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三章 第26話 天界の諸神

 話合いの翌日、マザー・ドウェイラの命を受けた「夜明けの風」の面々が屋敷を訪ねてきた。わざわざ俺たちのギルドカードを届けに来てくれたのだ。

 銅色に輝くCランクのカードを受け取った俺たちに「夜明けの風」は頭を下げた。屋敷まで送り届けるべきだったという反省と、助けが遅れたことについて。とはいえそれらはどれも彼らの責任じゃない。俺とエレナも冒険者としてのリスクを軽く見ていたということだ。

 なのでその謝罪はきっぱり断り、今後も今までと同じ内容での契約を結ぶことになった。エレナはCランクを名乗れるほど経験値が足りてないから、契約継続を受けてくれたのはとてもありがたい。


 さらに数日、ノイゼン先生に何度か検診をうけたり諸々の報奨金をうけとったりして過ごしていると、とある夜に珍しい来客があった。その者は深夜、誰もが寝静まったような時刻にやってきた。たまたま目が覚めた俺が、密着するエレナの暑さに寝返りを打っているとそっと、それも窓から。


「夜分に失礼いたします、主」


「……パリエル?」


 着物とコートを腰のあたりで足したような服に身を包む賢そうな偉丈夫。その背中には翼が、その顔にはペンの入れ墨が、そしてその腰には装飾の少ない刀が吊られていた。


「なんでここに?」


 天使の肩越しに降り注ぐ月光に目を細め、俺は当然の質問を口にする。そもそも地上に足を運べたのかとか、その格好は何だとか、いろいろ聞きたいことはある。それでも一番は何をしに来たのかということ。『アップデート』を行ってからはまだ一度も天界とコンタクトを取っていないので本当に意図が分からない。


「なぜ、ですか?そうですね、主がロゴミアス様のお言いつけを守らずに『使徒』を使われたことですとか、その結果御身になにか尋常ならざる変化が起きたことですとか、以降何の音沙汰もなかったことですとか……色々と思い当たる節はおありなのではないかと思うのですが?」


「パリエル、怒ってる?」


「滅相もございません。まさか主に怒りを覚えるなど」


 暗に主だから怒ってないってことにしてるだけともとれる答えが返ってきた。


「いや……ごめん」


 選択肢のない状況だったとはいえ、無理に『使徒』や『技術神』を使えば死ぬかもしれない身の上だったのだ。それも肉体的な死ではなく、下手をすれば魂が消滅していたかもしれない。俺に仕える天使としてそこは見過ごせない行動だったろう。


「まあ、それは半分冗談ですが」


 半分はホントなんだ、よくわかった。


「今宵は主に大切なお知らせがございましてまかり越しました次第」


「?」


「ああ、この格好は正装です。あと地上に降りるのは使徒殿に対する神からの伝令役、つまり一種の特別措置なので申し訳ありませんがそう頻繁には行えません」


 ああ、俺に仕える天使の正装だから刀を吊っていたんだ……。

 それにしても天界とはいえまだ刀鍛冶の神はいないはず。彼の身に着けているのは外見だけ繕った竹光か、形だけ同じにしたただの鉄剣といったところか。

 俺の奉納品から見繕ってくればいいのに、と……そうもいかないか。


「ん、了解した。で?」


 肝心の連絡とは?そう言外に尋ねると、パリエルは襟を正してこう述べた。


「創世神ロゴミアス様、並びに天界の諸神方が主とそこの少女を宴に招きたいと仰せです」


「……」


 彼の言っている言葉を理解するのにたっぷり10秒はかかった。


「ミア以外の神々が?」


「はい、多くの名のある神々が出席されるそうです」


「エレナも同席しろと?」


「エカテアンサ様とテナス様の発案だと窺っています。主がその命を賭して救おうとした相手がどんな人間か見てみたい、とロゴミアス様が承認されたとか」


 大女神2人の提案を最高神が認めた形か。これは断れなさそうだ。


「いつ?」


「明日の朝方、創世教会の礼拝堂にて待つようにとのことです」


「わかったと伝えて」


「はい、承知しました」


 そこまで言って彼は少し表情を緩めた。


「それにしても、ご無事でよかったです」


「ご無事、かな?」


「まあ、ご無事な範疇でしょう」


 微笑みを含んだその声に俺も小さく笑みをこぼす。そして用事が済んで帰ると言うパリエルに安眠の魔法をかけてもらって、明日に備えてぐっすり眠るのだった。


 ~★~


 パリエルの突撃訪問をうけた次の朝、早々に事情をエレナに伝えて俺たちは教会へ向かった。ビクターやラナには本当の目的を伏せたが、使徒である俺が教会に行くのは何もおかしなことじゃない。特に止められることもなく出発することができた。

 言うと確実に大騒ぎになるからな、天界で神々の宴に参加なんて。特にエレナも一緒とか。


「よ、ようこそおいでくださいませ!」


 カッチカチのカックカクになったシスター・ケニーが出迎えてくれる。


「普通にして」


「な、なんのことでしょうか!私はいたって普通にさせていただいております!」


 どう考えても普通じゃない態度で出迎えられている理由は簡単、彼女が使徒に対してどう接していいかわかっていないのだ。

 敬虔なのも良し悪し。


「広く知られると困るから、今まで通りで」


「ハイ!今まで通りにしマス!」


 どんどん硬くなっていく。こうして見るとビクターやラナは随分とあっさり受け入れたものだと思える。さすがは上位貴族の使用人ということなのか、それとも俺の非常識さに9年かけて慣れきってしまったのか……。


「……まあ、慣れて」


「ハイ!」


 喋る彫像のようになってしまったシスター・ケニーに溜息を我慢しながらいつもの個室礼拝堂に向かう。俺の定位置でもあるそこは今日もステンドグラスを透かした光で彩られていた。


「エレナ、緊張してる?」


 家を出てから一言もしゃべらない少女の顔を覗き込む。


「え、えへへ……ちょっと」


 子供らしい柔らかな唇が強張った笑みを浮かべる。


「大丈夫、ほとんどただの気のいい連中」


 俺も言う程知っているわけじゃない。でもミアが、というよりシェリエルが引き合わせる神のチョイスを間違えるはずもない。エクセル神と思想が対立する神や、人間に厳しい神などはきっと弾いてくれている。そう信じてエレナを椅子に座らせる。


「うん、がんばる」


「ん、なんとかなる。あ、そういえば……」


 入室時に持ちこませてもらった予備の椅子に自分も腰掛け、緊張をほぐすための会話を続けて待つこと5分ほど。正面に置かれた神像がまばゆく光った。


「わ!?」


「こんな機能あったんだ……」


 神殿に組み込まれた魔法が発動しているのだ。それも相当大規模な類のものが。


「ア、アクセラちゃん……」


「ん」


 不安げなエレナの手を握って輝くロゴミアス像を見据える。すると今度はより柔らかな光があふれ出し、俺たちの体を包み込んだ。


「エレナ、意識の転移は少し気持ち悪いけど我慢して」


「う、うん」


 忠告をした次の瞬間、俺たちの意識は暗転した。


 足の下に硬い足場のある感触。酩酊感がなかったことに首をかしげつつ目を開けると、そこは白い壁に囲まれた円形の部屋だった。通いなれた天上宮殿の玄関、転移宮だ。


「もうついたの?」


 小首をかしげる傍らの少女からも転移の酔いは感じられない。

 ま、味わわずに済むならいいことだ。


「ん、行こう」


 実感に乏しい表情であたりをきょろきょろと見まわすエレナの手を引き、一か所しかない出入り口の扉に近づく。するとそれは自ら開き、外の光景を俺たちに見せた。


「うわぁー!」


 長く広い廊下の左右にずらりと、戦乙女たちが並んで俺たちを迎えていたたのだ。見ればその最前列には俺の配下になった天使たちもいる。


「技術神エクセル様、御帰還!」


 凛とした声でいつもの転移宮の番人がそう告げる。考えてみるとシェリエルと出会ったとき以外は大体同じ、物静かな戦乙女がここを守護している気がする。


「エクセル様、ご帰還をお喜び申し上げます」


 ミアの側近でもある戦乙女の長、シェリエルが進み出て挨拶をくれた。彼女は腰には装飾の美しいショートソードを佩いている以外、普段と同じ戦乙女の正装を纏っていた。おそらくは式典用の儀礼剣だろう。


「あ、主様、御帰還お喜び申し上げます!」


 その横で緊張気味に敬礼するトランジスタグラマーな戦乙女、キュリエルも軽鎧にショートソードを身に着けていた。


「ただいま」


 応えてから気づく。声が高い。


「あれ……あ、そっか」


 俺がアクセラとして定着してしまったので天界に来ても姿が戻らなくなったのだ。念のために自分の手を見てると、やはり白い肌の少女の手だった。

 これ神に戻れるのかな……?

 神にもなりたくてなったわけじゃないが、戻れないとなると一体俺は誰の使徒なんだという話になってしまう。まあ、それはあとでミアかシェリエルあたりに聞けばいいのだが。


「おかえりなさいませ、お待ちしておりました」


 キュリエルとは反対側に控えていたパリエルが、昨日と同じ正装で腰を折る。彼の動作に合わせて壁際の天使たちも一様に頭を下げた。


「ん、ただいま。留守中ご苦労様」


『は!』


 彼らとはあまり直接接していない俺だが、パリエルの下で諸々の実務をしてくれていることは知っている。技術神エクセルが存在するうえで彼らは必要不可欠。それどころか今後はさらに頼りにすることになる。


「これからもしばらく丸投げだけど、よろしくね」


「一同、誠心誠意尽させていただきます」


「ではこちらへ」


 簡単にねぎらったところでシェリエルがすっと前に進み、俺たちを宮殿に案内してくれた。後ろにはキュリエルとパリエルがつく。えらく仰々しい対応に腹心の天使を見れば、彼は苦笑を浮かべて肩をすくめてみせた。神々の宴に招待されているうえ、人間の来客もあるのだ。この大げさな対応はそのためだろう。実際、エレナは感動した様子で壁際の戦乙女たちを見ている。


「他の神々は?」


「皆様すでに大談話室にお集まりです。主賓をお待たせできませんから」


 意外な律義さを発揮する諸神に苦笑を浮かべるシェリエル。名だたる神がすでに揃って待っていると聞かされたこちらの心境、という一般人的視点をよくわかっているがゆえの表情だ。


「えっと……」


「はい、なんでしょう?」


 恐る恐ると言った様子で口を開いたエレナにシェリエルが微笑みかける。


「どんな神さまがいらっしゃるんですか?」


「ふふ、それはついてのお楽しみです。でも安心してください、喧嘩っ早い方や気難しい方は今回に限ってご遠慮いただいていますので」


 流石シェリエル、うっかりを司る大ポカ神ロゴミアスの補佐を続けてきただけあってよくわかっている。俺が感心している傍らでエレナはというと、思いのほか目の前の戦乙女が気さくに答えてくれると分っていそいそと質問をしはじめた。


「わ、すごい!廊下が一瞬で……今の何ですか!?」


「全部歩くのは大変ですから、廊下や階段の空間を歪めてショートカットしているんです」


「なんでショートカットを何回かに分けるんですか?」


「あまり大きく歪めると別のところで勝手に歪みが出てしまうんです」


「あ、不思議な香りがする。これは?」


「中庭のラウラシャラの木がもうすぐ満開を迎えるんです。神々の香木と言われる神木の類ですよ」


 人類ならまず生きて来ることのない天界ですら、彼女の好奇心の前には興味の対象にしかなりえないようだ。それにちゃんと答えるシェリエルも偉い。


「はい、到着です」


 質問の数が50を超えたころ、俺たちは大きな扉に到達した。


「う……」


 シェリエルの言葉にすっかりほぐれてはしゃいでいたエレナにまた緊張が走る。


「ご準備はよろしいですね?」


 その問いに俺たちはササッと互いの身なりをチェックする。俺はいつものドレスシャツとズボンで、ベルトには紅兎をつりさげた姿。エレナはお揃いの生地のスカートでベルトには杖。貴族の冒険者にとってはカジュアルなスタイルだ。地上の姿で来ることになるとは思わなかったので特にドレスアップはしていない。


「だ、大丈夫かな?」


「大丈夫、神々の服飾センスは相当独特だし」


 銘々思い思いの姿で生きる彼等は時として全裸だったり無機物だったりととりとめもない容姿で存在しているのだ。今までこの目で見た連中は皆人型で普通の服を着ていたが、神話にはなんとも珍妙な姿で降臨する輩もいないでもない。ミアからして降臨するたびに違う姿をとっているのだからお察しである。


「では、まいります」


 シェリエルとキュリエルが真っ白の大扉を押し開ける。


「技術神エクセル様、および信徒エレナ様をお連れしました」


「おお、来たな!」


 鈴のような声で簡素な紹介が述べられるが早いか、すっかり聞きなれた幼い声が耳に届いた。その声はもちろんこの宮殿、ひいては三世界全ての主であるロゴミアスのものだ。


「久しぶり、ミア」


「よく戻った!諸々言いたいことはあるが、それは今度じゃ!宴じゃぞ、楽しむぞ!」


「主、先にお歴々の紹介をなされてはと」


 いきなりテンションマックスで叫ぶ深紅のドレスの幼女に、普段よりやや丁寧な口調でシェリエルが提案をする。だだっ広い中に椅子やらソファーやらテーブルやらが置かれた大談話室にばらけて着席している諸神も彼女の提案に頷く。それを見てミアは先走ったことを悟り、恥ずかし気にはにかんでみせた。


「そうじゃったな!特にそこの娘、エレナじゃったか?」


「は、はい!エレナ=ラナ=マクミレッツ、9歳です!」


「うむうむ、いい返事じゃ。エレナに直接会うのはわしも初めてじゃし、お互いに自己紹介と行こうではないか。あ、適当に座るといいのじゃ」


 ミアが指を軽く振ると俺たちの前に大きなソファーがあらわれる。口じゃ適当にといいつつ思い切りそこに座らせる気満々だ。しかたなく俺とエレナがそこに座るとミアはもう1度指を振るう。今度は神々の座った椅子やソファーが勝手に滑り出した。


「うわっ」


「ひゃ、いきなり動かさないでくれなぁい?」


「おっと、酒が零れてしまうところでしたぞ」


「あらあら」


 これは神々も予想外だったのか、おどろいた様子で手に持っていた物を落とすまいと握りしめていた。まったくグラスの水面が揺れていないのでたぶん気分的なモノだ。

 そうして全ての参加者が円を描くように配置されると、自分も玉座っぽい大きな椅子に腰かけた。


「うーむ、こやつは硬いな……えい」


 お気に召さなかったようで玉座はすぐにピンクの1人用ソファーにチェンジされてしまった。そうしてミアが着席すると、総勢14柱の神と車座になっていることになる。どの神も大神級でかなりな存在感を帯びていた。俺たちから見て5つ隣りの人間サイズなジャガイモが特に異彩を放っているが。

 いや、まあ、大まかに正体に察しはつくんだけど。それにしても高級ソファーに形のいい巨大ジャガイモがデン!と乗っかっている絵面がすごい、ほんと。


「さて、まずは主賓が自己紹介をするのが良いじゃろうな」


「ん、わかった」


 特にジャガイモには触れぬまま俺はソファーから立ち上がる。目が合ったテナスとエカレが小さく手を振ってくれた。


「技術を司り奴隷とブランクを守護する神エクセル。ちょっと事情があって今は使徒アクセラだけど、新参の神としてよろしくお願いする」


「短いな……もちっとなんかないのか?」


「ん……好きな物は生きる事全般と戦うこと、嫌いな物は奴隷商人と辛くない麻婆豆腐」


「神の自己紹介とは思えんのじゃ……」


 俺もそう思う。


「ではエレナじゃな、似たような感じでよいぞ」


 ミアは引っかかりを覚えつつもテンポよく回すことを優先したらしい。今日は人数が多く、俺とエレナが留まれる時間は有限だ。


「エ、エレナ=ラナ=マクミレッツです。アクセラちゃんの乳兄弟で、一緒に冒険者をしてます。えっと、一応エクセル神の加護をもらってます。嫌いな物は……冷たくない豆のスープだけかな?す、好きな物はお屋敷の皆とアクセラちゃんです」


「きゃー、かわいい!」


「テナスよ、自己紹介が終わるまで待てんのか……」


「あ、ごめんなさい」


 反射的に黄色い声を上げた戦女神をミアが呆れた顔で睨みつける。

 あいかわらずかわいい物フリークだこと……。


「しかしなんとも、9歳の人間はもっと混然として未完成な物かと思っておりましたが」


 眼鏡をかけた老人の神が呟いた。


「エレナは凄く頭がいい」


「そ、そんなことないです!」


 神々の前で褒められたエレナは顔を真っ赤にして戸惑っていた。


「きゃー、かわいい!!」


「もうそれはよいと言うに……話が進まなそうじゃからとりあえず全員わしの方でササッと紹介するのじゃ。細かいお喋りはまた後でするんじゃぞ」


 個性の強すぎる神々にそれぞれ自己紹介をさせていたらそれだけで宴が終わってしまいかねないと判断したのか、ミアが強引にそう宣言した。


「まずエレナの隣から順番にテナス、バリアノス、トーゼスじゃ。戦神の最高位を占める兄妹じゃな」


 俺とはすでに面識のある女神テナスはニッコリと笑みを浮かべる。屈強な戦士でありながら可憐な乙女でもある彼女は、今日も裏表のない明るさを披露していた。その向こうには彼女とよく似た、しかし非常にまじめそうな顔立ちの美丈夫がいる。長髪に高身長で質素なシャツとズボンだけを纏う彼は戦略の神にして参謀職の守護神でもあるバリアノスである。


「こんにちは。またあとでゆっくりお話ししましょうね」


「よろしく頼む。己もあとで少し貴殿と話してみたい」


 そして彼等のさらに向こうに座っている短髪の偉丈夫こそ戦神のトップに君臨する神、トーゼスだ。上半身裸で下半身はゆったりした獣革のズボンだけ履いた恐ろしくラフな出で立ちだが、それでも十分立派に見えるのは鍛え上げられた筋肉と傍らに置かれた三叉槍のせいか。


「オレもあとで一槍合わせたいものだな!」


 妹よりなお快活で豪快な笑みを浮かべるトーゼス。


「人の体で神と戦う気はないよ……」


 エクセル神の姿ならまだしも、アクセラの姿でやり合う気にはならない。8級の魔獣で四苦八苦した身だ、戦神最高位の猛者に挑む気がおこるハズもなかった。


「そうか……残念だが、エクセル神の姿に戻るまで待つとしよう。約束だぞ」


 本当に心から残念といった様子でトーゼスは勝手に約束を取り付けてきた。さすがのバトルマニアだ。


「次はギレーヴァント、ダジャック、ハルーバじゃな」


「応、吾輩がギレーヴァントである。技術の神にも興味はあるが魔法使いの娘よ、汝はあとで吾輩の処に来るが善い」


 ミアとは違った意味で古めかしい言葉を使い、朗々とした調子で喋る眼帯の美青年。彼は魔法神だ。白髪に白磁の肌と不健康そうな印象だが身にまとった法衣は美しく、腰に回されたベルトにはいくつもの凝った杖が収められていた。


「え、あ、わ、分かりました!」


 突然の指名に驚きながらもエレナが頷くと、彼はそれで納得したのか頷いて口をつぐんだ。かわりにその隣、つまりは巨大なジャガイモが動く。重力を感じさせない挙動でソファーから浮き上がったのだ。

 プシュー!


「「!?」」


 圧縮された蒸気が噴き出すような音をさせ、ジャガイモに縦線が数本刻まれた。その線に合わせて皮がゆっくりと、機械的な鋭角で帯状に開いていく。上から見ればまるで花が開くような姿だろうか。

 ウィィイイイイイイイン……。

 小さな音をさせながら皮が展開しきると、そこにいたのは浅黒い肌の少年だった。農耕の神にして農業従事者を守護する大神、ダジャックである。


「じゃん」


 ひどく無感情な声でとてつもない無表情のままそう言って見せるダジャック神。実は自由奔放な神々の中でも異彩を放つ謎な性格で有名な御仁だ。


「以上」


 ウィィイイイイイイインン……。

 それだけ言うと彼の足元に敷物のように広がっていた皮が動き出し、今度は濃い緑で横広な形の外殻へと変わっていく。どうもあの敷物のようななにかは色々な野菜に擬態できるらしい。

 ガッシャン!プシュー!

 重たいロックのかかる音とまた圧縮された空気が排出される音がする。そこには大きく立派なカボチャがあった。


「……」


 反応に困ってミアの方を見るが肩をすくめられるだけだった。


「おほん」


 なんといっていいか困っているとダジャックのさらに向こうに座る壮年男性が咳払いをした。燃えるような赤髪を丁寧に撫でつけ、仕立ての良いシャツとベストに身を包む紳士然とした神だ。


「小生はハルーバ、我らが主ミア様より三世界の火を下賜されし老いた神である。以後お見知りおきを、新たな神と小さなレディ」


 簡潔ながら丁寧な口上を述べる彼の仕草はやや芝居がかっているが実に堂に入ったもので、さながらどこかの有名劇団の老練な役者のようだ。炎を司るハルーバ神は芸術などの情熱にも通じるからだろうか。


「さて、儂の事はわかるじゃろう?創世神ロゴミアスじゃ。気軽にミアと呼んでおくれ、エレナや。それでこっちがシャロス=シャロスとミオザじゃ」


「こんにちは、お2人とも」


 しっとりした声音の美人は月光神シャロス=シャロス。床に着きそうな長い濡れ羽の髪と月光のような白い肌が特徴的だ。本当に短い挨拶だけを妖艶な笑みで告げた彼女はそのまま隣の神の肩に触れる。


「ミオザのばんか?」


 促されて首をかしげたのはオレンジの髪をぼさぼさに伸ばした小麦色の肌の獣人、に見える神。イヌ科のように尖った獣耳を立て、獅子のように丈夫な牙を覗かせ、蛇のように細い瞳孔でこちらを見据え、手足に鳥の羽根のようなものを揺らしている。明るいながらどこか原始的な恐怖を感じさせる笑みを浮かべたその存在こそ、全ての獣の母にして獣人の父であり守護者でもある大神。


「ミオザはどーぶつのカミサマだよ。すきなことはたべること、あそぶこと、またたべることー!むずかしーのはきらい!」


 獣祖神ミオザは獣人を産んだ神の1柱だが、獣人で彼女を深く信仰する者はそう多くない。獣人は獣の要素を持つ人だが、ミオザは人の姿をとれてもあくまで獣なのだ。ギリギリ人間に理解できる範囲で言うなら「生きることはあらゆる形で戦い、勝った者が負けた者をあらゆる形で食うことだ」という教えを持っている。そこには善も悪も好も憎もなく、狡い勝ちと潔い勝ちに違いは見出されない。勝てば相手を貪れるし、負ければ貪られる。当然最後まで巻き返しはアリで結果が全てだ。

 まあ、人類ウケしないとこと間違いない。

 当の彼女は自己紹介を終えて早々にシャロス=シャロスの膝に飛び込んでいる。こちらの感想なんてどうでもいいらしい。


「ミオザ、ほどほどにな。では次の神じゃが、冥界神ヴォルネゲアルトの代理で実の子でもあるアルキアルトとヴォーレンじゃ」


 髪を目の下で切りそろえた20前後の女性と、短髪でヤンチャそうな少年。姉の昇天神アルキアルトは低露出の黒いワンピースとズボンを纏い、背中から漆黒の人骨でできた翼を広げている。弟の輪廻神ヴォーレンはシャツにハーフパンツにサスペンダーを全て黒で揃えており、背中からは何本も漆黒の骨の腕を生やしていた。

 背中から延びる黒い人骨のパーツもさることながら、最も目を引くのは2人とも白目の部分が群青であることだろう。もちろん神なので瞳は真鍮だ。


「め、冥界を司る神ヴォルネゲアルトの代理としてさ、参上いたしました。長女アルキアルトと長男ヴォーレンでございます。ち、父の不参加をお詫びいたしますとともに、エ、エクセル様におかれましては……」


「ネーちゃん、話長いんだけどー?親父が忙しいのなんて今に始まったことじゃなし誰も気にしないって、なータイショー?」


 アルキアルトは少し低めで耳に優しい声の持ち主だが、それに見合ったおとなしい性格らしい。それに対してミアをタイショーと呼んで見せたヴォーレンは見た目そのままのやんちゃ坊主のようだ。


「こ、こら!ミア様になんて口を……」


「だってタイショーがいいって言ってんだし、いいじゃんか?」


「喧嘩ならあとでせんか。あとわしは気にしとらんのじゃ」


 あまりにフランクな態度に慌てるアルキアルトと開き直るヴォーレン。そしてそれに顔をしかめつつも若干笑みがこぼれるミア。傍から見ているとほのぼのした絵面だ。


「さて、あとは3人じゃな。そこの年寄りがラネメールでその次がトーニヒカ、最後はエカテアンサじゃ」


「エクセル殿、災難に何も知恵をお貸できなんだこと詫びさせてくだされ」


 モノクルを付けた柔和な矮躯の老人、全知神ラネメールがしゃがれた声で謝ってくれる。俺の肉体と精神に歪みが出た件でミアが色々訪ねてくれたそうなのだが、その時に何も有用なアイデアを提供できなかったことを言っているのだろう。


「気にしないで。終わり良ければ全てよし」


「そう言ってもらえると助かりますわい。今後は貴殿を観察して実例とさせてもらうことにしましょうかのう。それと技術についても教えていただけると……」


「あぁん!もぉ、おじいちゃんったらいつまで喋ってんのよぉ!」


「おっと、すまんかったすまんかった」


 ラネメールが好々爺然とした顔で自分の要求もねじ込もうとしたところ、隣の美女に押しのけられてしまった。


「アタシはトーニヒカ。美と恋を司る、天界ナンバーワンの女神サマよぉ」


 甘ったるい余韻を含んだ声で豪胆な自己紹介をした女神、恋愛神トーニヒカは蠱惑的で理想的な体を薄い生地の服とも呼べないような衣装に包んだ神だった。ほぼ下着が丸見えな薄衣の寄せ集めだが下品に感じないのはさすが美の女神と言うべきだろうか。


「ひゃぁ……」


 育ちのいいエレナからすると裸同然の姿に、小さい悲鳴のような声が聞こえる。


「アナタと、エレナちゃんだったかしらぁ……とーってもカワイイから、あとでアタシのオモチャに、じゃなくてアタシが自分の魅せ方を教えてあげるわぁ」


 豊満な胸の前で手をひらひらとさせるトーニヒカ。それだけで背筋が泡立つような危険な色香が漂ってくる。それは甘いくせに肉食獣に見つめられているような、どこか身の危険を感じさせる気配だ。


「えっと……まあ、そのうちで」


「あとで、絶対に、ね?」


「こら、トーニヒカちゃん。あんまり困らせちゃだめよ?」


 粘度の高い蜜の視線を春風のような優しい声が吹き払ってくれる。慈母神エカテアンサが間に入ってくれたのだ。


「エクセル様はお久しぶりです。エレナちゃんははじめまして、わたくしはエカテアンサ。よろしくお願いしますね」


 彼女は相変らずホッとするような温かい気配の女神だった。


「よし、これで一通りの挨拶も済んだのじゃ!時間もそうあるわけではないからな、早速宴に移るのじゃ!」


 なんだかんだ人数の関係で紹介に時間を取られたからか、ミアは少し焦ったようにソファーを立ってそう宣言した。


「飲んで食べて語らって、大いに楽しむがよい!」


 その言葉と共に、部屋中のテーブルに食べ物や飲み物が出現する。

 さて、ようやく宴会の始まりだ。


神々がめっちゃ出てきました。

あんまり覚えなくてもいいですよ、再登場の度に短く説明しますから。

でも好きな神様を覚えてネタにしてくれると、作者は嬉しいです。


~予告~

神々の宴が始まる。

それは時間を超越する宴だった。

次回、ウラシマお嬢様


ミア 「逆方向じゃな、時間のズレ方が」

アクセラ 「ある意味ウラシマ状態だけど」


※※※変更履歴※※※


2018/09/04 タイトルの誤字を修正

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