第15話 地獄の遠征に行く・1
R15作品です。
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どうもハヤトです。
この度、俺はひょんなことからペンドラ騎士団の団長様の弟子になりました。それで来週から予定されている、地獄の遠征と呼ばれるペンドラ騎士団の遠征に連れてかれる事になってます。
これらが決まった日から今日で4日目です。
クラガお父様の話では、今日のお昼頃に団長様の使いの者が家に尋ねて来て、遠征の詳細な説明をしてくれるとの事。
そして使いの者として来てくださった方がこちら。
「失礼、こちらハヤト・ヴァーチが住まう屋敷で間違いないか? 私はペンドラ騎士団副団長のガイアス・アーガストと申します」
はい。ということでね。
副団長様がいらっしゃいました。金色の毛並みが素晴らしいですね。尻尾に犬耳も付いてます。
ペンドラ騎士団の副団長様はこの国でほとんど見ない獣人であった。
「ご丁寧にありがとうございます。私はハヤトの母のメニル・ヴァーチです。どうぞお入りくださいませ」
「失礼します」
メニルお母様が堅い挨拶をしながら副団長様を招き入れる。俺も挨拶しとこう。
「ハヤト・ヴァーチです。よろしくお願いいたします」
副団長様がびっくりした顔をする。多分また女の子だと思われたのだろう。
「誰か来たの〜?」
ミレニーが居間から顔を出して言った。それを見た副団長様が納得したかのような顔をしながら屋敷の中へと入る。
多分家族構成を知ってて、最初に俺を妹であるミレニーだと思ったのだろう。ミレニーを見て、それが間違いだったと納得したんだと思う。
まぁミレニーたんマジ天使だから俺みたいなのなんかよりも余程可愛いもんな。
……可愛さで比べてる俺が居た堪れない気分になった。
メニルお母様に居間まで案内され、促されるままにソファーに座る副団長様。メニルお母様はその後、お茶の用意をしに行った。
「君がハヤトくんだったとは、最初女の子だと思ってしまったよ……すまないね」
副団長様は謝ってきた。
「慣れてるので大丈夫ですよ」
こう返してあげる。実際慣れてるしね。
「それで、団長から遠征の詳細予定説明を任されてるんだが……本当に行く気なのかい? 普通君みたいな子供を連れて行こうなんて有り得ない事で、ちゃんと断れば遠征に行かなくても全く問題無いんだけど……あの人あれで少し……いや、かなり強引にこの話進めてるからさ。そもそも…………」
俺は監視対象ではあるが、団長様以外のお偉いさんは俺の事をさほど重要視していなく、むしろ風聞などを気にして俺の遠征参加には否定的という事らしい。
そりゃまぁ8歳の子供を軍の遠征に付き合わせたりしたら色々と問題もあるわな。
しかし俺は行きたいと思っている。北の魔大陸の魔物を間引きすれば、それだけこの国に住んでる魔物に怯えて暮らす弱い人達が助かるのだ。
暴力に怯えながら暮らす人達の助けになるのだから、行きたくない訳がない。
なのでこう答える。
「団長様から言われて仕方が無くという事ではなく、俺自身が行きたいと思ってます」
「そうか……」
そう短く答えてから副団長様は俺の顔をジッと見て、何か納得したようだ。
そんな話をしているとメニルお母様がお茶を持って戻ってきた。
「お待たせしました〜」
メニルお母様がそう言ってソファーに座る。俺とメニルお母様の間に、ミレニーも何と無くという感じでちょこんっと座った。
はぁ〜もうミレニーたんは可愛い。この子なんでこんな可愛いんだろう?
もうミレニーたんマジ天使過ぎてお兄ちゃんは幸せです。
「それではご説明をさせていただきます」
おっと説明が始まるようだ。ちゃんと聞かなければ。
「まず遠征予定ですが、出発が5日後の昼で朝10時には魔法騎士団本部に顔を出していただきます。そこから北の魔大陸の移動に1週間。この間は町に寄るのは物資の補給のみで、野営しながらの行軍となります。これは森に潜む魔物を減らすのと同時に、ペンドラ騎士団の新規メンバーとの連携確認・野営訓練も兼ねての行軍です」
ふむふむ。森に潜む比較的数が少なく弱い魔物で実地訓練をしながら行軍すると。
「次に本命となる北の魔大陸での予定となりますが……これはまだ未定なのですけれど、団長はハヤトくんと2人のみで行軍から外れ、ペンドラ騎士団の予定行路よりも北の魔大陸奥にてペンドラ騎士団と並走するように東の海に向かうつもりのようです」
俺は絶句した。メニルお母様も絶句している。
「私としましてもそんな事は認められないと言ってはいるのですが……何分あの人は強引なところもあり、引き出せたのは野営しながらの最初の1週間でどうするか判断するというところまででした」
副団長様は申し訳無さそうに俺とメニルお母様の顔を見る。
メニルお母様は俺の方に目線を送る。その目には自分で決めなさいという意志が見えた気がした。
団長様には恐らく意見を変える気がそもそも無いのだろう。
だから俺は先を促す。
団長様に言っても変わらないのなら気にするだけ無駄だろう。
「わかりました。続きをお願いします」
副団長様は俺の方を向いて呆気に取られた顔をし、次にメニルお母様の顔を見て確認する。
「よろしいのですか?」
「もちろん心配はあります」
「ならば……」
「でもこの子が大丈夫だと判断しました。なら私はこの子を信じます」
メニルお母様はそう言いながら俺をミレニーごと抱き寄せる。メニルお母様の顔を覗くと、不安そうな顔をしながらも決意に満ちた顔をしていた。
多分クラガお父様と色々話し合って、既に俺の判断に任せるように決めてあったのだろう。
副団長様は一つため息を吐いて、諦めたように遠征予定の説明を再開した。
「わかりました……しかしあくまでも未定なので、通常の行軍予定も説明させていただきます。北の魔大陸到着後は部隊毎に3つに編成されたチームで大まかに役割を分担します。1つが斥候チーム、このチームは魔物の間引きをしながら野営場所を見繕い、その周辺を探索する斥候チームとなります。次に野営チームで野営の設置と休憩がメインのチームとなります。そして最後のチームが野営地周辺の魔物を間引く事をメインにした間引きチームです。これらの役割を交代しながら行軍します」
つまりABCの3チームを作って三交代制にするわけか。
例えばAチームが朝の8時から16時まで斥候として野営地を見つけて周辺を調べたら、16時から24時までそのまま野営地にて休憩し、24時から朝の8時まで別なチームが見つけた野営地周辺の魔物の間引きをして朝の8時に斥候に戻ると。
Aチームが野営チームとして休憩中の16時から24時の間は、BチームかCチームがそれぞれ斥候チームか間引きチームになってるわけだ。
「このサイクルで1ヶ月かけて東の海を目指します。北の魔大陸での行軍が終了したならば次の帰路になる訳ですが、こちらの帰路はペンドラ騎士団の多少の執務や顔見せの意図もあって町に滞在しながらの行軍となり、予定では3週間ほどかけてイスタラ王都に戻る事になってます」
1ヶ月16時間勤務の休み無し予定とかブラック企業過ぎだろ。その代わりに3週間は観光しながら帰りますよって感じなのかな?
多少の仕事もあるっぽいけど、微々たるものなのだろう。
「これらが遠征の詳細な予定になります。基本的に必要な物はペンドラ騎士団で支給されますが……装備とか魔瘴石などは持ってませんよね?」
魔瘴石とは自らの魔素を込めて保存しておける石である。
ほとんどの人は俺みたいに自然魔素を自由に吸収出来ないので、冒険者や騎士団なんかは万一の為に即座に魔素回復出来る魔瘴石を持つのが当たり前である。
魔瘴石は魔物から取れる魔石を加工した物らしい。魔道具にも使われる電池みたいな物だと考えて差し支え無いだろう。
「こちら、団長から弟子になった記念として預かってまいりました。魔瘴石を加工したネックレスです。それと、装備に関してはハヤトくんに要望を聞いてくるように承りました」
そう言って俺は副団長様からネックレスを受け渡される。……これかなり高そうな魔瘴石なんだけど
「あの……これお幾らくらいするんですか?」
思わず聞いてしまった。
「団長の手作りらしいですが……魔瘴石だけで見ても、500万ファジーくらいはしそうですね……普段は隠して持つ事をオススメしますよ」
500万ファジー!?
この世界の通貨はどの国もファジーという同一規格の通貨なのだが、1ファジーは日本円で言うところの10円くらいである。
つまりこのネックレスは5000万円近くの魔瘴石を使ってるらしい。横のメニルお母様も値段を聞いて唖然としたまま固まっている。
「こっこっ……こんな高い物を、俺に……?」
あの人は8歳の子供になんて物を贈るのだろうか。
「団長曰く、『ハヤトくんの魔力値で考えると、このくらいじゃないと魔瘴石としての意味がないからね』だそうです」
なるほど……確かに魔力値から予想される魔素量が増えれば増えるほどに、魔瘴石に求められる品質もしくは個数が高くはなるだろう。
品質を求めればそれだけ強い魔物の魔石が必要になり、それだけ入手が困難になって値段が高くなるわけだ。
それにしても500万ファジー……弟子になったとはいえ、この間会ったばかりの子供になんて物を贈るんだろうか。
「それで、装備はどうします?要望があれば団長にお伝えいたしますが……体格的な問題でオーダーメイドしか作れなくて、尚且つ団長が自ら作るそうですが、特に要望が無ければ団長の趣味で決まると思われます」
あの人の趣味とか絶対コスプレになりそう。俺って女の子みたいな見た目してるから女装のアニコスがそのままガチ装備になるなんて可能性もあるわけで……
「少し、お待ちください」
俺はそう言ってメニルお母様を連れて居間を出る。
「どうかしたの?」
メニルお母様が聞いてくる。
何故メニルお母様を連れ出したのかには理由があって、クラガお父様の部屋に入ってクラガお父様の予備の装備などを確認したかったからだ。
更に言えばその装備を副団長様に手渡して、要望の曲解による女装コスという事故を防ぎたい意図もあった。
これらの事をメニルお母様に告げる。
「わかったわ! パパの部屋に一緒に行きましょうか」
俺は飾られた装備や服の中から2つの物を選ぶ。
1つは黒のロングコート。
手首の辺りはもちろん、二の腕部分や腰周りの部分にもベルトが付いており、大き目なサイズで作ってもしばらくは使えそうなデザインであり、ポケットも多めで使い勝手が良さそうである。
これに循環術式を組み込んで魔素を通せば魔道具となる。
循環術式とは簡単に言えば魔法の式構築を維持して、魔素さえ送れば常に魔法が発動する術式の事である。
もう1つ俺が選んだ装備は刀のような見た目の剣であった。
日本刀みたいなのが良かったけど、こっちはきっと団長様が勝手に暴走して日本刀にして作ってくれるだろう。
黒のロングコートを羽織った日本刀を持つ可愛い男の娘……萌えるわ〜とか言いながら頑張るに違いない。
この2つを持って居間に戻る。
「この2つ、クラガお父様の物なので団長様に見せた後はクラガお父様にお渡しお願いいたします」
そう言って俺は副団長様に手渡す。そして要望も伝える。
「コートに組み込む循環術式は、通した魔素の属性に合わせた障壁展開になるようお願いします。剣に関しては循環術式は自分がやりますので、循環術式用の窪みだけ入ってる自分のサイズに合った物を見繕ってくれるとありがたいです」
「ハヤトくんは循環術式を作れるのですか?」
やった事は無いけど多分大丈夫だろう。なので頷いておく。
「わかりました。では服の方は当日手渡しで、剣の方は循環術式を組み込む手間もあるでしょうから明後日にでもお届けするようにしましょう」
「わかりました。ちなみにお支払いはどうすればいいでしょうか?」
「問題ありません。団長が全て持つそうです」
あの団長様は金持ちなのか?
……世界最強の騎士団の団長なわけだし金持ちなんだろうな。
「では私はこれで戻ります。ハヤトくん、5日後にまた会いましょう」
そう言って副団長様は屋敷を出て行った。
ちなみに終始静かだったミレニーは話が始まって直ぐに寝ていたりする。寝顔も天使なミレニーたんである。
さて、刀予定の武器に組み込む循環術式を明後日までに作らなければ。
そう考えながら俺はミレニーの寝顔をしばらく眺め続けた。
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@akira_kouno0918
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