三章 第27話 神々の宴
神々との宴が始まった。車座に集められていたソファーや椅子は散らされ、山盛りの料理や飲み物が乗ったテーブルがいくつも用意されている。それも地上じゃ距離や地理の関係でまず一緒の卓に上ることはない品が混然となっていた。さすがは天界というべきか。ここでいくら飲み食いしても地上世界の肉体はまったく満足感を得られないことを除けば、それはそれは贅沢な饗宴だ。
「アクセラちゃん、これってもしかして……」
とりあえず食べ物を確保しに向かった俺とエレナはまず肉と魚に目をつけていた。育ち盛りにとって肉類は必要物資だ。たとえ本当は物資たりえないとしても体が求める。そしてそこで見つけた赤身の魚のマリネにエレナは固まっていた。
「ん、海の魚」
ユーレントハイムはほとんど海と接していない国だ。海の魚は魔導具を使っても輸送が大変で、国内だと数少ない海港か王都の超高級料理店でもないと食べられない。俺は前世で何度も食べているが、エレナにとっては初めてなのだ。
「ほんとに生魚なんだ……」
「天界の食べ物で中ることはまずないよ」
始めて見る生魚料理を興味津々な様子で見るエレナにそう言い聞かせる。
俺も最初の時はしり込みしたなぁ……師匠の実験食に付き合って結局腹壊したんだっけ。
「うん、少しもらってみる」
安全性が保障されているのなら試さない理由はない。そんな雰囲気で喜々としてマリネを皿にとるエレナ。実は他のテーブルにもいくつか彼女が興奮しそうな食材が乗っているのだが、そこは自分で見つけてもらおう。
「エクセルよ」
魚系にかかりきりのエレナをおいて、ローストビーフとポテトサラダを山盛り皿に取り分けていると戦神トーゼスがやって来た。手には酒の入ったグラスと骨付き肉を持った豪快なスタイルで。
「戦神トーゼス、あらためてこんにちは」
「おう、よろしくな。で、ちょいと聞きたいことがあるんだが……まあ先に言伝を伝えるとしよう」
「言伝?」
「ああ、今日は来ていない鍛冶の神、マイヤルスからのな」
マイヤルスは鍛冶の神の中でも特に武器の鍛錬を担う大神だ。その神格上、戦神たちとも親密な仲にあるとされる。
「お前は優れた剣士であると同時に中々の刀鍛冶だと聞く。それで一度時間を作って会いたいと言っていてな。あやつはミオザやらトーニヒカやらと仲が悪いから今日は来ていないが、お前なら気が合うはずだ」
「私、鍛冶の腕は大したことないよ?」
師匠の知識と手元の刀を参考にエクセララで再現に務めてはいたが、結局刀の技術が確立したのは俺が死んだ後だった。最初の頃に色々と携わってはいたがあくまで本職は剣士、鍛冶の神に教えることがあるほどとは思えなかった。
「まあその辺りはマイヤルスと話してくれ。オレは武器の良し悪しは分かっても作り方は門外漢だからな」
肩をすくめてみせる偉丈夫にそれもそうかと納得する。彼の神器である傍らの三叉槍も神代の魔獣を素材にマイヤルス神が鍛え上げたシロモノと聞く。
「さて、本題なんだがな」
「ん?」
そういえば言伝はついでのように言っていたな。ローストビーフを口に詰めながらそんなことを思いだす。会話なんてどうでもよくなるほど肉の味が際立っていて美味いが、神相手にそうも言っていられないので首をかしげて先を促す。
「お前、うちの妹に求婚したんだと?」
「んぐっ!?」
予想外の不意打ちに喉の変な辺りで肉が引っかかった。慌ててトーゼスの酒をぶんどって喉に流し込む。相当久しぶりに酒の味が口へ広がった。
「ぷはっ……びっくりした」
今の舌には少し棘が強い気のするそれで気道を開き、一息ついて恨めしい視線をトーゼスへ向ける。
「すまんすまん。まあ俺の酒を呑んだからチャラだな」
どんな理屈だ。
視線に籠る不平不満を倍増させてやる。しかし彼はそんなもの知らんとばかりに話を続ける。
「いやなに、別にオレがどうこう言う話ではないんだがな……テナスを口説くからには相応の覚悟ができているんだろうなと確認したくてな。それが今日参加した理由の半分ほどなんだ」
どうこう言う気満々だよこのバカ兄貴。
この瞬間、俺は目の前の神の本質を理解した。シスコンだ、間違いない。我が息子カリヤと同じ目をしている。あれもナズナの見ていないところで過保護を爆発させるタイプだった。
「訂正がある」
「なんだ?」
こういう輩には否定するにしても相当気を使った言い方にしないと、あとあと話がややこしくなってしまう。
「私は口説いてない」
「なに?」
そんな答えさえ想定していなかったのか、シスコンは目を見開いた。
「私は口説いていないし、付き合ってもいない。友人として頼りにはしている」
ねじ曲がった解釈が発生しないよう明確な事実をニュートラルな表現で用いる。強く否定せず、最後にとやかく言われそうにない程度に良好な関係を強調する。これが重篤なシスコン患者と会話をするときの一番安全な方法だと、過去見てきた数多の犠牲者の教訓から俺は導きだしていた。下手に否定すると「うちの妹の何が不満だコラ」と逆切れするのでたちが悪いのだ、こいつら。
「はっはっは、そうかそうか!いや、俺のヴァルキリーたちがコッソリそんな話をしていたのを聞いてしまってな。つい気になってしまったのだ、許せ」
「気にしてない。君とも今後は友人関係を築いていけたらと思ってる」
「おう、俺もだ。さーて、俺はひとつヴォーレンでも弄ってくるかな!」
人好きのする快活な笑みを浮かべて彼は去っていった。
「嵐のごとし……」
つい口をついて率直な感想が零れた。神々なんてそんなものかもしれないけど。
残りのローストビーフとポテトサラダを腹に収めた俺は次の料理に手を出す。この宴の間に一通りの品を食べるのが本日のささやかな目標なのだ。そんなわけで鶏の丸焼きと野菜のローストを中心にどっさり盛りつけ、ついでにコンソメスープも貰った。たっぷりと鶏の脂を吸った焼き野菜はあっさりしたスープによく合う。
「おいし」
柔らかい肉と水気のとんだ野菜を堪能しながら横目でエレナを探し出す。身長やら付属物やらで何かと嵩の高い神々の中から9歳の少女を探し出すのは中々大変だった。数分かけて探したところ、誘われた通りに魔法神ギレーヴァントと喋っているところを見つけた。たくさんの摩訶不思議な料理からなる混沌を皿に載せて。結局あっさり適応して見せた姿には驚けばいいのか笑えばいいのかもはや分らない。
「ま、いいか。こっちもそろそろ……」
最後の鶏肉を咀嚼しながら皿を新しい物に交換する。そして大きな羊肉の串焼きを10本ちょっと確保してから、酒瓶がたくさん置かれたテーブルで談笑しているハルーバとラネメールの元へ向かう。シャツにベスト姿の火焔神はガラスの杯に深い赤の液体を、簡素なローブ姿の全知神は逆三角錐の金杯に透き通った小麦色の液体を注いで呑んでいた。
「ハルーバ、ラネメール」
「おやおや、主賓に足を運ばせてしまうとは。小生としたことがとんだ失態を演じてしまったものだ」
「エクセル殿も一献いかがですかな?特にこのラガー、地上ではなかなか飲む機会がない物ですぞ?」
ラガーというとエールの兄弟のような酒だったか。作るのに寒い環境が必要なのであまり流通はしていないはずだ。
「気にしないで。お酒は少しだけもらう。それとこれは差し入れ」
ラネメールが差し出す白玻璃の杯を受け取って、代わりに串肉の皿を差し出す。
「おお、これはかたじけない。そろそろ口が寂しくなってきたところだったのだ」
少しオーバーに喜んで見せるハルーバ。2柱が飲んでいるのはそれぞれ赤ワインとエールの親戚なので少し油の強い羊肉の串焼きはちょうどいいだろう。
「では儂もひとつ」
2柱の神はそれぞれ串を手にして肉を齧り、酒を呷ってはまた肉を齧りだす。羊肉の少し癖のある甘い脂と辛いタレはよく混ざり合って、ラガーの苦みともいい組み合わせになる。とはいえ子供の舌には苦すぎるので2杯目からはハルーバの勧めてくれたワインをいただいた。
「うむ、やはりバンドヌの肉料理は酒によく合う」
あっという間に肉を食べ終わってしまったハルーバがしみじみとそう言った。
「バンドヌ?」
「そうか、貴殿は知らなかったのだな。焼肉神バンドヌは直火の肉料理を司る料理の中神なのだ。その性質故に小生と同じ火神でもある」
焼肉神……すっごい名前。
「この宴ではバンドヌとフレイヴェラが駆り出されていると聞きましたのう。ああ、フレイヴェラは魚料理を司る上神ですぞ」
「なるほど……それは美味しいはず」
そういえば今頃エレナが食べているであろう料理のいくつかは肉に分類されているのか魚に分類されているのか分からない物があったな。一体そのどちらが調理したのか聞きたいような聞きたくないような……。
「それで、エクセル殿はどうして我々の方へ?美味な肉を手土産に酒を呑みに来ただけではないのでありましょう?」
「半分くらいはそれが理由」
ラネメールの質問に肩をすくめる。実際しばらくぶりの、そして当分また巡ってくることはないだろう酒を呑む機会だったからという理由も確かにある。また天上の宴でもない限り酒は6年後の成人までお預けだ。
「でももう半分はハルーバにお礼が言いたかったから」
「小生に?」
首をかしげるハルーバ。
「ん。まだ私がエクセルという人間だった頃のことで」
「ほほう、それは何やら面白そうな話ですな」
「こらこら、人の過去を徒に面白がるのは感心できないぞ?」
興味深そうに笑う知識の神をハルーバはたしなめたが、俺としては別に聞かれてもどうということのない話だ。
「お頭と死に別れて彷徨っていた私は火焔神殿の司祭に助けてもらった」
お頭、1人目の父ともいえる盗賊ヤブサメのジンを失った直後の俺は、1人当てもなく森を彷徨って生きていた。お頭たち盗賊団の面々から森での生き方は教わっていたが、群れで生きるのと一匹狼で生きるのは勝手が違う。
「私は疲労と空腹から自分でしかけた罠を踏んだ。司祭が回復魔法を使ってくれなかったら足が腐って死んでた」
火焔神殿の放浪司祭だった。無償で足を治療し、感染症の熱が下がるまで衣食住の面倒を見てくれたのだ。ちなみに後で回復魔法の相場を知ったときは血の気が引いた。
「あの司祭に助けてもらわなければ、師匠に会うこともなく道端で骨になってたはず」
「なんと、そのようなことが……」
「あの司祭にお礼はもう言えない。だからっていうのも変だけど、ハルーバにお礼が言いたかった」
「そうか。わかったよ、エクセル殿。もしその者の魂がまだ冥界にあるのなら私から伝えておくとしよう」
渋みと甘さが入り混じる壮年の顔に優しい笑みを浮かべてハルーバは約束してくれた。
「ん、重ねてありがとう」
俺も笑って乾杯する。
「しかし人とはままならぬものですな」
聞き役に徹していたラネメールがふとそんなことを言った。
「同胞を狩り、売り買いし、あまつさえ甚振るような悪行を成すのも人であれば、そうやって傷ついた浮浪児のために魔法や食べ物を惜しげもなく供すという善行を成すのも人なのですから……」
神々は奴隷を善しとはしていない。だがそれは人が自ら改善していかなければいけない課題だとして過度に干渉もしない。改善のための一歩とはまさに俺を助けた司祭のような行いを指すのだろう。
「まあ、見守っていくしかありませんな」
「そうだな。そしてその司祭のような者が増えるよう導かなければいけない」
「見守ることと導くこと……」
それが神の本来の在り方だ。それでもまだ俺にはできることがある。アクセラでいる時間が終わるまでは。
~★~
しみじみと酒を酌み交わしてからしばらく、俺たちがバリアノスも加えて戦の話に興じていたときだった。
「アクセラちゃんもらうわねぇ」
「ん!?」
「む、まだ己が話しているのだが……行ってしまった」
背中から悪戯っぽい響きを持った声が聞こえてきて、そのまま俺は拉致られた。犯人は美しく官能的な女神、恋愛神トーニヒカだ。片腕で抱え込まれているせいで俺はその豊かな横乳に顔を押し付けられる形になる。
い、息が……!
女神の胸で窒息死というのを喜ぶ輩もいそうだが俺は勘弁願いたい。慌てて逃れようともがくも、彼女は意外と力が強く簡単には離れられなかった。
「あぁん、激しくしちゃダメよぉ?」
「んー!」
艶めかしい声を頭の上から振りかけられながらどこかへ連れ去られる。もがけばもがくほど柔らかな塊への密着度が上がって息ができなくなる。底なし沼にハマったかのような徒労感にもがくのを止めて運ばれるままになると、少しして耳には別の声が届いてきた。
「さ、最近どうにも地上を離れたがらない死者の方が多くて……た、たぶん叔父上のせいなんですけど」
「1人1人に丁寧な対応ができるほど戦乙女たちも数がいるわけではないでしょうし、大変ですわね……もしよければわたくしのほうから何名か向かわせましょうか?」
「い、いえそれには……あ、で、でももしよろしければまた天国へ来ていただけますか?その、こ、子供たちが喜ぶので」
「ええ、もちろん。それにしてもアルヘオディスにも困ったものですね……」
アルキアルトとエカテアンサの声が聞こえる。どうも彼女たちのところへ連れていかれているようだ。というか俺の方が先に天国に送られそうなくらい息が苦しくなってきた。
「はぁい、お酒とかわいい子もってきたわよぉ」
「ぷはっ!」
陽気な声と共に解放された俺は空気を求めて大きく息を吸い込む。脳髄に響くような香水の香りに思わず顔をしかめる。
トーニヒカと一緒にいるのは精神的によくない。
全身から魅了の魔法でも放っているような、そしてそれにずっとレジストし続けないといけないようなしんどさがある。
「ふふ、エクセルさん。別に天界で息をしなくても死にませんよ」
「あ……」
テナスに笑われてようやく気付いた。そういえば肉体を持って来ているわけじゃないんだ。関係なかった。
「ありがと、忘れてた……て、なにしてんの?」
トーニヒカに連れてこられた場所にはこの宴会に参加しているほぼ全ての女神が揃っていたのだが、なぜかエレナがテナスの膝の上に収監されていた。しかも顔が真っ赤だ。
「かわいいですよね、エレナちゃん。私にください」
「ダメ」
「ケチ」
「ケチじゃない」
俺はテナスと喋るたびに女の子を要求されてる気がする。
「あくせらちゃーん」
「……エレナ、酔ってる?」
テナスの膝に座ったまま、とろんとした目で俺の名前を呼ぶエレナ。顔の赤さと合わせて考えるに酒を呑んでいるようだ。
「ご、ごめんなさい……子供はお酒がだめって知らなくて、わ、私があげました」
消え入りそうな声で自白したのはさっきまでエカテアンサになにかの相談をしていたアルキアルトだった。
「まあ、偶然なら仕方ない」
やったのがテナスやトーニヒカなら叱るところだが、彼女なら仕方ない面がある。というのも、昇天神アルキアルトの仕事は死んでなお地上で彷徨い続ける魂を天界へ導くことなのだ。天界じゃ忙しすぎる冥界神の補佐、地上じゃなかなか成仏してくれない死人の説得と誘導を日々行っている。そんな彼女が人間の生態に詳しいとは思えなかった。
「えへへー」
「かっわいー!」
無邪気な笑みを浮かべるエレナにほおずりするテナス。彼女は俺が隣に座ろうとするとさもいいことを思いついたかのような顔で
「あ、エクセルさんも来ます?今の外見だったら構いませんよ」
などと言ってのけた。
「構え」
いくら外見が少女でも男神を膝に載せようとするな。
「あはは、アクセラちゃんが2人いるよ?」
「……もういっそ酔い潰したほうがいいかもしれない」
何が楽しいのか、エレナはけたけたと笑いながら俺の頬を触ったり髪を弄ったりしてくる。まるで幼子だ。
「じゃあアタシが座っちゃおっかなぁ!」
俺と一緒に持ち去ってきたらしい酒瓶をローテーブルに置いたトーニヒカがそのまま俺の膝に腰掛けようとする。からかうようにわざとゆっくり降ろされる、形の整った大きなお尻。際どい下着と透ける衣に包まれた男を惑わす肉感の塊。俺はそれにめがけて手を振るった。
ぺちん!
「キャ!」
「座ろうとするな」
「痛ったぁ!ハードなのは2人きりの時にしてくれなぁい?」
勢いよく尻たぶをひっぱたかれた彼女は飛び上がって抗議とも言えないなにかを主張してくるが、抗議をしたいのはむしろ俺の方だ。
「お尻は好きじゃないのぉ?」
「どういう話題……そういう問題じゃないから」
「アタシに座られたいって言う神は多いのよぉ?」
「まさか……」
半笑いで横を見るとテナスに視線を逸らされた。
あ、いるんだ……大丈夫か天界。
「そういう趣味はない」
「えぇ?じゃぁ、コッチのほうがお好みかしらぁ」
そう言ってトーニヒカは自分の胸元を腕で寄せて見せる。健康的によく焼けた大きな双丘が圧迫されて形を変えるのは中々に圧巻である。しかも服がまた際どいせいでモロに谷間が見せつけられる形になる。それは際どく官能的ながら美しくもある光景だ。ただ……
「いや、綺麗だとは思うけど……」
今の俺にはそれだけだった。
「えぇ、なんかその反応は美の女神としてはすっごい不満なんですけどぉ」
「今は子供の体だし、そういう欲求が少ないんじゃないかしら?」
頬を膨らます同僚にテナスが考察を伝える。
「実際、前に私が誘惑した時は結構揺れてましたし」
いらない情報と共に。
これはあとでしっかりと兄貴2柱の前で余計なことを言わないように釘を刺しておこう。
「ふぅん……」
いくら恋愛と美の女神でも、ない性欲に訴えかけることはできない。からかえないと知ると途端に彼女のテンションは下がった。
「アクセラちゃんはお尻よりお胸の方がすきなの?」
「……エレナ、寝てなさい」
すっかり黙って大人しくしていたのでテナスの膝で寝たのかと思っていたら、彼女はしっかり話を聞いていた。
「わたしお胸はおっきくないけど……アクセラちゃんはおっきい方がいいの?」
不安げな瞳でそんなことを聞かれても困る。
「そういう話じゃなくてね……」
「がんばっておっきくするから嫌いにならないでぇ」
なんと言って逃れるか困っているとエレナはなぜか涙を浮かべてそんなことを言い出した。
「なんで泣き出す……あと人をおっぱい星人扱いしない」
笑い上戸なのか泣き上戸なのか、とりあえずやはりエレナに酒はまだ早いらしい
「大丈夫、エレナちゃんは小っちゃいのがかわいいですよ!」
黙ってろロリコン女神。
喉元まで出かかった罵りを飲み込んでエカテアンサに視線を送る。トーニヒカからの露骨な誘惑行為が始まったあたりで顔を真っ赤にしてうつむいてしまっているアルキアルトは力になってくれそうになかった。
「あらあら。テナスちゃん、ちょっとエレナちゃんを貸してくれる?」
「えー」
「貸してくれる?」
「……はぁい」
有無を言わさぬ笑顔でテナスからエレナを回収したエカテアンサは、そのまま子供を抱きかかえるようにして一定ペースで揺らし始めた。
「大丈夫ですよ、エク……アクセラさんはどんなエレナちゃんでもきっと大好きですからね」
背中をぽんぽんと撫でながら揺られたエレナは一瞬でおとなしくなった。何処の親でもやっているような子供を落ち着かせて寝かせる動作だが、さすがは母性の化身というべきか手際の良さと効果の高さが尋常じゃない。
「あらまぁ、まだちっちゃいのにエレナちゃんたらアクセラちゃんにベタ惚れなのねぇ?かわいい奥さん捕まえちゃって、意外と新神さんも隅に置けないじゃなぁい」
隣に座ったトーニヒカが極上の飴玉を舌先で転がすように楽しそうな様子でしな垂れかかってくる。
「でも気を付けた方がいいわぁ。あの子はとっても思いの強い子よ、アタシの直感だけどぉ……」
「そういえばミアも似たようなことを言ってた」
しばらく前に喋ったとき、エレナの才能は異質で強力すぎるから伸ばすなら気を付けろと忠告された。結局俺もレメナ爺さんも好き放題本人の望むままに育たたせているが。
「アタシたち神は人間が思ってるほど絶対的な物じゃないのよぉ。強い思いや信仰が力にもなるしぃ、毒になることもあるわぁ」
「つまり?」
ミアが俺との友誼から在り方を変じて威圧感を失い、結果多くの神々に親しく接してもらえるようになったこと。それこそトーニヒカの言っている事の証明だが、それがどう関係あるのかは理解できない。とりあえず先を促すと彼女はそっと耳に口を近づけてくる。
「人の嫉妬や独占欲なんかをダイレクトに受けちゃうとその色に染まっちゃうかもしれない、ってことよぉ。もしいつか強すぎる感情を向けられたらぁ……アクセラちゃんはエレナちゃんの色に染まって戻れなくなっちゃうかもねぇ」
「エレナからの嫉妬や独占欲で私が神聖を損なうかもしれない、ということ?」
「さぁ……でも考えようによってはとってもロマンチックで官能的よねぇ」
「?」
「うふふ、楽しく見させてもらうわぁ」
ひらひらと手を振って彼女はまた席を立ち、今度は赤い顔でこちらをちらちら見ているアルキアルトに絡みに行ってしまう。結局それ以上彼女が何を言いたいのか、糾す機会は来ないのであった。
「あれ、ミアは?」
ふと気になって周りを見る。
「ここで酔いつぶれてますわよ、ふふふ」
眠ってしまったエレナをあやすエカテアンサのさらに向こう、微笑むシャロス=シャロスの膝に頭をのせて眠っていた。しかも一際大きい酒瓶を抱えているあたり相当ダメな絵面になっている。具体的には呑んだくれにしか見えない。
「主催者が寝ちゃだめじゃん」
「ええ、本当に」
端然と笑いながらも起こす気は皆無らしいシャロス=シャロスにも呆れる。神々のマイペースさは俺の想像をはるかに超えていたらしい。
「でも、あちらのサーカスよりはいいと思いません?」
表情から考えを読み取ったのか月光神が遠くを指さす。そちらに目を向けてみれば、なぜか槍の上に逆立ちしたトーゼスのつま先でミオザが曲芸を披露していた。卵型になったダジャックで玉乗りをしつつ、ヴォーレンの腕の骨でジャグリングまでしている。腕の持ち主は槍の周りで返せ返せと叫んでいた。
どこの雑技団だ……というか天井高いなこの部屋。
神々は本当に、想像の遥か斜め上の更に上を行く自由さをお持ちらしい……。
まずはお詫びを。
Twitterなどであと1話!なんて言いました。
あれはウソだ・・・。
あともう1話ありましたすみません><
~予告~
宴もたけなわとなってきた神々の会合。
やがて巻き込まれた天使たちまで奇怪な踊りを踊らされるように・・・。
次回、天使の盆踊り
ミア 「Z級の話はやめるんじゃ!」
ミオザ 「ぜっときゅーってなんだ?つよいのか?」
シャロス 「ふふふ。それは別のZよ、ミオザ」




