海駆ける方舟
たまには息抜きを。こんなことばっかやって、本編の更新が遅れそうですが、あしからず。
戦いに必要な物。
それは間違いなく食料だと、彼は思う。
彼の名前はサンダース。
元は旅人だったが、今では大きな行商団を率いる立派な行商人だ。
彼らが取引するのは普通の人ではない。
今まさに戦争をしている国家や組織と取引をする。
そんな、一風変わった行商団だった。
民衆は彼らを、「戦場の行商人」と呼んだ。
今彼らは、戦時中の国家である「オスミーン帝国」へ向けて、大海原を駆けていた。
「しかし団長。もうすぐで帝国の戦争も終わるみたいですよ。」
「だろうな。こちらとしては、もう少ししていてくれたほうが稼げるから、少し残念だが…」
「夏終盤でしたし、あともう少しはぎりぎり稼ぎ時でしたからね。」
太陽の国、「サンズ・マロン公国」
彼らの祖国であり、仕入れ相手でもある。
広大な土地、豊かな気候。作物を育てるのにはこれ以上適した土地はないと言われる同国であるが、しかし、国内の人口は比較的少なく、作物を輸出せざるを得なかった。
「団長!港が近づいてきました!」
「おう、わかった!おいお前ら!今年最後の稼ぎ時だ!しっかり行くぞ!」
船は活気に包まれ、迫る港に向けて着々と準備を進めていた。
オスミーン帝国の港、ユイチェル。
前線の兵士への食料として、大量のパンや干し肉、野菜類にコーヒーを引き渡した。
その見返りとして、金貨を馬車数台分受け取った。
オスミーン帝国は今年、国土の全土で不作だったがために、食料品の多くを外国から輸入しなければならなかった。
結果、相対的に代金は大きくなった。
「これで今年の稼ぎは終わりですかい、団長。」
「うむ。そろそろ収穫の時期だ。帰った時ぐらいだが。しかし、今年はこっちもたくさん稼げた。これだけあれば、新たな事業にかかることもできそうだな。」
「新たな事業?傭兵派遣でもやるんですか?」
「そんな訳はないだろう。前から言ってなかったか?北に航路を開拓するんだよ。」
サンダースが部下にそう言った時だった。
遠くから、彼を呼ぶ声があった。
「お呼びのようだ。お前ら!明後日までには帰るからな!」
大声で部下達に叫んだ。
「御用はなんでしょうか。マルコス公爵閣下。」
「貴国に、これを持ち帰ってもらいたい。無論、報酬は払おう。」
そう言って、彼は、サンダースに小包を渡した。
「これは?」
「我らが生きるためには、多くの物を失わなければならない。そういう事だ。」
その言葉を聞いて、サンダースは全てを察した。
「わかりました。全てを賭けてこの荷物をお預かり致します。」
「恩に着る。」
2日後。
「あぁ、もう行かなきゃならんのか…!」
「そんなに良かったのか?」
「あぁ、最高だった…!あんな奴今まで抱いたことがねぇよ…!」
団員の誰かが、惜しみ深く嘆く。
「ありがとう!ユイチェルの皆さん、ありがとう!」
「母ちゃん、村の皆、今年は大丈夫だよ!」
一人ひとりがその思いを胸に(何人かは声に出てるが)、ユイチェルを旅立つ。
船が向かうのは祖国、サンズ・マロンだ。
「世界は今日も回り続けるか…我らの恵みは天の恵み。どんな出会いにも運命があるのだろう。」
そう言い、一枚の手紙を握りしめていた。
船は今日も、進んで行く。
反響次第じゃ何か続きを書くかも。
まあ、気長に行きましょう。