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7/22

【帰宅】

 

「で?」


「ん?」


「ふっふっふ~、僕に隠し事していない~ニキ?」


「…ぉ、ぉぅ」


「声小さいよ~」


「…察してくれ」


「情報少な過ぎるし、どう考えても無理だからね?」


「…そのニヤケ面止めてくれ」


「えー!?」


「えーじゃねぇ…」


「折角ニキ『で』遊べるいい機会なのだから、逃がすわけないさ~」


「…」



 何だかニキ様がグッタリして頭を下げているのが見えるのだけど、彼等が居る場所から少し離れた場所に居るため、何を話しているのか良くわからない。


 わからないのだけど、二人の席の近くに居た常連のオジサマ達が何故か此方を見てニヤニヤしている。



 …何故?



 うーん私が何か関係しているのかな?


 此処からだとお客さん達の話し声であまり良く聞こえないのよね。



「レナちゃ~ん、これ3番テーブルにおねがーい」


「はーい」



 出来上がった料理をトレイに乗せて配膳していると、店の女将さんが「これでゆっくり話せるわよ」って、ニキ様達のテーブルに苦笑込みで話していたけど、一体何故なのだろう?








 配膳が終わって、食堂の台所の方に足を運ぶ時にふとニキ様達の方をチラリと見ると、その席は常連のオジサマ達が3名程追加。


 あの3名のオジサマ達、何時の間にかニキ様や騎士様達と仲良くなって居るのよね。


 羨ましい。


 私だって仕事中で無ければ、性別が男性だったら。あの輪に極々普通に紛れ込んでいたかも知れないとかって思ってしまうのだけど、それはそれ。


 今私が此処に居るのは今までの事柄があったからこそだし、女でなければこの職場でウェイトレスをして居られなかっただろうから、ありもしないことを考えてもどうしようもない。


 と言うかね。


 今こうして『お仕事』と言う名目で【推しメン】様のお姿を拝見出来るのだから、この世界の神様に感謝感激雨霰お煎餅ですよ!


 …とは言え「お煎餅」と付けるのは前世、幼い時住んでいた地域で流行っていた言葉で、この世界にはお煎餅という言葉も無いし、お煎餅も雨霧も存在して無いけどね。




 おや?何故かケイン様がニキ様の頭を小突いてグリグリしている。そしてニキ様は真っ赤な顔をして俯いている。


 彼の前にはバックギャモン(二人で遊ぶボードゲームの一種。前世の世界での最古のボードゲームらしい)。この様子からどうやらニキ様、ケイン様に負けたらしい。



「ふっふっふっ~わかっているね、ニキ?」


「ぉぅ…」


「声小さいよ~」


「わかったよ」


「じゃ、早速いってらっしゃい」


「…はっ?」


「はっ?じゃないでしょ~僕との勝負に負けたのだから。ほら、早く」


「う、ぉ、ぉぅ…で、でもよ」



 おや?ニキ様まごついている?


 ケイン様が「どもったりしてニキらしくない」ってニキ様をからかっているし、ニキ様なんて赤面して…ん?


 常連のオジサマ達まで冷やかして居る??



「あ、あの!」



 ニキ様が此方を向いて片手を上げて居る。


 と同時に、オジサマ達が小声で「よっしゃ、頑張れ坊主!」「イケイケ」「フラれるなよ」と声を掛けて来る。



 …えーと?


 ふられる?


 この状況って、えー…?



「レナ、さん。今日は仕事何時頃上がるのか。い、いや、その、上がる?」


「ぶ。ニキってば何故疑問系~」



 椅子に座ったままのケイン様がニキ様をニヤニヤと笑いながら茶化している。


 あ~この雰囲気は…罰ゲームなのかしら?


 きっとそうだよね、だって何処から見ても庶民の私にお貴族様しかも伯爵様のご子息様がこんな風に声を掛けるなんてありえないもの。


 …皆、私が元男爵家の娘で、現在三男のジーニアス兄さんが遠い親戚筋である伯爵家の跡を継ぎ、ジーニアス・アルセーヌ・ガルニエ伯爵当主となっているコトは誰にも言っていない。トップシークレットと言うわけである。



「そ、そのっ、ですね」


「今日は何時もと同じ時間帯、8時位には上がります」



 この世界の常識は残念ながら学校に行かせて貰えなかったので詳細にはわからないが、この町は夜、女性の独り歩きは危険とされている。


 幾ら街中とは言え貴族街とは違って一般人が住む町は騎士団が居るとはいえ、夜間は犯罪発生率が高い。幾ら領地の中心的な町とは言え、この世界は女性が一人で歩ける程治安が良いとは言えない。


 …王都は治安が良いと言う噂は聞いたことが何度かある。


 前世では夜中でも女性が出歩いても都会は比較的危険が少なかった世界らしいが、前世も現世も田舎者の私には『夜出歩いても安全』と言うコトは良くわからない。


 前世の田舎、限界集落に住んで居た私は、夜は野生の危険生物が出ても(熊とか猿、猪等)街灯等があまり無く、視界が悪いから対処がしにくい為、夜は遊び歩くなって言うのが常識だったし、現世も同等。下手したらそれ以上にもなる。何せこの世界は魔物と言う、人間でも動物でもない生物が居るのだから。


 怪我をしたく無ければ、命惜しければ夜出歩くな、と言うものである。


 これは前世も現在も同じ。



 ふと思い出す。


 一時オカルト好きな都会の若者が来て、ネットで適当な噂を流され、村の山や森林等私有地を無断で車で走り回って居ると言う話を聞いたことがあった。確か、「入ったら出られなくなる、呪われた村」だとか、「地図から消された村」だとか「国家規模の隠蔽目的で消された村」とか。


 いやいや、その村はダムになったから沈んだだけの長閑な元村なだけだから。


 うちの村じゃないわーっと言うことで、個人所有の山の入り口に「立入禁止」の看板立てたら、年月が立ってアチコチ書いた文字が消えて風化。


 それを見たどっかのお馬鹿さんが、「呪われた村の跡地」とかアホな中継をネットで配信していて村民一同でその動画の存在を見知って大爆笑した。


 後日その私有地は、所有者のお孫さんがサバイバルゲーム好きだと言うことで、広い敷地内の一部をサバイバルゲームフィールドとして開放し、コアなファンには有名地なった。


 当時私有地を勝手に動画配信した人は、今頃赤っ恥をかいているかも知れない。



 …あの時のじっちゃんばっちゃん、今も元気だろうか。


 隣家の大人になって結婚をし、家を出たお姉さんの子供が産まれたって言っていたなぁ。夏休みに孫を連れて帰省するってとても喜んで居たなぁ。


 私も赤ちゃんの顔を見てみたかったな。



 出来ることなら次はまた、前世の同じ場所に生まれ変わりたい。





 前世の事柄は兎も角。


 ニッコリ微笑んでみる。


 前世で言うところの業務用とか営業用とかの笑顔と言うヤツだが。



「ぐ」



 うん?えーと何故、私の営業用の笑顔にニキ様は半歩程だけど、後退するの?戸惑って躊躇しているってことよね?というコトは、私の営業用の笑顔って怖いのかしら?


 確かに『営業用』って普段から思っているし、心からの笑みとは違うけど…営業用だしそんなものでは無いだろうかって思っていたし、普段はこの笑顔でも酔っぱらいのオジサマ達は笑顔で答えてくれるのだけど。


 うわ、そうとは知らずに長い間皆にこの笑顔を向けていたわ。


 御免皆。


 鏡があれば、せめて気が付いて居たらこの笑顔を向けなかったのに。でも可笑しいなぁ、皆普通に接していた筈なのに。もしかしてニキ様だけ駄目、とか?



「にーちゃん、女に免疫ないのか」


「その顔で?」


「おお、マジ?」


「イケメンなのにか!?」


「マジか」


「ヤラナイカ」



 ニキ様を煽っていたオジサマ達が驚いた顔をしてニキ様の事を見ている。


 若干一名酔っ払って妙なことを口走ったようだが、気のせいだろう。


 オジサマ達がドン引きしたのはきっと幻聴&幻覚だろう。




「あっはっは、ニキは学生時代からさ~女の子達から迫られても、秋波を送られても全く気が付かない鈍感だし、何より女の子相手には免疫が無いのさ。それに意外と純情だしね~。だからさ、ニキが女の子に慣れる為にほんの少しでいいから協力して貰えないかな?」



 おぅ、ケイン様に邪気の無い笑顔を向けて『お願い』をされてしまったョ。










 * * *









「お待たせしました」


「お、おう。お疲れ」


「レナちゃんお疲れ様~」



 仕事が終わってから店の裏口へ向かうと、何処と無く緊張した面持ちのニキ様が待っていた。


 何となく側頭部がグチャッとしているのは、待っていた間にかき回していたってことなのだろうか。じーとニキ様の髪の毛をつい見てしまったら、慌ててニキ様が手櫛でパパパッと撫でて髪型を直している。


 その彼の隣には先程頼まれた彼の友人であるケイン様。


 ニキ様の様子を見て苦笑を浮かべている。


 最初ケイン様に言われた時は冗談だと思って居たのだけど、どうやら本気だったらしい。



「ね?最近この街も物騒になって来たからさ、ニキに家まで、ううん家の近場まで送って貰って欲しいのだけど良いかな?」



 最初言われた時、何を言われたか理解が出来なくて。


 次第に理解して行った時には目が点になった。


 いや~何処の世界にお貴族様のご子息が、たかだか一般市民を護衛すると言うの。


 どういうコト?何か企んで…?等など考えてみても、私にはお金がないし価値だってねぇ?


 あ。もしかしてジーニアス兄さんの知り合いなのかな?乙女ゲームでも間接的に関係はしていた様に思うし。何せジーニアス兄さんはこの国の第二王子の近衛騎士。そしてニキ様とケイン様は学生時代第二王子の側近候補だった筈。


 だからジーニアス兄さんの妹なら『強い筈』と言う理論が出来上がっている、とか?


 それに眼の前のお貴族様のご子息の方がお金持ちなのは誰がどうみてもわかるし…あ。



「もしかして、『私』がニキ様の家まで護衛すると言うことですか?」



 うわ~それならヤメて~。


 私ジーニアス兄さんみたいに騎士団に入って訓練受けて居るわけじゃないから、どう考えても弱っちい小娘ですよ。身長はこの世界の女性にしては小さい方だけど、それは幼少時の過酷な食生活のせいで身長が伸びなかっただけで。


 それに今は只の一般人ですし。訓練のくの字も習得して居ない私にはどう考えても無理難題ですよ?


 確かに酔っ払った男性客位なら放り投げること位は出来ますよ?


 …多分。


 勿論身体強化魔法を使ってですけど。


 ですが、未婚の淑女…とまでは言わないけど、鍛えていない一般市民の女性が見るからに鍛えていますって身体つきのニキ様の護衛っていうのは、普通は無い。


 多分。



「ぶふっ」



 あ、ニキ様笑った。


 プルプルと肩を震わせてって、んー…。



「ごめ、ぶ、ぶくく」


「笑っちゃうってことは緊張ほぐれました?」


「ああ、あー…俺かっこ悪ぃ…」



 ボリボリと後頭部をかく仕草は彼の癖。乙女ゲームでも何度かあった彼の癖だ。照れたり、こうやって恥ずかしいなって思ったりした時に無意識に出る癖。


 我がオシ、もう学園に居た時のように少年っぽさから脱して大人の仲間入りの年齢に入ったのにも関わらず、この仕草。


 ヤバイ、滅茶苦茶可愛い!と叫んでしまいたい!!


 しかし、何故隣に居るケイン様は口を開けてポカーンとしているのか。


 唖然とした顔してない?



「ニキが物凄く恥ずかしがっている…」


「あのな、俺だって恥ずかしいって感情ぐらいあるって」


「えーでも~ニキのす…っ!」



 ニキ様が急にケイン様の顔を片手で覆い、「ぐもぐー!」と言い出したケイン様に、「何でもないよな?なぁケイン?」とニーコリと微笑んだ。


 でもその微笑みって物凄い迫力があるのだけど。それにチョット…邪悪っぽいような。



「何でも無いよな?なぁ?そうだろケイン?」


「うぐ、もぐ、もぐぐっぐぐぅ」



 ケイン様がくぐもった声で何かを言っている様だが、何を言っているのかわからない。


 と言うか、それってー…かなり不味いのでは…



「首絞まっていません?」


「あ」



 顔面蒼白の前世での推しメン其ノ弐の白目。


 見てはいけないモノを見た気がするのは何故だろうか…







 * * *







 夢に出そうな程の酷い土気色気味だったケイン様。


 その頬は急激に朱が入り、地面に座して咽ている。


 …うん、座してなんてなんとな~く和風っぽい言い方だけど、今のケイン様の状態はまさにそのまま。肩肘立てて道に座り込んでしまっている状態。


 そしてその脇には鞘に収めてあるショートソードがベルトに無造作に差し込まれている。


 何処からか「忍者か」と言う突っ込みをしたくなったけれど、この世界には当然忍術も忍者もシノビも居ない。勿論クノイチも。ウッカリ声に出して話した後、どういう意味とか人物かと問われたら返答に困る為に口には出さない。心の中でヒッソリ思うだけに留めておく。


 兎に角、この世界は前世の日本のように女性が夜道を歩いても暴漢に襲われにくい程治安が良くはないのだから、武器携帯のスタイルは『騎士』だとすれば当たり前の姿。勿論ケイン様だけではなく、ニキ様も剣を携えている。


 …よく見るとニキ様の武器はこの街の騎士団の人達が携えているのと共通の剣らしく、飾りっ気のない実用的なモノのような気がする。


 支給品なのかな。



「酷いよ~ニキぃ~…」


「余計なことをするからだ」


「でもぅ~言わないとこの娘多分気が付かないよ?鈍いみたいだしぃ」


「う…」


「それにさ~…」



 急にガシッとニキ様がこの場から離れた物陰にケイン様を連れ出し、ボソボソと何かを話し込んで居る。


 うーん…何を言っているのやら。


 大体は察することは出来るのだけどさ。


 先程のことをケイン様に謝っているってことなのだろう。


 …この場から少し離れて連れ出す程のことなのかどうかはわからないけど。


『男同士のナントやら』なのかも知れないし、そうなってしまうと女の私には分からないし、ソコの所の事情を察する程仲良くなっているワケでもないからなぁ。


 それに、ね。


 実はケイン様のお名前伺って居ないから『知らない』ということになっている。


 ニキ様は何度かお店に来ている都合上、紹介と言うか何と言うか。


 常連のオジサマ達のお蔭で名前を知ることが出来たのだけど、ケイン様の場合は未だに紹介がないから『知らない』って事になっている。


 乙女ゲームのお蔭でケイン様のお名前を知っているのだけど、先程からウッカリ名前を呼びそうで怖い。教えて貰うまでこのまま、『お名前?いやいや知りませんよ?』と言う風に素知らぬフリをして呼ばないようにしないと不味いよねぇ。



 それに…


 もしかしたらってこともある。


 この世界は乙女ゲームに酷似して居るけど、何から何まで同じかどうかまでは私には判断出来ないし、そもそも乙女ゲームの設定である時期から三年程経過して居る。


 何処までも乙女ゲームの世界の設定と同じって言うことは無いだろう。


 そもそもゲームと現実世界とでは色々なものがかけ離れている。



 乙女ゲームの世界では二学年~三学年辺りに出来る鉄道があるのだが、王都から港町までは確かに走っているが、その後ここモイスト領へ王都から繋がる予定だったのだけど、戦争により未だに繋がっていない。


 ゲームの世界では遅くても三学年辺りには開通していた筈。なのに、ゲーム終了して三年経過しても未だ開通して居ない。恐らく隣国との戦争によって物資不足なせいもあるとは思うが、一般人としてはソコの所は詳しくは無い。



 まぁモブですから。


 乙女ゲームに存在としては認識されて居ては居たけど名前なんて勿論出て来ないし、第二王子の近衛騎士である攻略対象者、ジーニアス兄さんの兄妹、三女としてだけ。


 そんな存在のせいか、名前等無いゲームでの存在意味あるのか?と言いたいぐらいなモブな私。まぁ、ジーニアス兄さんの攻略する際に多少影響あるのかな~?いや、無いだろって言う程度の『情報』としての存在。


 ジーニアス兄さんがヒロインと初対面当時、影がある印象を持つと言う設定程度の存在其ノ弐なのです。ちなみに存在其の壱はデュシー姉さんの事だ。


 そんなちっぽけな一般人な存在としては、国の情勢とか諸々は存じていないのですよ。


 そもそも戦争中とかは貧困妾状態で情勢とか良く分かっていなかったし、何より戦争地域が国境付近だったらしく、元ロドリゲス領からはかなり離れていて然程影響が無かった。


 ただ戦争が勃発していたから貧困に拍車が掛かって居たのだろうなとは思っている。町の町民も若い男性の姿が一時的に減っていたし、何より物価が上がって貧困に拍車が掛かり食うに食えずの状態。そのためあばら家の僅かにある土地を耕し、種を蒔いて水を何度も汲んでと必死だった。哀れに思ったのか隣家の人から二十日大根の種を貰い、それを育てて何とか日々食いつないで居た。


 兎に角、目の前でニキ様と戯れている男性の名前が乙女ゲームの設定通りの『ケイン・ノスタルジア・ジアス』と言うお名前であろうことは教えて貰うまでは知らないということで。


 とか考えていたら、



「こいつの名前教えて無かったな。ケインって言う」



 サクッと教えて頂きました、はい。



 何だろう、精神的に一気に脱力した気がする…。



無許可で森等に侵入することは禁止されています。

煙草の吸殻やゴミ等の破棄はしないようにお願い致します←

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