第17話 地獄の遠征に行く・3
R15作品です。
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「アポイントメントはありますか?」
「……無いですけど……でもホントに団長様の弟子のハヤト・ヴァーチでして……」
俺は今魔法騎士団本部の受け付け窓口にいる。転移魔法を教わる為に、俺の師匠であるユーエ・スフィアを訪ねて来たのだ。
訪ねて来たのだが……
「ユーエ様のお弟子さんは男の子だと聞いております。アポイントメントをお取りになってから、後日いらっしゃってください」
何度俺が団長様の弟子であり男だと伝えても……これである。受け付けのお姉さんは職務に忠実で真面目なようだ。
さて、どうしようかな……と、途方に暮れてると後ろから声が掛けられた。
「ハヤトくん? まだ剣も服も団長は用意出来てないと思うんだけど、何かありましたか?」
振り返るとそこに居たのは、地獄の遠征の詳細説明をしてくれたペンドラ騎士団のガイアス副団長様だった。
「えっと……武器に組み込む循環術式のヒントを師匠である団長様にいただきたくて……やっぱりいきなり約束も無しには無理ですよね」
受け付けのお姉さんの鉄壁ガードを崩せなくて、意気消沈していた俺はバツが悪そうにそう伝える。
ちなみに副団長様のお声掛けをすぐ側で聞いた受け付けのお姉さんは……プロだった。俺がハヤト・ヴァーチだと理解出来ても、自分の対応に間違いは無かったのだと自信が見て取れる澄まし顔をしていた。
しかし、俺は聞き逃さなかった。
この受け付けのお姉さんは、副団長様が後ろから俺の名を呼んだ時に……「え? ホントに男の子……?」と、ほとんど独り言で周りには聞こえないだろう小さな呟きをしたのだ。
そんなにか? 大人の女性にも見破れないほどに俺は女の子か?
……いや……まだ俺は8歳だ……
成長すればきっとナイスなミドルガイに……
……ミドルガイに…………
……なれないような気がする。
考えるのをやめよう。今考えるべきは目の前の副団長様との会話だ。
「まだ何を組み込むのか決まってないなら循環術式も団長に任せてしまえばどうですか?」
この言い方だとそうなるか。
まぁ魔道具作りに関して何の実績も持たない俺がやるよりも、おそらく凄まじい成果を上げてきた団長様に任せた方がいいって思うよな。
「構想は大体出来上がってるのですが、……転移の魔法知識が足りないので団長様に教えていただきたくて……」
副団長様はそれを聞いて訝しげな表情を見せた。
「武器に転移魔法が使われるのですか?」
いや、少し違う。
俺が組み込む循環術式は転移系統の魔法なのであろうが別の物だ。なのでこう答える。
「転移魔法というよりも、転移魔法の原理の一部を組み込みたいのです」
「それは……使い手の少ない転移魔法から、更にオリジナルの魔法という事ですか……話に聞いていた以上に凄い子のようですね……よし」
何か納得したかのように副団長様は頷いて続ける。
「生憎と団長は本日地獄の遠征に関する会議に出席していて手が離せません。なので私が転移の魔法をお教えしましょう」
「副団長様も転移を使えるのですか?」
「ええまぁ、団長には及ばないですけれど」
さすが世界最強と呼ばれるペンドラ騎士団の副団長様だ。
俺は即座に…
「よろしくお願いします!」
口からそう紡がれていた。
「じゃあ場所を変えようか……練兵場がいいかな」
そう言って副団長様は、前に俺が団長様と模擬戦をしたであろう練兵場に向かう。
「ある意味良かったかもしれませんね」
歩きながら副団長様は突然そんな事を言う。
何が良かったのだろう? 素直に聞いてみよう。
「何がでしょうか?」
「私も実は団長の弟子でして……今ではもう「免許皆伝!」とか言われて教えてもらえなくなったのですが、あの人の教え方は理論的な物よりも実戦形式などが多いですからね……」
あぁやっぱり団長様は脳筋なのね。そんな話をしながら歩いていると練兵場に着いた。
「ではハヤトくんが転移魔法に関して知っている事と、何がわからないのか教えてください」
高魔力を注ぎ込んだ道を作り出し、その入り口と出口を固定した術式を作らなければならない事。その術式のイメージが出来ない事を伝える。
「ふむ……ならば転移を見せた方がいいですかね。まずはゆっくり実践して見せます」
副団長様はそう言って丁寧に時間をかけて術式を組み始める。それを俺は注意深く観察するが、目立っておかしい術式は見受けられない。
そう思いながら見ていると副団長様が前方5メートルくらいの場所に転移した。
なんだこれは? 俺の見間違いか?
俺から見ると転移する直前まで居た場所に、一瞬だけだが何かが見えた気がする。
いや、感じたと言った方が正しいのか。目には見えてなかったのだから。
「とまぁこんな感じなのですが、術式は理解出来ましたか?」
「はい」
「転移魔法は少し特別で、他の魔法と違って精神的な疲労が大きいです。よくわかりませんが団長は「魂が疲労する」と表現しておりましたね」
「魂が疲労する?」
「そう言ってました、魂という物がなんなのかは知りませんけれど」
先程感じた転移直前の何かと関係があるのか? ……まさか……
俺は思い付いた事を試してみる。
イメージは自らの魂。
精神体とも言える何かを魔素で身体の中に形作る。属性変換の要領だ。
……これは……八主要とは別の属性と呼べるのか?
「転移は八主要とは別の……感覚的な物なので伝えるのが難しいのですが、自分特有の属性に変換しなければ発動が困難です。術式のイメージとしては、自分の分身を用意して配置する感じですね」
これは……色々と試さなければならないだろう。しかし糸口は見えた。
「教えてくださりありがとうございます!」
副団長様にお礼を言う。
「転移魔法は使い手が少なく、その分研究がなかなか進んでいないのでこんな程度しか教えられませんけれど、どういたしまして」
取っ掛かりは掴めた。本当に素晴らしい事を教えてもらえたと思う。
「じゃあ私は仕事が残ってますし、そろそろ解散としましょうか」
「本当にありがとうございました!」
俺は再度お礼を言う。
「どういたしまして、では受け付け前までお送りしますよ。流石に騎士関係者とはいえ、1人でウロウロされるのはマズイので」
そう言って俺と副団長様は歩き出した。
歩きながら俺は考える。
観察した術式はおおよそ俺の予想通りではあった。しかし魔法の行使には八主要とは別の属性変換が必要。
そして……魂の疲労。
もしやと思ってはいた。この世界では魔法が使える。
この世界で生まれ育った人達は疑問に思う事すら無いであろう事。何故魔法が使えるのか?
この謎に一歩近付いたと思う。
この世界では魂が身近にあるのかもしれない。これはそのうち団長様に詳しく確認した方がいいだろうな。
とりあえず今は循環術式の構築をする為に転移魔法を覚えて実験しなければならない。
受け付けに着いた俺は副団長様にもう一度お礼を伝えてから家に戻って実験する事にした。
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