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六章 第2話 魔眼の探求者

 平日最後の日の放課後、その人は突然やってきた。


「エレナ=ラナ=マクミレッツさんはいらっしゃる?」


 教室の戸口に立つのは夕焼けのような赤い髪の女性。先日エレナと決闘で激しく戦ったファティエナ先輩その人だった。鮮やかな色と上品な顔立ちを制服の白が引きたてて、鎧姿とはまた違う美しさを醸し出していた。


「あ、ファティエナ先輩!」


 レイルの机を囲って談笑していた俺とエレナは戸口へ向かう。なぜ俺までついて行くのかと言うと、少し別途の頼みごとがあるのだ。


「エレナさん、怪我の具合はどうかしら?」


「いただいた湿布もよく効いて、すっかりよくなりました」


 決闘の日以降直接顔を合わせるのはこれが初めてだが、2人はファティエナ先輩の執事ガレンを間に多少連絡を取り合っていた。先輩がエレナの怪我を心配して学院の外から取り寄せた湿布薬を贈ってくれたり、逆にエレナが危険な魔法の使用を謝ったり。武器についてはお互い壊してしまったので謝り合ったようだ。人の手紙を読む趣味はないので、詳しい内容まではよくわからない。ただ遺恨があるわけじゃないものの、別段親しくなったということもないらしい。


「遅れてしまいましたが、約束を守りに来ましたの」


「ありがとうございます。今すぐですか?」


「もし予定が埋まっていれば明日以降でも構いませんわよ?」


「いえ、大丈夫です!」


 先輩が態々1年のクラスまでやってきたのは決闘の代価、魔眼研究者への紹介をするためだったようだ。


「それなら行きましょう。あまり探られても面白くないですから」

 目で教室を指す先輩。肩越しに振り返ると残っていたクラスメイトたちが興味津々にこっちを窺っていた。たしかにエレナの魔眼のことはまだ黙っておいた方がいい。場所を移すのは賛成だ。


「あと、アクセラさんまで連れて行くつもりはありませんわよ」


「ん、やっぱりですか?」


 魔眼を研究している偏屈研究員リニア氏、ちょっと見てみたかったのに。


「リニアには1人連れていくとしか言っていませんもの」


「ならしかたない。ただ一つ、別件でお願いがあります」


「歩きながら話しましょう。あんまり遅いとリニアが来客を忘れそうですし」


 変わり者とは聞いていたけど、大概浮世離れした研究者みたい……。

 とにかくそういうことになったので、俺とエレナはレイルたちに別れを告げて教室を出る。もちろん鞄は回収した。


「とりあえず研究棟に向かいますわ」


 俺はその道中で要件を話せと、そういうことだ。言外の命令口調や堂々たる足取りにやはり上級貴族の風格が漂う。なんの心得もないただの生徒も彼女が歩いて来ると真ん中を譲るのだから、本当に一味違った威厳のようなものがあるのだ。ここまで凄いのはネンス王子くらいだろう。


「先輩の執事、ガレンさんを借りたいです」


「……理由を聞きましょうか」


 細い眉がわずかに寄せられる。そんな頼みだとは思っていなかったのか、こちらの意図が理解できないとでも言いたげだ。


「ときどき手合わせしたい」


「ガレンと貴女で、手合わせを?」


「不足だと思いますか?」


「不足だと言いたいわ。でも私、嘘は嫌いですの。吐くのも吐かれるのも」


 ガレンは主にきちんと戦いの経過を話したようで、先輩の口ぶりからは俺の実力に対する理解が感じられた。どことなく不機嫌そうなのは自慢の執事が手こずらされたからか、それとも借りたいと言われているからか。


「私が大切な執事を貴女に貸し出すとして、貴女は何をしてくれるのかしら」


 うっすらと機嫌の悪さを纏わせながら先輩は尋ねる。エレナのときから分かっていたことだ。何かを要求するなら代価を支払うという、ビジネスライクに徹したスタンスが彼女はお好みなのだと。


「斧の修復費、負担します」


「冗談はほどほどでないと笑えませんわ」


「冗談じゃないです。あの魔斧、核は無事。違いますか?」


 ガレンとの決闘を締めくくった氷漬けの魔斧は斧頭がほとんど一塊だった。欠けや割れは酷い状態だが、致命的に壊れてしまったわけじゃない。


「柄からつながる魔法回路が切れていたわ。(こぼ)れた刃を研ぎ直すだけでも、あれではかなりかかりますのよ?」


 回路を総点検して斧頭の欠けを補い、刃を研ぎ出す。もげた柄も元の強度を損なわないように、それでいて回路が通るようにつなぎ直さないといけない。あれほど頑丈そうな魔斧だ、元通りにできるだけの鍛冶スキル持ちがいたとしていくらかかるか考えると頭が痛いことだろう。特にファティエナ先輩はなにか事情があるようだし、ぽんと気軽に出せる金じゃないはずだ。

 そこに来て、俺は金が余っているから。


「払えなくはない。5年ほどCなので」


「ご……もうここまで来ると嘘でも本当でも信じたくなくなってきましたわね」


 肩をすくめてファティエナ先輩はため息をついた。それから少し歩き続け、答えを待つ俺に振り向いて頷く。


「いいわ。この月末に修理費の見積もりが届きます。それを見てまだ払えるというなら、私が卒業するまでガレンを手合わせ相手に貸してあげましょう」


「ん、約束です」


「ええ、約束よ」


 よし!

 心の内で拳を握りしめる。ガレンほどの使い手と時々戦えるというのは俺にとってこれ以上ない楽しみだ。未熟な子供を教えるのも、ただ一人稽古に打ち込むのも楽しい。しかし強敵と刃を交えるほど楽しいことはそうない。


「私からはそれだけです。では」


「あら、ごきげんよう」


「後でね」


 ちょうど階段に差し掛かったので俺は挨拶をして降りる。エレナと先輩はそのまま渡り廊下を通って研究棟に向かっていった。


「さて、帰ったらエレナの負担分計算しないと」


 エレナが俺に用意すると言ってすっかり忘れている、決闘に参加するためのお礼。それをしっかり徴収するのだ。


 ~★~


 リニア=K=ペパー、学院を3年前に卒業して現在は研究員。研究棟に一室を貰って住み込みながら魔眼の研究に打ち込む。


「わたしが知ってるのはそれくらいです」


「あの本に書いてありましたの?」


「はい」


 アクセラちゃんと別れてから、わたしと先輩は研究棟を歩いてる。今はちょうど先輩からリニアさんのことを聞いてるところ。


「では覚えておくべきことは3つ。部屋が汚い、人の話を聞かない、没頭すると帰ってこない。それだけ気を付けておくといいでしょうね」


 3つ目はわたしにも当てはまる。もしかすると気が合うかもしれない。


「それとだいぶ変わった人ですから、気を付けなさいな」


「は、はい」


 リニアさんの著書である魔眼研究の扉は3回ほど読んだ。確かに目の付け所が不思議な人ではあると思う。まだ第1巻なのでそこまで根本的な話はなかったけれど、既知の魔眼の性質を改めて考察してみたり、考察に基づいて魔眼所有者と実験を行ってみたり……全体的に独特な試みが多かった。


「さあ、着いたわ」


 研究棟4階の端に設けられた1枚の扉。プレートにはリニアさんの名前だけがある。

 コンコンと先輩がノックするとしばらくして中から物音が聞こえはじめ、段々とそれが近づいて来るのがわかった。そして鉄製の扉が内側へ開いて、白衣を肩にかけた人がのっそり顔を出す。


「あ、ファティエナちゃんか」


「……ふえ?」


 リニアさんはなぜか白衣と眼鏡以外何も身に着けてなかった。パンツすら。よその国の血を感じさせる褐色の肌、アクセラちゃんそっくりの白い髪、大きく膨らんだ胸……エキゾチックな美女が裸白衣で嬉しそうに微笑む。白衣の下が人に見られちゃいけない部分を全て含んでオープンになっていることが、まるでなんでもないかのような自然な笑顔。わたしも一瞬違和感以上のことを覚えないくらいだった。


「まってた……もがっ」


「服を着なさい、変態!」


 ただ旧知の間柄の先輩はすぐにリニアさんの顔を掴んで部屋へ押し込む。よろけて倒れていくリニアさんが先輩の閉じた扉で消える。最後の瞬間、角度的にわたしの目には白い茂みの奥の絶対に見えちゃだめな部分がしっかりと映ってしまった。

 ほ、ほかの人のってあんなになってるんだ……アクセラちゃん連れて来れなくてよかった……。

 それから中では騒音が、なにかを探そうとして積んである物を崩したような激しい音が断続的に聞こえだした。たぶん着替えを探してるんだと思われる。


「あ、あの、先輩」


「そう。あの変態がリニア=K=ペパー。学院が誇る3年前の首席卒業者、その成れの果てとでも言えばいいかしら」


 うん、訂正したい。わたしあそこまでひどくない。


「客を連れて行くとしか伝えていなかったのに……男性だったらどうするつもりだったのかしら」


 それなのにあの格好だったの?


「きたよー」


 鉄扉越しでだいぶ聞き取りづらい声が聞こえた。がんばって探し出した衣服を身に着けてくれたらしい。


「失礼します」


「失礼するわ」


 2人で部屋に入ると、そこは横幅2mくらいで奥行きだけやたらとある変わった部屋だった。本棚や机が無理やりねじ込まれて狭いのに、資料や本が乱雑に積みあがってさらに狭い。そして食べ物の容器やコップがいくつも転がり、全体的にすえた匂いが漂っていた。


「さて、その子が私にあいたいって子かな?」


「なんで下着しかつけていませんのよ!」


 そんな汚部屋のご主人はさっきよりややマシなことに、白衣の下に下着だけは着てる。上が白の簡素なブラ、下がピンクのフリルのついたショーツと揃ってないけど。


「今はこれしかなくってね。部屋にもどればあるんだけど」


「一体何を着てここまできたんだろう……」


「白衣のまえをしめてだよ、後輩ちゃん」


 あ、ダメだこの人。すごくいい笑顔でわたしのつぶやきに返事してくるあたり、価値観が極めて特殊な人なんだとわかる。


「それならとりあえず前を閉めなさい」


「やだよ、あついし」


「ならこれを巻いてなさい!」


 そう叫んで先輩はそこらへんに置いてあったタオルを投げつける。


「しかたないな……まったく、ファティエナちゃんはちょっとおしゃれにうるさすぎると思うんだよね」


 オシャレの前提条件である文明までたどり着いてないのに何を……そう思ったのはわたしだけじゃなかったようで、先輩は眉間に皺を寄せて苦い表情を浮かべた。それでも言わないのは、もう何を言っても意味がないところまでリニアさんが来てるからだと思う。


「それで、この子がどうしたの?」


「それは本人から聞いてくださいな。私はもう帰りますわよ」


 わたしをリニアさんの前の椅子に座らせて、ファティエナ先輩は本当に部屋を出て行ってしまった。何かを取りに戻ったとか、そんな雰囲気でもなく。


「あらら、おいていかれちゃったね」


「い、いえ。もともとわたしの用事で案内してもらったので」


 それに先輩は自室へ戻ってからアクセラちゃんとのやりとりをガレンさんに伝える必要がある。アクセラちゃんはあの人との戦いをとても楽しみにしてたから、あんまり邪魔はしたくなかった。


「それで?」


 下着に白衣だけの恰好で椅子にどっかりと腰を下ろすリニアさん。上下不揃いの肌着に包まれた褐色が惜しげもなく曝される。ファティエナ先輩やアティネちゃんよりも大きい。


「図書館でリニアさんの本を読んだんですが」


「おー?わたしの本をよむなんてめずらしい人もいるね。魔眼解剖の奥義だっけ」


「魔眼研究の扉ですね」


「そうそうそれそれ」


 ホントに大丈夫かなぁ……。


「あれをよんだってことは魔眼研究にキョウミあるの?」


「は、はい!」


「へぇ」


 意外なほど彼女の反応は淡白だった。普通、自分の分野に誰かが興味を持ってたらもっと話そうとするのに。わたしは絶対に話す。


「なんで?」


「あ、えっと、わたし自身が魔眼持ちで」


「うそ!?ちょっとみせて、ほら!こっちに顔よせてもうすこし目をみひらいて……」


 続く言葉を言った瞬間、彼女はわたしの頬に手を当ててぐいっと引き寄せ、見開いた両目でじろじろと覗き込んでくる。あまりの早業に体が硬直してしまった。でもその様子は好奇心に支配されてるときのわたしにちょっと似ていて、我ながら少し自己嫌悪を感じてしまう。

 いや、さすがにここまで一方的じゃないはずだし……。

 しかしこの食いつきの差はなんなんだろう。それまでの印象が180度ひっくり返るほど熱心にわたしの目を見て観察を重ねてる。当然わたしも彼女の目を覗き込むことになって、深い水のような青のなかに薄っすら赤い光を見つけてしまう。

『観察眼』がより正確な情報をわたしにくれる。その光は血管のように目全体を覆っているけど、とても細く繊細でこの距離にならないと分からないようなものだ。血管と違うのは魔力の光を帯びていて、たぶんただの目の人には見えないような脈であること。


「おお、ほんとだ!君はたしかに魔眼持ちだね!」


 そこまで見たところでリニアさんはぱっとわたしから離れる。そしてニッコリと笑ってから卓上に紙とペンを取り出した。


「まずは君の魔眼についてこまかくおしえてくれないかな。もちろん秘密は厳守するよ。信用がないというなら学院に誓約書をだしたったかまわない」


 学院に誓約書を出して破れば追放される。研究員にとってそれはなによりも辛いことだ。ただわたしにとっても魔眼のことは知れ渡ってほしくないことだし、なにより冒険者にとってアドバンテージは手放せない。


「後で誓約書を書いてください。それからどうやってわたしが魔眼持ちだって確かめたのかも教えてください。それならとりあえず半分だけ教えます」


「お、したたかだね。それで半分か……でもまあいいや。どうせ誓約書なんていわないならないも同じだし」


 彼女は一切考えた様子もなく結論を出した。そして紙の端にささっと目の絵をかく。その上から血管のようなものをいくつも描いて、それをとんとんとペン先で突いて見せた。


「魔眼持ちの目は魔力の脈が目玉自体をおおっているんだよ。至近距離でないとわからないほどちいさくて、そとからはみえにくい密閉性のたかい脈だけどね」


「それが見えるということは、先輩も魔眼持ちですか?」


「なんの魔眼かは言わないよ?研究職でも切り札は切り札なんだから」


 それでもやっぱり研究職だ。切り札に成りうる魔眼というだけでわたしは結構候補を絞れた。たとえばステラさんの幸色の魔眼はどうやっても戦いに使えない。そういうものを除外すればいいだけだから。


「誓約書はこのあとかいて事務室にとどけにいこう。君もみとどけてくれればいいから」


 そこで一度言葉を切ってずいっと身を乗り出す。


「魔力視はできる?」


「はい」


「どんな風に見えてる?あるいはどれくらいの強度で見える?いつから認識しだした?」


「えっと、色のついたモヤというか、光の塊みたいに見えます。強さはかなり薄くても見えるかな……強度や密度が結構細かく把握できます。認識したのは物心ついたころからですね」


「魔法と魔力の区別はつく?視力はどれくらい?目の病気にかかったことや怪我を負ったことは?」


「魔法と魔力は区別できます。どうやってかはちょっと言葉にできないですけど。視力は通常で1.8くらいで、目に魔力を通せばもう少し見えます。怪我も病気も経験ありません」


 目の測定はケイサルを出る前にギルドからの勧めで身体検査を受けたときの結果。わたしもアクセラちゃんも体がどう変化しているのか細かく把握できた方が便利だからって、支部長のエドさんが高い機材を使わせてくれた。


「魔力をとおすと視力があがる?そんな魔眼あったかな……」


「あ、それは魔眼の力じゃないです」


 首を傾げるリニアさんの誤解を解く。身体強化魔法やスキル以外にも魔力を通すことで少しだけ体の機能は上がる。だからアクセラちゃんもこれはできて、素の視力ならわたしの勝ちでも魔力ありなら負けたりする。そこは体と魔力を同時に扱う訓練をしっかり積んだアクセラちゃんに分があるんだ。


「普通の目でも魔力をとおせば視力があがるの!?」


「え、はい」


 わたしが魔眼持ちだと知ったとき以上の食いつきで彼女は身を乗り出し、こっちの肩を痛いくらいがっしり掴んで尋ねる。その目は血走っていて、これからわたしを丸焼きにして食おうと言いだしそうなほど怖い気配を宿してた。


「ちょっとまって、それ初耳だよ!」


「エクセララって分かりますか?」


「なにそれ。人?それとも植物?」


「……都市です」


 やっぱり知らないか。

 大砂漠の国とは国交も物流もほとんどない。だからエクセララを知らない人は結構多い。エクセララを知らなくて技術を知ってる人も。技術を知らなくてでエクセララを知ってる人もいる。ホントなら不可分な2つが結びつかない人が多くて、結びつくもなにも両方知らない人の方がもっと多い。それがユーレントハイム王国。


「技術って考え方は?」


「全然」


 リニアさんはそんなことより本題に移ってほしいと目で訴えている。


「技術は大砂漠の都市エクセララを中心に教えられる、スキル以外の力のことです」


「魔眼みたいな?」


「体質依存じゃないですよ。工夫や発想の転換の積み重ねです」


「それで?」


「体に魔力を通わせて強化するのも技術の1つです」


 わたしが本格的に体術も訓練するようになった頃、アクセラちゃんから真っ先に教わったのがそれだった。技術を身につけて戦っている人は大体これを基礎技能として最初に習うんだって。


「結構慣れてないと実戦では使えないですけど」


 それに身体強化魔法と違って効果は小さい。視力や聴力のような感覚の強化ならまだしも、脚力や腕力は本当に小規模なもの。

 その小規模が達人同士の戦いや死線を潜る瞬間では大事なんだけど。


「ふむふむ、そうかそうか……魔力をとおすと視力があがるのか」


 顎に手を当てて左右に首を傾げるリニアさん。手に持ったペンが頬に小さな跡をつけることにも気づかず、しばらくうんうんと唸っていた。

 わたしの話をどれくらい聞いていたのだろう、この人は。


「これはいいことをきいたよ。実にいいことだ」


「は、はあ」


 最終的にはなにかを納得したように頷いた。そして良くも悪くも予想外の提案を口にした。


「いい情報をくれたお礼に、これからも研究室にくれば歓迎するよ。研究内容もまっさきにおしえてあげる」


「い、いいんですか!?」


 研究者にとって研究内容は秘中の秘だ。わたしも詳しいことはアクセラちゃん以外に言わないし、レメナ先生も結局最後までヒントすらくれなかった。なのに彼女はそれを教えてくれるという。


「うん。君の魔眼についてもしりたいからね。で、もうしわけないんだけど今日のところはかえってくれるかな?」


「へ?」


「いや、すぐにちょっと仮説をくみあげたいんだ。だから聞き取り調査のつづきとか君の質問にこたえるのはまた今度ということで!ごめんね!」


「え、え?」


 あれよあれよという間に何かを書きつけた紙を握らされ、わたしは研究室の外へと押し出された。


「ごめんね!」


 もう一度それだけ言って、部屋の主はわたしの前で鉄扉をガシャンと閉じる。誰の邪魔も許さないとばかりに鍵のかかる音が響く。驚いて固まっていても、扉が再び開くことはなかった。


「え、えぇ……」


~予告~

アクセラは使徒であるが、同時に神である。

彼女、いや彼にとって神託とはただの通話手段でしかない。

次回、定時神託


ファティエナ 「ありがたみの薄い神託ですわね」

ガレン 「お嬢様、実際彼女にとってはありがたみなどないモノなのではありませんか?」

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