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〝スパイダー・パーク〟


 僕の名前は柏木蓮弥(かしわぎれんや)。何処にでもいる普通の高校生だ。

 東京都足立区の偏差値50ちょっとの公立高校に通っている。身長は168センチ、体重は50キロ。夜のおかずは二次元と三次元が3対7くらい。かわいそうなのは抜けない。

 そんな僕は今、公園の植え込みに隠れてスマホを弄っている。


 最近一番ハマっていることと言えば……人並みだけど、〝パーフェクト・ワールド〟だ。ARグラスをかけてスマートフォンを使ったリアル・アプリ・バトル――これが、滅茶苦茶面白い。

 魔法を放ち、剣を振り、銃を撃つことで相手を攻撃できる――ポケモンGO以後、今ひとつビッグ・タイトルが出ていなかったARゲーム界に衝撃を与えた(らしい?)

 いつでも出来るサバゲーみたいなもの。全身運動になるからダイエットにも良く、体を動かさない子供達の身体能力向上にも一役買っているそうだ。

 またゲーム内通貨が特徴的だった。〝シェル〟という現金にも交換できる仮想通貨が他のソーシャルゲームの〝コイン〟やら〝ジェム〟の代わりだ。これはゲーム内で手に入る以外に、イベントやスポンサーとのコラボ大会などでも積極的に配られていた。

 故に中高生だってそれなりに強ければお小遣いを稼ぐことができた。そういう魅力も相俟って、アンダー20の人間のインストール率は50%以上。凄いよね。

 僕はなろうの異世界ものとか、ガンダムの戦場の絆とか、もちろんサバゲーも好きだった。PS4のVRだって大いに楽しんだ。最近読んだ小説で一番面白かったのは、〝READY PLAYER ONE 〟――つまり僕みたいな「ヒーローになってみたいぜ」ってゆるオタにはうってつけのアプリだったと言える。外で実際にスポーツチャンバラみたいなことをしている訳だから、あんまりコミュ障だと難しいって側面もあったけど。

 Youtuberなんかは誰もがこぞってこのゲームをプレイした。老若男女、目の前の相手と「力比べ」ができる。知名度も稼げる。プロゲーマーの人数だって、この数年で爆発的に増加していた。


 そして最近、それが一つの区切りを迎えようとしている。

 このゲームはチーム……〝ギルド〟〝クラン〟〝クラブ〟〝サークル〟呼び方は各集団毎に統一されていないが、各種の同盟(アライアンス)が存在する。

 それが〝帝國〟一つに統一されつつあった。

 結果としてあれほど酷かった野良同士の争いは喧騒を潜め、街中に現れるNPCのモンスターや、一部の頭の悪いプレイヤー・キラーを帝國のメンバーが仲良く倒す、そういう光景が各地で見られるようになっていた。


 さて、そんな普通な僕に起こった一番驚くこと言えば――今目の前で帝國の人達が〝惨殺〟されていることかな?

 いつも通り学校の帰り道の公園でパーフェクト・ワールドをプレイしようとしていたんだけど、


 僕は慌てて攻撃をかわした。

 白く煌めく糸。凄まじい速度で空を裂いて帝國のプレイヤーを体力を削り続けている。

 黒いシックな仮面(マスケラ)。左目を覆う部分は蜘蛛の巣のようなデザインになっている。複眼をイメージしたのか紫色の石が埋め込まれ、街灯に反射して不気味な輝きを魅せる。

 何より特徴的なのは――右腕が三本あるってことだ。

 意味が分からないだろう? 僕も意味が分からない。でもどうやらコスプレじゃあないみたいだ。筋電義手なのか、AR空間上の産物ではなく実際に動く腕を複数本持っているらしい。

 三日ほど前から突如としてこの街に現れた化物――〝スパイダー・ガール〟

 帝國の人間を仇のように倒し回っているという噂は真実だったのだ。


 しかし、驚いちゃうよね。刃牙とかワンピースとかで驚いている謎のモブの気分が凄くよく分かる。ヤムチャ視点とはこういうことだ。小説家になろうとかで昔よくあった「ナントカ視点」みたいに記載して主人公の活躍ぶりを記述するシーンがあったけど、今それを読んでいる時の気持ちを思い出している。

 昨日、自宅のワイファイがぶっ壊れてたせいで、パーフェクト・ワールドのアプリ更新を忘れていてこの場所の戦闘には参加できなかったんだよね。

 だから今日はささっと近寄ってアイテムをパクろうと思ってたんだけどさ。

 なんか帝國の連中がうじゃうじゃいてヤバそうだし、仕方ないから次のアイテム発生タイミングまで待とうと思って遠くから眺めていたんだよ。

 〝帝國〟所属のプレイヤーは毎日帝国領の場所からアイテムを優先的に取得できるからね。

 たまにそれを恨んで攻撃してくるプレイヤーがいることもあったけど、大概はこっちのほうが人数も多いしなんとかなってたんだ。そうじゃない時は、撤退が間に合うし。

 

 目の前でまた一人、二人とプレイヤー立ちがその場から逃げ去っていく――僕は銀糸を避ける。危ない。当たりそうだ。

 小さな蜘蛛が当たりを這い回り、彼女を中心に展開される蜘蛛の巣を伝って周囲のプレイヤーに襲いかかっていた。粘つく蛍光グリーンの液体をかけられる度、焦りからか動きが悪くなっていった。

 僕は小蜘蛛にシッシッと手で払う動作をする。VR上のユニットだからこんなこととしても無駄なんだけどね。


 しかし……なにこのプレイヤー? 強すぎない?

 足立区といえば「ドラゴン」〝大貫竜悟〟とか、「キングコング」〝不破剛太〟とか、後はちょっとアングラっぽい奴だと「黒鮫」〝橘明人〟とか――まあ全国区から見てもすげぇってプレイヤーは結構いるんだよ。

 なんていったって、パーフェクト・ワールドの実質的な制作者とされている水上月斗も足立区の出身だしね。

 この辺じゃあんまり見ない顔だねって感じ? いや、マスケラ越しだから正確なことは言えないんだけども……テレビで見たよねって感じの顔だ。誰だっけ? 思い出せない。

 しかし、だ。こんな鄙びた公園でこのレベルのプレイヤーが何してるんだろう?

 

 とにかく試合運びは高度過ぎてまるで踊りを踊っているみたいだった(ポンポコリン並)

 銀糸が煌めく度にライフが全損していく。

 スパイダー・セットって奴はまあ、僕もきいたことがある。誰も使わない、マイナーで難しいアプリ群だった筈なんだ。作者である秋山楓も認める、超絶難度のアプリ・セットだ。


 小さな蜘蛛がその辺に飛び散っている。蜘蛛の巣は彼女を中心にどんどんとその範囲を広げていた。

 派手な攻撃をしているようには見えないんだけど、逃げ出しているプレイヤーが多いのはそれだけライフを削られてるって事だろう――また、銀糸が射出された。よく見ると、紫だったり緑だったりと液体が飛び散っている。


 ……此処にいるとそろそろ殺されてしまいそうかな?


 とりあえず、明日の学校のネタはこれで決まりだった。

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