十三章 第26話 使徒の仕事
長らくお待たせいたしました!
連載再開です('◇')ゞ
「どぅあー、疲れた!」
艶のある声で艶のない大息を吐き、創世神の使徒アーリオーネ=ロゴス=ハーディングはふかふかのソファに身を投げ出した。雪のように白く滑らかな肌から汗が散って、こげ茶色の革を濡らす。
「リオ、せめて汗を流してこい。汚いぞ」
部屋の主であるガイラテイン使節団長トゥバル司祭は苦い顔で聖なる闖入者に苦言を呈した。
しかし彼女はきらきらと玉の汗を美しい顔に浮かべ、意地の悪い笑みを作って流し目を返す。
「おいおい、トビー。君はこの僕を捕まえて汗だくで汚いって言うのかい?僕は使徒で、絶世の美女で、しかも勤勉なる労働の汗をまとってこんなにも煌めているというのに」
「煌めいていようがなんだろうが、男の部屋に上がって汗だくでソファに転がる女があるか。品の問題だ」
「まったく、トビーは僕が身近にありすぎてありがたみが分かっていないのさ。なんなら僕の汗を集めて持って帰りたいと言いだす輩までいるというのに」
「そんな変態は衛兵に突き出せ!」
からかう使徒とからかわれる司祭。それは二人にとっていつもの構図だが、今日はそこにほんのりとヒリつく何かが混じっている。
「いくらなんでも、明日でいいんじゃないか?もう深夜だし……」
しばらく無言が続いたあとにトゥバル司祭が言う。
けれどアーリオーネは首を横に振った。
「今日が一番いい。僕ではなく、旅立つ死者たちのためを思うならね」
「しかし」
二日に及んだユーレントハイム王国の慰霊祭は小一時間前につつがなく終了した。
使徒と両国の聖職者が都市全体を聖属性の儀式に耐えうる正常な場へ清めることから始まったその儀式は、まるで厳かな葬列のようだった。聖水を振りまき、聖句を唱え、魔法で邪気や瘴気を払うのだ。
「いやぁ、久しぶりに門を開けたから疲れているのは事実だけどね」
晴れない恋人の表情を横目に納めてアーリオーネは陽気に笑う。
小一時間前、彼女は凶事のあった北に面する王都の門の外で天上界へ続く門を開いた。特別な木材で組んで作らせた直径10mもの大きな枠に『使徒』内包スキル『神域生成』と『神門ノ鍵』を使って、冥界へ直通路を作り出したのだ。
「いつ見ても冥界は綺麗だよね。緑の丘に水晶みたいな石の花が咲き誇って、それに冥界神の座所アイレーンパレスの荘厳さときたら!」
冥界への門は地上に留まる死者たちを根こそぎあちらへ送るためのものだ。通ることができるのはこちらからあちらへ向かう魂と、あちらからこちらへ来て魂を拾い集める冥界神の戦乙女たちだけ。どちらも人間の目には見えない。
けれど門越しに冥界の景色を見ることは誰にだってできる。イメージを裏切るその美しさは旅立つ者の安らかな死後を想像させ、遺された者の心に安らぎを与える。
「死者も生者も救済する……僕はこの術が好きだよ。まあ、これだけ苦労して門が空いているのは次の朝日までって言うんだから、もうちょっとサービスしてほしいなとは思うけど」
冥界への門を維持できるのは朝日が昇るまで。つまり五時間程度しかない。
改めてそう突き付けられトゥバルの表情が歪む。
「さて、そろそろ行くよ」
休憩を終えたアーリオーネは立ち上がる。細い金属棒を連ねた耳飾りをしゃらんと鳴らして。
彼女にはまだこれからダンジョン潰しという大仕事が待っている。死者で満ちた『ハリスクの地下墓所』を一掃し、囚われた魂を門の向こうに送るという大役が。
「僕の輝きを待っている子がいるからね」
「無理をするなよ」
なおも言う司祭の前へ進み出ると、彼女はさっと腰を折って男の額に口づけた。
「帰ってきて君が僕を抱き留めてくれるなら、なんだって無理なんかじゃないさ」
「だからそういう話をしているんじゃ……」
「行ってきまぁす!」
「おい!いや、せめて扉から出ていけ!!」
儀礼用の豪奢な衣装を翻して窓から飛び出していく女を、叫びながらも心配そうな目で追いかけるトゥバルであった。
~★~
半時ほどの後、ところ変わって王都ユーレンのすぐ外に広がる林。その中にぽっかり口を開ける縦穴の奥にアーリオーネの姿はあった。
彼女が纏っているのは純白の布地に差し色として深紅と真鍮を使った、流れるようなデザインの袖なし聖騎士服。その上に同じく純白に輝く軽鎧。聖王国が製法を秘するブライトミスリルで、リムやネックガードに精緻な彫金がなされておりシンプルでありながら華やかさもある。男装の美女であるアーリオーネの魅力を最大限に引き出した装いだ。
「使徒様、こちらを」
「ああ、ありがとう」
周囲に侍る神官の一人からオレンジに淡く輝く最高級ポーションを受け取り、爽やかな甘みのあるそれを一気に一瓶飲み干す。
「流石の僕もちょっと疲れたし、さくっと済ませて早く寝たいね」
そう笑ってから別の神官の差し出す一対の剣を受け取る。
こちらはパレードの時と違いショートソードではなく、より取り回しを重視した短めの双剣。鎧と同じく総ブライトミスリル製で反りはなく両刃。ガードと柄を覆うようにして側面へ小さな盾が一枚付いている 。
「本当に我々を同道させる気はないのか?」
そう訊ねたのはBランク冒険者パーティ「懐の一撃」のリーダーであるセペト。一握の異名をとる拳士で王都最強の獣人だ。彼の率いるパーティは本来、使徒を案内して最奥まで潜る予定だった。
「ああ、これだけ詳細な地図をもらえれば大丈夫さ。きっちり掃除をしてくれているらしいしね。ぱっといってばっと倒して帰ってくるよ」
ちょっと買い物に行ってくるとでも言うような口調に、セペトの表情が険しくなる。
「随分な自信だな。軽んじられているようで好かん」
「ちょ、セペト!」
挑戦的ともとれる言葉を吐く男を、在野の聖職者である「懐の一撃」のアンダルシアが慌てて窘める。周りの神官たちからも鋭い視線が殺到。
使徒とは神の僕であり、地上にあってその声を直接聞くことが許された上位存在。聖職者にとっては戦乙女や天使に並ぶ信仰の対象だ。それを冒険者風情が「好かん」などと言えば、当然の反応である。
「冒険者殿、弁えて頂きたい」
若い女の神官が一歩踏み出してそう言った。口調こそ多少は丁寧だが、その視線はあまり友好的でない。
だがセペトは彼女にピクリとも反応しなかった。退くことは当然として、反発すらも。
冒険者は面子を重んじるが、Bランク筆頭ともなれば誰かれなく吠え返すことで維持できる安い面子など持っていない。ゆえに彼は歯牙にもかけず使徒だけを見つめる。
「なっ……!?」
「止しなよ、失礼なのは僕の方なんだから」
無視されて顔を赤くした女がもう一歩前に出ようとするのを、アーリオーネは面倒くさそうに手で制した。それからすまなそうに肩を竦めてみせる。
「すまないね。今回の供回り、勉強がてらで送り出された若手が多いんだ。尖っているのは若さってことで、どうか大人な心でもって受け流してほしいのだけれど」
「そんなことはどうでもよい。依頼をどうするのか、こちらの関心事はその一点のみ」
セペトの会話を切り捨てるようなストイックさに使徒はニヤッと笑う。
彼女は仕事柄あちこちの冒険者と会話をしてきたが、彼ほど依頼そのものに真っ直ぐな者は珍しかった。その姿勢は好ましいものだ。
だからこそ、少し心苦しく思いながら続きを口にする。
「時間がちょっとタイトでさ、ここは僕の翼で一気に進みたいんだ。だから申し訳ないけど予定変更、同道はなし。もちろん君の言う通り依頼は依頼だから、報酬は払う」
「いらぬ。地図の分だけでいい。やってもいない仕事の報酬を受け取るなど我慢ならぬ」
使徒のオファーをにべもなく断り、セペトは早々に踵を返した。
若い神官たちが一層苛立つが、男は一切気に留めず。
アーリオーネはというと、一人くつくつと笑っていた。
「ふふ、その誇り高さはイイね。ならこちらの事情でキャンセルしたと、ちゃんと報告させるよ」
「当然だ、こちらからもそう報告する」
最後までおもねる気配なく去っていくセペト。気配すらないまま、徹頭徹尾の無言を貫いてその背を追いかける老魔法使いローディ。最後に深い一礼をとってアンダルシアもそれに加わる。
「……なんなのですか、あの者。使徒様相手に一貫して無礼な」
ロープを伝って冒険者たちが撤収したのを見届けるなり、セペトに詰め寄った女が顔をしかめた。
「世の中、使徒が何より偉いって思う人間ばかりじゃない。そういうことさ」
「お言葉ですが、それは間違っています」
きっぱりと言い放つ若い神官にアーリオーネは深いため息を吐いた。
「神々に次ぐ存在が使徒様であり、地上に神々が降りてはおいでにならない以上は」
「こらこら、僕に説法はいらないよ」
「し、失礼いたしました!」
慌てて姿勢を正し、胸の前で聖印を切ってみせる女神官。
まるで軍人のような規律正しさと態度の固さに使徒はもう一度息を吐く。
「純粋培養すぎて頭が固いんだよ、君たちは。懐の一撃にいた聖職者を見ただろう?僕に敬意を表しつつ、リーダーの決定を理解して尊重していたじゃないか。ああいう社会性というか、バランスが欲しいよね」
「は、はぁ」
「つまり聖職者に必要なのは支柱としての信念と信仰であって、四六時中どこへいっても振り回す狂信じゃないってことさ。もっと世の中に目を向けることだよ。自分が守るものがどんな色形で、どんな匂いがして、どんな感触がするのか……知っておいて損はない」
アーリオーネが朗々と説教を垂れると、女神官は少しむっとしたような顔になる。それから小さく、本当に小さくこぼした。
「狂信しているつもりはありません」
「ならそれを示していなかないとね」
気安く肩をポンポンと叩き、最後にニッと笑ってアーリオーネは雑談を切り上げた。
「そういうことでよろしく。じゃあそろそろ行ってくるよ」
「は、はい!我らの使徒に創世神のご加護があらんことを」
「我らの使徒に創世神のご加護があらんことを 」
深々と頭を下げる神官たちを背に、アーリオーネはダンジョンへと続く入口に立つ。
剥き出しになった左腕で深紅が弾ける。獅子の横顔と太陽に挟まれる一本の樹の紋章。ロゴミアスを象徴する証が輝きを放ったのだ 。
『使徒』内包スキル『陽光ノ翼』
アーリオーネの背中から真昼のような眩い光が迸り、一瞬にして翼を模る。彼女の代名詞でもある飛行の奇跡だ。
「おお……」
神より賜った太陽の加護持つ翼を前に、多くの神官が感嘆を漏らす。
聖印を切って深々と礼拝する者まで出る始末。
それを彼女自身は面白くなさそうな顔で流し、爪先を軽く蹴る。
ふわり。
男装の麗人のブーツが大地から離れる。一拍の滞空。次いで羽ばたき。それだけでライトブラウンの髪を乱し、彼女は前へと強烈な推力を得た。
光の翼の力で攻撃魔法のように射出されたアーリオーネは、夕焼け色の瞳にスキルの光を宿して墓土の通路を滑空する。複雑な横道を全て無視し、曲がり角では身を翻して壁を蹴り、ところどころに突き刺さる封印の魔道具を頼りに一路最奥を目指して。
「ははは、これはスリリングでいいや!」
ちょっと間違えれば凄まじい速度で粗い土壁に叩きつけられて使徒のすりおろしになる状況で、彼女は実に楽しそうに笑っていた。直前までの嫌そうな顔はどこにもない。期待も信仰もしがらみも、全て初速で置いてきたようだった。
事前に入った冒険者たちの活躍により、彼女を邪魔するスケルトンは一匹たりとも存在しない。セペトに渡された地図もしっかり頭へ叩き込んだ。あとは彼女の飛行技能次第。
大切に大切に、投入される戦場を徹底管理されているアーリオーネにとって、これは最大限の好き勝手ができる環境だった 。
「偶には羽を伸ばさないとね、文字通り!」
風の絶えた洞窟のような中で風を起こし、風を纏い、風を引き裂いて飛翔する使徒。その驀進が止まったのは三十分も飛んだ頃だった。
「よっと!」
何度目かの大部屋に入ったところで翼を回転させて推進力を分散させ、暴風を周囲に解き放ちつつ着地を遂げる。
そこは報告書にあった露払いの最終到達ライン。見上げると高い天井には巨大な白い塊がへばりついていた。
一目見た印象で言うならそれは蜘蛛の卵か何か、つまり白い糸玉に包まれた物体。しかし目を凝らせばその表面が無数の人骨であることが分かる。
「うーん、期待通りではあるのだろうけど……これはまた、ちょっと見たことのない現象だね」
独り言ちるアーリオーネ。
創世教会が冒険者たちに依頼してアンデッドを上から討伐させ、再発生禁止の封印を施させていた理由。それは一部の冒険者が危惧した通り、最奥へと不死神の加護である邪気を追いやって濃縮することにあった。
ただ当初の目論見では次の階に居るであろうダンジョンボス、ネクロリッチに呪いが集まっているはずだったのだが……。
「タイミング的に元からここでナニカが生まれつつあって、それが呪いを横取りしてしまったのかな?まあ、どっちでもいいのだけど」
呪いの凝縮を試みていた理由は二つ。ダンジョンを手早く葬るために纏めて置きたかったからと、強いアンデッドを倒すことで『使徒』の強化を図るため。つまりアーリオーネの強化目的だ。
「おーい、卵の中のヤツ!」
何を思ったのか、アーリオーネは頭上に目掛けて大声を上げた。
「孵化しないのかい?まだ完成してないカンジ?まあ、しないなら通らせてもらうけど!でも奥でボス倒しちゃうからさ、きっと戻ってくるころにはダンジョンが滅んでいるよ!それでもいいのかい?今ここで孵化しておいた方がマシだと思うけどなぁ!」
なんとも気の抜ける呼びかけだったが、応えはあった。頭上で小さくミシっと音がしたのだ。
まるで雪崩が始めは小さな音から始まるように、人骨の繭はミシミシ、メキメキと軋みを大きくしていく。段々と喧しくなっていくそれは、中で何かが動き始めていることを示唆していた。
「そうそう、それでいいんだ」
満足そうに頷きつつ、降りかかる骨粉をよけて壁際に退避するアーリオーネ。
彼女がゆったりと背を土にあずけて見守る中、粉だけでなく欠片までが降るようになり、やがて繭を覆う骨たちは内側から張り裂けそうにひび割れていた。
ガカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッッッ!!!!
突如、一斉に埋め込まれた頭蓋骨たちが顎を鳴らし始めた。
畏れるように、祝福するように、あるいは苦痛に泣き叫ぶように。
「うわぁ、これはまた酷い邪気の濃度だ」
繭に刻まれた無数の罅や頭蓋骨の目鼻口から溢れ出てくる不死神の加護。神の気配を臭いとして捉えることができるアーリオーネは、命が渇き切ったような砂臭さに顔をしかめる。
メキ、メキメキ、ビシッ、バキッ、グシャ……!
一際大きい破砕音が部屋に反響した。繭の底が耐えきれずに崩落し、中身が床へと吐き出されたのだ。
「うわぉ、これは凄い」
感嘆を上げる緊張感のない使徒の目の前で、生れ落ちたソレはゆらりと身を起こした。
案の定、ソレはスケルトン系の魔物だった。しかしサイズが小屋ほどもあるうえ、馬のような四つ足に人のような上半身を備えている。短くまとめるなら大きな大きなセントールのスケルトン。
しかしそれだけではない。肩からは腕が二対伸び、手にはそれぞれ白骨を固めた鎗と剣と盾二枚を持っている。全身にスケルトンナイトのような骨の防具を纏い、兜の下からは四つの眼窩がアーリオーネを睨んでいる。
「ガカカカカカカカカッ……!!」
内外に並んだ二重の顎骨を鳴らして雄叫びを上げる異形の中の異形。
「さすがにちょっと初めて見るな、君みたいなのは。けど急かしたせいかもうちょっと準備にかかりそうだね。うーん、クールタイムが気になるけど、使っておこうか」
まだ目の前の化け物が動き出せる状態でないのを察するなり、彼女は左手を胸の前に突き出して目を閉じる。
『使徒』内包スキル『権能借用』、対象:全知神ラネメール
手袋と小手を装備したその手の中に、真鍮色の輝きを纏った黄色い表紙の本が顕現する。神々しく輝くその古びた書物は、全知の神の知識を読み取ることができるという狂った性能の辞書だ。
「とはいえ君、ユニークっぽいからなぁ。ラネメール様の辞書、一点モノは載ってないし。とりあえずは目利きが先か」
呟きながら発動する『目利き:魔物』。すると名前だけがポツンと視界に表示される。
「ほほう。クラディアス=ザ・オビディエントヒーローか。また大仰な名前だけど、スケリトルセントールの亜種にあたるのかな?」
開かれる黄色い表紙の古書。すると年代物と推察される羊皮紙の見開きに、文字がジワっと浮かび上がった。
「えー、なになに。ふむ、ふむふむ。クラディアスというのはユーレントハイム王国以前、このあたりで有名だったグラディエーターの名前と。つまりこの墓所に眠っている彼女たちにとっては、当時の強さの象徴だ。それで従順な英雄か。皮肉が利いているね」
権力に従えられていた力の象徴。頭を垂れるしかできない役立たずの暴力。ともすれば支配者の気まぐれで彼女たち自身にその力が向けられたこともあったのかもしれない。
そう思うとアーリオーネの笑みもさすがに陰る。
「いやあ、あんまり湿っぽい話は好きじゃないんだけどね。僕がおセンチになったって何を救えるワケでなし。死んで久しい君たちの気持ちは、やっぱりこれも僕じゃ救えないからさ」
ワントーン落ちた声で呟いた彼女だが、すぐに一つ咳払いを挟んで陽気さを取り戻す。
「しかしクラディアス氏はセントールではないらしいが、どうしてこんな姿に?うーん、そこまでは書いていないか。ラネメール様の知識って結構扱いづらいんだよな。こんなこと言ったら怒られそうだけど……あ、もう準備はできたかい?」
訊ねる言葉に返事はない。代わりに刺すような殺気が男装の麗人へと向けられる。
彼女が務めて明るい口調で好き勝手を言っている間、歯をカチ合わせて威嚇していたクラディアス=ザ・オビディエントヒーローは、屍の肉体が安定したのかとうとう四つ腕の武具を構えて戦闘態勢をとっていた。
「よしよし、いいカンジだ。全力でぶつからずに未練でも残ったら悪いからね」
パタンと黄色い本を閉じるアーリオーネ。現れたとき同様に真鍮色の光の粒子に包まれて全知神の書物は空気に解ける。
「では行こうか、過去の英雄の幻影。あるいはその模造品かな?なんだっていいがご安心あれ。僕がこれから君を救ってあげよう。他の全ての子たちもだ。冥界が歓迎の準備を整えているよ」
両腰に吊るした双剣をしゃらりと抜き放つ。
「改めまして僕の名前はアーリオーネ。アーリオーネ=ロゴス=ハーディング。創世神ロゴミアス聖下の使徒にして創世教会の擁する便利な始末屋さ」
嫣然と笑う使徒アーリオーネ。
「さあ、この僕の糧になってくれたまえ。人類を守る銀の盾の一部にね」
「ガグカカカカカカカカカッッッ!!!」
スケリトルセントールが地面を蹴ると同時、彼女の背の翼が一際激しい光を放った。
善なる者と邪なる者の戦いが、始まった。
読者諸氏におかれましては、お久しぶりです。
随分とお待たせしてしまい申し訳ございません。
技神聖典 十三章 瀉炎の編 ここから連載再開でございます。
長々苦労話をしても仕方がないので、是非ここから激しく展開する物語を楽しんで下され!
面白ければ励みになりますので、評価&いいね&感想頂ければ幸いですm(__)m




