二章 第13話 神と子と
「おねえ……ちゃん?」
「ん、そう。トレイス=フォル=オルクス」
きっと自分のフルネームもまだ聞いたことがないだろう。そう思って俺は目の前で横たわる小さな弟を正式な名前で呼んだ。
「ぼくの……なまえ?」
「ん」
「しと……って?」
かすれて途切れ途切れの声で彼は尋ねる。
「使徒は神様のお使い」
「てんしさま……?」
「違う、人。トレイスと同じ、人間」
「そ……か……」
俺の返事を聞いたトレイスの顔に始めて表情の気配が現れる。それは落胆に似ていた。
なにか落胆させるようなことを言っただろうか。そう思っていると、彼は小さく呟いた。
「おむ……かえじゃ……ない……の……」
俺が看取りに来た天上の者だと思ったのか。
「……死にたいの?」
「もう……いたいの……いや……」
諦めたような、疲れ切ったような目で彼はそう言った。トレイスの肉体も限界だが、それよりも早く彼の心が力尽きようとしているのだ。
いや、ここは7年もよくもったと思うべきだろう。
「……助かりたい?」
「……」
俺の言葉に彼の目がわずかに動いた。鮮やかな赤の双眸に浮かぶのは本当に僅かな感情の欠片だ。しかし今回は落胆ではない。何を言われているのか分からないという混乱、助かるという言葉の意味を訪ねたい好奇心、痛みから解放されるかもしれない期待、どうせ無理だろうという諦念。そんな複雑な感情の端切れが表れては消え、消えては表れる。
興味は持ってもらえたらしい。そうでないと話が始まらない。
「私ならトレイスを治してあげられる」
顔を近づけて小さく囁く。
「私の手を取ればもう痛くないし辛くない」
自分で言っておいてなんだが、これでは悪魔の誘いみたいだ。
それでも言うわけだが。
「トレイスがもう少しだけ頑張れるのなら、私は君を助けてあげる」
だが俺がそう言った途端、彼の目に浮かぶ感情の断片から明るい色が消えた。
「おねえ……ちゃんも……おんなじ……だ」
「おんなじ?」
一体どうしたのかと思って首をかしげると、眉をひそめた彼はそう呟いた。
「みんな……がんばれって……でも……がん……ばっても……いたいまま……かわら……ない……」
それだけ言って小さな少年は視線を逸らした。
ああ、そうだった。彼に頑張れと言っても意味がないというのは事前の調べ物の時に分っていたのに。
長くどうしようもない状況で耐えてきた者に頑張れと言うのは中々酷な話なのだ。とはいえ、これから与える加護を成功させるためには実際頑張ってもらわないと困るのも事実。
「ん……」
頑張れとか強く思えとか根性論じみた言葉を使わずに頑張ってもらうのは意外と大変だな。
「治ったら何がしたい?」
「なおら……な……い」
「治ったら、したいこと」
視線を合わせようとしない彼に重ねて質問する。
「な、なおら……ない……」
「体が治ればいろいろできる。なにがしたい?」
「なお……らな……いもん……」
「治してあげれる」
「みんな……おんなじ……こと……いう」
「私は絶対に治せる」
「おねえ……ちゃん……おいしゃさん……じゃ……ないで……しょ?」
「お医者さんに治せなくても、シスターに治せなくても、私は治せる」
実は確証はない。理論的には可能だ。俺の技術的にも可能なはずだ。だが天界ではなくこちらでぶっつけ本番となると確約まではできない。それでも俺が確約した理由は単純、できると信じなければできることもできないからだ。
根性論者というほど根性を過信はしていないが、最後に頼れるのは結局気力なのが現実だ。そして俺は経験則的にあることを確信している。
人の想いや願いは結果に影響する。
願えば叶う、と言えないのが辛いトコロだが。
「トレイスは今まで頑張ってきた。ずっとずっと頑張ってきた」
「……」
「だから、お姉ちゃんが助けてあげられる」
それは慰めでも嘘でもない、事実。ここまでトレイスが耐えていなければ加護を使って助けるという選択肢は浮上しえなかった。これは紛れもない彼の努力の結果だ。
「トレイスがあと少し、手伝ってくれれば……あとはお姉ちゃんがなんとかしてあげる」
「……なん……とか……?」
「ん、なんとかする」
世の中大概なんとかなる。ならないものはなんとかする。俺はずっとそうやって生きてきた。弟子たちにもそう教えてきた。だから意地でも何とかしてみせよう。
「……」
「トレイスは外、見たことある?」
「……ない……」
「なら明日連れて行く」
「あし……た……?」
「ん、明日。暖かくなったし、大丈夫」
ここ昨日今日であっという間に気温は快適なあたりへと落ち着いて来たのだ。庭の花も色々と咲き出したし、まさしく春が来たといった具合である。
「それからお茶しよ。私ともう1人のお姉ちゃんと一緒に」
「もうひとり……?」
「エレナお姉ちゃん。きっと仲良くなれる」
どちらも魔法に秀でているから話も弾むだろう。トレイスは体がよくなったら魔法を敬遠しそうだが、あのエレナと一緒に居ればそれも緩和されるような気がする。
「お菓子も買いに行こ」
「おかし……」
初めての外出にもう1人の姉、お茶会、お菓子と楽しそうなことを畳みかけているうちにだいぶ彼の意識がこちらに戻ってきた。
「きっと全部楽しい」
「……………………」
転生したこの身には珍しく、ニッと唇を釣り上げて悪戯っぽい笑みを浮かべる。それを見ていたトレイスはまた色々な感情が渦巻きだした瞳で俺を見上げながら沈黙する。
「それでももう終わりたい?」
「……………………」
「もし終わりたいなら、もう止めない。でも生きたいなら、私を信じて。もう少しだけ頑張って」
繰り返される頑張れと言う言葉に嫌そうな顔はするものの、今度は顔を背けようとはしない。俺は俺で、もう言いたいことは言い終えたといった顔で、黙して彼の返事を待つことにした。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
お互いの瞬きの数を数えられそうな短くゆっくりとした時間のあと、割れてこそいないものの乾いた薄い唇が微かに振るえた。
「…………」
先を促したくなるのをこらえて待つ。
「…………い」
小さい声が漏れた。口の動きから何を言いたいのかは察せたが、あえて分らないふりをして待つ。この言葉は自分から言うのがいい。他人に促されてはだめだ。
「……いき……た……い」
生きたい。
そう明確に聞こえるまで1分ほどかかった。だが言った。しっかりと、自分の意思を自分の声に乗せて、自ら言ったのだ。
「ん、生きよう」
俺は激励のつもりでくしゃくしゃの白髪をなでた。
~★~
「天にまします我らが主、この手に御力を宿らせ、傷つく者を癒す術を与えたまえ」
聖魔法上級・ハイヒール
『聖魔法』で俺が発動できる一番いい回復魔法を2度かける。
「どう?」
「えっと……いたくない」
先程までより断然調子よさそうにトレイスがそう答える。不完全な魔法が暴発することで傷ついていた彼の体も、適切な回復の魔法でかなり修復することができた。サンクチュアリと合わせて今できる対処療法は全て施し終わったことになる。ここからが本番だ。
「ん、始める」
トレイスにはもう手順を説明してあるので、俺は何も心配することなく作業を始めることにした。案ずるより産むがやすしの精神だ。
「目を瞑って」
まずは最初にして一番の関門である『技術神』の封印解除を始めよう。合図するまで目蓋は閉じたままでいるよう指示をし、肩の力を抜くために一度大きく呼吸をする。
ステータスを開き、視界の端に浮かんだリストから『技術神』を選ぶ。
【封印】:神の力による封印。この状態にあるスキルは一部使用できないかわりにいかなる方法でも看破できない。再封印も可能。<解除しますか?> はい/いいえ
3歳の時に見て以来になる警告文。再封印が可能といってもおそらく解放した影響は消えてくれないだろう。
それでもいいのだ。ここにきて迷うほど俺は思慮深くなんてない。
一瞬のためらいもなく俺は「はい」を選ぶ。
『技術神』を解放します。
脳内にそっと囁くような、それでいてハッキリとした声が響いた。シェリエルと同じ声だった。しかし、すぐにそんなことを気にしている余裕は無くなる。
「……!」
体の奥のどこか、心臓よりももっと深い場所が熱くなるのがわかる。今までゆるゆると熱を放っていた熾火がいきなり火の粉を上げて燃え盛り始めたような感覚だ。奥の奥で巻き起こった烈火は全身の血潮を沸騰させ、それが巡る血管も筋肉も引火しそうに熱くなる。
「……んっ」
トレイスを心配させないために声は抑える。それでも口から呻きが漏れそうになるくらい苦しい。とにかく熱い。体がつま先から頭の天辺まで一気に発火しそうなくらいだ。しかし俺の体は燃え上がらないかわり、内側から弾けてしまいそうなほどの熱量をひたすら溜めていく。
これがきっと神力なのだろう。世界を生み出し、生命を生み出し、魔力を生み出した神々の力。それが今この人間の体に溢れている。世界を産むにも、生命を産むにも足りない量だが、魔力を圧倒する高密度のエネルギーだ。
「…………・・なれ、てき……た」
耐えることに。
濁流のような神力に意思を通して操るのは至難の業だが、それでもこれは元々俺の力だ。技術神エクセルの神格に収まっていた力をエクセルである俺が扱えないはずがない。降して見せる
降れ……降れっ!
心の中で一喝する。同時に全身を駆け巡る神力を血管と神経の姿で想像して支配を試みる。ブレーキをかけてはいけない。そうすれば溢れかえった神力が俺の肉体を破壊するだろう。だから流れのまま意思の下に降す。
「……!!」
全ての神経から火花が散るような痛みが迸った。それでも激流の中に俺の意思を少しずつ混ぜて流していくうちにそれも収まってくる。
さあ、降れ。俺の力が俺に刃向かうことなど許さない。俺に降れ!!
エクセルとして鍛え上げた精神力で神力を細大漏らさず捕まえて支配下へと引きずり込む。
「………………ん」
最後の抵抗とばかりに激痛を残し、湧きだしていた神力は抵抗を失った。ピリピリする神経の昂りだけが僅かに漂う体に、思わずため息が漏れる。
我知らず瞑っていた目を開くと、世界はそれまでと違って見えた。部屋中を薄紫色の光が覆っているのが見えるのだ。今まで見えていた物がその光で見えにくくなるということもなく、そこに光る何かが充満しているのだけわかる。
これが魔眼持ちの視覚なのだろうか。
『技術神』というスキルを通じて神の力を得ている俺の目は今やどの魔眼よりも強い力を秘めた神眼となっている。魔力くらい見えて当然だ。虹彩の色もぼんやりとした紫色から煌めく真鍮色になっていることだろう。
だが変わったのは目だけではない。
「癒しを」
そっと囁くとだけで周囲の魔力が急速に集まってトレイスに対する回復魔法になる。上級の聖魔法に匹敵する回復魔法を2度と、火魔法に存在する体の芯を活性化させる回復魔法を2度かけるだけで彼の体は ほぼ全快した。
「どう?」
「すごく……らく……」
喉の渇きまでは治せないので声は相変わらずかすれ気味だが、その裏にあった喘鳴のようなものは無くなっている。この状態をキープできれば数日といわず、それこそ明日には多少の外出も認められるはずだ。
ついでにわずかな水を作り出して彼の口に与える。乾いた喉を傷つけないように水魔法の癒しの水にした。
「ここからが本番」
「……うん」
詳しい説明をしても混乱するだろうからと、彼には単純に加護を与えるとだけ伝えている。
「これから技術神エクセルの加護をあげる。私が聞くことにちゃんと答えて、言う通りにすれば大丈夫だから」
「がん……ばる」
「ん」
白いくせ毛を一撫でしてから加護を与える準備に入る。
『使徒』で加護を与える場合それなりの手順を踏む必要がある。『技術神』の力で加護を与える場合だと準備はいらないのだが、今回は『使徒』で与える際に経る過程そのものを応用するのであえて手順を踏むことにした。
左の親指を強く噛み、滲んだ血をトレイスの額に押し当てる。3本の線が交わる血印を描き、その下に「ECCEL」と書く。それぞれ世界、時間、理の意味を持つ3本線に神の名を書くことは、対象がいかなる世界、時間、理の中であってもその神のモノであることを示している。
「汝の名は?」
「トレイス……フォル……オルクス」
かすれながらもはっきりとした声で答えるトレイス。
「汝は何を望む?」
「ぎじゅ……つしん……エクセルさまの……か……ご」
「汝は何を願う?」
「わがど……りょくの……みのらん……こと」
「汝は何を誓う?」
「たゆ……まぬ……どりょく……と……あきらめ……ぬ……こころ……」
打ち合わせ通り彼が受け答えをする間にも、俺は神力を複雑に操作しながら加護を組上げていた。
使徒が儀式を通じて加護を与える際に行われるこれらの問答は、使徒が扱える神の権能の範囲で加護という大きな奇跡を行使するためプロセスだ。書庫の奥に眠っていた300年ほど前に使徒と旅をした男の手記の写しという怪しい本の知識だが、封印解放後にざっと神の知識と照らし合わせた限り間違っていない。
「誓いに背かず、主に背かず、己の成すべきを見極めることをここに宣言せよ」
「ぼくは……ぼくのちかいに……そむ……・かず、しゅにも……そむか……・ず、お、おのれ……の……なすべきを……みき……わめ……なします」
つっかえつっかえではあるが教えた通りの返事が返ってきた。
「主は汝の宣言を聞き届けた。これより汝は名をトレイス=フォル=エクス=オルクスとなさい」
「……はい……」
一連のやり取りが終わったとたん、まるでフォールスリープでもかけられたようにトレイスは意識を失った。俺が態々儀式をした理由はこれだ。加護を与えるためのプロセスによって俺は神の力に接続する権限を強め、トレイスは加護を受け入れるために魂の防壁を開いた。一番大切な魂の最奥部を開くために邪魔になる意識が途切れたのだ。
俺の真鍮の瞳には視覚的にそれが映っている。ぐったりとしたトレイスの胸から青い球体が浮かび上がった。何重もの青いガラス質な膜に囲われた光、これが魂だ。
俺がそっと指をあてるとそこから何重にも重なっている青い魂膜が開く。一番中心にある蒼玉色の光の玉、疼くように明滅するそれが魂核だ。ここに加護を書き込むことになる。天界からするのであれば魂を暴かなくとも一瞬で終わる作業だが、彼に施す特殊な加護を地上界で書きこむなら直接しか方法はない。
幸いというべきか、エカテアンサの加護は俺が魂を取り出すと同時に道を譲るように消えてなくなった。すっかりエカテへの連絡を忘れてしまっていた俺としてはありがたい。
「加護、転写」
まずはベースとなる俺の加護を書き込む形式で虚空に転写する。そして一旦成長補正の加護と才能開花の加護に分ける。
「成長補正が先行するよう……対象時間、現在を軸に過去へ反転」
過去のトレイスの苦しみを対象に成長補正が作動するように操作を加える。ややこしい手順だが落ち着いて処理していけばそう難しいわけではない。
「成長の方向性を強制的に魔力親和性と魔法適性に固定」
そうしなければ命が危ういとはいえ、他人の可能性を制限するのは非常に気分の悪い作業だ。とはいえこれも難しくない。すぐにセッティングは終了する。
次に才能開花の加護を弄り始める。
「開花対象を最も新しい才能に……だめ」
成長補正の加護が時系列に干渉している以上一番新しく芽生えた才能を開花させればいいかと言うとそでもないのだ。
「全才能を一斉開花させるのはエネルギーを食い過ぎる……魔法系の才能のみ開花するようにする?」
しかしそれでは以後この加護は魔法系の才能以外を開花させなくなってしまう。本人の努力で開花させればいいと言われればそれまでだが、本来この加護は見落としがちな可能性を提示するためのものなのだ。魔法系に限定するというのはいかがなものか。それならいっそ余計な才能の開花などせず必要最低限に抑えた方がまだマシな気もする。
「……先こっちしよ」
問題を一時棚上げとし、他の部分を弄り始める。才能を開花させる際の負荷の分散や発動までのタイムラグについて、過剰化する加護の権能を減らすために諸々の付随効果を削る作業など。
「接続部分には新規の内容を……」
本来の能力に先行する過去の成長補正加護が与える向上分を加算し、それを開花可能な才能として認識させるための記述。これがなければこの加護は成立しない。
「よし」
あとは一旦横に避けた才能を開花させる際の対象指定だ。
元の加護はあくまで才能の開花を促すだけで確約はしない。そもそもあらゆる才能を開花させていては道を決められなくなってしまう。それを特定の、もっと言うならまだ存在していない才能を確実に開花させなければいけない。
「時限性は不確実すぎ。特定するには、んー……もういい、裏技使う」
どうせ端からこの加護自体が裏技みたいなものなのだ、今更裏技に裏技を仕掛けたところで誰も気にはしないだろう、きっと。
俺はまだ血のにじむ親指から少し赤を採取する。魔法の触媒として血は保存がきかない反面効果だけなら最高級だ。
これに神力を極少量含ませてから、加護の両パートに新しい記述を足して拇印のように押す。前半に追加した記述は補正をかけた内容に俺の血のマーカーを仕込ませるため、後半に追加した記述はそのマーカーを判別して優先的に才能開花の加護を発動させるため。
「ん、これでいい」
手を加えた2つの加護とそれをつなぐ新しい記述を元の加護の器に収まるよう丁寧に梱包し、そのまま魂に記入して構わない状態にする。結局あれこれやっているうちにもう6時間が経過していたが、万全の状態で弄って2時間と予測していたのだから3倍で済んで御の字だろう。
「技術神エクセルの名のもと、この少年にエクスの名と加護を与える」
俺が意思を言葉にした瞬間、トレイスの魂に改変した加護が反映される。そして世界にその奇跡が定着すると同時に加護が発動された。
定着し発動された加護によって時間をさかのぼりトレイスの努力が洗いだされる。それに応じた成長補正分の能力値と経験が彼の魂や肉体に反映されていき、魔法関係のそれらが飛躍的に伸びていく。
俺が神眼で見ている間にもその成長は完了される。それらの中には確かに俺が混ぜた神力の気配が見える。
「……きた」
第二の加護が発動した。追加された記述に従って俺の神力の残滓を持つステータスと能力を対象に才能の開花を行っていく。これで魔法系の基本的なスキルは手に入るはずだ。
「ふぅ……」
才能の開花は成長補正の補填作業と違って数分で終わる物ではない。結果を見届けたい気もするが、安心したとたんにどっと疲れがやってきた。どのみち魔法系の才能を開花させている以上目当ての『魔力制御』は手に入るはずだ。
「ふぁ……ぁぅ」
魔力はほぼ空っぽ、途切れた集中力のせいで神力の制御もしんどく、慣れない神眼の視覚に頭痛までしてきた。
「……もう明日でいいや」
トレイスのことは短いやり取りながら気に入ったし、子供を助けるのに理由などいらないと思っている俺であるが、これでダメなら俺にも打つ手がない。逆にこれでいいならもう放っておいても全て上手くいく。そういう段階だ。
最後にサンクチュアリが想定される才能開花の間作用し続けるように設定し、ステータス欄を開いて『技術神』を選ぶ。
【封印】:神の力による封印。この状態にあるスキルは一部使用できないかわりにいかなる方法でも看破できない。再解除も可能。<封印しますか?> はい/いいえ
気負いなく「はい」を選ぶ。
「…………!?」
唐突に全身から力が抜けた。それも尋常ではない落差だ。体に満ちていた神力がまたたくまに胡散霧消しただけではない。魔力が枯渇しているせいでもない。明らかに何かよくない状態だ。
「や……ば……ゴボッ」
喉の奥からあふれ出した血が止める間もなく床を濡らす。
あぁ……これは誰かが見たらトレイスのだと思って真っ青になるぞ。
そう思いつつも始末するだけの余力がない。無理やり口の中の血だけ水魔法で流して飲み下す。大昔に戦勝会で酔いつぶれた時よりも下手をするとおぼつかない足取りでなんとかトレイスの部屋から出る。
ここで倒れるわけにいかない……。見つかれば今日起きた奇跡と関連付けられることは火を見るよりも明らかだ。
「あ……あう……」
壁にもたれて這いずるさえも重労働に感じられる。段々とどちらが上で下かもわからなくなってきた。もしこれが『技術神』を解放した悪影響なら、予想をはるかに上回る悪辣さだ。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
エレナとステラが眠る部屋までたどり着く頃には、俺の視界は握りこぶし1つ分程に狭まっていた。しかも激しく回転している。足から伝わる床の感触さえ信じられないまま、なんとかベッドに倒れ込んだ。
「も、むり」
先日、牛乳で割るカルピスマンゴーなるものが売っていたのでつい買ってしまいました。
牛乳で割って飲んでみると、お気に入りのカレー屋のマンゴーラッシーの味に(笑)
マンゴーが強くなくて飲みやすいんですが、これハマったら太るよなぁと危惧してます。
あとカルピスに比べると割高なんですよね、希釈倍率と容量的に(´・ω・`)
~予告~
強烈な力を解き放ち、弟に奇跡の施術を行ったアクセラ。
その代償は決して安くない物だった・・・。
次回、眠れる森の使徒




