第14話 俺の師匠はオタクだった件・5
R15作品です。
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@akira_kouno0918
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……目を開けるとそこには……
「知らない天井だ……」
このシチュエーションでこのタイミング。元日本人の俺からしたら逃せない。思わず言ってしまうよねこれ。
ていうか何あれ?
俺の魔闘化状態で視認出来ないとか、単純な速度の問題じゃないよな?
恐らくとしか言えないけど転移で背後に出現して、首に手刀でもされたんだろうな。
転移とか反則だろ。
そもそも最初に何も喋る間も無くいきなり仕掛けて来やがって……俺子供だぜ?
まだ8歳のペーペーだぜ?
……まぁ言い訳ですよ。
正直俺はもっとやれると思っていた。負けて悔しいってのも勿論あるけれど、俺は調子に乗っていたんだと思う。
家族に魔法の素質の高さで驚かれ、無詠唱も使用可能で、誘拐犯を返り討ちにして……心の底ではなんでも出来ると思っていた。
でも負けた。
これが本当に命懸けの場面なら、俺は死んでいたのだろう。
今はそれに気付けて良かったと思う事にする。まぁあの団長様のやり方には納得出来ない物が多々あるけれどもね。
「起きたかハヤト」
横から声がして振り向くと、クラガお父様がそこには居た。
「身体の調子はどうだ?」
言われて確認するが、何処にも異常は無さそうである。身体の傷は俺が気を失ってる間に治療されたのだろう。
「問題ありませんね。直ぐにでも動けると思います」
「そうか、ならユーエ様に会いに行くぞ」
それを聞いた俺はあからさまに嫌そうな顔をしたのだろう。クラガお父様がこちらを見ながら苦笑している。
「安心しろ、あれは最初だけの事だろうからな」
あれとは練兵場での模擬戦の事であろう。
「わかりました」
そう言って俺はベッドから立ち上がる。クラガお父様はその動作を見届けてから歩き出した。
団長様の居ると思われる場所に向かいながら俺は考える。
そういえば俺はクラガお父様どころか、団長様やバルト様にまで奥の手とか見せちゃってるんだよね。
オリジナルの魔法ならまだ才能や工夫次第でなんでもありだし、どうとでも言い訳出来る。
しかし限定解除はまずいかもしれない。
この技法はこの世界で得た知識で作ったのではなく、前世の日本でやっていたGFOの、あるクエストでのゲーム内説明を思い出して作った技法だ。
そのクエストは龍人種と呼ばれるドラゴンに変身する人物を倒して、その龍人種から魔闘化を学んでスキルゲットだぜっていうクエストである。
ちなみに魔闘化から魔闘衣を作り出す辺りが俺のオリジナルだったりする。ゲームでは変幻自在の近接戦闘武装としてよく使っていたのだ。
話を戻そう。
この限定解除及び魔闘化という技法は、少なくとも俺が読み漁った書物の中には一切書かれていなかった。『体外の魔素を使う』この一点が問題なのである。
通常魔素ってのは使えば減って、減れば体外からゆっくり吸収して回復するのだが……この回復のサイクルに関して、書物にも記されていなかったある情報を俺は知っている。
魔素は基本の八主要と呼ばれる属性エネルギーに変換する事で魔法を行使するが、実は体外を漂う魔素自体も不定形ではあるのだが属性を持つ。
その不定形な魔素の中から自分の身体に合う魔素を、無意識に身体が吸収しようとする事で回復するのである。
しかしどの書物を確認しても、そのような記述は無かった。『魔素とは何か?』というタイトルの本ですら、体外の魔素が不定形な属性エネルギーという記述が無かったのだ。
前提知識を持って確認しなければ、気付く事も困難であろう。
そんな中で俺は体外の魔素を惜しげも無く使った。使ってしまった。
使い方は簡単に言うなら、体内の魔素を体外の魔素と同じ不定形な属性エネルギーに変換して同調させる。
そうすると体外と体内の魔素の隔たりが消えて、自分の認識出来る範囲内の自然魔素はある程度意識的に吸収出来るのだ。
こんな常識外れな事をやってしまったのだから、なんか不味いと思うんだよね。何が不味いのかって言われると、もうなんか色々としか言えないくらいには不味そうだよね。
そんな事を考えながら歩く事10分ほど。クラガお父様は等身大フィギュアが入り口横に飾られた一室の前で止まる。
これもなんか見た事あるキャラだわ。
先端がハート型の魔法のステッキを持った、服装も髪もピンク一色って感じのツインテール魔法少女で、魔法のステッキを入り口に向かって構えるかのように飾られている。
これはアニメじゃなくてゲームのキャラだったと思う。
コンコン
俺がフィギュアに目を奪われていると、クラガお父様がノックした。
「どうぞ〜」
中から団長様と思われる声がして、クラガお父様は扉を開ける。
「「失礼いたします」」
2人でそう言いながらクラガお父様と一緒に室内に入る。
「おっ、きたね」
室内に入ると、団長様が書類の束と格闘しながらこちらを見て呟く。
「ちょっとだけ待ってね〜もうちょいで書き終わるから」
室内を見渡すとフィギュアが溢れていた。棚にも談話用テーブルにも執務机にも窓際にも、置けそうな所には大量のフィギュアが飾られていた。
「よしっと、さて……いらっしゃいクラガ・ヴァーチ、ハヤトくん……君達にはあるお知らせがあります」
書類仕事をひと段落させたのか、団長様が凄いにこやかに話し始めた。
「お知らせですか?」
不安そうにクラガお父様が答える。俺もあのにこやかな笑顔を見ると、美人の笑顔のはずなのに何故か不安になってくる。
「ハヤトくん、君は私の弟子になる事が決まり、来週から修行する事が決まりました! はい拍手〜」
パチパチパチパチ
団長様だけが拍手をしている中で、俺とクラガお父様は呆気にとられた顔のまま固まる。
先に動き出したのはクラガお父様だった。
「ユーエ様! 来週ってまさか……遠征にハヤトを連れて行く気ですか!?」
「そうだよ? ハヤトくんは現時点で既にこの王都どころか、この国の中でも屈指の実力があるから問題無いと判断しました」
弟子?
はっ?
この国屈指の実力があるから問題無い?
なんか色々一気に言われても理解が追い付かないんだが。
俺は団長様の弟子になって、来週の遠征に連れて行かれて、その遠征はある程度の実力が無いと危ない物であるって事か?
「正気ですか!? ハヤトはまだ8歳ですよ!? 弟子になる事に関しては願っても無い事ではありますが……しかし地獄の遠征と呼ばれるペンドラ騎士団の訓練にこの子を送り出すのは流石に……」
地獄の遠征?なにそれ怖い。
ていうか弟子になるのはクラガお父様的にいいんだね。俺は嫌なんだけども。
ここは自己主張しなければいかんだろう。俺はもう流されやすい日本人ではないのだよ。
「すいません、弟子になる事も含めて辞退したいです」
言ってやったぜ。
団長様がキョトンとした顔をしてこちらを見る。
そしてまたにこやかな笑顔を作って語り掛けてきた。
「ハヤトくん。君は力を持ち過ぎているんだけど、その年齢でその力はとても危険だと国は判断するんだよね。それでこの国ってのは軍事帝国な訳だけど、この国で強過ぎる力を持った大人には基本3つの選択がある。1つが軍に入る事。もう1つが冒険者として活動する事。もう1つが監視されながら生きる事。例外的に危険視されて殺されるって事もあり得る。でも君の場合には年齢的に軍に入る事も冒険者になる事も難しいよね? 必然的に監視下に置かれる事になる訳だけど……君の場合で言うと、君が強過ぎる所為で私が近くに居ない状況は少し問題があるんだよね」
ふむふむ。
つまり俺は強大な力を持っているから、不測の事態を引き起こされる事が怖くて国が管理したいって事か。
まぁ8歳の見た目は女の子な子供が、周りの人間達が水鉄砲のオモチャに水着装備なのに対して、実弾のマシンガンに防弾チョッキ装備で自由にしてるようなイメージをするとわかりやすいな。
しかもその装備は取り上げられない。
管理しなければ、となるのも当然か。
「だから国からしたら私自身が監視するのが一番いいんだけど、私も魔法騎士団のペンドラ騎士団団長っていうお仕事もあるから常に監視なんて不可能なわけよ。それで思い付いたのが弟子にしてそばに置いておこうってわけなんだよ」
なるほど。これは拒否出来ない案件なのですな。
ここでクラガお父様が口を挟む。
「ですが……この子はまだ8歳で地獄の遠征なんて……」
「8歳だからこそ、だよ。この子は直ぐにでも知るべきなんだよ。その力で何が出来るのか、出来てしまうのかを、ね」
クラガお父様は押し黙って俯いてしまう。
弟子になるのはもう仕方がないと諦めて、俺はずっと気になっていた事を確認する。
「地獄の遠征って何処に行って何をするんですか?」
「ここから北に向かうと、国境から先に『北の魔大陸』と呼ばれる魔物の領域があるのは知ってる?」
「知ってます」
「この国の西にはネェジ共和国があって、我が国インラ帝国とネェジ共和国の国境付近の魔物は冒険者が狩りを頻繁にしてるから問題無いんだけど、北東付近は隣国も無くて定期的に魔物を間引かなきゃいけないんだよ」
インラ帝国から見て東は海で西はネェジ共和国、南にオン法皇国があって、北に魔物の領域である魔大陸がある。
「それでイスタラ王都から北の国境に向かって、北の魔大陸に入ったら東の海に向かって国境沿いに魔物を狩っていく事になるかな。それで……」
遠征予定期間は北の魔大陸に入るまでが1週間、そこから魔物を狩りながら東の海に向かって1ヶ月、間引きが終わって戻るのに3週間の合計2ヶ月ほどらしい。
俺としても魔物の間引きはむしろ参加したいくらいなので、もはや反対意見は何も無かったりする。
「わかりました。俺もその遠征に参加させていただきます」
なのでこれが俺の答えだ。
「ハヤト……お前いいのか?」
「はい。元々魔物を狩りたくて冒険者になりたかったくらいですし」
クラガお父様は心配そうに「そうか……」と呟いて、遠征拒否の説得を諦めたようだ。
「決まりだね! じゃあ今日のところはこれで解散で、後日、そうだな……4日後辺りにまた詳細を説明するよ。あぁっとそうだった、ハヤトくんはこの後に一応昨日の誘拐事件に関しての事情聴取を受けて貰うから受け付けに案内してもらってね」
「わかりました」
そう言ってこの場を後にした俺とクラガお父様は、受け付けに説明して案内をしてもらい、事情聴取を終わらせてから家に帰る。
余談だが、本日元々予定されていたクラガお父様との話し合いは、昨日の誘拐事件に関して事情聴取で説明した事で問題が無くなった。
そんな事よりもクラガお父様にとっては地獄の遠征の事の方が大事らしく、メニルお母様と2人で色々と話し合っていたようだ。
それにしても俺に師匠か。しかもその師匠は世界最強と呼ばれるペンドラ騎士団の団長様ときた。
一体何をさせられるんだろうか?
なんかいきなり模擬戦させられたり、地獄の遠征とか呼ばれる魔物狩りに同行させられる事になったり……あんな清廉で美しい見た目の美女なのに脳筋っぽいよな。
ツッコまれると思っていた限定解除と魔闘化に関してもツッコまれなかったし。
俺の平穏もあと1週間ほどで終わりかもしれん……
オタクで脳筋な師匠との今後に不安を抱えながらこの日は眠りについたのであった。
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