第24話 地獄の遠征に行く・10
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循環術式を組み込んだ俺の黒刀・羅刹が完成して2日後の夜。
翌日に地獄の遠征を控えた俺はクラガお父様の部屋に呼び出されていた。
コンコン
クラガお父様の私室の扉をノックすると、中から「入りなさい」という声が掛けられたので扉を開けて中に入る。
「ハヤト、明日からペンドラ騎士団の遠征だ。それでハヤトに渡す物がある」
そう言ってクラガお父様は1つの手の平に乗る木箱を机の引き出しから取り出して俺に渡す。
なんだろうか?
「開けてもよろしいですか?」
「ああ大丈夫だ」
問題無いようなので開けてみると、中に入っていたのはシンプルな指輪であった。
なんの指輪だろうか?
疑問に思っているとクラガお父様が答えてくれる。
「それはこの家の家紋が刻まれた、正式に我が家の者であるという証明になる。つまり貴族の者である事を証明出来る物だ」
この指輪は貴族である証拠を示せる指輪なのか。
「それがあれば遠征中に立ち寄る街や、ペンドラ騎士団の内部でも多少の無理は通るだろう」
まあ貴族ならばある程度の権力があるはずなので、確かに自分が貴族の者である事を証明出来るこの指輪があれば色々と融通してもらえるのだろう。
しかしそれは逆に言えば俺が貴族として見られるという事で、それは少し問題があるかもしれない。
「せっかくですが、これは受け取れません…」
だって俺ヨガル兄が次期当主になると思ってるし、俺もそれを望んでいたから貴族としてのマナーや立ち振る舞いをしっかり学んでないんだもん。
魔法の勉強ばっかり優先してたからね。
そんな内容の事をクラガお父様に説明する。
「それでも問題無い。念の為に持ってるだけで構わない。もし何かがあって、その何かを解決するのに貴族の地位が必要だったりするかもしれないだろう?魔法や魔道具のような戦闘面では正直力になってやれないからな…お護り程度に思って受け取っておきなさい」
8歳の子供にいいのだろうか?
これがあれば色々無理が通せる。
それはつまり俺がその気になれば、権力を使ってある程度好き放題出来る事にもなる。
もちろんそんな事は一切する気が無いのだけれども。
「……ハヤト…これは当主としての命令であり、お願いだ。生きて戻ってくるように。その指輪があるのだから貴族としてこの命令はしっかり守るんだぞ」
なるほど。
俺の無事を祈った願掛けでもあったのか。
「はい、必ず生きて戻ります」
俺はそう答えた。
こうしてこの日の夜が終わる。
翌日の朝に俺は家族にしっかりと挨拶をして、魔法騎士団本部に行く。
俺がペンドラ騎士団の集まる集合場所に着くと、辺りがざわざわと騒がしくなった。
「おい…あれが噂の……」
「まだ本当に子供じゃないか」
「あれが団長の剣を受け止めたという子供か…」
「これはなかなか…この子なら俺男でも大丈夫だわ…はぁはぁ…」
色々と聞こえてくる。
ていうかおい。
最後のやつ。
何が男でも大丈夫なんだ?
8歳の子供を見て何を考えてんだよまったく。
お前が大丈夫でも俺は大丈夫じゃないんだからな。
俺は女性が好きなのであって、男性をそういう目では見れん。
「お?きたね我が弟子よ!」
そう言いながら師匠が俺の方に歩いてくる。
「おはようございます」
とりあえず挨拶をしておいた。
「ああおはよう。君には出発の前にこれを渡しておかなければね」
そう言って師匠は黒いロングコートを俺に手渡す。
少し大き目で、俺が急成長とかしなければある程度なら年齢を重ねても使えそうだ。
「これに組み込まれた術式はオーソドックスに魔法障壁だけど、君が注文した通りに属性に合わせて魔法障壁が展開するように作ったから試してみて」
俺は言われた通りに八主要の全てを試して見せる。
「うん問題無いね。強度も大丈夫そうだ。これから出発前に演説しなきゃならないんだけど、演説が終わったら直ぐに出発する事になるんだよ。だはら君は私に付いて離れないようにね?」
俺が頷く前に師匠は俺の手を引っ張ってペンドラ騎士団が整列した正面前に立つ。
どうやらもう演説を始めるようだ。
「諸君!ペンドラ騎士団の遠征が初めての者も、何度も参加している者もいるだろう!初めてのペンドラ騎士団新兵諸君は決して油断しないように!北の魔大陸は何が突然起こるかわからないのだからな!そして何度も参加している我がペンドラ騎士団の精鋭達よ!お前達は油断はしてこなかった!だから今生きている!だがそれは今回でも大丈夫だという保証ではない!慢心しないように!!わかったか!?」
「「「「「はい!!!」」」」」
地面がペンドラ騎士団の揃った敬礼と声で揺れた。
本当に人数が揃うと地面って揺れたりするんだな。
「そして…」
突然師匠が俺を抱っこして持ち上げる。
「この子が私の弟子となったハヤト・ヴァーチだ!どうだ可愛いだろう!?」
「「「「「「「はい!!!!!」」」」」」」
なんかさっきの返事より声がでかいし、息も揃ってたように見える。
この騎士団は大丈夫なのか?
「この子はこんなに可愛い顔で、そこらの女の子すら超越して愛らしい…だが男だ!!」
「「「「「おぉぉ!!!!」」」」」
あれ?
この反応はなんかおかしくないか?
「髪もサラサラで思わず女性の私ですら触りたくなる艶のあるポニーテールに細い首、そして女性の皆が羨むスベスベの肌………だが男だ!!!」
「「「「「「おぉぉぉ!!!!」」」」」」
ああなんかわかったわ。
多分ペンドラ騎士団は師匠に汚染されてるんだな。
どのようにしてかは知らないが、オタク文化を叩き込んでいるっぽい。
この団長様は国の持つ最強の軍団に何してんねん。
師匠は再度喋る前に俺を抱っこから解放する。
「では部隊ごとに最終確認をせよ!部隊長は確認終了後にガイアス副団長に報告!その後に私が出発の号令をかける!以上!作業に当たれ!」
「「「「「はい!!!!」」」」」
ピシッと引き締まった空気に一瞬で変わった。
スイッチの切り替えが凄いな。
そうしてペンドラ騎士団の皆がそれぞれに作業を始める。
演説が終わった師匠が俺に話し掛ける。
「君はこの遠征中は基本私かガイアス副団長と共に行動して貰うけど大丈夫だよね?」
俺はその問いに頷く。
ていうか8歳の子供を野放しにするのは色々と体裁的にまずいはずだ。
「とりあえずしばらく私と行動を共にしてもらって、私が離れなければいけない時にガイアス副団長を付ける感じね?これは魔物との戦闘でも同じだからそのつもりで居てね」
「わかりました」
「あとは私以外の面々に君の実力をある程度見せなければならないから、私達が担当する魔物との戦闘の時に最初以外は君に任せるつもりなんだけど大丈夫?」
これもある程度は予想していた。
魔物との戦闘は初めてだけれど問題無いだろう。
「大丈夫です」
「よし、じゃあこれから約二ヶ月間よろしくね」
「よろしくお願いします」
その後も師匠と話していると、ガイアス副団長が報告に来る。
「団長、全部隊の最終確認が終わりました。いつでも出発可能です」
「よし」
師匠が準備を終えたペンドラ騎士団の面々の前に立つ。
「全軍!出撃!!」
「「「「「「おぉ!!!」」」」」」
こうして地獄の遠征と呼ばれるペンドラ騎士団の遠征は出発した。
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