十二章 第22話 神々に乾杯
「なるほど、それでその黄金剣に盟友の技を授けたわけじゃな!」
夕闇の迫る空が映し出された高い高い天井。顔が映るほどに磨き込まれた大理石の床。
無数に配置されたソファや椅子。島のように取り残された幾つかのテーブル。
無国籍な料理の数々。呆れるほどたくさんの酒、酒、酒。
そして思い思いに宴を楽しむ奇妙奇天烈な神々の集団。
天上世界はロゴミアスの宮殿、その絢爛なれど渾沌としたパーティーホールに幼い笑い声が心地よく響いた。声の主は最高神であるミア本人。彼女は背の高いスツールの上で胡坐をかき、葡萄酒の杯を傾けていた。
「技は教えてない。魔剣の能力だけ」
正面のソファに座った俺は苦笑し、香り高い琥珀色の酒を口にする。喉を焼く感覚と鼻に抜ける香りはすでに十四杯目。しかし久しぶりの甘露だ、まったく飽きが来る様子はない。
(主賓なのだしいいだろう、これくらい豪快に飲んでも)
今日の宴は俺とエレナのためのもの。『技術神』が再び解放されたことと、俺たちの交際を記念して開かれている。それにしては俺の知らない神もいたり、あちこちで三々五々の集団が各々の余興を繰り広げていたり、酒宴というよりちょっとした祭りの様相を呈しているが……。
「だけ、なぁ……」
意味深な笑みを浮かべ、膝に肘をつく行儀の悪い最高神。
「何?」
「とか言うて、すぐに教えるようになるじゃろうな、と」
「そんなことは……」
彼女はたっぷり葡萄酒を飲んで笑う。
「ないと言えるか?」
「……黙秘する」
「わはは、じゃろう?」
彼女は言い淀んだ俺をさらに笑い飛ばした。
「わしは其方のそういうところ、よくよく知っておるのじゃ。間違いないわ」
お見通しだとばかりに大笑しながら、ミアは残りの酒を飲み干す。それから近くの傘立ての上に置いた皿からハムを一切れ摘まんで食べる。
「んー、赤ワインにはくどめの生ハムじゃな!」
「幼女の見た目でそれは犯罪にしか見えない」
「なにをーっ、わしは誰よりも年長者じゃぞ!?」
世界も神々も何もかもを作った最初の存在なのだから、それはそうだろう。しかし永遠に成長を続ける世界の象徴である彼女は、やはり永遠に成長の余地がある幼女の姿のままなのだ。
(性格が見た目準拠なせいか、どうにも子供というイメージが拭えないんだが)
とまあ、言えばプンスカと怒りそうな感想は胸に秘め、代わりにもう一つ気になっている物体……すなわち傘立てに視線を向ける。
「なんでそれがテーブル替わり?」
「あー、これか。急いで部屋中に椅子と机を出したのでな、色々変なモノが混じってしもうたんじゃよ。ほら、高さは丁度いいじゃろ?」
たしかにスツールに座った彼女からすれば、傘立てのサイズはソファに座ったときのローテーブルくらいの位置だ。高さは合っている。
「騒々しい」
「ではこうするのじゃ」
ミアは指を慣らして傘立てを絶妙な高さのテーブルに変えて見せた。ベッドのサイドテーブルに、だが。
「これでいいじゃろう?」
「ちょっと違うけど……」
「んぅ……?あ、本当じゃ……酔うたかな」
そのまま何回かパチンパチンと指を切って見せるが、金属のごみ箱や背の高い細口の壺、大型犬のケージなど近い背丈の全然関係ない物が出てくる。
「駄目じゃ、酔うてしもうたわ」
最終的に諦めたミアは葡萄酒をもう一口呷った。
「まあ困らんじゃろ!」
「ふふ、いいけど」
ブリッジするマッチョの銅像に落ち着いたテーブル、その腹に乗った皿から生ハムを摘まんで笑うミア。俺はそのシュールな絵面に笑いながら自分の盃を干した。
「私も大概だけど、ミアも顔に出ないね」
「そうじゃなぁ」
宴はもうかれこれ数時間に及んでおり、彼女も彼女で随分と飲んでいる。だというのにお互い少し顔が赤くなった程度で、見た目はほぼ変わらないのだ。怪我さえなければこれがアクセラとしての体質なのかもしれない。
「ゼムエルや、飲み物を頼んでよいか」
「は、お聞きいたします」
ミアも盃が空になったようで、隣に侍っていた執事服の天使を呼ぶ。ゼムエルと呼ばれた彼は腰を九十度に折ってミアの口元に耳を寄せた。
「わしとエクセルにルヴィギウスの紅ワインを頼むのじゃ。それと適当な摘みを……エクセル、何か食べたい物があれば言うがよい」
「ん、ならブラウニー。ちょっと甘いものが欲しい」
「おー、よいではないか。わしも同じ物を頼むのじゃ」
「承知いたしました」
ゼムエルは微笑みを残して去っていった。
それを見送ってからミアに視線を戻し、俺は開宴からずっと気になっていて聞き忘れていたことを訊ねることにする。
「天使も戦乙女も、なんで使用人の服?」
ゼムエルという天使は今さっき初めて出会ったが、基本的に天使の服装はトーガのようなもので統一されている。戦乙女も布の服に主人である神の衣装を取り入れた軽鎧。
ところが今日ここに給仕として立っている彼ら彼女らは、なぜか揃って使用人の服をきているのだ。天使なら執事服、戦乙女なら侍女服。それも実際に貴族の家で着られるようなスマートなものではなく、両者ともにもっと装飾的で露出も多い改造品だ。
「む、今更気づきよるか……」
「気づいていたけど、のっけから聞くような話でもなかったから」
「いや、まあ、そうじゃな……しかし、あーその、なんじゃ……そのあたりを企画したのはわしじゃないから、分からんのじゃ」
何やら不自然に目を逸らすミア。俺がじっと見つめると彼女は慌てて生ハムを摘み、さっと椅子から降りて俺の口に詰め込んできた。
「もぎゅ……」
「どうじゃ、その肉の味は!実は地上の有名な生ハムが奉納されてな、それを出しておるのじゃよ!」
露骨な話題の変更に俺はじっと彼女を目で追いかける。もちろん肉は食べるが。
(神に奉納するだけあって旨いなこれ)
「そ、そうじゃ!其方の布教じゃが、上手くいっておるではないか!?」
視線から逃げる様にスツールの上で座り方を変え、俺の顔から背けた視線を遠くへ向けるミア。
「……」
なんだか引っかかる物を感じたまま、とりあえずその視線を追う。そちらでは魔法神ギレーヴァントを始めとした魔に携わる神々がエレナを囲んで喧々諤々の議論と酒杯を交わしているのが見えた。
「すっかり一端の魔法学者じゃ」
「……ん、まあ」
エレナは楽しそうに神々と喋っている。彼らの教えを乞うのが楽しくて仕方ないのだろう。一方の神々も人間と魔法の深みについて話す機会などそうそうないのか、彼らは彼らで興奮した様子で身振りを交えて何か伝えている。
「お主の地道でコツコツとした布教、その最初の成果があの娘じゃ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
頷いたところでゼムエルが銀盆に二人分の酒と摘みのブラウニーを持ってやってきた。
「お待たせいたしました」
「おお、来たか来たか」
「ありがと」
銀の盃を受け取って中を覗く。ワインというには鮮やかな赤色の液体が並々と注がれていた。
「ルヴィギウスの紅ワインと言うて、情熱の神ルヴィギウスの心血が注がれて育った葡萄を使っておるのじゃ。奴は葡萄園にその情熱を傾けておってなぁ」
(物理的に血を注いでそうで怖い色なんだが……)
とはいえ目の前の酒は実に美味そうだった。盃を傾け中の液体をくゆらせると甘い香りが匂い立つ。
「ん、頂く」
振る舞いを前に躊躇っていても失礼だ、と自分を追い込んで口を付ける。
見た目の強烈な赤に反し、口当たりは柔らかくてあっさりとしていた。酒精と苦味より甘味の方が強い。それなのに爽やかだ。飲み込むと香りが鼻へ抜けていく。
「よい香じゃろう?」
自分が造ったわけでもないのに自慢げなミア。俺はそんな友人の子供っぽい顔に笑いをこらえながらもう一口含む。
(確かに香りがいい)
葡萄らしい独特のインパクト。それから甘さ。薄っすら苦みと渋み。芳醇という言葉がしっくりくる奥行が確かにあった。それとわずかに舌全体を痺れさせる渋みもいい塩梅だ。
「ん……葡萄の皮を思わせるような」
「当たり前じゃわ。食レポがヘタクソか」
主神にどつかれた。
胃の中から温まるような感覚に脳を溶かしながら、たしかに料理人として今の感想はどうなんだろうなと思う。
そんな穏やかな飲み方をしていた矢先のことだ。
「んもぅ、お年寄りみたいな飲み方してんじゃないわよぉ!」
「ぐぇ」
どぷん。ワインの数十倍甘い声とともに、頭の上にとんでもない重量と柔らかさを兼ね備えたナニカが着弾する。
(おっも……)
首にかかる負荷に俺は低く呻く。
「この間の騒動見たわよぅ!若い男たちが一人の少女の名誉のために立ち上がる、とってもラブロマンスな戦いだったわねぇ?そう思わない?思わなぁい?」
とんでもなくハイテンションな様子で俺の肩を掴み揺する馬鹿。頭上から分厚い乳越しに声を降り注がせるのは恋愛神トーニヒカだ。
「いやぁ、あれはロマンスではないじゃろ」
呆れた様子のミアだが、トーニヒカは声を弾ませて「ちっちっち」と言う。ウザイ。
「分かってないわねぇ、ミアちゃんは!友情とは愛よん!そして一つの愛はまた別の愛に姿を変えるモノなのよぅ?」
だゆん、だゆんと頭上の乳が弾み、そのたびに首がミシミシと悲鳴を上げる。
「なんでも、いいから、人の、頭で、乳を、弾ます、なっ」
しかしこんな程度のクレームでこの傍若無人な神が止まるわけもない。
まったくお構いなく、彼女は俺の肩から離した手で頬っぺたをムニムニと触り始める。手つきが変質者のそれだった。
「アクセラちゃんの彼女はエレナちゃんで決定だけど、まだ彼氏の枠が空いてるわよねぇ?」
「そんな、枠は、ないっ、あと、乳、退けろっ、弾むの、やめいっ」
「えぇ!?勿体ないわよぅ!」
あまりの弾みように、執事服を纏った俺の天使パリエルがそっとやってきて、俺の手の銀杯を受け取ってくれた。
(いや、溢しそうだったからありがたいけどこの暴虐の女神を止めろよ)
「折角女の子のカラダなんだしぃ、しかもあんなイケメンに囲まれてるのよぅ?一発か二発くらい、ワンナイトしちゃえばいいじゃなぁい」
「おぇ」
男と、しかも友人と致すなんて、想像するだけで気持ち悪い。
こみ上げてくる吐き気は内容のせいか、バウンドしまくる乳のせいか。
「アタシは新顔の剣士なんかより、王子サマとかオススメよぅ?やっぱり王子サマって憧れじゃなぁい?おっとっと」
ほぼ直角に首を倒したまま腕だけを上に伸ばし、苦しい姿勢に耐えてトーニヒカを捕まえようとする。しかし巨乳が狭い肩幅に挟まってほとんど動かせない。
(なんだこの攻防一体の乳は……鬱陶しいッ)
「あ、でもでもぉ、やっぱり舞踏会はアレニカちゃんが最高よねぇ!悲恋は好きじゃないんだけどぉ、ああいう健気で前向きなお別れって、ある意味で最高の別れ方だと思うわけよぅ……王子サマの応えもカッコよかったしぃ」
独り言を楽しそうに垂れ流す女神。俺は頭上のソレを捕らえる事を諦め、逆に下から手を回して脇腹辺りを掴んだ。
「きゃっ!?」
「……せいッ!!」
「わ、ちょ、もぎゃっ」
脇腹を掴んだまま、椅子から立ち上がりつつ腰を折り、勢いよく前へ投げ飛ばす。薄絹を寄せ集めたような煽情的な服をはためかせながら、恋愛の女神はミアが机代わりにしてたブリッジするマッチョ銅像の腹の上に叩きつけられた。
「あ、危ないのじゃ……」
両手に皿を抱えて回避したミアから非難がましい視線がくるが、それなら俺を助けろという話である。
(同罪だ、同罪)
いささか強引な方法で頭上の重量物を撤去した俺は、肩と首をボキボキ鳴らしながら腰を元の位置に落ち着ける。
トーニヒカはというと、涙目で身を起こしてマッチョ像の腹に胡坐をかいた。赤や黄色の紗からぴったりとした謎素材の際どい下着が覗く。一見すると下品な態度だが、それすら荒っぽい色気に見えるのはさすがエロの女神という事なのだろう。
「んもぅ、乙女を投げ飛ばすだなんてぇ!アタシは全ての愛を司る、愛の女神なのよぅ?古参にして強大にして尊い神様なのよぅ?なんだと思ってるの、まったくぅ!」
「黙れ猥褻物の神」
「え、ちょ、ひど……あー、もうっ。アタシにもお酒ちょーだい」
「は、はい、ただいま。何にいたしましょう?」
俺に盃を返したパリエルを呼び止める猥褻物。
彼女はそのまま隣にやってきた執事服の男を舐める様に見上げる。
「んー、やっぱりガタいのいい天使に執事服は似合うわねぇ……センスあるわぁ、アタシ」
それから会場を見回し頷く。
「戦乙女の子たちも抜群にカワイイしぃ!」
「改造使用人服はトーニヒカが発案……?」
「そうよん。主賓のために、趣向を凝らしたの。侍女コスが好きなんでしょぅ?」
「……」
どうやら俺がエレナとくっついたことで侍女属性があると思ったらしい。
(ぶっ飛ばしてやろうか、この猥褻物)
口元を引きつらせる俺を見て、パリエルが早く退散したいなというような顔をした。上司がおちょくられてイラッとしている空間なんて、居たくない場所ナンバーワンもいいところだろう。
「あの、トーニヒカ様……お酒は何にいたしましょう?」
「桃のカクテルがいいわぁ」
「かしこまりまし……うひゃぁ!?」
恭しく頷く途中で突然声を上げるパリエル。俺には勿体なくらいそつがなく優秀な男が妙な、と思って首を傾げると……よく見ればエロ女神の手が俺の秘書天使のケツに伸びていた。真面目で理知的な男は頬を赤くしてトーニヒカの横に硬直している。
「文官なのに引き締まってるわぁ……ふむふむ」
などと賢者のような表情で頷いてみせる恋愛神。
「……人の天使に」
銀の盃の中身をイッキして振りかぶる俺。
「セクハラすんなッ」
「んぎゃっ!?」
投擲。銀杯は見事、馬鹿女神の眉間に命中した。結構な勢いだったようで、頭がカクンと後ろに跳ね、再び変態はマッチョ銅像の腹の上に伸びる。
ムキムキマッチョの上で豊満な女がだらっと手足を投げ出しいるのは倒錯的で、これが女神のザマかと思うといっそ冒涜的ですらあるが、こいつの醜態は今更のことだ。
「わははは!トーニヒカ、其方も懲りんな!!」
爆笑するミア。聞けば過去にミアの筆頭戦乙女シェリエルの尻を揉んで裏拳を叩き込まれたことがあるんだとか。
「パリエル、君もシェリエルみたいにやり返していいから。あと変態の飲み物はいい。私に蜂蜜酒をお願い」
「あ、はい、ありがとうございます」
何とも言えない表情で撤退する秘書を見送る。
「トーニヒカさん、またやったんですか?」
会話から退場したトーニヒカと入れ替わりで別の女性がやってきた。
フリルのあしらわれた白いドレスシャツに黒いタイトパンツというシンプルな装いの乙女。戦神三兄妹の末っ子、戦幸神テナスだ。手には氷と飴色の液体が入った透明なグラスを持っている。
「あらあら」
彼女はどこからともなくハンカチを取り出して、気絶したトーニヒカの顔にかける。
(死んだみたいだから止めてくれ……死んでないよな?)
ただ死んだだけならしばらくすると回復するのが神だが、それにしても宴に死者は似合わない。ちょっと心配になる俺だった。
しかし俺の隣に腰を下ろしたテナスの言葉に、やっぱりどうでもいいかと思ってしまう。
「彼女、よく我々のところに来ては戦乙女にセクハラしていくんですよね。恋愛神の尻占いとか言って」
「やはり猥褻物の神なのでは……」
理由含めてセクハラ親父っぽい、艶も何もあったものではない恋愛の神だ。醜態の神でもいいかもしれない。
「でも私も気になるんですが、エクセル様が興味ないとしても、言い寄ってくる男性はおられないのですか?」
「いるけど興味ないから断ってる」
「なるほど」
彼女は特に食い下がるとこもなく納得顔で頷く。
「どうぞ」
そっと後ろからパリエルが差しだしてくれたゴブレットを受け取る。中身は金色に輝くとろっとした酒、ミードだ。
「しかし傍目にはかつての教師……確かメルケじゃったか?あの者を其方が好いておるようにも見えたぞ」
「メルケ先生と?ありえない。私と彼は、そう、同好の士」
濃い蜂蜜の香りがする甘い酒を飲みながら笑う。
「ふふ、でもロマンス小説だったら仄かな思いがあってもおかしくないですね」
「テナスまで……」
「もちろん違うのは分かっていますが」
上品に微笑むテナスの手の中で、グラスの氷が崩れて音を立てた。
その涼やかな音色に俺は笑みの名残を含んだまま、少しだけ考える。
彼は今生で出会えた戦士の中で最も気の合う男だった。もしトワリの反乱やベルベンスの騒動にメルケ先生がいたら……どうだったのだろうか。
「……まあ、もう一度会いたいことは、会いたいかな」
「えーっ、なになに、意外と脈アリ!?それって……んごっ!!」
変態が飛び上がった瞬間に頭へゴブレットを食らい再び倒れる。咄嗟にミードを一気飲みし、空になった器を投げつけてしまったのだ。
腹筋の上で倒れ伏す女神のオブジェは、再び死んだように静かになった。起き上がる勢いで舞い上がったテナスのハンカチがゆらゆらと落ちてきて、再びトーニヒカの顔を覆う。
「「「……」」」
俺含め神三柱と天使一人はなんとも言えない顔でそれを見て、示し合わせたように視線を逸らした。見なかったことにしたのだ。
そこにまた新たな闖入者がやってくる。
「応、取込み中に失礼するぞ」
「ん、ギレーヴァント……と、エレナ?」
両目を隠した白髪の青年。冷たい印象のする美丈夫。魔法神ギレーヴァントだった。
なぜかその腕にエレナを抱えている。
「えっと……?」
少し前まで楽し気に議論をしていたと思ったが……。
見れば確かにエレナの顔は真っ赤。ギレーヴァントの腕の中で骨のない生き物のようにゆらゆらしている。固めそこなったゼリーのように。
「済まない、汝の妻を酔い潰してしまった」
「ちぶれてましぇん!」
(あ、潰れてるわ)
顔を上げた彼女の、調子の外れた大声の宣言に、俺はそう確信した。
意図したわけではないけれど、気が付くと家族に乾杯みたいなタイトルになってる……。
~予告~
酔いつぶれたエレナを片手に現れた魔法神。
彼の興味は少女たちの魂にあった。
次回、支配者の魔眼




