四章 第6話 メイス孤児院
ネヴァラで迎えた最初の朝、俺とエレナは早々に身支度を済ませて侯爵邸を後にした。絡まれると厄介なので家主には一切言わず、世話役としてつけられた侍女にだけ一言伝えて。当の侍女も自分の主の性格はよく分かっているのか、苦笑気味に少し遅れて報告すると言ってくれた。
「ステラ、道案内お願い」
「はーい」
同行者は里帰り気分のステラとシャル、それにトーザックとアペンドラの4人。今日は馬車を使わずお忍びなので、目立つ甲冑なしでも普段の実力が出せる人選だ。俺とエレナもこの旅の定番と化している鎧なしの冒険者装束で、ステラとシャルも私服に着替えてもらってある。ちなみにイザベルをはじめとするネヴァラ出身の使用人には半日の自由時間を与え、親兄弟や友人との旧交を温めるように言い含めておいた。
「後で少し教会にも寄る」
ふと並び立つ立派な邸宅の向こうに背の高い塔を見て、思いついたことを口にしてみる。貴族の屋敷越しでもはっきり確認できるそれは教会のものだ。
「お嬢様ほんとに教会が好きっすね」
祝福式以来足しげく教会に通っていたせいでケイサルでの俺のイメージは信仰心が篤い少女ということになっている。実を言うと最近はあまり行っていないのだが、一度ついた印象とはなかなか消えないものらしい。通わなくなった理由は当然天界へ行けなくなったからだ。
「エベレア司教に会いたい」
「あー……それはちょっと厳しいかもしれませんねー。司教もお忙しいですからー」
「そっか……なら帰りにしよ」
王都への行きがけは時間的に余裕がないのだが、帰りの道はタイムリミットのない旅だ。もともとイザベルとラナの実家へ挨拶に行く予定もあったことだし、エベレア司教を訪ねるのも帰りでいいだろう。
そんな話をしながらネヴァラの街を歩いていくとほどなく一般住宅の多い区域に入った。メイス孤児院は職業訓練の必要性と情操教育の面から、工房の多いエリアと住宅地の間に設けられているのだそうな。
「あ、あれっす!」
シャルが指さした先には田舎の教会ほどの建物が見えた。大きさだけでなく形やステンドグラスを使った窓なんかも教会そっくりだ。
「慈母教会の出資で建てられたものですからねー」
ステラに尋ねてみるとそんな答えが返ってくる。慈母神エカテアンサの大教会がアポルトの方にあり、そこに孤児院の資金を一部負担してもらっているのだとか。孤児院の運営は慈母教会の職務の1つだ。
内容によっては技術教会の方からも支援したいくらいだな。
そんな風に考えているとメイス孤児院は目の前まで迫っていた。教会風の建物に小さな庭と菜園が整備されたいい孤児院のようだ。
「じゃあ、オレらはこの周り巡回してるわ」
「またあとでね」
あまり大勢で押しかけても悪いのでトーザックとアペンドラは周辺警戒を担当してくれると言う。軽く頷いて彼らを見送り、残ったメンツで敷地を覗き込んだ。
「あら……ステラとシャルールじゃないかしら?」
ちょうど内門の掃き掃除をしていた老婦人がこちらに気づいて眉を上げる。
「お久しぶりですー、ドーナさん」
「おひさっす!」
「あらあらあら、2人とも立派になって!」
侍女2人があいさつをすれば、ドーナと呼ばれた女性は柔らかい笑みを浮かべてみせた。品のよさそうな人だ。
彼女の視線はひとしきり2人を見た後、俺とエレナに注がれる。
「この子たちは?もしかして新しく家族になりに来たのかしら?でもどうしましょう、それだと侯爵様にお伺いしないと……」
「いえいえー、そういう訳じゃないですよー」
「あらそうなの?もしかして2人の……でもそれにしては大きいわね?」
「あはは、それも違うっすよ」
この女性、エベレア司教と同じ気配を感じる。超おしゃべりなタイプだ。
「こちらは自分たちがおつ」
「シャルちゃんストーップ!」
「んぐ!?」
俺のことを手のひらで示して紹介しようとしたシャルの口をステラが抑える。お忍びの意味がわかっていないのか忘れているのか、彼女は「お仕えしている」と言おうとしていたからだ。別にひた隠しにしなければいけないわけでもないのだが、一応変に畏まられないためのお忍び。早々に名乗りを上げたら意味がない。
あとシャルは俺に仕えているわけじゃないだろ。一応雇用主は伯爵だ。
「冒険者のアクセラ、こっちはエレナ。ステラとシャルには世話になってる」
「よろしくお願いします」
「あらまあ、剣を持っているからもしかしてとは思ったけど、本当に冒険者さんだったのね?まだお小さいのに大変ねぇ。それにお行儀もいいし、うちの子たちにも見習ってほしいわ!この間も……」
「ドーナさん、もしよかったら入れてくれませんかー?」
話が長くなりそうだと俺が身構えた瞬間、横からステラがそっと提案する。おそらく旧知の仲であろう老女の性格を彼女はよく把握していた。
「それもそうね。せっかく来てくれたんだし、子供たちにも会って行ってあげて。もう貴方たちが居たころの子は出ていってしまったけど、今の子たちも貴方たちの家族ですからね」
「はーい」
「はいっす」
さも当然のようにそう言うドーナに、2人はどこか気恥ずかしそうに微笑みを返す。なるほど、ここが彼女たちにとってはいつまでも家なのだと納得させられる。
孤児院の玄関を入るとそこは外観の教会然とした造りとは全く違うありさまだ。壁紙一つとっても落ち着ける雰囲気で、清廉にして厳粛な感じはない。
「みんな、集まっていらっしゃい!」
食堂らしい部屋に俺たちを案内してから、ドーナは声を張り上げる。そしてテーブルに置かれたベルを鳴らす。小さな割に大きな音の出るそれは屋敷で食事時の呼び鈴に使っているのと似た魔導具のようだ。孤児院中に鳴り渡っただろう音に反応してどこからかどたばたと足音が聞こえはじめる。
「いんちょー先生!」
「なになにー!」
「お客さんだ」
「ほんとだ、おきゃくさん」
「こら、走っちゃダメよ!」
足音はすぐに子供たちの波となって押し寄せる。後ろから3人の女性が自分で歩けない年の子を抱えて追いかけてくる。子供は60人くらい。
「うふふ、増えたでしょ?」
「そ、そうっすね……」
孤児が増えるのはいいことじゃない。けれどここのようなちゃんとした施設に収容される子供が増えたというのは不幸中の幸いだ。
「みんな集まったわね?今日はここの卒業生、みんなのお姉さんにあたる人たちが遊びに来てくれたの。だからちゃんとお行儀よくして、色々なお話をしてもらいなさい」
「ステラですー、よろしくねー」
「シャルっす。お土産もあるっすよ!」
「「「おみやげー!!」」」
2人が自己紹介に合わせて両手に下げていた紙袋を掲げると、子供たちから爆発的な歓声が上がる。
「違うでしょ?」
「「「ありがとうごうざいます!!」」」
ドーナにたしなめられて子供たちはいっせいにお礼を言う。小さいうちから礼儀の教育も施しているらしい。それなのにジャンのようなぶっきら棒が卒業生には多いというのは、なんとも侯爵の功罪の大きさを感じさせられる。
「さあ、お茶にしましょう」
お土産は中心街のあたりで上流階級に売れている焼き菓子店の詰め合わせ。袋に押された店のエンブレムでそれに気づいたのか、ドーナがそう言った。ステラが俺の方を軽く見て確認するので苦笑気味に頷き返す。
今日はステラもシャルもオフで、俺とエレナもお忍びなのだから確認しなくてもいいのに……。
~★~
「へん、冒険者なんて大したことないな!」
持ってきた茶菓子とドーナの淹れてくれたお茶で開かれた茶会のさなか、1人の少年がそう言い放った。話題はちょうど俺とエレナの冒険、といっても冒頭の小さなことばかりだ。
立ち上がった少年は孤児院のガキ大将のようで、腕を組んで見下すように顎を持ち上げて笑っている。他にも5人の男の子が彼に同調して偉そぶる。ステラとシャルが語る伯爵家での些細な出来事や小話に耳を傾けていた少女たちも口をつぐんでこちらを見た。不安そうというよりも騒ぎを待ち望むようなそわそわした気配だ。
まったく、悪ガキめ。
「お前いくつだよ」
「今年で10」
「俺より1つ下じゃんかよ!やっぱ大したことないな!」
何だその理論。自分がまだ10歳で大したことないという殊勝な自己認識があるわけじゃないだろうし……まあ、この年の子供には1歳がとてつもなく大きな差なのかもな。俺には忘れて久しい、いや、もしかしたら一生味わったことのない感覚かもしれない。
「こら、お客さんになんてこと言うんですか!」
ドーナに次ぐ位置にいる職員のエマが少年を叱る。
「だってそうだろ?いっつも院長たち、俺らが冒険者にはまだ早いって言うじゃんかよ!」
「そ、それは……歳ではなく、貴方たちの準備がまだできていないということです」
「意味わかんねぇし!ひいきだ、ひいき!」
少年たちは冒険者に憧れがあるのか地団太を踏んで騒ぎ出す。普段からまだ幼すぎると突っぱねられてきた冒険者という夢に、自分より年下でしかも見た目だけは弱そうな少女がなっていると知った彼らの不満はかなりのものだ。
「院長、俺たちも冒険者になる!」
「こんな弱っちそうなやつがなれるんだろ?」
「そうだそうだ!」
子供たちが騒ぎ出すのは日常茶飯事であるはずのドーナやエマは、しかし黙り込んでしまう。彼女たちからすれば俺とエレナは少年たちが主張する通りに見える。客に失礼なく彼らを抑え込むいい言葉が浮かばないのだろう。
「冒険者ナメないほうがいいっすよ」
困り果てる孤児院の職員に先んじて少年たちに冷や水を浴びせたのは、意外なことにシャルだった。いつものおどけた調子ではなく、底冷えするような迫力を秘めた声だ。それまでのにこやかな態度との落差で彼女の正面にいた少女が肩を跳ねさせる。
「な、なんだよ」
「その2人はCランクっすよ。中堅といわれるボリュームゾーンの」
「へ、へー……Cランクってのもい、意外と簡単なんだな」
駆け出しのFランクかよくてEランクだと思っていたのか、少年たちの顔色が悪くなる。それでも大口を叩いた手前、動じていないと虚勢を張ってみせる。実際Cランクがどれくらいのモノなのか分かっていないのもあるかもしれない。
「一番多くいるのがCランクだって言われてるっすけど、なんでか知ってるっすか?」
「え、いや、知らないけど……」
「なりやすいからとか?」
「間違いっす。Cランクが一番多いのはそれより上に上がるのが極端に難しいから。Cランクになる奴より抜ける奴が圧倒的に少なくて、そこに人が溜まっちまうんっす」
「夜明けの風」の面々もそうだ。天才と名高いマレクを俺は大して苦労せず打ち負かしたが、あれがガックスやトーザックになれば話は別になる。地力と経験、そして引き出しの多さで俺が勝つだろうが、簡単には倒されてくれないくらいに彼らは強い。
「つまりいい大人が何年もがんばって越えられない壁のふもとまで、その2人はもう来てるってことっすよ」
街で見かけるCランクの冒険者と肩を並べることが今の自分たちにできるのか?そうシャルは言外に尋ねていた。その姿は元冒険者としての風格あるものだ。
「う……で、でも……」
とはいえ、経験者の言葉は重いが同時に未経験者に伝わりにくい。それが血気盛んな少年ともなればなおのこと。なので折角シャルがいいことを言ったついでに、俺の方で補強してあげよう。
「試してみればいい」
「試す?」
オウム返しに尋ねる少年に頷く。
「本当に自分が正しいかを。私より強いか、冒険者にもう十分かを」
冒険者は実力主義社会の極致だ。強ければ、賢ければ、何かに秀でていれば年齢も性別も人種も関係ない。実際例の誘拐事件以降、ケイサルの冒険者たちは俺とエレナに一目置いてくれている。Cランクのベテラン冒険者が下手をすれば孫のような年であっても俺たちに同格としての礼儀を尽くしてくれる。冒険者なりの礼儀なので荒っぽいが。
「口で言うより腕で証明するのが冒険者」
「そ、そんなこと言っても……なあ?」
「う、うん……」
いきなりそんなことを言われてもという顔でお互いを見る少年たち。ここはもう1つエサをぶら下げてやるか。
「私に勝てたらギルドマスターに推薦してあげる」
「「「ええ!?」」」
少年たちと一緒になってドーナも声を上げた。戦いを生業にしているわけでも冒険者に詳しいわけでもない彼女からすれば、どう見てもか弱そうな少女を冒険者への登竜門にするのは受け入れがたいはずだ。
しかし何かを言おうとした彼女の耳元でステラが囁く。俺とエレナは他の冒険者と合同で魔獣討伐まで成し遂げた凄腕なので、万が一にも少年たちが勝つことはあり得ないのだと。それを聞いたドーナが目を丸くして見つめてくるので、小さく笑って頷いておく。
安心してほしい、大逆転はあり得ない。
慢心にとられそうだが、自分の磨いた技に自信を持つのは当然のことだ。大体そんな簡単に大逆転がおきるなら世界のパワーバランスはもっとグチャグチャで目まぐるしく変化するものになっている。
あ、もちろんズルい方法でもなんでも俺に土をつけることができるなら本当に推薦してやるつもりだ。知恵も力、俺をハメられるなら十分冒険者としてやっていく素質がある。
「院長、庭かりてもいい?」
「え、ええ、まあ」
やはりまだ半信半疑といったところか、躊躇いがちに承諾してくれた。
「挑みたい子、皆おいで」
残りの紅茶を流し込んで席を立つ。少年たちを待たずにすたすたと外へと歩いていけば、あとから慌てたようにいくつかの足音がついてくる。その後ろから全員の足音がするので残りは観戦客だな。
「へ、へへ……これで俺も」
「ぜってーすぐにCランクなんかこえてやるぜ」
「惨いっすね……」
望外のチャンスに高揚しささやきあう少年たちの後、ボソっとシャルが呟いたのが聞こえた。失礼なやつだ。
「武器はこれ」
庭からそこそこの長さがある棒を4本拾う。俺に挑むつもりなのは6人のようなので、3人ずつに分けて挑んでもらうことにした。
「3人同時なんて卑怯だろ」
「冒険者の多くはパーティーで活動する。一体の魔物を相手に4人以上で戦うことも多い」
「で、でもお前は……」
「魔物のつもりでかかっておいで」
木の棒3本を投げ渡し、自分も1本を構える。ここで流派を持ちだすような大人気ない真似はしない。ただだらりと下げていつでも動けるようにしておくだけだ。
「ほ、ほんとに3人でいくぞ!」
「ん、なんとかなる」
いいから早く来い。そんな気持ちで頷く。それでも少年たちは抵抗があるのか、拾った木の棒を見様見真似の構えで持ち上げても腰が引けていた。なのでもう一度発破をかける。
「一回でも体に当てれたら私の負け」
「い、言ったな!行くぞ!」
「お、おう!」
3人の少年が棒切れを振り上げて走りだす。当然連携も作戦もない。全員が同じタイミングでここだと思って棒を振り下ろすだけ。
「……」
たった1歩、棒切れを掻い潜るように少年たちの間へ滑り込む。
「え!?」
彼らの口からは驚きとも困惑ともつかない声が漏れ出た。踏み込みが見えず、続く動作が目で追えなかったのだ。軽く彼らの頭を木の棒で叩いて討ち取る。
「な、なにしたんだよ……」
「もう1組を見ればいい」
6人を半々に分けたのはなにも棒切れが足りないからではない。当事者になると見えなくとも傍から見ていればわかる動作しかしていないので、それをちゃんと見せるためだ。後半組も後半組で何故俺が1歩前に出ただけで前半組が負けたのか分からなかっただろうから、きちんとそこを体験させてあげよう。
とまあそんな思いで後半組も同じように一歩で討ち取って見せれば、不安そうにしていたドーナやただ観戦していた子供たちから拍手があがる。見ていて楽しいほど複雑でも派手でもなかったのに妙にウケがいい。
「わかった?」
「い、いや、まだだ!」
俺の質問に馬鹿な答えをするのは一番最初の少年だ。頑なになりやすい年なのはわかるが、その時点で冒険者としてまだまだ適しているとは言えない。
「なにが起きてるのかわかったからな、もうそんな手品くわらわないぜ!」
このアホは後半組にいれればよかったな。最初に訳が分からなかったものも、パッと見で意味さえ分かればなんてことないものに思えてしまう。そんなところだ。
「はぁ……ならもう一回、一対一でする?」
「もちろんだぜ!」
「条件は一緒。当てれたら私の負け。君が勝てば推薦してあげる」
それだけ伝えてもう一度対峙する。どこから溢れてくるのか、悪ガキの顔には満面の自信が溢れだしていた。絶対に勝てる、勝って推薦をもらうのだと思っている顔だ。
勝てると確信することは勝負事で結構大事なことだけどさ……少しの差を覆して勝つのに必要なのは運と気迫だから。とはいえね。
「じゃあ、どうぞ」
「やあ!」
やる気ない号令を出すが早いか少年が棒切れを振り被る。さっきと同じ何も考えていない一撃だ。左前に一歩踏み出して棒切れを避け……たと思ったとたん、少年がにやりと笑う。そして全身で左に倒れ込む。腰で体を無理やりねじり、体の向きを変えることで振り下ろしている途中の棒を真横へ軌道修正したのだ。
考えたな……でも躱せる。あ、でもいいや、受けよう。
その状態からでも棒切れを躱すことは余裕でできた。もとが貧弱な振り方なので無理に横に向けても遅いしフラフラだしで酷い有様だ。しかし俺はそれをあえて避けない。むしろ体当たりするように突撃し、腕の外側で棒を受け止めつつ押し倒す。
ドサッ
草の地面に倒れる少年と馬乗りになったままの俺。彼の棒はたしかに腕を捉えたままだ。
「え……」
「……」
「や、やった……やった!俺の勝ちだ!」
心か嬉しそうな顔で少年は叫んだ。ここまでぬか喜びされるとさすがに申し訳なくなる。
「違う、君の負け」
「はあ!?」
「ほら」
少年の首を俺は棒切れでとんとんと叩く。彼の棒が俺に当たるのと同時に俺の棒も彼を捉えていた。首筋にぴったりと。
「いや、当てたら勝ちなんだろ!?」
「違う、私に棒はあたった。私の負け」
「な、なら……!」
「でも私の棒も君を捕らえた。意味が分かる?」
「わかんねえ!」
素直でよろしい。
「君は私を倒せたけど、同時に私に倒されてしまった。私を魔獣と思ってと言ったでしょ?」
俺を殺すことに成功したが、同時に自分も死んでしまったということだ。なんなら魔物の方が頑丈なので彼は無意味な死を遂げたことになる。腕一本もげた程度で死ぬ魔物はそういない。
「冒険者は自分が死んだらそれで負け。大物を倒しても、それで死んだら名声以外何もない。君は私を倒したけど、自分が倒される大失態を犯した」
世の中には自分が死んでも残される物や、死んででも守らないといけない物もある。だが一事が万事そんな状況では生きていけない。冒険者とて仕事。生きるための糧を得る行為である以上、死んでしまっては意味がない。相打ちは騎士の戦い方であって冒険者の戦い方じゃないのだ。
「これがドーナやエマが言うまだ早いってこと。シャルが言ったナメめちゃダメってこと。わかった?」
「……わかった」
できるだけ分かりやすいよう噛み砕いたおかげか少年は不承不承ながら頷く。
「でも見どころはある」
「え?」
俺を見上げる少年の顔が明るくなった。現金なものだ。
「機転はいい。動体視力もかなりある」
「ど、どう……?」
「動体視力。冒険者になりたいならちゃんと訓練から始めるといい」
「お、おう……がんばる」
素直にアドバイスを受け入れるだけの心の余裕はできてきたようだ。最後に激励の意味で微笑むと、少年の顔が薄っすら赤みを帯びた。
「あと何より大事なのは心構え」
「こころがまえ……」
「そう、心」
棒切れを捨てた手で少年の胸をトンと叩く。少し考え込むような顔をした少年。その顔が急に真っ赤になる。
「そ、それより、お前いつまで座ってんだよ!?」
あ、そういえばまだ馬乗りだったっけ。
「ん、ごめん」
「は、はは、早く退けよ!重いんだよバーカバーカ!!」
少年は急にパニックになってわめきだした。同年代の異性なんて孤児院にいれば珍しくないだろうに、案外初心なところのある悪ガキだ。
~★~
「こっちが基礎工房です」
やんちゃな少年たちとのゴタゴタが終わった後、俺とエレナはエマに案内してもらって孤児院の中を見て回った。ステラとシャルは積もる話もあるだろうからドーナと一緒に食堂だ。ちらほらと小さい子供たちが後を着いていくるが、邪魔はしてこないので放置している。
「今日は先生がお休みなので使っていませんが、ここで色々な仕事の基礎作業を教えてもらうんです。その中から好きなものを選んで専門の工房や先生のもとに学びにいくことになってます」
最低限の知識を付けてから工房に半弟子入りするシステム。侯爵の技術教育はこの基礎段階で子供たちに頭を使うよう訓練するというもので、どの分野に進んでもスキルに頼り切りにならないよう下地を作ることに主眼が置かれている。加えて契約している工房は新しい発想を持った次世代を教えることで自分たちも殻を破れる。二重で技術を普及させているというわけだ。
「よく考えてる」
特に既存の工房の意識改革というのは大きい。一から同士だけで作ったエクセララにはない発想だ。帰りにも色々と見学させてもらって伯爵領で真似させてもらおう。
余談だが帰還してから侯爵に報告に行ったところ、孤児院で戦闘の訓練は行っていないと言われた。折角教育を施すのに戦士にしてどうする、それなら領軍の訓練課程に放り込む……とのこと。
すまん、少年。
最近実装しつつあるキャラ紹介のクエスチョンが足りません!
ドシドシ応募くださいましm(__)m
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~予告~
少年の心に火が灯った。
それは冒険の火であり、恋の火であり、男の火であった。
次回、サイレント・ハリケーン
ミラ 「ロボットモノの名曲なのか、海賊モノの迷言なのか・・・どっちじゃろうな」
シェリエル 「元ネタもですが、くっつけた意味も解説抜きだと絶対分かりませんね」
ミラ 「作者はアホじゃな」




