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五章 第5話 女子寮

!!Caution!!



このお話は新春スペシャル3日連続投稿の1話目です!

 3日の月日は必要な手配を済ませるだけで過ぎ去ってしまった。結局最後まで様子を見に行きたかった店にも顔は出せず仕舞いだ。その間親父殿との接触もほとんどなく、ホランから反乱の進捗について聞かされることもなかった。ある意味平和といえば平和な時間だ。


「着きました」


「ん」


 馬車の外からかけられた言葉に頷く。その渋い声を聞くのも、当分はこれで最後だ。


「行こ」


「うん」


 エレナと頷きあって扉をノックする。それをいつものように開いてそっと手を出してくれるトニー。


「ありがと」


「ありがとうございます」


「いえ、お嬢様。2人ともご武運を」


 15歳になる少女に「ご武運を」はどうかと思うが、実直なトニーらしい。


「イザベルも、行ってくる」


「はい。頑張ってらしてください」


「伯母さま、お元気で」


「ええ、あなたもね」


 微笑む2人に俺たちも笑顔を返す。夏までは会えないと思うと寂しいが、領地を出るときにエレナと確認し合った。これからは姉妹だけで頑張っていく、もう子供のままじゃいられないんだと。


「エレナ」


「うん、行こう!」


 力強く頷く妹はしっかり成長している。そのことを確信しながら、俺は最後の見送りに来てくれた家族へ背中を向けた。まずは寮に行って部屋を確認し、それからクラス分けを見に行くのだ。


 ~★~


 王都が誇る王立学院の正門は王城のものよりもさらに大きく物々しい。くぐる人数そのものは少なくとも、施設の性格上一度の交通量が桁違いに多いからだ。しかも幾重にも巡らされた王都の壁に守られている城と違って独自の外壁と一体化している。すぐそばの王都から騎士団がかけつけてくれるまでは誰に攻められても落ちないだけの防御力が求められているのだ。


「アクセラちゃん、こっちだね」


 俺たちは今、正門を入ってすぐの馬車の乗り降り所からしばらく進んだところを歩いていた。他の新入生が生み出した人の波に乗りながら、寮のある方向だけは確認しつつ。


「あれ?」


「うーん、違うみたい。あの建物を越えて左に行ったらいいのかな?」


 学年当たりの人数が何人なのかは知らないが、3学年と教師や職員を合わせて凄まじい人数がここで暮らしている。そのため学院は広大であり、寮もいくつかに分かれていた。


「第2女子寮ブルーアイリスはこちらです!」


 後ろから押されるままに歩いているとそんな声が聞こえてきた。


「アクセラちゃん!」


「ん」


 ブルーアイリスと呼ばれている女子寮が俺たちの3年間の住処だ。それまでの流れに身を任せる移動から意図的に群衆を縫う方針へ転換して、うまいことそちらに向かう支流に乗り換える。


「入寮者はまず1階で受付をしてください!寮と学院の地図を受け付けの時に配ります!」


 やがて見えてきたその建物はたしかにブルーアイリスの名を贈られるにふさわしいものだった。石と木でつくられた瀟洒な3階建てで、ほとんどが涼し気な青色で塗装されている。ケイサルの屋敷の迎賓館2つくらいありそうなスケール感だけが名前を裏切っている。


「素敵な寮だね」


「ん」


「部屋も結構広そうだし」


「たしかに」


 そんなことを言いながら、上級生と思しき女子生徒の誘導に従って玄関から入る。落ち着いた色調のそこはホールになっていて、数点の美術品や本棚に加えてソファがまばらに設置してあった。他寮の生徒が訪ねて来た時の待合室も兼ねているのだろう。今はテーブルと椅子がいくつも置かれてギルドの受付のようになっているが。


「はい、ここに並んでね!」


 栗色の髪の女子生徒に促されて列に並び、しばらくして受付の前に出る。彼女たちは手元に何十枚という紙を置いていて、そこに書かれた名前と相手を照合しているようだった。


「お名前をお願いします」


「アクセラ=ラナ=オルクス」


「アクセラさんね、ブルーアイリス寮にようこそ。貴女の部屋は3階に上がって右の奥よ。同室の子は……エレナ=ラナ=マクミレッツさん?あら、乳兄弟かしら」


 さらさらと教えてくれる気さくな上級生から色々受け取り、小さく頭を下げて列から抜け出す。

 エレナと同室なのは基本的に縁のある生徒同士を同室にしたほうが楽だからかな?ありがたいけど。


「アクセラちゃん、角部屋だって!」


 エレナが興奮気味に言った。角部屋は人気が高い。なにせ部屋の二面に窓がある。角以外だとどうしても一面にしかなくて景色が寂しいのだ。


「ん、それも3階」


 高ければ高いほど見晴らしがいいのも当たり前だ。


「地図は部屋番号だけだね」


「ん、そうみたい」


 部屋の場所を教えてくれたときに渡された書類を見る。学院内の簡易的なマップと寮の見取り図、そして寮則の書かれた冊子の3つだ。それによるとブルーアイリス寮は商店街からは一番遠いらしい。かわりに練習場や人工丘にほど近く、こっそり鍛錬に励むにはいい立地だ。


「とーちゃーく」


 淡い空色の絨毯に従って3階の端まで行くと、心なしかいつもよりテンションの高いエレナが宣言する。部屋の扉には3001と洒落た字体で刻まれた金属プレートが打ち付けてある。それは書類とともに渡された鍵の刻印と同じ番号だった。


「開けていいよ」


 最初を譲ってあげればエレナは嬉々として自分の鍵を取り出して鍵穴に差し込む。回すと確かな開錠音が聞こえた。無理やり開けるのは難しいと思わせるいい音だ。ブラックオークの扉を押し開けて中に入る。


「ん、きれい」


 部屋も落ち着いたデザインだった。華美にしたいなら勝手に弄ってくれと言わんばかりに家具や装飾品は大人しめのもので揃えられている。まず廊下の左右に扉が2枚ずつ、奥に1枚ある。右は小さな応接室とキッチン、左はトイレとお風呂だった。


「いいキッチン。大きくて設備もそこそこある」


「そうだね。お風呂も2人で十分入れるし」


 奥の扉の先はリビングになっていて、テーブルとソファーなんかの基本的な家具が配置されている。勝手にカスタマイズしろというスタンスはここに極まっているようで、絨毯もテーブルセットのところにしか敷かれていない。家具はまた買い足すことを考えないといけない。


「窓がある」


「ほんとだね」


 左側の壁沿いには大きめの窓がいくつか取られていて、レースのカーテンと裏表で色の違うドレープがかけられている。リビングのさらに奥には左右に分かれて扉が1枚ずつあった。手元の書類曰く寝室だ。


「どうする?」


「窓がある側で一緒に寝ようよ」


「……ん」


 一応成人がもうすぐなわけだが、エレナは俺と同衾することに迷いがないらしい。それがいいのか悪いのかは分からない。ただ、これからの時期は暑いだろうなとだけ思った。


「左側がアクセラちゃんのお部屋、右側がわたしのお部屋でいい?」


「ん」


 どうせ右側は今後寝室扱いしてもらえないのだろう。可哀想に。

 そんなことを思いながら扉をくぐる。寝室はリビングよりやや狭いくらいで、さすが貴族が中心となる学院というべきか、一人当たりのスペースの広さにため息が出る。


「ベッドも大きいし」


 寝室は俺とエレナなら十分2人で寝ても余裕のある天蓋付きベッド、サイドテーブル、壁に作りつけられた衣装棚、勉強用の大きな机と椅子があった。これまで見たどの部屋よりも設備が整っているのは学生として生活するために必要だからか。


「こんな部屋ばっかりなら寮が一杯必要になるのも納得だね」


「ん」


 ブルーアイリス寮は2、3階がここと同じ2人部屋で埋め尽くされていて、1階に貸し出し式の談話室や応接室、食堂、大浴場、娯楽室、使用人の待機部屋なんかが設置されている。しかし大浴場とは。広々とした風呂に入りたいなら貴族同士で裸の付き合いをしろと、なかなかハードルの高いことを要求する設備だ。


「荷物が届いたら家具も足そ」


「楽しみだね」


 会話を続けながら部屋を軽く弄ってみる。ベッドはケイサルのものとよく似た質感で寝心地はたぶん変わらない。その他の家具は上品な装飾こそされているものの、なによりもまず頑丈さを優先した品であることがわかる。最後に窓だが、残念ながら景色はよくなかった。


「木ばっかり」


「まあ、そうだよね……」


 覗き防止のために窓側は背の高い木が何本も植えられていた。窓の多さは日中の明るさにしか貢献してくれなさそうだ。

 あ、でも非常出入り口としては優秀かも。


「はぁ、とりあえずはクラス分け見に行こ」


「あ、わすれるところだったよ」


 エレナはこれから3年を過ごす新居にテンションが上がって肝心の仕事を忘れていたようだ。明日は入学式、そして明後日にはクラスに行ってオリエンテーション。今日のうちに確認しておかないとし損ねそうで怖い。


「鍵はどうしておけばいい?」


「えっとね……あ、閉めておいたらいいって。ただし下で預けてくださいって書いてある」


 向こうで鍵を開けて荷物の運び入れだけはしてくれるのか。親切なことだ。


「ん」


 エレナに頷いて俺は新居を後にした。


 ~★~


 寮の1階に鍵を預けて俺たちが向かったのは教室棟だ。学院のほぼど真ん中にある巨大な建物で、研究棟など3つの棟と合わせて空から見ると大きな十字型に見えるよう配置されている。その入り口ホールにいくつもの看板が立てられ、そこに名前と受験番号が配属クラスとともに列挙されていた。


「すごい人……」


「そうだね」


 確認に押し寄せた生徒はなかなか見ないほどの人だかりになっていた。その集団にどこか他人ごとめいた感想を述べながら、俺たちはさっきと同じようにうまくすり抜けて最前線まで進む。そして必要な情報だけ確認してもう一度すり抜け、人ごみを離脱した。いくら身のこなしで難なく通り抜けられても、押し寄せる人の波に耐えて留まるのは疲れる。


「Aクラスだった」


「わたしもAクラスだね」


「アベルとレイルもAだった」


「押されちゃって他の人はわからなかったよ」


 とにかくアベルとレイルだけは確認できた。あのレイルがAクラスに配属になるほど好成績を叩きだしたとは素直に驚くしかない。あと王子の名前も確認した。俺のことをかつて近衛騎士のようだとのたまったあの王子殿下である。

 まあ、あっちは覚えてないだろうしいいか。

 このときの俺の認識はそんなものだった。親父からは昨日の夜に王子の気を引けとしっかり念押しをされたが、こっちはむしろただのクラスメートくらいの認識で3年をすごしたいと思っている。


「意外と早く終わった。どこか行く?」


「うーん……お店見に行く?」


 外出が難しい学院の中には商業施設が充実している。飲食店以外に素材屋や武具屋もあるとか。


「よし、行ってみよ」


「うん!」


 ブルーアイリス寮からは少し遠いそこへ人ごみを避けて足を向ける。通るのは寮でもらった見取り図を目安にして裏道。遠いといってもケイサルの広い街を裏道伝いにあちらへこちらへ走り回った俺たちには大した距離じゃない。数分もすると新入生で溢れる商店街へと到着した。赤レンガ造りのカフェと木造平屋の店の間の路地だ。


「すごい人だかり」


 これから自分たちが過ごす場所の品ぞろえを確認するために、クラス分けの看板以上の賑わいをここはみせている。特に飲食店が凄まじい。教室棟に接する雑居棟2階には学生食堂があるが、商店街の店は少しだけ高い分品揃えが豊富で席あたりのスペースも広いので人気があるのだろう。


「どうぞ、商店街のマップです!」


 カフェの角に立っていた売り子スタイルの女性が新しい紙をくれる。顔立ちからしてまだ少女、それもここの生徒だろう。働いて生活費や交友費の足しにしているのかもしれない。


「このお店、家具屋さんなんだって」


「見てみよ」


 エレナがマップを見てから木造の店を指さす。家具は買い足す予定なので、もしここで買えるならそれにこしたことはない。


「いいのあるといいね」


 どういうわけか俺を家具好きと思っているエレナは含みのある笑みを浮かべる。内心で何と返すべきか困りつつ店の中へ入った。


「……ん」


「あ、駄目なんだ?」


 エレナ、大正解。

 一歩店何に踏み込んだ瞬間にこれじゃないなと俺は悟った。古今東西、若者は派手で自己主張をぶちまけるような物を好む。落ち着いた物や味わいのある物を好むのは大体が年寄りだ。この学院は若者の場所で、俺はどちらかと言うまでなく年寄りなのだ。

 まあ、つまりそういうことだよ。


「どこ行く?」


「今日はもう帰ろ」


 素材屋にも興味はひかれる。しかしもうこの人ごみを渡って様子を見に行くのは嫌だ。単純にめんどくさい。出鼻をくじかれたせいで一気にやる気がなくなった。


「そ、そうだね。また今度にしよっか」


 荷物だってそろそろ運び込まれていてもおかしくない。それなら戻って荷解きをしないと。


 ~★~


 またも地図頼りにブルーアイリス寮へ戻ってきた俺たちは1階で寮のスタッフと思しき人に頼んで鍵を返してもらう。案の定その頃には荷物も全て届いていた。看板までの人ごみに足を鈍らされ過ぎたようだ。


「晩御飯はここの食堂で食べる?」


「ん」


 とりあえずは寮の食堂の味を確かめさせてもらおう。飲食店や学生食堂はその後だ。商店街で食品も買えるようなので、そのうち自炊もしたい。


「あれ?」


「どうかしたの?」


 3階までの階段を上り切ったところで見覚えのある人物を見つけた。淡い金髪を腰まで伸ばした少女で、華奢な体と不安げな顔のせいでとても儚く見える。アイスブルーの瞳は窓の外に固定されて、何を見ているのかわからないが心細そうだ。


「マリア?」


「ほんとだ、マリアちゃんだ」


「え、は、はい?」


 いきなり名前を呼ばれてこちらに顔を向ける少女。6年前の王都で友達になったロンセル子爵家令嬢のマリアだ。すっかり背も伸びて体つきも成長しているのに、纏う雰囲気のせいですぐにわかった。


「ア、アクセラちゃんと、エ、エレナちゃん!」


 瞬時に喜びで青い瞳を満たし彼女はとととっと走り寄ってきた。


「よ、よかった……すこし、寂しかったから、うれしい」


「女子寮じゃさすがのレイルくんも来れないもんね」


「も、もう!エレナちゃん、そ、そういうこと、言わないでよ」


 安堵したところをからかわれて顔を赤くするマリア。彼女とレイルの蜜月ぶりは何通もやりとりした手紙で嫌と言う程思い知らされている。あまりの甘さに手の込んだ悪戯魔法を2人で組んで返事に仕掛けたのは楽しい思い出だ。


「あ、あのときは、びっくりしたよ」


 懐かしいことを思い出して話題にすると彼女は顔を赤らめてはにかむ。それは返事に少量の砂糖と魔法陣、魔石を同封して、開封すると風魔法が砂糖を勢いよくまき散らすという悪戯だった。文面は「甘すぎて砂糖が吐ける」とだけ。さすがに返事を心待ちにしてくれている彼女に悪いので、数日後に届くようにちゃんとした手紙も書いた。


「こんなところで何かしてた?」


「う、ううん。ただ、外を見てただけ。ま、まだ同室の人が来てない、から」


 部屋割や生活するうえでのルールを決めたくても相手がいなくてはできない。それまでは外で待っていようということなのか。普通は先着で寝室だけは確保するものだ。


「わ、わたしのところ、片方の部屋は景色がいいんだ。で、でもその分少し、外からも見えちゃって……」


 眺めがよくとも覗かれる可能性が少し高い部屋と、覗きは無理だが景色のつまらない部屋。どちらがいいかをちゃんと話し合って決めたいのだとマリアは言った。


「マリアはどっちがいいの?」


「ど、どっちもいいなって……」


 それなら待っていてもいいのかもしれない。願わくは彼女のルームメイトが自己主張の強すぎない人物であることを……。


「そういえばマリアちゃん、今晩は下の食堂?」


「そ、そのつもり。アクセラちゃんとエレナちゃんは?」


「私たちも。一緒に食べる?」


「う、うん!」


 淡い金色を纏う少女は目を輝かせて頷く。


「そういえばマリアの部屋は?」


「わ、わたしは3008。2人、は?」


「3001、あの角」


「角かぁ……い、いいなあ」


 とても羨ましいと言いたそうな表情を浮かべるマリア。果たして彼女は自分が角部屋だったとして、それでもルームメイトと部屋割を話し合うのだろうか。ふとそんなことが気になった。


「そういえばマリアちゃんのクラスは?」


「あ、え、Aだったよ」


「じゃあ一緒だね!アベルくんとレイルくんもAだったみたいだし、あとはアティネちゃんとティゼルくんだね」


「ご、合格から忙しかったから、ま、まだ誰とも確認できてなくて……」


 マリアもアロッサス姉弟の配属クラスまではわからないようだ。


「皆の寮も?」


「うん、ま、まだわからない」


 こうして彼女とも出会えたわけだし、もしかするとアティネだってブルーアイリス寮というオチもあるかもしれない。もっとも、寮は男女で3つずつあるのでそうそう知り合いが同じ場所に固まるとも思えないが。


「そ、そういえば2人は、せ、選択科目どうする、の?」


 学院で教えられるのは歴史や算術、マナー、法律なんかの一般的な科目だけじゃない。魔法、戦闘、薬学など広い技能と知識を学ぶ機会が与えられる。そして、一般科目以外は選択式で何を選ぶかは生徒が自ら決めることになっているのだ。


「とりあえず全部取るかな」


「ぜ、ぜんぶ!?」


 しれっと答えたエレナにマリアの目が点になる。なにせ選択科目の数はとても多い。魔法が基本属性の数、戦闘技能が遠距離と近距離、薬草学のようなフィールドと知識を組み合わせる授業がまたいくつか……重複する授業は物理的に受けられないので除くだろうが、それでも毎日朝から晩までフルスケジュールになりそうだ。


「エ、エレナちゃんは本当に、好奇心旺盛、だね。ア、アクセラちゃんは?」


「戦闘と魔法関係だけ。他はいらない」


 帝王学や商業を覚えるつもりは最初からなく、薬草は基本的なことさえ知っていれば冒険に支障はない。その範囲ならすでに大体覚えたし、抜けがあってもエレナがフォローしてくれる。

 まあ、それを言い出すと戦闘と魔法もいいっちゃいいんだけど。

 その2つはむしろ教えるつもりで参加するのだ。もちろん模擬戦を楽しむためというもある。しかしメインは生徒同士での練習を利用してコッソリ技術を布教することだ。

 細かいかもしれないけど、反感を買わないで布教するには教育課程に混ぜ込むのが有効だからね……エクセララで散々やった手法だし、いけるはず。


「そ、それでも魔法、ぜ、全属性受けるんだね……?」


「使えない属性でも知識があれば対抗できる」


「た、戦うこと前提なんだ……」


「冒険者だから」


 俺とエレナのあり方はもはや完全に貴族じゃなく冒険者が軸となっている。とはいえそれは仕方のないことだ。家督はトレイスが継ぎ、俺は学院卒業とともに旅に出る。エレナも今のところそれに着いて来たいと言ってくれている。つまりは生まれた国を捨てて、本当の意味での冒険者になる予定なのだから。


「あ、マリアちゃん。あの人もしかしてルームメイトさんじゃないかな?」


「え?」


 エレナが指さしマリアが振り向く。そこには1人の女子生徒が、3010の部屋を通り過ぎようとしていた。


「3003から3007まではお話している間に2人ずつ入っていったから」


 おしゃべりに興じながらそんなことを観察していたのか。

 エレナ曰く、3002は逆に2人出ていったところでそのどちらとも彼女じゃなかったらしい。今、ちょうど3009を通り過ぎた。


「うん、あの人だと思う」


「す、すごい……あ、えっと、あ、あとでまた部屋に行くね」


 一瞬だけエレナのセリフに口を開けて固まったマリアだったが、自分がなんのためにここで時間を潰していたのか思い出して自室へと走っていった。


「エレナ、えらい」


「えへへ。じゃあわたしたちも戻ろっか」


「ん、マリアが呼びに来るまで今日の訓練」


「はーい」


 俺たちは次の予定を決めて新しい自室へと戻るのだった。


新年明けましておめでたい方もおめでたくない方も、

今年もまたよろしくお願いいたしますm(__)m


早速ですが、三が日連続更新から2019年を始めたいと思います!


~予告~

再会を喜ぶ少年少女。

彼らが見据える先には真新しい学院生活が・・・。

次回、卒院


アクセラ 「はやいはやい」

エレナ 「式場から攫われちゃいそう」

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