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技神聖典―刀と少女と神の抒情詩―  作者: 一響 之
十一章 祝福の編
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十一章 第21話 見守る眼差し

「よっと」


 無人の教室、その窓の縁や雨樋を伝って研究棟の屋上に飛び乗ったわたしは強化魔法を切る。アクセラちゃんの蹈鞴舞にも似た赤い魔法の輝きは全身からあっという間に散って、ほんのちょっとの倦怠感だけが残った


「いたいた」


 屋上から見下ろすと、一階分低い隣の建物の縁に彼女は座っていた。背中にかかるほど伸びた白髪を風に梳かれるまま、鞘に収まった魔鉄の直剣を肩に預けて。


「アクセラちゃん」


 風魔法で着地を和らげながら同じ面に降りて、わたしは彼女に声をかけた。その後ろ姿はいつにも増して静かで一部の隙もない。三歩後ろまで来てようやくソレが目に入った。


「模擬戦じゃないよね」


『遠視眼』を発動させて練習場を見る。ネンスくんを中衛にレイルくんや他の騎士の人達が前衛を、ヴィア先生とそれ以外の人達が後衛を務める形で展開してる。そして前衛を相手に暴れまわってる赤黒い巨漢は……ベルベンスとかいう先生だろうか?


「あれ放っておいていいの?」


 ネンスくんの剣の先生として、護衛の冒険者として、二重の意味での質問。けれど返事はなかった。


「アクセラちゃん?」


 もう一歩前に出て彼女の顔を覗き込んだわたしは、紫の瞳に『遠視眼』のスキル光とは別の光る物を見た。瞬間的にわたしの頭がパンクする。


「えっ、もしかして泣いてる!?」


 言ってから、言わなきゃよかったと思った。


「……泣いては、いない」


 そう言いつつ彼女は黒い長手袋に包まれた指先で自身の目元を撫でた。後に残ったのは口元のわずかな微笑みだけ。


「……むぅ」


 状況はしばらく見てれば分かった。ネンスくんたちがアクセラちゃんの落第に怒ってベルベンスに抗議し、何を狂ったのかあの教師は剣を抜いた。今はその怒り狂った騎士サマをなんとかするために実戦さながらの大立ち回り中。

 じゃあ、自分の為に皆が立ち上がってくれたのが嬉しかったの?泣くくらい?


「むぅ……?」


 たしかに感動的ではある。オルクス家は貴族に嫌われてるし、アクセラちゃんは言葉が少ないし、その少ない言葉が時々やけに鋭利だし、人に気を使わないし、貴族の面子とか普通に無視しちゃうし。正直、初対面の高貴な人間が好きになってくれる要素はゼロだ。


「うーん……」


 それを越えて彼女の名誉のために大勢が一致団結して反旗を翻す。感動のストーリー。でもそれで涙を浮かべるアクセラちゃんは、ちょっと想像がつかない。

 まあ、アクセラちゃん結構オルクスの名前が悪く言われるの、嫌いだったみたいだしね。

 そう言う意味であり得なくはないのかもしれない。それにさっきも言った通り、彼女が嬉し泣きをする基準などわたしだって知らない。年寄り臭いところのあるアクセラちゃんのことだ、自分の為に若者が手を取り合っている姿が琴線に触れることだってなくはないだろう。想像ができないだけで。


「……むぅ」


 面白くない。とっても、とっても、とっても面白くない。心の中にモクモクと曇った色の感情が湧き出してくる。もうその感情が何かなんて、考えなくたって分かってる。嫉妬だ。わたしなんて嬉し泣きさせるどころか、してるのを見たことすらないのに。

 ……ないよね?紅兎が届いたときは泣いて喜んだっけ?灰狼君の後は?駄目だ、覚えてない。

 まあ、つまりわたしだって覚えてないほど貴重なのだ、嬉し涙は。この前の病室で目が覚めた時もたぶんしてなかったと思う。わたしが泣きじゃくった記憶しかなくてハッキリしないけど、たぶんしてない。してないはず。ずるい。


「……むぅう」


 ずるいし、何か変な感じがする。そう思えば、最近の彼女の様子は全体的におかしいのだ。例の嵐の日のお風呂のせい、もあるだろう。あれ以来、当然と言えば当然だけど、いくら誘っても一緒にお風呂には入ってくれないし。でもそれ以上にアティネちゃんたちとご飯に行ってからの彼女は特に変だ。具体的に示せと言われれば困るけれど……。物心ついてからずっと一緒にいる相手のことだ、自分のそれと同じくらい普段のクセや仕草を知っている。その感覚が「何かおかしい」と叫び続けてる。


「むぅぅっ」


 わたしの知らないところでアクセラちゃんが変わっていく。わたしの知らないアクセラちゃんに。そしてわたしの知らない涙を流してる。嫉妬がモクモクするし、なんだかすごくずるい気がして嫌だ。


「エレナ、何をむぅむぅ鳴いてるの……?」


「……むぅっ」


 面白くないけど、ここで百面相してても始まらない。こっちの気も知らない朴念仁の「お姉ちゃん」の背中を一度強めに叩いて、それから話題をガラッとかえる。


「アクセラちゃんはいつからココにいたの?」


 肩に預けてる魔鉄の直剣は間に合わせの武器の中で一番いいやつだ。もちろん普段は部屋においてある。わたしが戦闘レベルの魔力を感じ取って天文学の教室を飛び出してきたのと違って、彼女は最初からこの事態に備えてここに陣取っていたことになる。


「最初から。ネンスもレイルも三馬鹿も、不穏だったからここで待ってた」


「なるほどね。で、助けないの?」


「ん、あの程度の相手、皆で頑張れば難しくはない。いいハードル」


「スパルタだなぁ……」


 他人事の感想を漏らしながら、わたしも練習場に意識を集中させる。アクセラちゃんが言う程簡単な戦いには見えない。むしろ氷の砦での攻防にも似た慌ただしさが漂ってる。とてもじゃないけど、安心して観戦なんてできないカンジだ。


「エレナ、よく見ておいて。あのヴィア先生。あれが本来の、集団戦の魔法使い」


 こんな時までわたしの教育に熱心なアクセラちゃん。ちょっと呆れてしまうけど、こういう時の彼女の言葉が糧にならないものだったことは一度もない。視線をちょっと動かしてヴィア先生を見る。


「魔法、無駄がないね」


「ん」


 味方を巻き込むから攻撃魔法はあまり使えない。バフ系も生徒たちから過剰に流れ込んでいてあまり効果が見込めない。だから矢継ぎ早に状況を有利にするための補助魔法を行使し続ける。熱波を相殺する冷気の魔法、武器に炎熱耐性を持たせる魔法、軽い傷を持続的に癒す魔法、相手の周囲の湿度を上げてコンディションを崩す魔法。難しい魔法は一つもないけれど、全てが瞬間瞬間に最適の魔法だ。しかも詠唱の破棄や連続行使のしかたにわたしやアクセラちゃんが教えた技術の応用が見える。


「あれが本来の先生の戦い方かぁ」


 あの状況判断と小技を積み重ねるやり方はちょっと考えてできることじゃない。ヴィア先生は攻撃魔法をドカドカ打ち込むよりこういうやり方を昔から好んできたんだろう。そしてそれは、たしかに純粋な魔法使いにとって、一つの完成されたスタイルだ。


「あ」


「ちょっと、ロミオくん吹っ飛んじゃったよ!?」


 そんな風に観戦していると、なんとかわちゃわちゃしながらも凌いでた騎士の一人が軽々と薙ぎ払われた。倉庫の壁を突き破るほどの勢いだ。さすがにゾッとした。けれどアクセラちゃんは少し声を漏らした以外まったく動じない。


「あれ、大丈夫なの……?」


「『騎士』系はパッシブで硬い。体も、鎧も。だから大丈夫」


 言われて思い出す。そういえば『騎士』系スキルは肉体強化のパッシブだけじゃなくて、装備した鎧や盾を頑丈にするんだった。そういう部分を織り込んで考えられないのはわたしの対人経験のなさで、きっとこれから補わないといけないトコロなんだろう。


「もうすぐ決着」


 ポツリとアクセラちゃんが呟いた。ベルベンスの体がスキルの光でオーガみたいに膨れ上がって、レイルくんの方も色んな光でギラギラと輝く。そこから繰り広げられた一瞬の攻防は、圧巻の一言だった。なるほど前衛専門は伊達じゃない。そう思わされる。特に最後の一太刀、あれはアクセラちゃんが最近編み出して教えた技術だ。


「見たかよ勘違い野郎、これがアンタとアイツの格の違い……教える人間としての想いの違いってもんだ!」


 ここまで届くほどの大声でレイルくんはそう叫んだ。


「……カッコイイじゃん、レイルくん」


 直後に倒れちゃったけど。それでも真っ直ぐで、暑苦しくて、とてもレイルくんらしい格好いい台詞だった。

 ちょっと妬けるなぁ。わたしのほうが姉弟子なんだけど。


「弟子が頑張って見せたわけだけど、師匠としてはどうなの?」


 唇を尖らせたままずいっと顔を覗き込んで訊ねる。アクセラちゃんは楽しそうに笑みを浮かべてから首を横に振った。


「まだまだ」


「声が嬉しそうだけど?」


「ん」


 今度は誤魔化しもせず頷くアクセラちゃん。


「ネンスとレイルだけじゃない。他の皆も、覚悟が決まってきた」


「覚悟かぁ」


「そろそろする?エレナの覚悟の話も」


「むぅ……そうだね。引っ張っても仕方ないし」


 結論は、たしかに出た。問題がないわけじゃないけど。でもこれ以上時間をかけても、解決はしないのだろう。それを含めてアクセラちゃんに打ち明け、それから相談にのってもらえばいい。


「ついでにその魔法と魔眼についても教えてもらえると嬉しい」


 その魔法、というのがアンデッド狩りとさっきの移動で使った新しい魔法のことなのはすぐに分かった。

 なんだ、ちゃんと見てたんじゃない。


「んー、そっちはまだ秘密で!」


「……まあ、いいけど」


 屋上の縁から垂らしてた足を持ち上げ、よっこらせと彼女は立ち上がる。戦いの顛末を見届けたので撤収である。わたしもそんな彼女に倣って数度足首を伸ばした。立ちっぱなしで観戦してたせいか、ちょっと痛かった。


「あれ、あの人って副学院長先生だよね」


 ふと練習場を見てわたしは動かし始めたばっかりの足を止めた。


「ほんとだ」


 アクセラちゃんも頷く。分厚い胸板と高身長を高級そうなスリーピーススーツに包んだ眼鏡の男性。入学式や遠征企画の出発式で見た副学院長先生だ。レイルくんの大声でもないかぎり、さすがに聴覚を魔力強化してもこの距離では話の内容まで聞こえない。けれどヴィア先生がベルベンスの治療を途中で投げ出して走り出たのは分かった。


「ヴィア先生、なんかすごく前に出るね」


「ここしばらく、ちょっと気が立ってる」


「気持ちは分かるけどね」


 マレシスくんとメルケ先生があんなことになって、ニカちゃんとカーラさんがあんなことになって、挙句の果てに遠征企画もあんなことになって。責任感の強いヴィア先生は自分を追い詰めてる。


「気持ちは、分かるけど……」


 同じ言葉をもう一度呟いた。あの戦いですぐそばにいた火属性のアルマン先生が両足を失う大怪我を負ったことで、先生は強烈な無力感を抱かされたんだと思う。なんだか手負いの獣のような焦りと怒りが笑顔の奥に燻って見える。それはわたしの胸にも燻る感情だ。きっとネンスくんやレイルくん、それからディーンくんと三人組……遠征で剣や杖を手にした大勢の胸に燻ってる。


「エレナ?」


 紫の瞳がわたしを見上げる。アクセラちゃんにもあるんだろうか。この無力感と怒りが混じった、熱と煙だけを放つ不快な感情は。聞いてみたい気もしたけれど、言葉にすることは躊躇われた。きっとどちらだったとしても困らせてしまうから。


「ううん」


 頭を振ってその思考を追い払う。


「それにしても副学院長先生って見るからに大きいね。戦える人なのかな?なんかこう、戦士とも学者とも違うカンジがするし」


「たぶんヴィア先生と同じ」


 わたしの疑問にアクセラちゃんはこっちを見ないまま答える。


「?」


「先生、だと思う」


 ピンと来なくて首を傾げれば、彼女は数舜だけ考えてから更に短く補足してくれた。


「あー、なるほど」


 それでなんとなく納得する。ヴィア先生も魔法使いだけど、魔法使いっていうより先生ってカンジの人だ。共通項だからかちょっと学者っぽい雰囲気もある。


「でもそれなら……え、ちょっと待って!今の、なんかスキルを殴って潰さなかった!?」


 信じがたい光景を見た。そのせいでそれまでの思考は吹き飛んでしまう。だって、今のは明らかにスキルそのものを殴った感じだった。アクセラちゃんがスキルの強制力やバフを威力と技術で貫通するのとは全然違う。スキル光そのものがひん曲がって壊れた。


「ビックリした、『スキル無効』だね」


 アクセラちゃんが目を見開いてそう言った。声にも驚きが現れてる。珍しい事ずくめだ。けれどそのキーワードで記憶の中の情報がカチカチと組み上がった。


「そっか、そういうことか。侯爵さまには甥っ子がいるって聞いたことあるけど、副学院長先生だったんだね……」


 四大貴族は特別なスキルを受け継いでる。実子のいないレグムント侯爵さまだけど、甥が同じスキルを発現させてるから跡継ぎには困ってない。そう随分前に父さまが言ってた。とはいえ、それはそれで新たな疑問が残る。


「全然知らなかったけど。普通はもっと聞こえてくるよね、副学院長を務める人がレグムント家の後継者だなんて」


「たしかに……ん、でもまあ、今はいいかな。ベルナントカが退場するっぽいし」


 少しの間だけ目を細めて副学院長先生を見たアクセラちゃんだが、すぐに視線を外して肩をすくめた。わざわざ殴ってまで止めたんだし、今さらあの人がベルベンスを放任するとは思えない。それが分かれば今日はもういい、ということらしい。


「嫌うねえ……珍しいよね、アクセラちゃんがそれだけハッキリ言うの」


「弱いから」


 それは戦闘力的なことじゃない。ベルベンスはソレだけならかなり強かった。でもソレ以外が全て弱かった。アクセラちゃんが言いたいのは剣を、力を振り回す人としての弱さのこと。ネンスくん曰く、彼女はベルベンスの剣を「振り回してるだけで、極論、棒切れでもバゲットでもいい」と評したそうだけど。

 物騒なバゲットだなぁ。

 馬鹿な感想を抱きつつ思う。彼が人に戦いのなんたるかを説くべき人間じゃないと、アクセラちゃんは思ったのだろう。わたしだって人にご高説を垂れるような身分じゃないから、そこは想像でしかないけれど。


「まあ、ちゃんと(・・・・)やらかしてくれたから、あの時のことはチャラにしてあげてもいいかな」


 副学院長先生と何か言葉を交わしているネンスくんの横顔を見てそう呟く。


「エレナ?」


「え?あー……今の聞こえてた?」


「聞こえてない方がいい?」


 変なところで気を回してくれるアクセラちゃんだ。けれどわたしは首を横に振る。


「森の中での戦いでね、アクセラちゃんが攫われたあとに色々あったんだ」


 わたしはアクセラちゃんを追いかけたかった。それこそ氷の砦も何もかも捨てて、あてもなく我武者羅に追いかけたかった。それをネンスくんは徹底的に挫いて、わたしをあの場所に留めた。


「もちろんどっちが正しいかは分かってるよ。あの砦の大勢を守らないといけないネンスくんの立場だって理解できるし、わたしが一人で追いかけたって何にもならないことも……」


 森からトワリの居城があった領都ソルトガまでは広い事で有名なあの領地を三分の一ほど移動する必要がある。国軍と合流して行軍の馬車に乗せてもらえたからよかったけれど、自分だけで行ってたらきっとトワリとの戦いを乗り切る体力が残ってなかったはずだ。そもそも行き先が分からなくてたどり着くことすらできなかったかもしれない。


「理屈と感情は必ずしも一致しない」


「そういうこと。理屈で言っても、結果論で言っても、ネンスくんの判断は正しかった」


 国軍と合流したあとはザムロ公爵にわたしの同道を認めて欲しいと交渉してくれたしね。


「それでも自信がなかったんだよね。アクセラちゃんを見捨てて、わたしの足を挫いて、指揮官としての判断を優先したネンスくんとまた友達として付き合えるのか」


 どうだった?紫の瞳がそう訊ねてくる。


「今言った通りだよ。友達としてアクセラちゃんのために立ち上がってくれたから、ちょっとだけ残ってた棘もチャラにしてあげようかなって!」


 あえて恩着せがましく言ってみる。分かってる。これはわたしの感情の問題で、ネンスくんは何も悪くない。それに全て終わってからちゃんと謝罪は貰った。「指揮官として、王族として、あの判断を謝ることはできないししてはいけない。だがお前の、お前たちの友人としては……」という極めて歯切れの悪いものだったけど、滲んだ苦悩の表情から気持ちはよく伝わって来た。


「納得できたんだ?」


「うん、納得できた」


 分かってる。上からモノを言える立場じゃない。皆を見捨てようとしたわたしの方がたぶん罪は重い。だからこれはアクセラちゃんの言う通り、自分を納得させて区切りを設けるためのフリだ。


「さぁてとっ、収まったみたいだし行こっか?」


 今度こそ終結したらしい練習場を尻目にわたしは踵を返す。


「そういえば今朝、寮に荷物が来てたよね。ケイサルからだったし、もしかしたらドレスかな?帰ったら試着しようよ!って、アクセラちゃん?」


 気分を変えて楽しい話題を振ってみるが、なぜか彼女は練習場に背を向けただけで一向に後を追いかけてこない。不振がって首を傾げる。


「どうしたの、部屋に戻ってから買い忘れに気づいたとき見たいな微妙な顔してるけど」


 しかも作る予定だった料理に必須の材料をピンポイントで忘れたような顔だ。言葉にするなら「あちゃぁ……」だろうか。


「んん……エレナ、一つ相談いい?」


「珍しいね?」


 果たしてどんな相談なのか。返した言葉よりずっと大きな感情が胸の中で膨れ上がる。アクセラちゃんがわたしに相談するなんて。そんな風に身構えたわたしに彼女は眉を寄せる。


「私、明日どんな顔で教室に行けばいいかな?」


「……え?」


「いや、だから、明日どんな顔でネンスたちに会えばいい?」


「……ぷっ」


 だめだ、吹いちゃった。


「真面目な話。気まずい」


 明日どんな顔で教室に行けばいいか。自分の為にあれだけのオオゴトを起こして、しかもその全てを知って、どんな表情で顔を合わせればいいか分からない。訳知り顔で行くのか、知らぬ存ぜぬを決め込むのか。あのアクセラちゃんがそんなことを大真面目に相談してきたかと思うと、ジワジワと頬や脇腹に痙攣が広がる。それはすぐにわたしの限界を突き破った。


「く、くくっ、あはは!き、聞かないでよ!あははっ、あはははっ!!」


「そんなに笑うことじゃない」


 たたっと駆け寄って来たアクセラちゃんがわたしの肩を叩く。バシバシと何度も。


「痛いってば、ほんとごめん!自分でもよく分からないんだけど、なんかツボに……あははっ、だめだ、しょうもなさすぎてっ」


「真面目なのに」


 唇を尖らせて言う姿が妙に可愛らしくて、わたしの笑いはそれからしばらく収まってくれなかった。アクセラちゃんはすっかりむくれて、それがまた面白可愛かった。


~予告~

戦いの結末を見修めたアクセラ。

そして始まる、エレナの答え合わせ。

次回、覚悟の答え

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今章はそれぞれの複雑な感情が見える章でした。 あと、今話の最後にアクセラのどんな顔でってのはアクセラらしいです。 次話ではないかも知れませんが、翌日の教室は見てみたいですね。 [一言] …
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