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技神聖典―刀と少女と神の抒情詩―  作者: 一響 之
十一章 祝福の編
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十一章 第34話 夜明け前の……

~★免責★~

この回は十一章のおまけです。

内容的に怒られたら消します。

~★~~★~

 小闘技場でしばらくキスを交わした俺たちは、お互いに茹でた蟹か蛸のような顔色で寮へと戻ってきた。傷は聖魔法で治したが失った体力と体温はそう簡単に戻らない。なので力尽きた俺はエレナに背負ってもらって。


「よいしょっと!」


 ベッドルームの椅子に下ろされ、ぐったりと背もたれに体を預ける。服が結構汚れてしまったので、ソファやベッドに直行というわけにいかなかったのだ。脱いだドレスをテーブルに広げているのでつっぷすこともできない。


「さすがに疲れた」


「ア、アクセラちゃん」


 死体のように椅子の中でぐったりする俺を見てエレナが上ずった声を上げる。眼球をなんとか動かして恋人を見上げた。ベッドサイドの読書灯しか灯っていないくらい部屋の中、彼女は肌が触れ合う距離まで俺に歩み寄る。


「ど、どうする……?」


 エレナの指先がおずおずと俺の肩に触れた。


「……」


 ごくり。彼女の喉が鳴る。それからもう半歩体が寄せられる。冒険用の丈夫なシャツに包まれたお腹が二の腕に押し付けられる。遠慮するように、恐れるように、けれど強い衝動に突き動かされるように。

 熱い……。


「アクセラ、ちゃん」


 渇いた声。熱い体温。震える体。当てられたように俺の中にもジクジクとした疼きが生まれる。心臓がせり上がって喉が狭まるような感覚。絡め合った視線がどろっとした甘みを帯びる。

 ああ、まずい。


「……我慢、できない?」


「……」


 真っ赤になった顔で小さく頷くエレナ。正直俺はもう体力気力ともに限界だ。今すぐにでも寝てしまいたいくらい眠い。けれど彼女のことはこれまで散々待たせたし、その中で何度も我慢をさせている。思春期には辛い状況もあったことだろう。

 なにより、そんな切なそうな顔をされると、こっちが我慢できなくなる。けど……。


「んぅ……」


 喉がひりつく。

 ああ、そうだ。もう一歩引くのは止めるんだった。

 エレナに感化されているのは間違いない。だが、俺自身も彼女を見ていてぐらぐらと情欲が煮え立ってくるのを感じる。心臓がおかしな鼓動を刻み、体の深い場所が熱くなってきている。


「……ん。お風呂の後でいいなら」


「あ、う、うん……えっと、うん」


 何かもごもごと呟いたエレナは顔を伏せたままクローゼットに近寄り、下着の引出しを限界まで出した。その奥、俺からは見えない位置の物を手早く取り出す。


「えっと、お、お風呂、入ってくるね」


「……ん」


 さすがに一緒に入ろうとは言われなかった。そのことに安堵しつつ、俺は椅子から立ちあがる。特に何があるというわけでもないが、なんだか落ち着かない。あと座ったままだと寝てしまいそうだ。


「……ちゃんと、できるかな」


 当てもなくベッドの周りをウロウロしつつ、ふと呟いてから気づく。前世、エクセルとして俺はそれなりに女性経験がある。そりゃあ百年近くも生きた男で、荒事を生業にしていた身だ。

 でもそれ、俺の主観でも数十年前なんだよな……。

 俺の自意識をベースに考えるなら、少なくとも四十年はそういう行為から遠ざかっている。四十年は長い。剣術にしたって、料理にしたって、ナニにしたってあまりに長い空白期間だ。


「……不安になってきた」


 いやまあ最悪、自分のことはいい。。女の体でどうすればいいのかなんて知らないし、感覚自体が未知数なのでそこはどうでもいいのだ。処女だけど童貞じゃないし、優先度は下の下。


「エレナは、初めてだから」


 老境まで生きてみて思うのは、よろず初めての経験は重要であるということ。いや、まあ、そこまで説教臭いコトを言わないにしても、女性の初体験は世間的に重要視されがちである。さらにエレナは長い間俺の迷いに付き合っていてくれたわけで、おまけに俺は彼女がとてもとても好きだ。何かしら、ちゃんとしたものにしてやりたい。


「……走って花でも取ってくる?学院なら冬でも生えてるだろうし」


 椅子に再び腰かけて回らない思考を巡らせる。

 部屋一杯にバラの花でも飾ろうか。いや、絶対違うな。俺がされたら引くわ。


「成人するんだし、お酒で大人っぽく……」


 カレムが送ってくれた貴腐ワインがある。いや、駄目だ。今呑んだら絶対に寝る。あと酒精はアレがアレになりにくく……それは男だけか?


「可愛い下着とか?」


 プレゼントをラッピングするように、ではないかもしれないが、あまり着ないようなフリルの沢山ついた愛らしい下着を身に着けたら彼女は喜ぶかもしれない。俺を着飾らせるの、好きだからな。


「んん、でも普通のしか持ってないや……あ、化粧でもする?」


 着飾る以上にエレナは俺が化粧をすると喜ぶ。が、問題は自分でできないこと。頼む?本人に?馬鹿を言え。


「……む、むずかしい」


 それに問題はそういった雰囲気作りの方ではないはずだ。悩む中で思い出したが、アピスハイムで情報屋としても利用していた娼館の女が言っていた。優しくて丁寧、だけど力強く。男に求めるのはそれだけで、あとはちゃんと清潔にしていればそれでいい……とかなんとか。


「あ、爪」


 慌てて手を見る。爪は短い。剣士だから当然だ。だがこれで大丈夫だろうか。そんな不安が湧いてきた。なにせ男だった頃からこの程度の手入れはしてある。なんとなくだが、そのままではまだ危ないような気がしてしまうのだ。


「一応、角をもう一回切っておこう」


 前世と今生の感覚の違いだろうか。気になりだすと自分の指の腹にあたる爪が尖っているような気がしてならない。慌てて爪切りを取り出して刃を当てた。

 師匠の世界では夜中に爪を切ったら親の死に目に会えなくなる、というのだったか。

 親とは血縁上の親だろうか。それなら正直いいような気がするが、育ての親だったら嫌だ。迷信だとは分かっていながら、そんなことを思ってしまう。しかし爪は切りたい。


「……ん、大丈夫、もうこれは朝」


 懐中時計を見る。長い針は3と4の間だ。

 朝だろう、もう。

 ということで遠慮がちに爪の端を切り落とし、やすりで丁寧に削る。どの方向から皮膚に当てても痛くないよう、自分の腕を掻いて試すのも忘れない。念には念を入れてもう一回やすりを……。


「……」


 沈黙。

 やることがなくなった。あとは脳内で自分が大昔、ナニをドウしていたか思い出すだけ。


「……大丈夫、大丈夫、大丈夫」


 そのままエレナが風呂から上がり扉の隙間から交代を告げるまで、俺は立ったり座ったりを繰り返しながら記憶を掘り返す作業を続けるのだった。


 ~❖~


 さて、ああだこうだと脳内でヤっているうちに時間は過ぎ、風呂も交代で入ってしまった。とりあえずしっかり体を洗い、歯を磨き、うがいまでした俺は持ってきた着替えを手に取る。


「……」


 紺色の下着。リブ生地でカップの縁とウエストラインに淡い色のフリルが施された、俺の持っている中では最大限に可愛いやつ。これで選択としてあっているのか、頬になんとも言えない熱を感じながら身に着ける。


「……ん」


 激しい運動続きで筋肉が張っているのか、それか買った時より太ったか。貧相な体に似合わず以外に食い込むショーツの感触に呻く。

 胸は若干の隙間が空くのに……。


「……さすがに恥ずかしい」


 このまま寝室に戻るのは気が引けて、とりあえずいつものシャツを上に羽織る。前を止めれば短いワンピースのようになって股下まで隠れたので、これでいいことにする。激しく動いても裾が外れないように丈を長めに作ってもらっておいてよかった。


「んぅ」


 準備ができた。できてしまった。途端に体温が上がったからだろうか、ソクソクと寒気のような感覚が足から首筋までじっくりと這い上がってきた。

 いや、グズグズしてても仕方ないな。最中に眠気が耐えられなくなってもアレだし。


「よし」


 意を決して風呂場を後にする俺。自分のベッドルームの扉を前にもう数分ウロウロと躊躇ったあと、そっと押し開いた。


「……っ」


 薄闇の中でエレナはベッドの端に腰かけていた。俺が入って来たのを見て彼女は立ち上がる。大きな胸から引き締まった腹、そして豊かな腰回りの曲線が浮かび上がる。女性らしい魅惑的なカラダを包むのは明るい黄色の下着。布地と同じ色の薄いレースを重ねた、とても可愛らしいデザインのものだ。


「……」


「……」


 未明の静けさの中、息遣いだけが聞こえる。エレナのか、俺のか、よく分からない。


「ア、アクセラちゃん……見て」


 囁くような、泣きそうな緊張を孕んだ声。エレナが腕を後ろに回した。双丘がぐっと押し出されて揺れる。濃い花のような甘い香りが立った。今まで俺が嗅いだことのない香水の香りだった。


「……」


 吸い寄せられそうな胸元から、薄く腹筋の浮き出た白肌を視線でなぞる。縦のラインにそってショーツの縁へと移り、腰つきに従って足へと降りる。


「エレナ……すごく、綺麗」


 熱に浮かされたような言葉が口から出てくる。俺はそのままふらり、ふらりと彼女の方へ足を進めた。


「え、えへへ……興奮、する?」


「……する」


 頷いて、そっと手を伸ばす。腰からお腹の滑らかな肌へと。


「ん」


 指先が触れた途端、エレナの口から息が零れた。至近距離から見下ろす彼女の顔は真っ赤で、それ以上に瞳が妖しく輝いて見えた。甘い香りと、ぎらつくような欲の色。すっかり感情に酔いのぼせた、初めて見る表情だ。


「アクセラちゃんも、脱いでよ」


 小声でそう言われて俺の顔がまた熱くなる。けれどエレナはそんなことに構ってはくれない。今度は彼女の手が伸びてきて、シャツのボタンを摘まんだ。ぷちっと簡単に外される。二つ目、三つ目も。


「アクセラちゃんも、かわいい」


 蜜のような声で囁かれる。すっかり前を開けられ、優しい手つきでシャツをはぎ取られる。早苗色の目が一瞬だけ俺の目を覗き込み、それからじっくりと鑑賞するように降りていく。その視線が肌を舐めていく感触が分かり、背筋がゾクゾクと粟立つ。


「……」


 しばらく互いの体を眺めたあと、エレナの腕が腰に回される。抱き寄せられる感触に俺も腕を回した。触れ合う肌は腕も、足も、お腹や胸元も、驚くほど熱かった。


「ん……」


 自分の中で葛藤や躊躇いが熱したバターのように溶けていく。それまで気になっていたことが全て形を失って、ただ目の前の恋人がほしくなる。

 ああ、こういう感覚だっけ。

 遠い記憶をわずかに思い出しつつ、逡巡の後、それを手放す。今のこの感覚はアクセラとしてのもので、今俺が欲しいのは目の前のエレナだ。彼女の首に腕を回し、鎖骨に頬を当てて囁く。


「エレナ……愛してる」


「っ、わ、わたしも……きゃっ」


 カッと一気に熱が上がった少女の体を、返事も聞かないままにベッドへ押し倒した。


「や、やさしくしてね……?」


「っ」


 俺はそれに答えず、彼女の唇を塞いだ。

これで十一章はおしまいです。

お付き合いありがとうございましたm(__)m


アクセラが初めて大きな変化を経験し、エレナの恋が実り、アレニカの恋が終わり、

ネンスやレイルやアロッサス姉弟はそれぞれ大きく一歩を踏み出しました。

少年少女が大人への道を踏みしめていく傍ら、世界もまた少しずつ変わっていきます。

大貴族の反乱の影響は段々と現れ、他国の思惑が絡み、そして神代の因縁も動き始めるでしょう。

次なる章は、蠢く世界の章となる……休載明けをお楽しみに。


また感想とか評価とか、じゃんじゃん送ってくださると助かります!

エタらず頑張るぞー!!(テンションの差よ)


11月12日(土)特別連続更新:間章1

11月13日(日)特別連続更新:間章2

11月14日(月)特別連続更新:間章3

11月15日(火)特別連続更新:間章4

11月16日(水)特別連続更新:間章5

11月19日(土)十二章 第1話


※日程と話数を変更しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高です。 逆パターンも見たいです…!
2023/01/22 19:25 田中脊髄剣
[一言] フフフ… Sッ
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