十三章 第3話 試験勉強
カリカリとペンが羊皮紙を掻く音に満たされた図書館。俺とエレナはいつもの仲間と集まって大机の一角を占拠し、イカれた厚さの歴史書を開いてあれこれ書き物をしていた。
「……」
「……」
「……くしゅん」
レイルやティゼルといったお調子者すら喋らない空間では、誰かのくしゃみの音すらやけに大きく聞こえる。
学院が再開して数日、俺たちは授業と時間外の鍛錬を除いたほとんどの時間をこうやって過ごしていた。遊びにも行かず、依頼にも出ず、魔道具開発や夜のアレコレも……いや、それは少ししているけど。とにかく勉強に持てるリソースの全てを割いているのだ。
そう、全てはヒタヒタと足音をさせて近寄ってくる年度末試験の対策のために。
カリカリ、カリカリ、カリカリ。
カリカリ、カリカリ、カリカリ。
カリカリ、カリカリ、カリカリ。
カリカリ、カリカリ、カリカリ。
誰かの集中力が尽きるまで延々と。
「だぁー、もう無理!」
本日の誰かはレイルだった。彼は周りの迷惑にならない程度の声で悲鳴をあげ、歴史書に突っ伏す。二時間くらい頑張っていただろうか。
それを合図に全員がペンを置き、羊皮紙から顔を上げて息を吐く。
「結構経ちましたし、休憩にしましょうか」
アベルが立ち上がって腰を捻る。バキバキと若さのない音がした。
「いやあ、俺もあとちょっとで限界くるとこだったよ」
「はっ、情けないわね。いてて……」
「ふふ、アティネさんもギリギリの様子でしたわよ?」
「んなことないわよ」
ティゼルが背もたれに体を預けてゆるゆる息を吐き、その横で目の死んだアティネが豊満な胸をそらし、アレニカが苦笑を漏らす。
ディーンは無言で首を解しているが、普段あまり机に齧りつかないタイプだからか結構辛そうだ。
「でもだいぶレポート進んだんじゃない?」
「そうだな。やはり資料の回し読みは捗る」
剣士として体を鍛えつつ王太子として執務もこなすネンスと、普段から勉強と読書が趣味と化しているエレナとマリア。この三人だけはケロっとした顔をしている。
俺?俺はレイルと同じで資料に頭から沈んでいるが?
「でもまあ、このレポートさえ終われば史学のテストは準備万端ね」
「オレは年表が覚えられねえ」
「レ、レイルくんは、その、直前に詰め込めば、大丈夫、だから」
マリアが何とも言えない表情で言う。
実際、入学時の試験はその詰め込み方式でAクラスを勝ち取っているレイルだ。本人は試験まで覚えていられるか気が気ではないらしいが、これまでの試験も全て切り抜けているあたり結局はなんとかなるのだろう。
(ある意味で一番ズルいのはレイルだな)
俺はそうもいかないので必死に語呂合わせを唱えるしかない。
262年ハゲたるルドヴィス帝、296年う間もなくカツラ飛ぶ……とか。
神聖ディストハイム帝国が健在だったら不敬罪待ったなしだ。ちなみにカツラ飛ぶは首が飛ぶ、つまり戦死したという意味である。本当に失礼極まりない語呂合わせだな。
(でも三十余年もあったら繕う暇は十分あるだろ)
なんてくだらないことを考える。これもこの学院に脈々と受け継がれる語呂合わせらしいが、ツッコミどころがあればこそ記憶に残るのだろう。そう考えると連綿と続く学校の教育というのはよくできたシステムだ。
「やっぱ羊皮紙書きづらいよな」
「そうかしら?アタシは木紙の方が書きづらいわね。破れるし」
「そりゃあ麗しの姉上がオーガみたいな筆圧で書くからでボバッ」
ようやく気力を振り絞って歴史書から顔を上げた俺の前に、向かいの席のティゼルの顔が落ちてくる。机上に沈む少年は哀れ、白目を剥いておねんねだ。
「もう少し頑張ればオレもレポート終わりそうなんだがよ、そうなると明日は何する?」
「僕は書き物系以外がいいですね。あれこれ手紙を書いているのもあって、いい加減手が痛いですし」
レイルの問いにアベルが指をさすりながら笑う。見れば確かに彼の指はペンだこが潰れかけていた。
「私もだな」
ネンスも剣だこが潰れた手を見せて同意する。
「あ、そうだ、詩!詩にしようぜ!さっぱりわからねえから教えてくれ!」
「書き物じゃないですか……」
アベルにすげなく却下されるレイル。
(当たり前だ、話を聞いてないのかお前は)
などと呆れる俺だが、正直詩はさっぱりなので別の日にレイル共々特別授業を誰かにお願いしたい。
「でも書き物じゃないテスト対策なんてあるかしら」
「たしかに」
「結局は勉強なんて、書いて覚えるのが王道ですからね」
そんな風に首を捻っていると、マリアが遠慮がちに手を挙げた。
「さ、算術はどう、かな?」
「算術も計算式とか一杯書かされるじゃないのよ」
「間違えたら間違えただけ書き直しだぜ?むしろ一番書いてる気がする」
「いや、それなら私とアベルは教える側に回ればいい。そうだろう?」
ネンスの視線にマリアはコクコクと頷く。
「ああ、なるほど」
この学院において算術は基礎的な計算式で実用的な処理を行う授業だ。貴族にとって実用的な計算処理となると税や収支といった領地経営か、備蓄や兵数といった軍事関係が主流。つまり王太子のネンスと情報屋のアベルは既に実務レベルに達している内容になる。
「あー……確かに算術は、ちょっと苦手なんだよな」
「その、恥ずかしながら俺もです」
「そこで伸びてる馬鹿ティゼルもよ」
「アティネちゃんも計算間違い、酷いけどね」
「う、うるさいわね……」
騎士連中が軒並み視線を逸らした。
真面目そうなディーンまで苦手というのは少し意外だが、彼らだって貴族だ。それでは困る。
当主になればもちろんのこと、領軍に入れば領主の血筋の騎士は最高幹部で、国の騎士団に入っても師団配属となれば兵士を与えられて指揮を行う身。どのみち算術は必須である。
「その、わ、わたしも、ちょっと苦手で……」
マリアは逆に詩や歴史が得意なタイプである。
エレナは当然のようにどちらも得意。さすが知識欲と好奇心の魔物。あるいは研究に憑りつかれた魔法狂い。
「その、算術なら私もお教えできますわ」
と、ここでアレニカが手を上げる。
「あー、そっか。ニカちゃん天文学好きだもんね」
「天文学って計算すんのか?」
「ええ。と申しますか、算術の授業より計算をしている気がしますわね」
算術の計算と天文学の計算は方向性が全く違うらしい。かつての知人曰くありえないほど繊細で複雑、難解極まりないものだとか。
季節や時間帯、観測ポイントを加味して星の軌道を割り出そうとすると、スキルアシスト抜きでは到底不可能なほど長くヤヤコシイ数式を解くことになるそうで。
当たり前だがスキルを得るまでは手書きで計算せざるを得ず、これを避けてはスキルも得られない。天文を志す者の道は地味に険しい。
「そんなことやってんのか……」
ざっくりした説明を受けたレイルが青い顔で言う。膨大かつミスの許されない計算式を思い浮かべただけで頭が重くなってくるのだろう。
「ん、レイルに計算させたら太陽が西から上りそう」
「そんなわけ……」
自分でもそう思ったのか、彼の反論は力なくすぼんで消えた。
「そういうアクセラも要注意なのではないか?私は厳しいからな、明日は寝るんじゃないぞ」
「私、計算は得意だけど」
「……なに?」
茶化すように言うネンスだが、俺の返答を聞いてありえない物を見たような顔をした。
「いや、しかしお前、算術の授業でよく居眠りを……」
「できるから寝てるだけ」
本当か、という視線がエレナに集まる。どうやら誰も信じていないらしい。失礼な話だ。
ただまあ、確かにこれまで算術の試験の成績を話したことはなかったか。
「あー……」
エレナはとても言いづらそうに目を逸らした。
「まあ、うん。計算は得意だよね。特に算術でやる範囲は。アクセラちゃんはその……」
「その?」
「えーっと、平たく言うと、金の亡者だから……」
今度は俺に視線が集まった。
(ホント失礼だな!)
俺は何とも言えない視線を否定すべく口を開く。
「金の亡者ではない。生きるためには金が必要。それだけ。武器をそろえるのも金、情報をそろえるのも金、薬をそろえるのも金。世の中は金、金、金。特別変なことではない」
「金の亡者が何か言っているぞ」
「どこからどう見ても亡者そのものじゃない」
「アクセラちゃん……」
集まっている視線が一気に哀れな者を見る目になった。
「そんなことはない。商業神ジャルカットの聖典にこんな言葉がある。金を愛さない者は金に愛されない。たかが銅貨一枚と嘲笑う者はいずれ銅貨一枚を 購わんと命を落とす」
「全然知らねえ」
「ん、だろうね。でも生きる金に困ったことのない貴族、なかでも金銭より誇りを重んじる騎士はこの言葉の意味するところに陥りがち」
「お、おう……」
「確かに騎士の間ではあまり金銭の話は好まれませんね」
レイルが引いたように頷き、ディーンは顎に手を当てて唸った。
「労働に金を払うのは生かすため。同時に報いるため。いくら誇りや名誉を振りかざしても、金払いの悪い主人についていく騎士は少ないのが現実」
「そんなことは……」
「払えない主に名誉のため仕える者はいる。でも払わない主に仕える者、いる?」
「……たしかに」
払えるのに払わないことは騎士の誇りも忠誠も価値がないと宣言するに等しい。
金は主の信頼を測る一つの指標となるわけだ。
(トニーたちのような精兵が貧乏伯爵家のウチにいてくれるのは、縁や歴史のおかげだけではない。ビクターが誠心誠意、少なくない給料を少ない財布から工面してくれているからだ)
だがそれも限度のある話。
「名誉を金貨で測るのは、いわば余裕の部分。生活できないところまで資金繰りが落ちるとさすがに見捨てられる」
特に騎士は戦って死ぬことを誉とする。飢えて痩せて死ぬのは御免だろう。
とまあ、このように金を汚いとか抜かす騎士も金に絡まれて生きているのだ。
「金と無縁でいられる人間などいない。金は人間を繋ぐ一種の言葉であり、人間の価値観を繋ぐ翻訳装置」
「分かるような、分からないような……」
「人間社会は商品や人という実物と、価値観や情報といった見えない物を、お金で縛って一つの仕組みにしている」
金貨の重みは含まれる金属の重みにあらず。その重みを通じて人は価値を肌で感じ取ることができる。
これを介することで、情報や知識という質量で感じ取ることのできないモノの重みを人間の手の上に再現することができる。いわば無形の形状化だ。
大仰に言うならば天におわす神々と地上でその意思を広める神官の関係だろうか。つまり人間の持つ高度な文明、文化において金は巫女なのだ。
と一気にまくしたてた俺はまとめにかかる。
「難しく言ったけど、その仕組みを平易に言えば商業。その神格化がジャルカット。人の活動から生まれた神が大神の一角を占めるのは、お金が重要だという神話レベルの証明。Q.E.D.」
「きゅー……?」
「お前もうなんか商業神の神官みたいになってんぞ」
「技術神も似たようなもの。あと技術は、試行錯誤は金を食う。ドカ食いする。つまりお金大事。金、金、金!」
言い終えて友人たちを見渡す。誰も何も言わない。
いつになく熱が入った俺の弁に、レイルたちは大いに引いていた。
「……」
「……」
「……」
「そ、そろそろレポートに、その、戻った方が……」
「……ん」
数秒に及ぶ、何とも言えない沈黙。
ためらいがちに差し込まれたマリアの提案に、俺は大人しく頷いた。
(これは金の亡者だな、うん)
証明できたのはそれだけだった。
~★~
勉強会が終わり、レポートを教員の研究室に出した俺たちはその足で全員そろって夕食を食べに行った。煮込み料理のうまい店だ。
冬休みの間に何をしたとか、誰と会ったとか。勉強に圧迫されてまだ話せていなかったようなネタを出し合い、大いに笑い、飲む奴はちょっとだけ酒を飲んで楽しんだ。
「いやー、食った食った」
すっかり温まった白い息を大きく吐いてレイルが笑う。
「レイルは食べ過ぎです」
「頭使うと腹が減るからさ、仕方ねーじゃん?」
「ん、たしかに」
「アクセラちゃんも食べすぎだからね?」
そんな楽しい時間は早く過ぎていくもので、まだまだ寒い夜空の下をぞろぞろと歩いていると、そのうち大きな灰色樫の植わった十字路にたどり着いてしまう。
集い樫なんて愛称のつけられた大きなその木は学院内のランドマークの一つで、よく待ち合わせの目印に使われる場所だ。四つある道のうち三つが点在する寮にそれぞれ繋がっていてアクセスがいいのだ。
「さて、お開きだな」
ネンスの気負いのない一言に全員が頷く。
冬も終わりに向かっているが、ここで立ち話をするには寒すぎる。それに明日も授業だ。
「んじゃあ、オレらこっちだからさ」
「アタシはこっち。おつかれ」
「うん、また明日ね」
三々五々に分かれ、軽く手を振り合って俺たちは分かれた。昨日も今日も、そして明日も。まだ当分は顔を突き合わせるのに、なぜか名残惜しさを感じながら。
「もうすぐ春なんですわね」
ブルーアイリス寮に向かう四人だけで歩くことしばし。
ふと足を止めてそう言ったのはアレニカだった。
「なんだか、長い一年だった気がしますわ」
夜空を見上げてほうっと吐き出す息が束の間の雲になる。
その儚い白さには色々な感慨が込められていた。
「そうだねえ」
「ん」
「う、うん。長かった、ね」
俺たちも同じように足を止め、空を見上げた。
紺色のベルベットに細かい宝石をまぶしたような星空だ。
(長かった。うん、確かに長かった)
アレニカとエレナにとってはもちろん、俺にしても100年越えの人生の中で特別長い一年間だったように思う。きっと戦いとは無縁のマリアにとってもそうだったはずだ。
「アクセラさん、エレナ」
「ん」
「どうしたの?」
しばらく言葉もなく満天の星を四人で見上げる時間が続いたあと、再びアレニカが口を開いた。
「前にパーティへ参加しないかとお誘いいただきましたわね」
「ん」
「今さらお受けしたいと言ったら、許していただけるかしら」
視線を空から動かすことなく、彼女は芯の通った声で問うてきた。
俺はエレナをちらりと見る。君が答えなさい、と。
「えへへ……許すも何も、ずっと待ってたくらいだよ」
俺の相棒はそう言ってから優しく微笑んだ。
「私も歓迎する」
アレニカの肩に手を乗せる。華奢な骨にそって、以前に比べると少し筋肉がつき始めていた。夏の終わりから今まで、彼女が真剣に鍛えてきた証だ。
「でもなんで?」
「決心の理由ですわね。いくつかありますけど、一つにはアクセラさんのお金の話がありますわ」
そこで一呼吸置いたアレニカは、ゆっくりと足を動かし始めた。
つられて俺たちも歩きだす。
「私は……学院の卒業と同時に出奔いたします」
「ん」
「ここまで育ててもらった恩を、貴族の責務を、捨てるのは……その」
以前も一度口にしていたことだが、改めて宣言すると色々思う所があるのだろう。彼女は言葉を探すように一度黙した。
黙っていたのは二、三秒程度だったろうか。アレニカはしかし、その間も歩くことはやめなかった。
「でも私は、もうルロワの一員でいたくありません」
彼女にとっては愛していたから縋った家族であり、愛してほしかったから自分を偽ってまで誇りを持ち続けてきた家名だ。それを捨てると決心した。大きな決断だ。
元々は家名すら持たない「炭頭のエクセル」だった俺には、本当の意味では理解できない重さがそこにある。
「家を出るにも、生活していくにも、お金がなくてはいけない。アクセラさんのお話でそう思い知らされましたわ」
「ん、その通り」
「幸い私にはエレナがくれた魔導銃とそれを扱う才能がある。これで稼いでいこうと思っていますの。甘い考えだと本職の冒険者には怒られてしまいそうですが」
奥ゆかしく苦笑しているアレニカには悪いが、別に怒るヤツなんていないと思う。
なにせ騎士とは真逆、基本的に積まれた金貨の高さと気分が乗るか否かで動くのが冒険者だ。「オレには剣の才能がある!だからこれで軽くAランクまで登って富も名誉も女も独占だぜ、がはは!」くらいの軽率な考えで足を踏み入れたバカは沢山いる。
まあ、話の腰を折ってまで言うことでもないから言わないが。
「自分で生活するだけのお金を稼いで、あとは、そうですわね……いつか大きな望遠鏡が欲しいですわ」
現実を逆方向に知らない少女は控えめな笑みを浮かべて自分の夢を語った。
「天文学だね?」
「ええ。冒険者には学者をされている方もいるのでしょう?」
「儲かってる少数の中の、特に少数だけど」
まず間違いなく、アレニカの火力なら十分な稼ぎを叩きだすはずだ。
燃費を度外視すれば魔導銃の突破力と破壊力は通常の魔法を軽く上回るし、彼女の場合はその最大の懸念点を無視できる。上手く立ち回れば冗談抜きですぐに上位冒険者だ。
(その分、冒険の知識や空気感、経験が重要になってくる)
本人もそれが分かっているから、パーティに入って学びたいのだろう。
「ダメかしら?」
「問題ない。こっちにもメリットのある話」
具体的にいつまでとは言わないが、三人ともこの加入が期限付きのものである前提で喋っている。
卒業と同時に家を出るといっても話に聞くルロワ侯爵がアレニカを簡単に手放すとは思えない。となれば彼女は王都にいられまい。
俺は俺で布教の進捗次第。王都に居なければいけないかもしれないし、逆にあちこち旅をする必要があるかもしれない。エレナは俺についてくると言っているしな。
(状況が許す限りはってところか……冒険者らしくなってきたな)
組むもよし。別れるもよし。冒険者は自由だ。
「善は急げ。明日の昼休み、パーティ加入の処理をしに行こう」
「あとは肩慣らしにちょうどいい依頼もいるね」
本格的にやるなら下ギルドに顔見せの必要も出てくる。
だがあまりやり過ぎるとルロワ侯爵に勘づかれるから、その塩梅は注意が必要だ。
(ああ、それから「雪花兎」のパーティ紋章を用意しないと)
まだ見せる機会は一度も来ていないが、パーティ紋章は一種の身分証明書になる。黒窯工房のグスタフ親方に言って作ってもらわねば。
「お二人とも、よろしくお願いいたしますわ」
あれやこれやと早速準備に考えを巡らせていると、改まってアレニカが頭を下げてきた。
俺とエレナは笑みを交わし、揃って拳を突き出す。ぼうけんしゃならコレだろう、と。
「ん、少し早いけど、雪花兎にようこそ」
「よろしくね、ニカちゃん!」
「あ……は、はいですわ!」
意味を察した彼女は慌てて頭を上げた。
差し出される小さな手。コツンと三つの拳がぶつかり合う。
「わ、わたしも、いる、よ?」
小さな自己主張とともに横から白い手が入ってきて、四つ目がぶつかった。
会話から置いてきぼりにされていたマリアだ。
「ええ、そうですわね。マリアにも色々助けていただいていますもの」
「加入する?」
「し、しないよお。あ、で、でもね。みんなの無事は、い、いつでも、その、お祈りしてる、からね?」
「ありがとう、マリアちゃん」
拳を説けば堅苦しい話はおしまいと、俺たち四人はまた他愛もない話題を再開させる。
この日はそのまま、俺たちの部屋に全員で寝た。
夜更けまで馬鹿話が止まらなくて翌日眠かったのは、まあ、ご愛敬だ。
~予告~
パリエルとの定期報告にて、もう一人の使徒を探るアクセラ。
飛び込んで来たエレナは、衝撃的な報せをもたらした。
次回、神格の記憶
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