
そうして手を伸ばすと、リアンは微笑みながら「うん!」と言って手を握る。
「転移!」
こうして俺とリアンは無事にイオ第2学園に入学した。明日からの学園生活が楽しみだ。
次の更新は7月13日の19時〜19時20分です。




