表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/367

一章 第1話 幼少期

読み返してみると想像を絶して凄まじく読みにくかったので、

今回のみ特例としてモノローグの思考(準台詞?)を台詞同様の改行で挟みました。

 目を覚ます。重たい目蓋を何とか押し上げると天井が見えた。その天井はえらく遠く感じられた。


「オギャーオギャー!」


 赤ん坊がうるさい。


「お嬢様、お腹がすきましたか?」


 優し気な女性の声が聞こえ、視界に声の主が現れる。貴族に仕える侍女のような服装だが、どこか気品のある若い女性だ。そんな彼女は唐突に自分のシャツの胸元をはだけさせた。


 て、え!?


 なにごとかと動転しかけて、しかしすぐに気づく。彼女はおそらく乳母というやつだ。貴族の奥方は何故か知らないが自分で子供に授乳させない。かわりに乳母を雇って乳をあたえる。乳母も孕まなければ母乳は出ないので、乳母の子供は同じ乳で生きる貴族の子供と義理の兄弟となるのだ。奴隷生まれで母親の顔も知らない俺からすると、意味の分からない風習だ。貴族の母親の乳はどうするのかとか、そのためにわざわざ孕ますのかとか……。100年近く生きたが貴族と言う奴はどんな魔物より奇怪な生態をしていると思う。

 まあ、貴族についてはどうでもいいが、この乳母は今から貴族の子供に授乳するらしい。泣いている赤子は貴族の子か。すると何故そんな場所に俺がいるのだろう。そんなことを考えていると20そこそこと思しきその女性の綺麗な乳房が俺に近づいてきて……。


「ん、ん、ん、ん」


 俺の口に人肌よりやや熱い液体が流れ込んでくる。


 あー……そうだった。今の俺は転生したてだった。


 つまり泣いてた赤ん坊は俺であり、視界が動かないのはまだ首も座ってないからだ。頭では赤子から再出発だと理解していたはずだが、さすがに100年生きたあとだと実感のようなものがないのだ。手足の感覚がまだおぼろげだからか気づかかなかったが、俺は今乳母に抱き上げられているらしい。視界が近すぎる胸しか見えなかったのも気付かなかった原因だろう。


 しかしまあ、よかった。


 俺は心の中で大きく安心した。ミアが儀式の最後で「あっ」なんて声を洩らすから、てっきり本当に碌でもないことになったかと覚悟した。それこそ用意していた器ではなくその近くに芽吹いたばかりのリンゴの木とか、家の外に生息している野山の動物とか、そういうモノに転生させられたのかもしれない、と。

 幸い乳母を見る限り人間で間違いない。たしかに貴族の子息かその乳兄弟というのは当初の予定になかったことだ。しがらみも多いし旅にも出にくい。だが貴族のお嬢様というのも使い方によっては……。


 ……ん?オジョウサマ?んん?オジョウサマとさっき言ったか。んんん?


 にわかに脳内が騒然とする。


 オジョウサマ……名前でいいんだよな?


 きっと貴族の間で今流行の名前なのだ、オジョウ。転生までにかかった時間の間にオジョウという名前の優秀な王が立ったとか、王国最強の騎士がオジョウという名前だとか、そういうことのはずだ。あやかりたがって名前を貰うと言うのはよくあることだし。


 いや、さすがに国王の名前をそのままもらったりはしないか。きっと賢者オジョウとか勇者オジョウとか大司教オジョウとか……いるんだよ、な?


「よくお飲みになりましたね。立派なお方に育ってください、お嬢様」


 慈愛に満ちた母の笑顔を浮かべる女性。幼きオジョウにかけられた期待は大きいらしい。なにせ賢者だか勇者だかにあやかっているのだ。それはそれは偉大にならないと、名前負けと言われてしまう。


「ほら、アンナ見て?利発そうなお顔だと思いませんか?」


「はい、きっとこの伯爵領をよくしてくださるに違いありません」


 どこかから別の女性の声が聞こえる。乳母の女性よりさらに若い声だ。本当にオジョウにかけられている期待は大きいらしく2人の声には愛情とは別の、切実な期待のような物が込められていた。


 それにしても、領地持ちの伯爵家……想像以上にしがらみの多そうな立場になってしまった。


 考えようによっては中央に勤める法衣貴族よりマシかもしれない。なんにせよ布教という使命がある以上そちらに力はあまり向けられないが、この女性に失望されない程度にはなんとか頑張ろう。そう思わせる何かが彼女にはあった。


「賢く気高く優しい人になってくださいね。ああ、でもこれだけ綺麗なお顔だとすぐにお嫁に出されてしまいそうです……」


「そればかりは私たちにも……」


 沈んだ声でそう話す女性たち。


 ……。いやまて、男が嫁に行く国かもしれない。


 もう自分で何を言ってるのか分からない気もしないではないが、気にしたら負けだ。図太さこそが大切な時もある。


 「男の子なら……いえ、それはあまりにも失礼ですね」


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………現実を見るとしようか。

 どうやら俺の第2の人生は利発そうな顔立ちで賢く気高く優しい偉大な人物になることを期待されている美しい貴族のご令嬢なようだ。


 ミア、覚悟していろよ?


 ちなみに本当の名前はアクセラというらしい。


~★~


 文字通り第2の人生を、非常に不本意な形で始めた最初の年。俺にできたことはとても少なかった。なにせ筋トレも刀の素振りもできないのだ。当たり前だが。生後数か月で刀を振るとかどんな神童だという話である。


 神の入った童に違いはないか……面白くない。


 くだらないことを考えてもまだ余るほど暇なのだ。そんな中、まず俺がするべきことはこの肉体の掌握だった。転生用の肉体を作っているときにミアが言っていたことによると、乳幼児の魂と体は接続がまだ不安定なのだそうな。それは魂が生前の記憶を持っていようと神の力を持っていようと関係ない。自然と器に中身が馴染むまでおよそ2年半かかる。ちなみに3歳になると教会へ祝福を貰いに行くのだが、その歳になれば子供の肉体でも神の力を多少受け入れられるようになるのが理由だ。それまでは接続に支障をきたす場合があるらしい。

 さて、こんな状態で2年半を過ごすのは俺も嫌なので意識的に体を慣らすことにした。最初は手足をばたつかせてみる。といっても動くのはわずかだ。それでいい。急な動作で怪我をしても面白くない。数日の間は肩と股関節以外まともに俺の言うことを聞かず、緩慢な動き1つで疲れ切って眠りに落ちる。授乳の時以外は視点が変わらないという退屈は、一種の瞑想だと思えばなんとか紛らわせることができた。

 首が座ってくるのと大体同じ頃には関節が全体的に多少「らしい」仕事をするようになる。あいかわらず意図的に操れるのは肩と股関節だけではあるが、手や指の関節もちゃんと意識の中に収めることができた。順調だ。

 指先まで俺の支配が及ぶようになった日、全身制御も少しは安定してきたのか寝返りがうてるようになる。うつ伏せになりようがない広さのベビーベッドは横側が柵状になっていて外が見えた。今まではベッド直上の天井と乳母の上半身、あとはせいぜい使用人2人の顔と洗われるときのタライくらいが俺の世界だった。しかし寝返りをうてるということは、つまり両サイドの景色も見えると言うことだ。運がよければ窓の向こうも見えるかもしれない。いい加減飽きてきたので変化のある視界は素直に嬉しい。そう思って左に体を向けると……そこには天使がいた。


 いや、別に天界に出戻りしたわけではないぞ。


 そこにいたのは気持ちよさげに眠る赤子。蜂蜜のような金色の髪が白い肌を彩る、まさしく天使のような愛らしい寝顔だ。耳を済ませれば微かに寝息が聞こえる。


 子供はいつ見てもかわいいな。でも誰だ?


 幼い天使の身元に首をかしげようとしたその時、俺の脳裏に1つの単語が舞い降りた。


 乳兄弟。


 乳兄弟とは乳母の子供。乳母が母乳を出すためには出産していなければいけない。出産すれば当然生まれた子供が存在する。貴族の乳母の子供は貴族の子供に準じた扱いを受け、教育や就職・婚姻を面倒見てもらえるらしい。つまりこの子は血こそ繋がっていないものの俺の兄弟に準じる立場というわけだ。


 まどろっこしいな。もう兄弟でいいだろう。よし、今日この日、俺が認識した瞬間からお前は俺の兄弟だ。


 親も知らない奴隷だった俺は当然兄弟もいたことがない。真っ当な家族は息子と娘が1人ずつだけだ。


 兄弟。俺の、兄弟。……しっくりくる。


 無性に嬉しくなってその寝顔を眺めているうちに寝入ってしまったのか、その日はろくに鍛えることなく終わってしまった。


~★~


 隣に眠る天使のように可愛らしい赤ん坊を発見してからというもの、俺は鍛錬をしながらもほとんどの時間その子を見ていた。なにかあったら守ってやらねば。そんな親心を抱くのはこれでも2児の親だったからだろうか。

 思えばカリヤもナズナもとにかく手のかかる子供だった。どちらも物心つくかつかないかのときに奴隷にされたらしく、見つけた俺と師匠が買い取ったのだ。当然のごとく荒んだ目をしていた。特にナズナは目の前で親奴隷が殺されたせいで手負いの獣の如き荒れ具合だった。脱走する日まで心がないに等しかったかつての俺とどちらが幸せかなんて話をする気にはなれないが、なんにせよ酷いものだったのだ。人間の大人への不信感、恐怖と怒りに支配された心、まともに言葉を喋れないほどの無学。そのくせ獣人らしく身体能力は非常に高い。それはもう手を焼いた。

 そんな経験と比べるのもどうかとは思うが、それにしてもこの子はおとなしい。泣きだす前の素晴らしいタイミングで世話に来てくれるのは大きいが、それでも普通もう少し泣いたり動いたりするものだろう。そのことは乳母、というか彼女の母も心配しているようで、時折眉根を寄せて我が子を見ている。ちなみに俺は適度に発声練習やら運動やらをしているので心配されていない。


「無事に大きくなってくれるといいのだけど……」


「万全を尽くして最後は慈母神に祈る。我々にできるのはそれくらいですよ」


「ええ、そうね……」


「きっと大丈夫ですって」


「ん……!」


「ふふ、お嬢様も心配してくださってますよ」


「あらあら、この子は果報者ね」


 乳母と青髪の侍女がそんな会話をしていた。子供の命は儚いものだし、死ななかったからと言って健やかに育つとも限らない。彼女たちからはそんな不安とそれに抗う祈りのような物が感じられた。

慈母神エカテアンサにその願いが届かんことを。


 俺に遅れること数日の誤差で隣の赤ん坊は順調に成長していった。その間に分かったことは3つ。

 まずこの子は女の子ということ。乳母と青髪の侍女が話していた時に判明した。兄弟でもいいが、やはり姉妹の方が個人的には嬉しいのでこれはいいことだ。同性の方が気楽に接しやすい。遺憾ながら俺は今女性なので。

 つぎに彼女の名前はエレナだということ。可愛いらしい名前だ。周りの誰の名前よりも先にこの子の名前を呼べるようになろうと俺は決意した。口の方はまだ動きがあやふやだが。

 そして彼女はおそらく魔眼持ちだということ。なにせ俺が魔力のトレーニングをしていると不思議そうに虚空を見つめている。あげくためしに魔力を複雑に動かしてみせるとキャッキャと喜ぶ。魔眼は目に宿った先天的な能力で性質によって名称は変わるが、いずれも魔力を見ることができる。魔法使いとして素晴らしいアドバンテージだ、できるだけ早いうちに魔法を扱えるよう訓練してやりたい。

 俺自身の訓練の方はというと、こちらも順調だ。大きな進捗はないが、着々と基礎ができている。神経の掌握はほぼ完了し、昨日ようやく自分の足で立つことができた。舌と声帯を同時に操るのは意外と難しく、明確な言葉を喋れるようになるのはもう少し先だろう。


独り言すら言えないのは意外とストレスだな、知りたくもなかった。


 体の関節や筋肉もある程度発達してきた。最近では少しずつ動かす量を増やして柔軟かつ強靭な肉体作りにいそしんでいる。これもやり過ぎれば致命的な怪我を起こしかねないので慎重にだ。

 魔力の操作は神経の掌握以上に順調と言えるだろう。もう前世と大して変わらないほどに周囲の魔力を知覚できるし、結び付けて支配下に置くことも慣れてきた。最近では魔力に属性を与える訓練を主にしている。これが結構大変なのだ。

 魔力には属性がある。それは外部から変えることができ、魔法使いたちは自分が使う魔法の属性に魔力を変える必要がある。変化させられる属性がそのまま使える魔法属性となるわけだが、通常1人の人間が生来使えるのは1つか2つの属性のみ。


 で、俺の属性は火、光、闇の3属性。


 極稀に4種以上の適性を持つ者もいるし、逆に適性がなくても初歩の初歩なら扱える人もいる。とはいえ多くの場合生まれ持った属性が魔法使いとしての人生を決定するので3属性というのは恵まれている。


 俺は魔法使いになる気はないが仰紫流では魔法も混ぜて戦うことが多いからな。


 まあ、そんなわけで俺はもっぱら自分が扱える魔力を連結させては属性を変える訓練をしている。魔眼を通して見れば部屋いっぱいに揺蕩う帯状の魔力が赤白黒と色を変えているのだろう。エレナはご機嫌でその様子を見ていた。決してその様子が可愛いから属性変化の訓練をしきりにやっているわけではない。


~★~


「お嬢様、寒くないですか?」


 青髪の侍女、アンナが追加の毛布を掛けてくれる。もう時期は年末。窓は結露で真っ白になっていた。俺はというと立って歩けるとはいえまだ1歳未満の幼児、ケージのように側面が覆われたベッドに夜は寝かされている。


「んー!」


「そうですか、よかったですね」


 まだ幼い顔立ちの彼女は俺の意図を汲んで微笑んだ。まだ年の頃16歳ほどのくせにちゃんと赤ん坊の表情が理解できるとは、女と言うのはつくづく不思議だ。


 ……俺も今は女か。


「エレナちゃんも毛布足しましょうね」


「うー」


「貴女は毛布好きね」


 苦笑気味にアンナがエレナにも毛布をかけて退出した。冷え込む時期だがこの部屋はさすが貴族の屋敷、暖気を屋敷中に巡らせる魔道具が使われていてそこまで寒くはない。裕福とはいいことだな。


「あーせらー」


 隣のベッドから可愛らしい声が聞こえる。エレナは最近段々と言葉を覚え、たどたどしいながらもそれを口にするようになってきた。未だに単語を扱うさえ不自由な俺の口とはえらい違いだ。


「うー」


 ベッドの柵につかまって立ち上がった彼女はこっちを見ながら片手を伸ばしていた。何でもかんでも触りたがるお年頃の彼女、最近のブームはどうやら俺らしい。


「あーせらー!」


 言えてないけど可愛い。


「ん」


 言葉はエレナの方が早いが動きは俺の方が先に成熟している。自分もベッドの上に立ち上がって差し出された手を握る。


「う!」


「ん」


 なんかものすごく嬉しそうな目でこちらを見ている。そして俺の手を強くにぎにぎしてくる。好奇心旺盛な子になりそうだな。


「うー……むー!」


「んー?」


「むー!むー!」


 えっと……ごめん、全く伝わらない。


 エレナはしきりに「むー!」といいながら何かを伝えようとしているのだが、喋り出したばかりの子供は動物語が標準だ。何を言っているかはわからない。師匠は母親だけがその言葉を察せると言っていたが……。


「むーうー!」


「ん……」


「むー!」


 段々イライラしてきたらしく、ぐずるように体を動かすエレナ。掴まり立ちレベルの子供がそんなことをすれば当然あっという間にバランスを崩す。


「むー・・う!?」


「ん……!」


 まだ弱い膝がカクンと折れてエレナは後ろに転んだ。毛布があるから大丈夫だろう。びっくりしたけど。


「う……うぅぁー!」


「!?」


 ふかふか毛布の上に投げ出されただけだが、それでもなにが嫌だったのか火が付いたようにエレナは泣き出したのだ。


 いや、子育てはしたことあるが赤ん坊のあやし方は知らないぞ!?


「ぁー!うぁー!!」


 俺が戸惑っている間にもエレナはどんどん泣きわめく。今まであまり泣くところを見たことがなかったので余計にどうしたらいいのか分からない。


 えーと、あーと、こういう時は……そうだ、なにか楽しい物を見せればいいはずだ!楽しい物、楽しい物……楽しい物なんてないぞ、この部屋!?


 そもそもあったとして今の俺の体でどうこうできる物なわけがない。今の俺と来たら、自分で歩くことと魔力を弄ることくらいしかできないのだから。


 あ、魔力!


 エレナは魔力が見えるのだ。ならいくらでもやりようはある。アレも試したいところだし、丁度いいかもしれない。


「ん」


 両手を前に出す。魔力はイメージで操るものなので本来はいらない動作だが、複雑なことをするときにはイメージの補強に動作や言葉を用いるのだ。自分の中の魔力を外の魔力に結び付け、その隣、そのまた隣へと伸ばしていく。帯状に魔力を整えてから最後はまた自分の魔力につなげる。部屋中を揺蕩う魔力は今や長い輪のように固定された。


「うぁー!うぁあー!ぁー……ぁ?」


 泣きやんでは居ないがエレナも異変に気づいて周りを見始めた。


「ん」


 ゆっくりと魔力の属性を変える。いままでのように火と光と闇をそれぞれ使い分けるのではなく、1つの魔力へ同時に干渉していく。例えるなら、そう、魔力の帯に赤白黒で模様を描いていくように。


「ん、んー……ん」


 最初はグチャグチャの斑模様になっているような、気持ちのわるい感触が続く。生前、混合属性の魔法を使う時は大体こんな感じだった。まだまだ未完成なまま放置された技術。エクセルという男には刀の才能はあったが魔法の才能は大してなかったのだ。ところがこの体は違う。アクセラという名のこの体は魔法の才能も十分に持っている。時間と才能の都合上生前は諦めざるを得なかった細やかな魔力操作技術を会得できる。

 帯というイメージはいいかもしれない。帯とは大量の糸で編まれた物体だ。ならその糸1本1本を意識して属性を与えてやれば、大きな括りでは複数の属性が持たせられるのではないだろうか。

魔力を糸のようにイメージして、火属性、光属性、闇属性……できるだけ1本を丁寧に染め上げて組み合わせていく。織上げるのはエクセララで職人たちが作っていた美しい着物のような感じだろうか……3色では無理か。3色でも綺麗な織物はなにがあるだろう。


 まずもって景色は作れない。風や水属性があれば別だが、赤と黒メインでどうやって景色を描けというのか。地獄絵図のようなものが精々だな。


 物といっても、あまり色々な物を見たことのないエレナにとってはよくわからない物体になってしまう可能性が大。しかもやはり色のバリエーション的にあまりぱっとした物が作れない。


 あとは……柄か。柄なら3色でも十分表現できるしそこそこパッとするかもしれないしな。


 決まれば後は早かった。なにせ考えている間もずっと糸状にした魔力で無駄な編み物をしていたのだから、1秒刻みで扱いが上達している。技術神となったせいか、前世より習熟が早い気もする。俺は魔力の糸に属性を付与して複数本を一気に編みだす。自分で弄ったことはあまりないが、かつて何度も見た機織り職人たちの機械と手さばきを思い出せばそう難しい事ではない。これが実際に作業するならそうもいかないのだろうが、なにせ魔力はイメージで操る。別に機織りができなくても機織りの挙動をイメージできればそれでいいのだ。

 俺が音もなく魔力の布を織り始めてから5分ほど、気付けばエレナは泣き止んでいた。


 考えてみれば気長な方法をとってしまったな……。


 結果として彼女は泣き止んだので、今回はよしとするか。 当のエレナはというと、不思議そうな顔で虚空を見上げている。俺の目には見えないが、きっと彼女の視界には赤白黒のアーガイルチェックが描かれていることだろう。見えないから間違えている可能性はあるが、手応え的には大きく外してないはずだ。


「きあー?」


 手を伸ばしてぽけーっと見ている。俺はその様子にちょっとしたサービス精神を見せたくなり、編み上げた後の魔力の帯をゆっくり動かしてエレナを囲うように配置する。俺のイメージ通りに視覚化されているのであればふわふわと水中を漂うクラゲの如く、チェックのマフラーのような魔力の塊が彼女の周囲を泳いでいるはず。


「きゃっきゃ!」


 近づいてきたことに興奮したのか満面の笑みに変わるエレナ。それまでは高く伸ばしてにぎにぎとしていただけの手ですぐ傍に来た魔力の帯に触ろうとする。いくら見えていてもちゃんと訓練しなければ魔力は扱えないし、まして魔法になっていない魔力に素手で振れるというのは至難の業。


 触れなくても泣かないといいけどな……。


 そんな俺の心配は杞憂に終わった。柔らかい手が握りこまれた瞬間、俺の魔力が引っ張られたのだ。


「!?」


 エレナは掴んだのだ。魔力の帯を。素手で。驚きはそれだけでは終わらない。糸の集合体としてほぼ完ぺきに支配下に置いていた帯に違和感が走った。支配が及ばない部分ができたのだ。より正確に言うと、支配権をもぎ取られたような気持ち悪い感触だった。


「!!」


 それは火属性の部分だけだったが、突然にして初めての想定外に俺は慌てて魔力を分断し解除してしまう。制御を手放さずにきっちり分解しただけ褒めてほしいくらいだ。それくらい自分の手足の延長上にしていた魔力を奪われるのは気持ちの悪い体験だった。

 だがそんなことつゆ知らぬエレナはというと、折角掴んで「さあこれから自由にできる」と思った光の帯がいきなりバラバラになって消えてしまったことにしばらくポカンとした顔で固まっていた。そして事態を理解できぬまでも、もうどこにもさっきまでの楽しげな物がないと気づいて顔をゆがめる。


 あ、やばいぞ。


「びゃあー!!」


 結局泣いた。

 慌てて新しい魔力の布を織ってみたり糸を組み合わせて色々動かして見せたりしたが、母の胸に抱かれてあやされるまで彼女が泣き止むことはなかった。


 はぁ……子供って大変だ。


ヒロイン登場ですよ!

どうです、かわいいでしょう?


全く関係ないですけど、寒い季節になって嬉しかったことが1つだけありますね。

食品腐りにくい!

いやもう、夏に比べるなら腐らないと言い切ってもいいくらい腐りにくい!

食費が少し抑えられて助かります(笑)


~予告~

伯爵家令嬢に転生してしまったエクセル、もといアクセラ。

果たして彼女は0歳の身で0歳児のヒロインを面倒見れるのか・・・?

次回、0から始める子育て日記


エクセル「0歳パート続くのか!?」

エレナ「むー?」


※※※変更履歴※※※

2019/2/17 前書きの通りモノローグの変更を実施

2019/5/4 「・・・」を「……」に変更

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シスコン神
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ