【隣家】
「ふぁぁぁ…」
はい、早朝から大変大きな欠伸をしている残念乙女なレッティーナ、略してレナです。
深夜に非常に残念な乙女な悲鳴を上げてしまい、近隣付近の人々に多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。恐らくこの平和な街故に当分の間はネタに困らなくなるでしょう。
そして尾ヒレがついて、最終的にはわけわからんネタに仕上がるでしょう。
実体験じゃ、コンチクショウめ。
つまり、何がと言うと。
今朝起きてからパン屋の女将さんに襲撃され、何がどう噂されたのかは判断出来ないが昨夜の事柄が何故か、『街にリッチが出て雄叫びを上げた』となっていた………。
ナンデソウナッタシ。
どうもゲシュウが黒い布で顔を覆っていたので勘違いされたらしいのだけど、噂する街民の皆様や、よーくよく考えて欲しい。
どう考えてもこの街の騎士さん達が街中に魔物等入れさせるワケが無いでしょ~!
言っとくけどね、他の街の騎士達は知らないけれど、ロドリゲス領の騎士は弱腰で全く役に立たなかった!何かと言うと口にはしないけど、賄賂と言うジェスチャーをしてきたしね。
その癖役に立たないと有名だったし。
更には実家のアレイ領はド田舎過ぎてそもそも騎士が居なかった!
ほら、凄くない!?
って比べる所が二箇所しか知らないから他わからないけどさぁ。
でも!モイスト領のこの街の騎士達は呼べば直ぐに来てくれるヒーローだよ!?
滅茶苦茶良い人達だよ!?
よく街中で道を尋ねる人に親切に教えたりしているのを見掛けるし、物を落としたら即拾ってくれたり、真夜中なんて人知れずにパトロールをしてくれるのは当たり前。おまけにさり気なく夜間運営している店を数人で訪ねて犯罪が起きていないか見回りをしてくれる。
騎士にとってはノルマなのかも知れないし、モイスト領主の指示なのだろうけど。
…私、この世界に来てほぼほぼ始めてだよ!こんな住心地の良い街は!
そりゃあ王都に行けばもっと治安が良いかも知れないけれど、この街ってロドリゲス領みたいに貧民街が無い…いや、あるにはあるけど廃れては居ないのよね。
確かに貧しい人々は居るにはいるけど仕事には然程困って無さそうだし、ロドリゲス領のようにボロボロの服を着て何日もお風呂に入って居ないと言う風貌では無い。おまけに男性ばかりが仕事をしているワケではなく、女性たちも手仕事が多いけれど何らかの仕事をしているのを見掛けている。
もしかして比較的治安も良いし、女性も安心して過すことが出来る領地なのかな~。
噂ではカモーリ港があるサザーランド領の方が女性にとって仕事も家事も育児もしやすいと聞いたことがある。でもそれは此処の領主の妹君であるモニカ様が嫁いでから環境問題やら女性問題やらと、急激に改革が勧められたとか。
という事は、やはりこの領地は女性にとっていい環境。更には女性が元気に過ごせる基礎が出来た街ってことなのかなぁ。
っと、話がソレた。
目の前で私の無事を腕や背中等をパンパン叩いて彼方此方確認をしているパン屋の女将さん。
ちなみに今は朝の5時。何時もよりも早めの起床となったのは、早速噂を持って来た小麦粉の配達をしに来た配達員のせいだ。
何でも噂によると…昨夜、帰宅途中らしいと思わしき女性が不死のアンデットのリッチと遭遇。その際リッチは駆け付けた騎士団達に恐れをなして雄叫びを上げて逃げた、と。
あ、はい。その雄叫びは間違いなく私ですね、トホホ。
と言うか何と言うか、この街今迄リッチなんて化物出たこと無かったのだけど、なにがどうしてそんな風な噂になったし!誰だ!歪曲した話に仕上げた人は!?
元々の形を歪め過ぎて苦笑しか浮かばんわっ。
これはアレか!?私の悲鳴がオゾマシイ声だったってことか~!
「と、まぁそんなワケなのです、女将さん」
「あらら、大丈夫だったレナちゃん」
ゲシュウの話は伏せ、『帰宅途中に男に襲われそうになった』という話にして女将さんに話しておく。
事実だし嘘は言っていない。
ただ変にゲシュウのことを話して女将さんに心配を掛けたく無かった。
「そうそうレナちゃん。その件について騎士さん達がお話を聞きたいって言っていたわよ」
そう言えば昨夜は夜間ということと、まぁ、その。ニキ様との件で取り乱してしまって(だって推しに!よく鼻血が出なかった!偉いぞ~私の鼻!)絶叫。そのため、落ち着かせようと言うことで話は明日聞くと言うことでニキ様達が私の家まで送ってくれたのだ。
…とは言え、騎士団の詰め所の二階が私の借りている住まいである寮なんですけどね。
はい、夢は見ません。
ただのついでですもんねー。
詰め所に帰っただけですものねー。
…そう言えばさ、この寮って今私しか住んでいないのですよ。
しかも独身寮っぽい。
正確には独身者は一人暮らしだから、一人暮らし用の住まいと言うことなのです。
でもさ、何だかさっきから隣らしき場所から物音がする気がするんですがー。
「あの、女将さん」
「あらなぁにレナちゃん」
「空き家の筈のお隣から音がする気がするのですがー。気の所為ですよねー。そうですよねー。幻聴デスヨネー」
「あら~嫌だわぁ私ったら、一番大事なことレナちゃんに言うのを忘れていたわ」
何だか物凄く胸騒ぎがする。
良い意味でも悪い意味でも困ってしまうような、そんな予感っ!
と同時に私達、女将さんと私レナは二階の私の寮のドアを開けたまま会話をしているのですが、当然隣から物音がすると言うことは私達が会話をしていると言うことを察している筈で。
ガチャリと隣の部屋のドアが全開し、予想していた人物が顔を出しー…あ、うん。やっぱりぃ?
其処には早朝だからか、何時も見ているようなキッチリとした衣装ではなく、若干普段着っぽい、だが一般庶民の服装よりも生地が良さそうなシャツと、黒い多少ダボッとしたスラックスを履いたニキ様が顔を出した。
「お早う御座います。て、ああ!レナさん!昨夜はスイマセンでしたーっ!!」
おうふ。
挨拶返す前にほぼ叫ばれたような。ベッタンという音がなる位の速度で頭を垂れ、
「未婚女性になんてことを俺はしてしまったのだ!このようになってしまったからには責任を取ります!どうか、俺とっ!!」
「ひ、ひぇえ」
ガシッと両手を取られてしまい、その場で硬直してしまう。
今、一体何を。
ニキ様何を言おうとして…あ。
スパーンッと言う音がニキ様の後頭部に綺麗に決まり、片方の靴を手に持ったケイン様が「阿呆!落ち着け血走り過ぎだ、馬鹿ニキ!」と、素足になった足でゲシゲシとニキ様に蹴りを入れていた。
…え。
なんて地獄絵図…。
一瞬チラリと見えた足裏に、『フェチにはご褒美ですケイン様』と言う前世の言葉が脳裏に突き刺さったけれど、今は空気を読んでお口チャック。
そして女将さん、「あらやだ~朝から青春きたー」とか言ってニコニコしていますけど、何だか諸々勘違いしていそうで怖い。
案の定、数時間後には噂に尾ヒレがついて、昨夜のゲシュウ事件が何故か『魔物のリッチがとある女性にプロポーズしに来たが、騎士によって撃墜され略奪された』となっていた。
一体どういう噂の尾ヒレー!!
と言うか何故リッチから離れない!この噂ー!?
読んでいただき有難う御座います(*´ω`*)




