十一章 第33話 彷徨う夜の恋歌
組手の始まりは小闘技場の観客席を吹き降ろす冬の風に乗って、まるで舞踏会の延長のように始まった。シンプルな正拳を繰り出せば体のバネを使って受け止められ、つま先をしならせた蹴りを撃ち込まれれば姿勢を落として避け、足払いをかければ飛び退って距離を開けられる。
「ふッ」
「はッ」
一撃一撃を丁寧に、確実に、セオリー通りにこなしていく。相手の次の手を理解して、裏を搔くのではなく互いに受けきりあう。そんな戦いをしばらくこなし、そして流れは突然変わった。
「やぁッ」
「ッ」
エレナの拳を受けた俺が、その重さに慌てて飛び下がったのだ。演舞のようでいて、筋書など存在しない攻防。それでもそこには一種の予定調和があった。常道に従がうからこその調和が。それが今、崩れた。
「重花?」
一度当てた拳を全身運動でさらに一段重く押し込む紫伝一刀流の体術、重花。重心移動の基礎として最初に覚えさせる技の一つだ。
「……なるほど」
これはエレナからの誘いだ。そろそろ本気で来いという、優柔不断な俺への挑発。俺はそれを受けて、あえて構えは変えないまま魔力を練り上げる。糸ではなく、イメージするのは気体。蹈鞴舞の中で掴んだイメージに従い、酸素と同じように血液へと魔力を溶かし込む。
「ふぅ……ッ」
疲れ切った肉体が一時的に活性化する。俺は今、ある意味でチャレンジャーだ。自分の心に区切りをつけるために彼女の胸を借りる立場だ。だからここは俺から攻める。そう決める。
「はぁ……フッ!!」
全身に巡らせるように息を吸い込んでから踏み込む。真正面から真っ直ぐに。一刀足の間合いに入った瞬間、ブレーキをかけて速度を回転に転換。踏みしめた足を軸に回し蹴りを放つ。エレナはフェイントじみたその攻撃を、慌てず腰を落として腕で受けきり、そのまま弾き返すようにカウンターを入れてきた。
早い。戦況判断も、切り替えしそのものも。
エレナは華奢だが、アティネほどでないにしても骨格がしっかりしている。背も俺より高く、聖刻抜きなら今は筋力でも勝っている。しかしそれ以上に彼女の構えとこの状況が抜群に噛み合っていた。
それに、重くて堅いッ。
重心を落として自分の機動力を犠牲に、軸の安定感とそれが生み出す余裕のある防御技、そしてそこからこちらの硬直を狙って繰り出されるカウンターを武器とする。基礎的な型の一つでしかないが、特性を完璧に活かした運用は先天的な体格の有利を何倍にもしてしまう。
「でも、まだッ!!」
数度の攻防から生み出される反発を合気の要領で取り込み、再び身を翻して拳に乗せ打ち出す。エレナは右手でそれを受け止め、しかし重さに肘が屈する。強引に突き崩した防御に膝をねじ込む。
「あぐっ!」
シャツに包まれた脇腹に膝が入った。けれどあばらより下だ。内臓に響くほどの威力を込めないのであれば、実は骨の上から当てた方が痛い分ダメージは大きい。軽傷。それでも最初のクリーンヒットはもらった。
「シッ」
噛み締めた歯の隙間から音を立てて息が溢れる。膝を引き戻す動きから転じて反対の拳を打ち出す。一度こじ開けたガードを極至近距離のインファイトでさらに広げようと、ボディ狙いの一撃。しかしエレナは上半身をねじる動きで無理やり正面を閉じ、自ら拳を繰り出すように平手を突き出す。
パァン!
拳を平手で受け止め、空気が破裂する。今度は勢いの違いから押し切れない。むしろそのまま抑え込むように圧が高まる。身長差と体重差に型の力が加わることで、聖刻抜きの俺の筋力を超えてくる。
「痛ッ」
俺は咄嗟に自分の反動と彼女の圧を足から逃がそうとして、右足首の痛みに気を取られた。バランスを維持しようと腰が下がり、こちらの膝が屈する。たたらを踏みつつ逃げようとする俺。追いすがり押し込んでくるエレナ。俺たちはもつれるように下がる。
「なら!」
下がるのを止めてむしろ拳を引き戻し、エレナを自分の方へ引き込む。そのまま俺は横に抜けるべく体を捻った。圧を流す形で下へと体を落とし、脇腹を掠めて相手の背後へ。
「っ!?」
しかし活路を見出した先にあったのは、無理やりな体勢から放たれる膝蹴りだった。勢いはない。だが俺は膝めがけて加速してしまっている。自分からレザーパンツに包まれた膝へと飛び込んだ形になり、重い衝撃に額を打ち抜かれた。体は当然、後ろへ跳ね飛ぶ。
「……くッ!!」
なんとか倒れないように石畳を踏みつけて止まった俺だが、そこで突然膝がカクンと落ちた。視界は揺れていない。目を回したわけじゃない。けれど右膝は事実として落ち、全身にどっと重みがのしかかってくる。
コレ、ダンスのせいか……!?
「はぁ、はぁ、ふっ……!」
すぐさま力を込めて姿勢を戻すが、その隙にエレナは蹴り足を引き戻して溜めを終えていた。
「フゥ……ッ」
肺の奥底から吐き出された息が濃い白にたなびき、一拍の静を彼女は纏う。グリーンの魔眼が淡く輝いていた。咄嗟に神眼で見る。俺がやっているように、高濃度の魔力が血管を駆け巡っていた。この打ち合いの中で技を盗んだのだ、エレナは。
「ッ」
気圧された。その一瞬を渾身の横蹴りが踏み越え、俺の体を綺麗にとらえた。
「ッッッ!!!!」
重い蹴りだ。重花のほかにもいくつか基礎的な体術を詰め込んで、後先考えずに威力を高めた蹴り。軸足に支えられ全てのエネルギーを叩き込む、美しささえ感じる軌道。俺は真横に吹き飛ばされて石畳を転がる。
「がっ、ぐは……!」
ごろごろと数度転がってから咳き込む。無理くりねじ込んだ腕が打撲になったようでズキズキと痛んだが、それでも体を起こした。
「んッ」
足の裏に感じたことのない痛みを覚えた。それは足の筋肉から膝にかけて、そして腰の筋肉にまで伝播していく。
チッ……ヒールなんて履くんじゃなかった。
「げほげほっ」
慣れないヒール靴で馬鹿みたいに何曲も踊ったせいで、自分で思った以上に無理がきていたらしい。しかしこの急な押し負けはそれだけが理由ではないはずだ。その程度で優劣が簡単に変わるほど、俺とエレナの技術は伯仲していない。
「はぁーっ、はぁーっ」
荒い息を繰り返しながら、俺の教えた構えで俺を待つエレナ。俺をこれだけ追い込んでいるのだ、当然彼女も相当な無理をしているはず。体温があがりすぎて顔は真っ赤だし、はちみつ色の髪がべっとりと頬や額に張り付くほど汗をかいている。拳にいたっては俺の攻撃をいなし、受け止め続けたせいで腫れあがっていた。
「……はっ、はは……なるほど」
けれどその目が、緑の瞳だけが、ギラギラと輝いて見えた。その視線の強さに俺は理解する。もとからの体のダメージは確かにある。体格差もあるし、体力差も今は酷い。俺が思っていた以上に格闘の自己鍛錬だって繰り返してきたのだろう。だがそれが一番大きな理由ではない。エレナは俺が踏ん切りをつけられるように付き合ってくれると言ったけれど、彼女は最初からそんなつもり全くないのだ。
わたしが勝つ!
わたしはわたしの恋を諦めない!
わたしがへし折って、踏ん切りなんてつけてやる!
わたしはアクセラちゃんを、わたしの力でモノにするッ!!
「……ふ、ふはッ」
この馬鹿娘、俺をオトしに来てやがる。
そう理解した途端、笑いがこみ上げてきた。それと同時に背筋をゾクゾクとした刺激が駆け上る。首筋に甘い痺れが走り、ぞわっと産毛が逆立つ。戦闘の高揚とは違う、今まで感じたことのない感覚だった。
ああ、もう……わかったよ。
肌を赤く染め上げたまま構えを崩さないエレナを見て、そのひたむきな美しさと執念めいた強い意志を見て、俺は内心で大きくため息を吐く。その一呼吸で、それまでやたらと抵抗のあった感情がストンと胸に収まった。
見せつけてくれるじゃないか。
知識、経験、努力。それらを技術たらしめる最も重要なモノ。それはなんだ。金か。時間か。閃きかや試行錯誤か。そのどれも必要だが違う。
「これがエレナの願いと、意志の力」
噛み締めるように呟く。捨てられない願い、断固たる意志、妄執にも似た強い感情。それが断片的な知識、経験、努力を一つの技術へと昇華させる。それは炉であり、太陽であり、人の持つ魂の輝きの最たる物。
エレナは俺を手に入れるという捨てられない願いを掲げ、断固たる意志を示し、妄執にも似た強い感情のもとに自分の学んできたことを真にモノにしたのだ。そうでなくて、どうして俺が魔法抜きで追い込まれるだろうか。
これだけやってみせたエレナを、いつまでも子ども扱いはできないな……。
ああ、踏ん切りはついた。
エレナはもう子供じゃない。
その実感は得られた。
「来ないの?」
限界まで張り詰め、矢をつがえて引き絞ったような声。それを聞いた瞬間、体が燃えるように熱くなる。目の前の少女がこれまで以上にクッキリと見えるような、目が開けたような気分になる。
「……っ!」
俺の雰囲気が変わったのを察したのだろう。エレナの視線が鋭くなる。彼女の体に滾る意志の力が、闘志が、まるで神眼で見た魔力のように色づいて見えた。
「いや、行くよ」
踏ん切りはついた。けど折角エレナは俺が欲しいと拳を握ってくれているのだ。それなら俺も、奪えるものなら奪ってみろと正面から向き合うのが正道だろう。
というか、俺がエレナの本気を試してみたい。
「あはっ」
踏み込みと同時、自分の口からひどく楽しそうな声が漏れるのが聞こえた。
~★~
「はぁ、はぁ、はぁ……げほげほっ、げほっ」
「ぜぇ、ふぅ……ふぅー……」
冷たい石畳に背中を預けながら、真っ暗な空を見上げて白い咳を繰り返す。月はもうどこにもない。夜明けが来る直前の深い深い闇だけが広がっていて、少し前の舞踏会が遠い日の出来事のようだ。
「ア、アクセラちゃん……ど、どう……踏ん切り、ついた……?」
そんな中、俺の隣に同じ姿勢でぶっ倒れたエレナが言う。息も絶え絶えだが、組手と言うにはあまりに本気で格闘戦を繰り広げた後だ。当たり前だった。
「あー……んん」
「ちょ、ちょっと……なに、その、微妙な反応……ッ」
さて、どう答えたものか。そんなことを考えながら声を彷徨わせる。勝負の決着は始終優勢だったエレナが勝ちきれず、追い上げた俺が先に疲労困憊でダウンするという締まらないもの。それだけに彼女が不安になるのも分かる。分かるので、曖昧に済ますわけにいかなかった。
「……さん、けほっ、三十分くらい前に、ついてた」
「は、はぁ!?」
素直に白状したら彼女はバネ仕掛けのように跳ね起きた。
「ちょっと!こほっ、こほごほっ、わたし、ここまでやらなくてよかったってこと!?」
そうでもあるような、ないような。
まあ、謝っておくか。
「ん、ごめんね」
でも、俺としてはそれだけ嬉しかったのだ。アクセラとして生を受けてからこの方、同じ場所に立って同じものを見てくれる相手がいなかった。エクセルだったころは同格の相手もいたし、弟子たちも逞しくて隣を任せられたのに……。そのことが寂しかったのだろう。メルケ先生は折角通じ合えたと思った矢先に一人で納得して討ち死にを選んでしまったし、クラスの戦友たちはまだまだ雛鳥だ。
「でもエレナ、踏ん切りつけさせるつもり、なかったでしょ」
「あったよ!」
「ぐへっ」
心外だと眉を逆立てたエレナにベシっとお腹を叩かれる。全身に響くので止めてほしい。本当に何の筋肉か分からない場所まで痛みが走ったぞ。
「……自分が勝って、私をオトすって目だった」
「そんなっ……ことも、ないことも、ないけど」
語気荒く始まったエレナの声が尻すぼみになっていく。勢い込んで反論しようとしてすぐに、思い当たる感情が胸の中で見つかったようだ。あのギラギラした意志と熱量は頭で考えてのものではなかったらしい。
「……」
「……」
しばしの沈黙が下りる。真冬の夜明け前だ、虫の羽音一つしない。その静寂ときたら、それこそ自分たちの呼吸だけでなく、心臓の音まで聞こえてきそうだった。どくどくと少しずつ早くなっていく、心臓の音まで。
「強くなったね」
胸の内の圧に押し出されるように言葉が出てきた。エレナはそれを聞いて驚いたように目を見開き、くしゃりと顔を歪め、隠すように俺の隣へともう一度倒れこんだ。
「……いい師匠がいたからね」
冷たい感触が手に当たった。エレナの手だ。俺の手に重ねられたそれは最初こそ冷たく、しかしすぐに内側の熱で火照ってくる。腫れの引かないその手をしたから握ると、彼女も指を絡めて握り返してきた。
「……いい恋人になるとは限らないよ?」
意を決して口に出した俺の問いかけ。対するエレナの返答は。
「…………期待してない」
「それはそれで酷い」
本当に酷い話だ。
「アクセラちゃんの恋愛能力、お胸より慎ましいからね」
いや本当に酷いな。
思わず空いている方の手を胸に当てる。柔らかい。少なくとも前世よりは確実に。
「…………胸関係ないし」
むにむにと触って呟く。別に大きさに拘りはないし、小さいことに文句があるわけではないのだが。
「……」
「……んんっ」
沈黙が再び舞い降りそうになったところで、俺は慌てて喉を鳴らす。また黙り込んでしまったら今度はいつになったら声を上げられるか分からないから。それから顔を横に向ける。思ったより近くに緑の瞳があった。期待に満ちた瞳が。
「……エレナ」
名前を呼ぶ。きっと、二回目の人生で一番大切な名前を。一音一音を意識して。ただそれだけで心臓の音が一段と早くなるのを感じる。
「うん」
エレナの瞳が濡れたガラス玉のように揺らめいた。初夏の草原を封じ込めたようなその瞳を真っ直ぐに見て、俺は意を決しその言葉を口にする。
「好き」
瞬間、エレナの頬がバラ色に染まった。そこに映る喜びの感情が手に取るようにわかって、俺も思わず表情が綻んだ。
「あっ……う、ぅうん……」
しかしエレナはすぐさま口元をキュッと引き締め、あふれそうになる涙をこらえ、それから片手を伸ばして俺の目元を覆う。痣と傷で色のついた、ひりつくほどに詰めた手のひらが視界を埋め尽くした。
「んん……」
どけようと顔を動かすが、ぎゅっと押し当てられて逃げられない。
「アクセラちゃん、そういうトコだよ?」
嬉しそうな、けれど不満そうな、わざとらしく咎めるような口調でエレナは言う。
「え、ダメ……?」
「ダメ!」
嬉しそうな声で言われても。そう思うのだが、彼女は俺の視界を奪ったまま手を離そうとしない。
「だって……好きは、一杯もらってるもの」
「……」
ああ、今絶対頬っぺた膨らませているんだろうな。そう思わせる声でエレナがちょっと贅沢なことを言う。けれど確かに、俺は彼女が物心ついた時から色々な意味を含んだ「好き」を伝えてきた。
鍛錬の中にあっては素直な弟子に向けた「好き」を。
学院の生活ではともに暮らす姉妹に向けた「好き」を。
冒険の時には信頼できる相棒へ向けた「好き」を。
誕生日には成長する子供へ向けた「好き」を。
時に言葉にして、時に態度だけで。ことあるごとに、できるだけハッキリと。それは何度も失敗を繰り返してきたエクセルの人生で培った、一種のクセのようなものだ。
「まあ、たしかに」
「ほら!ねー、もうちょっとロマンチックなの頂戴よー」
ふざけているとしか思えない口調で強請るエレナ。やわやわと目元を抑える指が動いて俺の顔を撫でる。優しい動きが妙にくすぐったくて俺は目をぎゅっと閉じた。
「初心者に要求レベルが高い」
「が、がんばれー」
気の抜けるような声援。けれど声は少しだけ震えている。寒いからか、緊張をごまかすためなのか。
「……よっこいしょ」
今度は俺が体を起こす番だ。筋肉という筋肉がギシギシと痛みを訴えてくるが、それはなんとか無視してエレナに覆いかぶさる。案の定、口調のわりに彼女の顔は真っ赤だった。大きくて柔らかい膨らみに体を預けて少女を覗き込む。
「んっ」
むずがるように声を漏らすエレナ。頬に張り付く髪を指で避け、顔をぐっと近づける。彼女が息を飲むのを感じながら、俺も息を止めて唇を重ねた。
「んむ」
柔らかい唇と唇を軽く触れ合わせるようなキス。ほんのり甘い香りのする、初めてのキス。数秒ほどあえかな感触を楽しむ。心臓はもう破裂しそうなほど早く、大きく音を打ち鳴らしている。
「ぷは」
「ふ、ふはぁ」
顔を離したとたんに二人で大きく息を吸う。それから呼吸を整える間にどんどん顔が熱くなっていく。顔だけでなく、体全部が。
「エレナが私を愛してくれるように、私もエレナを愛すよ」
「……うん」
囁く声に応えるようにして、彼女の腕が俺の首へと回される。軽く体重がかかって、その重みに揺らぎ続けていた心がとうとう定まった。最愛の少女の額に己の額を押し当てる。
「エレナ、私を恋人にして?」
訊ねる俺にエレナは目を閉じ、額を軽く押し返して頷いた。
「……うん、うんっ」
何度も頷くたびにぐりぐりと。薄い皮膚から燃えるような感情が伝わる。
「なって。なって!」
涙が少女の目からとうとう溢れ、頬を伝って石舞台に吸い込まれた。
「ん、なる。なります」
じわりと視界が滲んだ。俺たちはどちらからともなく、強く互いを抱きしめた。
「エレナ、お待たせ」
「いいよ、アクセラちゃん」
自分たちの立ち位置を再確認するように強く、強く抱き合って名前を呼び合う。
「アクセラちゃん、好き。大好き。とっても、大好きだから」
ぎゅうぎゅうと抱き着きしめながら好きを連呼するエレナ。感極まったようにぐすぐすと嗚咽が混じり、甘えるように肩口へ顔を押し付けられる。
「私もだよ。エレナ、愛してる」
俺は同じだけの力で抱き返して、その耳元で同じ言葉を繰り返した。彼女の涙が尽きるまでずっと、何分も、何分も。
~★~
「うぅー……ごめん、ちょっと取り乱した」
しばらくして落ち着きを取り戻したエレナのはちみつ色の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。目の前にある形のいい耳に「大丈夫」と囁いてから小さなキスを一つした。
「んひゅっ」
彼女は変な声を上げて身をよじる。そのままもうしばらく体を預けていた俺だが、ふと気になって肩に顔をうずめたままふと気になって聞いてみる。
「結局……何点?」
「聞かなかったら60点」
ああ、聞いたらダメなんだ。しかも点数が低い。そう思って口をつぐむが、耳元で彼女は少し咳払いをした。とてもわざとらしい咳払いを二、三度。
「も、もう一回……」
上ずった声で言うエレナ。
「もう一回キスしてくれたら、100点にしてもいいよ」
「……ん」
俺が体を起こして彼女の顔を覗き込むと、寒さをものともせずに熱く、赤く、美しく色づいた頬でエレナはこちらを見ていた。視線が合うと早苗色の宝石のような目は瞼に隠され、桜色の唇がツンと差し出された。
「ん」
覆いかぶさる姿勢のまま、もう一度唇を重ねる。
この人生で二度目の感触は冷たくて、けれどとても甘い味がした。
皆さま、色々と感慨があることかと思います。
作者もようやくか、ようやく来たかとしみじみしています。
ぜひ感想にて共有してください、読者の反応がとにかく見たい!!
あ、物語はここで章末なんですが、短めの「おまけ」があります。
怒られたら消すのでよろしくお願いいたします(苦笑)
お休みの予定、もう一度貼っておきますね。
9月10日(土)十一章 第34話
~お休み~
11月3日(木)特別連続更新:間章1
11月4日(金)特別連続更新:間章2
11月5日(土)特別連続更新:間章3
11月12日(土)十二章 第1話
~予告~
長い長い道のりを経て、晴れて恋人となったアクセラとエレナ。
次回はいわゆるオマケのサービス回です!!(メタい)
次回、夜明け前の……




